相続の遺産分割【完全マニュアル】|割合・期限・手続きの流れまで

相続の遺産分割・遺産分割協議とは?

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遺産分割とは、相続人同士で被相続人の遺産を配分することです。これは遺言書に従って行われることが多いですが、紛失や盗難にあったり、もしくは遺言の内容に納得できない相続人がいるなど、揉め事に発展してしまうケースも少なくありません。そんなときは、相続人が集まり「遺産分割協議(話し合い)」の場が設けられます。

今回は、遺産分割に関するルールや手続き方法をお伝えしていきます。また、仮に相続人同士でトラブルが発生してしまった場合のために、揉め事を解決する5つのポイントを紹介しています。できれば被相続人が存命中に対策を講じておくことが良いため、早めに行動を起こしましょう。

相続の遺産分割・遺産分割協議とは?

相続の遺産分割・遺産分割協議とは?

遺産分割とは、相続で発生した故人の財産を、配偶者や子供、親、兄弟などで配分することです。また、配分を行うときに設ける話し合いを遺産分割協議といいます。

財産を残す人を「被相続人」と呼び、被相続人の資産は「相続人」へと受け継がれます。しかし、相続人は一人とは限りません。相続人が複数いる場合は、話し合いを行ってその配分を決めることが必要です。

ただし、この話し合い(協議)は絶対に必要なわけでもありません。相続人の住まいや職場環境によっては、一度に集まって話し合うことが難しいケースもあります。そうした場合には、家庭裁判所で「調停」や「審判」などの手続きを踏み、法的に遺産分割を解決することも多いです。

また、遺産分割では今まで仲の良かった親族同士でも、大きな揉め事に発展してしまうことも少なくありません。遺産相続では、少なくとも数百万円、多い場合には億を超えるお金が動くため、どうしても個々の主張が目立ちます。すると、互いに権利を主張し合い、大きなトラブルに発展してしまうのです。

こうしたトラブルを解決する場所としても、家庭裁判所が利用されることがあります。裁判官は調停者として、法的な立場から適切な遺産分割の割合を決めていきます。もし、相続人同士の協議で決着がつかない場合は、こうした第三者の手助けを借りることも一案です。

遺産分割が必要になるケース

相続において遺産分割が必要になるケースは、故人の遺言書がない、もしくはどうしても見つからない場合です。遺言書がある場合は、その内容が優先され、記載されている相続人の対象や割合に従って手続きが進んでいきます。仮に、相続人が複数いた場合でも、被相続人の遺言に「相続は配偶者のみ」と記載されていれば、遺産分割協議を行う必要はありません。

また、もともと相続人が一人しかいないというケースもあります。たとえば、お子様がおらず配偶者の方のみ、もしくは相続人がお子様のみという場合も考えられるでしょう。この相続人が一人のケースでも、遺産分割協議を開く必要はないのです。

もし相続人が誰もいないというときには、相続財産管理人を一人だけ選出しなければなりません。誰も相続人がいなければ故人の遺産は凍結されてしまうため、管理人を決め、その方に清算手続きを依頼する手順となります。

これ以外のケースでは、基本的に遺産分割協議が必要ということを覚えておきましょう。

つまり、

  • 被相続人の遺言書がない
  • 遺言書があっても相続人の内に納得できない人がいる
  • 相続人が複数いる

こうしたケースでは、遺産分割の手続きと協議が必要です。

遺言者があっても相続の遺産分割協議もできる

被相続人が遺言書を残していたとしても、必ずしもその内容に従わなければならないわけではありません。遺言があった場合でも、内容に相続人全員が納得しない限り、遺産分割協議によってそれぞれの割合を決めていく必要があります。

遺産分割では、法定相続人がその遺言の内容(法定相続分)に従って決める、というイメージがあります。しかし、実際には遺産分割の内容は自由に決定できる、意外な柔軟性があることも覚えておきましょう。

遺産分割のルール|割合・期限

遺産分割のルール|割合・期限

遺産分割協議を行う場合、その割合や手続きの期限など、ルールや条件が定められています。この遺産分割のルールを覚えておくことも、相続人同士のトラブルを避ける意味において重要です。

遺産分割の割合ルール

遺産分割の割合については、協議によって相続人同士で決めていくことができます。ただ、その割合については、相続人の数によって原則が定められています。これを「法定相続分」といい、基本的にはこのルールに従って遺産を分けあうことが基本です。

相続人は優先度というルールがあり、その優先度の高い相続人から遺産が分配されます。対象となる相続人がいない場合は、優先度に従って遺産を受け取れる権利が移っていきます。

  • 配偶者(必ず受け取れる)
  • 優先度(高):子供
  • 優先度(中):親
  • 優先度(低):兄弟

では、まずは法定相続分のルールを確認していきましょう。

相続人が一人しかいない場合

相続人が一人、たとえば配偶者のみ、もしくはお子様のみという場合、遺産はその方に100%の割合で引き継がれます。

相続人が配偶者と子供の場合

相続人の対象に、配偶者とお子様が一人ずついた場合、遺産は50%ずつで分割します。お子様が二人いる場合には、この50%を半分ずつに分配して分け合います。複数人のお子様がいる場合も同じですが、配偶者が受け取る割合は変わりません。

