「相続」という言葉からは、ほとんどの方は家や土地などの不動産、株券などの有価証券など、資産がある方の事を思い浮かべませんか?
でも、財産には債務・負債・借金など、マイナスの財産もあり、その相続の問題も実は多数発生してるのをご存知でしょうか?
例えば親が自営業で失敗をしてしまった結果借金が残っており、その返済中に亡くなったような場合には、借金も相続される事になります。
このページでは、借金を相続した場合の相続放棄という制度についてお伝えします。
債務を相続した場合どうなるのか
まず、借金などの債務を相続した場合の法律関係について、知っておきましょう。
たとえばAさんに遺された財産は借金500万円で、妻Bさん子CDさんで相続をしたとしたとします。
この場合、相続分は妻Bさんが1/2・子C・Dさんがそれぞれ1/4になります。
ですので、妻Bさんが250万円、子C・Dさんがそれぞれ125万円の債務を相続する事になります。
一番働いて収入を得ていたのがAさんだったような場合にはB・C・Dさんが借金の返済をするのが難しいような場合は容易に想像つきますね。
相続放棄とは
そこで、相続放棄という法律上の制度が役にたちます。
どんな制度なのか
相続が発生すると相続人は相続分に応じて承継する事になります。
どんな場合につかうのか
相続放棄はどのような場合に使うのでしょうか。
典型例としては上記のように、相続財産が借金しかないような場合で、借金を相続したくないような場合に利用します。
また、一家で事業をしているなどして、相続をする人を話合いできめたような場合に、「争いに巻き込まれたくない」といった理由から、相続関係から離れる目的で相続放棄を利用する事もあります。
限定承認という類似の制度もチェック
相続放棄とよくセットにして考えておきたい制度としては限定承認という制度があります。
相続をした場合にどのような立場をとるかについては、
- 単純承認
- 相続放棄
- 限定承認
という3つがあります。
相続を承認する場合の、「単純承認」はその名の通りで、資産も負債も含めて相続をそのまま承認するという意味です。
これに対して「限定承認」は、
という事を認めてくれる制度です。
相続の結果負債の方が多い場合には、負債は相続する必要はありませんし、財産の方が多かった場合には相続ができる制度です。
同じように相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てをして行う手続きです。
こちらの方が優れているように思えますが、この手続きは相続人全員で行う必要があるため、一人でも意見が一致しない人がいる場合や、相続人が行方不明になってしまっている場合には利用することができなってしまいます。
相続放棄の手続き
それでは、相続放棄の具体的な手続きについてみてみましょう。
相続財産を調査する
まずは相続財産についての調査をします。
財産はプラスの財産・マイナスの財産両方の調査をする必要があります。
特に借金がどれくらいあるのかは、家族に内緒にしているケースも多いです。
本人が亡くなって返済をしなくなると、電話や手紙等で督促が始まって気づく事が多いです。
内緒にしている借金があるかどうかは、信用情報機関への問い合わせをする事で判明します。
信用情報機関は個人の信用状態についての情報を管理しており、銀行・消費者金融・信販会社などで借り入れをした場合に情報が登録されるようになっています。
相続人は信用情報機関から被相続人の情報を取り寄せる事ができるので、どこから借り入れをしているのか判明します。
相続放棄の手続きは被相続人の住所地を担当している家庭裁判所に申し込みをして行う
相続放棄を利用するためには、裁判所に申し込みを行う必要があります。
裁判所にも様々な種類があるのですが、相続に関する事なので家庭裁判所が担当をしています。
家庭裁判所は全国にありますが、相続放棄の申し込みは被相続人の最後の住所地を担当している家庭裁判所に申し込みをします。
例えば、亡くなった人が大阪に住んでいて、相続人が東京に住んでいるような場合には、東京家庭裁判所ではなく大阪家庭裁判所になります。
自分の住んでいる地域はどこの家庭裁判所が担当をしているかは、裁判所のホームページで確認をする事ができます。
申し込みの方法は書面を提出して行う
相続放棄の申し込みは書面を提出する事で行います。
申し込み書類として、相続放棄申述書という書類を作成し、被相続人の住民票除票又は戸籍の附票、相続人の戸籍に関する書類を添付します。
相続放棄申述書は、家庭裁判所に連絡をすると送ってもらえますし、自分でWord等で作成してもかまいません。
被相続人の住民票除票又は戸籍の附票は、被相続人が亡くなっている事を家庭裁判所が確認をするために必要になります。
被相続人の住所地の市区町村で取り寄せができます。
聞きなれない書類ですが、通常の住民票と同じ感覚で取得できます(住民票よりすこし高い事が多いです)。
相続人の戸籍に関する書類は、申し込みをする人が本当に相続人である事を確認するために利用します。
相続人がだれであるかによって、次のような戸籍に関する書類が要求されます。
申述人が,被相続人の配偶者の場合
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
申述人が,被相続人の子又はその代襲者(孫,ひ孫等)(第一順位相続人)の場合
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 申述人が代襲相続人(孫,ひ孫等)の場合,被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
申述人が,被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合,父母))がいらっしゃる場合,その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
申述人が,被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)の場合
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 申述人が代襲相続人(おい,めい)の場合,被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
相続放棄の申し込みに対して家庭裁判所からの質問が書面でくるので答える
相続放棄の申し込みをした後は、家庭裁判所から質問が書面できます(照会書という書面です)。
書面に書かれている回答を見て、家庭裁判所は相続放棄が認められるかどうかを審査します。
相続放棄が受け付けられた書類を債権者に送付する
相続放棄の申し込みが受け付けられると、相続放棄受理証明書という書類が裁判所から届きます。
この書類を、債権者に送る事で、債権者は法律的にも相続人に請求する事ができないとわかりますので、請求が来ることがなくなり、相続放棄の一連の手続きは終わりになります。
相続放棄申述受理通知書は1枚しかないので、複数の債権者がいるような場合には、債権者の数だけコピーをとって送付してよいです。
再発行ができない書類ですので、取り扱いには注意しましょう。
相続放棄の注意点
相続人が多額の債務を遺してしまったような場合には、相続放棄は大変便利な制度ですが、利用するには注意が必要です。
特に注意を要する点についてまとめました。
債務だけを放棄する事はできない
たとえば、借金もあるけど、自宅もあるので、自宅は相続して債務は相続放棄をしたい、と考える事もあるでしょう。
しかし、相続放棄は「相続人ではなかった」という扱いにしてもらう制度になりますので、家だけ相続する事はできません。
相続放棄は相続が開始したのを知ったときから原則として3か月以内に行う
相続放棄の手続きは、法律で相続開始を知った時から原則として3か月以内に行う必要がある期間のある手続きになります。
相続の開始というのは、被相続人が死亡した事を知った時です。
相続放棄の手続きを利用するならばやってはいけない事がある
もし相続放棄の手続きを利用するならばやってはいけない事がたくさんあるので注意が必要です。
財産の処分をしたような場合には相続放棄の手続きは利用できなくなります。例えば、不動産がある場合に、不動産を他人に譲渡してしまうと相続放棄は利用できません。
相続財産を管理する必要がある
相続放棄を行う場合には、相続放棄後に相続の手続きに関与してくる人が管理できるようになるまで、相続財産を管理する必要があります。
共同相続をする場合に、他の相続人が管理する場合には他の相続人が管理できるようになるまで管理をしておかなければなりません。
もし相続人がいなくなったような場合には、相続財産管理人という人が裁判所から選任されるまで財産を管理する必要があります。
代襲相続が発生しない
Aさんの子BCさんが相続人であったけれども、子であるBさんが先に死亡してBさんにDさんという子供(Aさんから見ると孫)がいる場合には、DさんはBさんに変わって相続をする代襲相続という制度があります。