相続人が配偶者と親の場合

被相続人が亡くなられた場合、その親族の方が生存しているケースも考えられます。仮にお子様がいらっしゃらなければ、配偶者と親で遺産を分け合うことが基本です。

ただし、親の場合は子供より優先度が低いため、受け取れる遺産の割合も低くなります。基本的なルールとしては、配偶者が遺産の3分の2、残りの3分の1を親に配分するという形です。もし、ご両親が存命している場合、この3分の1から2分割して分け合います。

相続人が配偶者と兄弟の場合

相続人が配偶者で、お子様がおらず、ご両親も亡くなられている場合、ご兄弟が存命なら彼らに遺産相続の権利が移ります。ただし、その割合は低くなります。

このケースでは、配偶者には4分の3、残りの4分の1をご兄弟で分け合う形です。兄弟姉妹が複数いる場合は、4分の1の遺産から、その人数で頭割り計算を行います。

法定相続分とは異なる割合にもできる

法定相続分は法的なルールではないため、遺産分割協議によって割合を変更することも可能です。たとえば、配偶者とご両親で遺産の半分ずつを分け合うということも、協議でお互いが納得したうえでなら可能となります。

また、ご両親やご兄弟の方がいても、話し合いによって配偶者100%の割合にすることもできます。もともと相続の権利がある人が、こうした遺産を受け取らない行為を「相続分の放棄」といいます。

遺産分割手続きの期限に注意!

遺産分割手続きには期限があり、特に課徴金などが発生することもある納税の締め切りには気をつけましょう。相続には様々な手続きがありますが、その中でも複数の手続きに期限があります。その流れに沿って考えていくことで、それぞれの期限が分かりやすくなるでしょう。

以下をご覧ください。これは遺産相続手続きのおおまかな流れです。

  • 被相続人の死亡
  • 死亡届、火葬
  • 遺言書探し、検認
  • 相続人調査
  • 相続財産調査
  • 相続放棄、限定承認(熟慮期間3ヶ月)
  • 準確定申告(相続開始後4ヶ月)
  • 遺産分割協議開始
  • 遺産分割調停、審判
  • 遺留分減殺請求(相続開始と遺留分侵害があったことを知ってから1年間)
  • 不動産の相続登記、預貯金払い戻しなど
  • 相続税の申告、納税(相続開始後10ヶ月)
  • 相続税の軽減措置の適用(相続税申告期限後3年)

上記で赤字で記載しているものが、各手続きの期限となります。遺産分割協議を始めるのは、準確定申告が済んだ後ですが、その後にも期限付きの手続きが待っているため、できるだけスムーズに話し合いを進めたいところです。

特に、相続税の申告や納税は相続開始から10ヶ月の猶予があるものの、仮に手続きが遅れてしまうと追加で税金を支払う(課徴金)などペナルティもあります。もちろん申告漏れはさらに厳しいペナルティがあるため、納税手続きは早めに済ましてしまいましょう。

遺産分割協議で揉めやすいケース

遺産分割協議で揉めやすいケース

遺産分割協議で揉めやすいケースを知っておくことで、あらかじめ対策を講じておくことができます。特に大金が絡んでくると、今までおとなしかった方でも豹変することがあります。まさしくテレビドラマの修羅場のようになる可能性もありますので、次のケースをしっかりと確認しておいてください。

相続人が複数の子供のみのケース

相続人に配偶者やご両親がいない場合、子供の数で遺産を配分することが一般的です。ただ、家庭裁判所の遺産分割調停を見る限り、この子供同士で揉めるケースがもっとも多いといえるでしょう。

普段は兄弟同士の仲が良かったとしても、それは親がいるからこそです。親が亡くなられ、子供が完全に自由になったとき、その遺産配分でトラブルに発展しやすくなります。たとえば、父親が亡くなられて急に態度が横柄になるお子様もいれば、母親が亡くなられたことで態度が大きくなる方もいらっしゃいます。すると、自己主張が激しくなり、遺産分割協議でも互いの主張ばかりを闘わせ、なかなか決着がつかないことも珍しくありません。

相続する対象に不動産が含まれている

相続手続きでは、不動産の相続人への引継ぎがもっとも困難とされます。それだけ相続人同士のトラブルが絶えないからです。

たとえば、お子様二人で実家の不動産を相続するようになったとしましょう。現預金や株などの金融資産であれば、二人で半分ずつ均等に分け合うことも容易です。しかし、土地や建物といった現物は実際に半分に割ることができないので、権利の分割が行われます。その建物の所有権を分け合ったり、使用権を分割するということです。

もしくは不動産と現預金がある場合には、不動産の権利をすべて一方へ、その残存価額の半分を現預金として一方が受け取るという方法もあります。

しかし、不動産の価値は遺産として引き継ぐ現預金より高額になるケースもあり、話し合いがうまくまとまらないケースも多いです。そうした場合、裁判所に依頼を行えば調停を行ってもらえます。裁判所はあくまで中立なので、実家を競売にかけたうえで現金を2分の1に分割するなど、両者に対等な分割を目指すことがほとんどです。

一方で、その対等な分割に満足できない相続人により、お子様同士の仲が悪くなってしまうことも考えられるでしょう。たとえば、長兄や長女など年長者が遺産分割の割合を高めに設定していた場合など、裁判所に調停を頼んだことによりさらに揉めるケースも珍しくありません。

遺産分割でトラブルを防ぐ5つのコツ

遺産分割でトラブルを防ぐ5つのコツ

遺産分割では、今まで仲の良かった家族間で話し合うことも多く、遺産配分の「損得」とともに、「善悪」も入り乱れることが多いです。たとえば、「今まで兄さんばかり可愛がられてきたんだから、遺産ぐらいは僕に多く分けてもらっても良いのでは」など、善悪の判断が入ってくることで必ず感情が生まれます。その感情が絡むと、相続人間で仲違いを起こしてしまうトラブルも増えるのです。

では、一体どのようにすれば遺産分割協議でトラブルを防げるのでしょうか。ここから詳しくお伝えしていきましょう。

遺産配分に関して生前から話し合っておく

「死人に口なし」とはよくいいます。たとえ遺言書があったとしても、被相続人は亡くなられてから発言はできません。また、遺言書には強制力がないため、その配分を巡って相続人間で大きな揉め事に発展しやすいのです。

確かに、相続手続きの手順からいえば、遺産分割協議は被相続人が亡くなられてから行うこととなっています。しかし、こうした相続人同士のトラブルを防ぐためにも、十分に余裕をもって皆が納得する話し合いを行っておきましょう。基本は、被相続人が存命している間、被相続人も含めた相続人同士の話し合いが望ましいです。

相続人は全員が参加して発言すること

遺産分割協議では、相続人が全員参加することが義務付けられています。ただし、ひと昔前までは「遺産分割協議では、嫁と婿は口も顔も出させない」という暗黙のルールがあったほど、立場の低い人にとっては形だけの参加にとどまる傾向にありました。

しかし、いくら協議がまとまったとしても、発言権のない相続人がいることで後々のトラブルに繋がっていくこともあります。上記の嫁や婿が口を出せないことによって、自宅に帰って不満を口にすることはよくあるケースです。100%皆が納得する分割協議は不可能ですが、後で不満が出ないよう、協議の中では必ず全員が発言することが重要となります。

できるだけ代理人を立てない

遺産分割協議では、どうしても参加が難しく代理人を立てるケースも少なくありません。自分の代わりに協議に参加して話し合ってもらうということです。しかし、まだ一度も協議していないにも関わらず、参加するのが面倒という理由で代理人を立てることはおすすめしません。

代理人を立てた場合、相手が身構えてしまい、こちらも代理人で対抗しようとする人も多いです。すると遺産分割協議には代理人ばかり顔を合わせることになり、これでは相続人の意思が正確に反映されないことも考えられるでしょう。できるだけ相続人同士の話し合いには本人が参加し、ご自身の意思を伝え合うことが大切です。

遺言書の作成をプロに頼む

遺産分割を行う場合は遺言書でトラブルに発展してしまう場合もあります。たとえば、遺言の書き方の知識がなく、適当に書いたものが法的な観点で認められず無効になるということも考えられます。また、家庭裁判所の検認手続きなど、相続人に負担をかけてしまうことにもなりかねません。

遺言書を作成する場合は、弁護士などに相談し、プロに書き方を学ぶことをおすすめします。遺言書を正しく書いた場合でも紛失や破棄、相続人による改ざんのリスクが残るため、こうしたことを未然に防ぐためにも、専門家のアドバイスを聞き公正証書用の遺言書を作成するなどの方法があります。

相続手続きを弁護士に頼む

弁護士は相続手続きの細かい処理や、分割協議による調停などのサービスを提供しています。特に遺産分割をスムーズに進めるため、こうした専門家に相談する方が円満に解決することも多いです。遺産相続で揉めそうだなと感じた場合は、一度弁護士に相談することから始めてみてはいかがでしょうか。初回の相談だけであれば、無料で利用できる法律事務所なども少なくありません。

まとめ

相続人が複数に分かれている場合には、遺産分割とその協議が必要です。遺言書が存在し、その内容に相続人のすべてが納得すれば協議も不要ですが、そうしたケースは珍しいといえるでしょう。もし、相続人が複数いるというケースに当てはまる場合、ご自身が争いを好まなくとも、自然に係争トラブルに巻き込まれてしまうこともあるのです。

特に不動産の相続など多額の遺産が絡んだ場合は、血を分けた家族間でも大きな揉め事になることも少なくありません。仮に、こうした揉め事が起こりそうだと感じたときには、ご自身一人で悩まずに弁護士などの専門家の助けを借りましょう。

いくら多くの遺産を受け取ったとしても、今まで仲の良かった家族との絆が失われてしまうのは、決して気持ちの良いことではありませんよね。今回お伝えした揉め事を回避する方法でもトラブルが解消しない際は、専門家による解決を依頼することをおすすめします。

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