相続放棄の制度をつかって相続人から外れたような場合には代襲相続が発生しません。
相続放棄の相談
以上のように相続放棄はメリットの大きな手続きであるため、手続きが厳格であったり、注意すべき点がたくさんあります。
相続放棄の相談をすべき場合
つぎのような事情がある場合には相続放棄の相談を専門家に行う事をお勧めします。
相続放棄すべきかどうかわからない
そもそも自分のケースでは相続放棄をすべきなのかどうなのかわからない、という場合には絶対に専門家に相談をしておきましょう。
類似の手続きとして限定承認という手続きがあり、そちらのほうが良い場合もあったり、家はなんとしてでも維持したいというような場合には、前述のとおり相続放棄をしてしまうと維持できなくなります。
また悩んでいる間に前述の3ヶ月の期間を過ぎてしまい、いざ手続きを利用しようとしても、もう申立ができなくなるような場合があります。
専門家になるべく早く相談しましょう。
相続開始から3ヶ月以上経過した
相続開始から3ヶ月以上経過したような場合には相続放棄は原則できなくなります。
しかし、相続放棄をしなかった事に理由があるような場合には例外的に認められるケースがあります。
たとえば、貸金業者からの請求が3ヶ月経過してから来たために、借金がある事に気づけなかったような場合です。
このような場合には家庭裁判所に申立をする際に、どうして3ヶ月以上経過したのかについて上申書という形で申立をする事によって相続放棄ができる場合があります。
例外的に相続放棄ができる場合なのか、できる場合にあたるとして、どのような上申書を記載すればよいかについては、専門家に相談を行うべきです。
相続開始から3ヶ月経過してしまうかもしれない
相続放棄をしようと着手したのだけど、財産や負債の調査に3ヶ月以上の期間がかかってしまいそうな場合には、相続放棄の期間を延ばしてください、と家庭裁判所に申立ができます(相続放棄の期間の伸長といいます)。
そもそも伸ばしてもらえるか、どの程度伸ばしてもらえるかは、家庭裁判所が自由に決められることになっているので、申立の仕方には注意が必要ですので、専門家に相談をしたほうがよいでしょう。
相続放棄の相談をする相手は弁護士か司法書士
相続に関するいわゆる「士業」と呼ばれる専門家は多数います。
どの専門家に相談すればよいか迷うようであれば、弁護士か司法書士を選ぶようにしてください。
相続放棄は裁判所に書面を提出して行うので、裁判所に書面を提出する事を代行できる権限がある人である必要があります。
それが弁護士と司法書士です。
そして、弁護士や司法書士にも取り扱いをしている分野・していない分野というものがあり、相続放棄に関しては、相続に関する法律問題を取り扱っているか、債務整理という借金に関する法律問題に取り組んでいる弁護士や司法書士が相談・依頼をうけてくれる事になるでしょう。
行政書士や税理士も相続の相談には乗っていますが、裁判所に提出する書類に関わる権限がないので、相談を受けても弁護士・司法書士を紹介するにとどまるためです。
相続放棄の相談費用の相場
弁護士・司法書士に相談をする際には、通常は30分5,000円程度の相談料が発生します。
最近では無料で相談に応じてくれる弁護士・司法書士もいるので積極的に利用するようにしましょう。
相続放棄の相談をするには
相続放棄の相談をするには、まず弁護士・司法書士の事務所に訪れる事になります。
弁護士・司法書士は突然訪問しても、裁判所や法務局、顧客先に出向いている事があり会えないことがあるので、必ず事前にスケジュールを予約しておきます。
相談にも前述のように30分5,000円程度のお金がかかり、相続放棄のお話しはスムーズに進んでも1時間くらいかかる事は通常です。
相談時には、話がスムーズにいくように、以下のような事をメモにまとめておくと早いです。
- 被相続人が亡くなった日がいつなのか
- どんな資産があるのか
- 不動産がある場合には登記簿謄本(登記事項証明書)
- 自動車がある場合には車検証
- 預金がある場合は通帳や、銀行から発行される残高証明書
- どんな負債があるのか
- 借用書や督促状などの書類
- できれば負債を一覧にした表
すぐに依頼をする事を考えている場合には、相談当日には印鑑・身分証明書(免許証などで良いです)・着手金などを用意しておきましょう。
相談をしたからといって、必ず依頼しなければならないわけではないので、何人かお話しを聞く事も可能です。
まとめ
このページでは相続放棄に関する基本的な知識についてお伝えしてきました。