目次
就業不能保険とは
最初に、就業不能保険について
- どんな保険か
- メリット、デメリット
- 必要な人、そうでもない人
について、考えてみましょう。
働けない間の生活費を補う
一言でまとめると「働けない間の生活費を補う」ための保険です。就業不能保険単体で販売されていたり、生命保険など他の保険に特約(就業不能特約)として付帯することもできます。
会社員よりも自営業の人が検討すべき理由とは?
具体的にどんな人なら、就業不能保険が必要なのかについては後で詳しく後述しますが、大きなくくりで言えば、会社員よりも自営業の人の方が、就業不能保険が必要になる可能性が高いでしょう。
会社員、公務員など、どこかに勤めて給料をもらっている人であれば、傷病手当金がもらえる可能性があります。

- 業務外の病気やケガで療養中である
- 療養のための労務不能である
- 4日以上仕事を休んでいる
- 給与の支払いがないこと。ただし、給与が一部だけ支給されている場合は、傷病手当金から給与支給分を減額して支給される
また、ケガや病気が仕事を原因とするものと認められれば、労働災害保険の対象として、給付金が受け取れます。

いずれにしても、病気やケガで働けない間、期間限定ではあるものの、公的制度によりなんらかの保障は受けられます。
一方、自営業やフリーランスの人は、傷病手当金の対象にはなりません。労働者=誰かに雇われて働いている人、ではないからです。また、労働災害保険に関しては、特定の条件に当てはまる会社の経営者であれば特別加入できますが、フリーランスは加入できないのです。
専業主婦・主夫の人も必要になることも
そして、特に仕事をしていない専業主婦・主夫の人に関しても、就業不能保険を検討する余地があるはずです。
専業主婦・主夫の人は、外で働かない代わりに、一家の家事を一手に引き受けている場合が多いでしょう。しかし、病気やケガで長期間の入院・療養を余儀なくされた場合、その間の家事をどうするのかが重要な問題になります。短期間なら家族だけで済ませるのも不可能ではありませんが、長期化した場合、その負担に耐えられなくなる日が来るでしょう。家族も共倒れにならないよう、適度に人に任せることが大事です。
- 外食や出前を使う
- 保育園、幼稚園の延長保育を使う
- 家事代行、ベビーシッターなどのサービスも利用する
- 食器洗い機、ロボット型掃除機などの「家事家電」を使う
など、家事全体にかかる労力を減らす工夫も必要になります。


やり取りにもあるように、家事を効率化させ、家族の負担を減らす工夫は確かに大事ですが、それなりにお金はかかります。特に、実際にスタッフを派遣してもらう家事代行、ベビーシッターを使う場合、1回6,000円~8,000円程度はかかると考えたほうがいいでしょう。その費用を賄う、という意味でも、就業不能保険は活用の余地があるはずです。
就業不能保険のメリット
就業不能保険のメリットとして
- 長期に渡って生活費を確保できる
- 医療保険の給付対象外となる在宅療養もカバーできる
- 公的保障に合わせた設計ができる商品も選べる
の3つについて解説します。
1.長期に渡って生活費を確保できる
就業不能保険の基本的な仕組みは「就業不能状態が続く限りは、毎月保険料が受け取れる」ということです。何をもって就業不能というかは各保険会社によって多少の差はありますが、入院していたり、自宅療養を余儀なくされたりした場合でも、コンスタントに生活費を受け取れるのは、自分にとっても、家族にとってもありがたいものです。

2.医療保険の給付対象外となる在宅療養もカバーできる
公的医療保険ではカバーされない医療費を補完するために、医療保険やがん保険などの民間医療保険が存在します。しかし、これらは入院・手術など「病院の中で行われる治療」に関する保障に注力した商品です。通院保障特約を付けることにより「病院に行くときの交通費」もカバーできるようになりますが、いずれにしても「自宅療養にかかる費用」まではカバーにしていると言えないでしょう。
3.公的保障に合わせた設計ができる商品も選べる
会社員、公務員など「どこかに勤めて給料をもらっている人(給与所得者)」であれば、たとえ病気やケガで働けなくなっても、加入している健康保険組合、共済組合を通じて、傷病手当金として1年半は給料の3分の2がもらえます。しかし、1年半より後の部分については、傷病手当金はもらえません。
このような事情を鑑み、保険会社の中に「最初の1年半の保険金の受取は少な目にして、1年半以降は多めにする」という形で、保険金の受取方を選べる商品も存在します。
就業不能保険のデメリット
一方、就業不能保険にはデメリットもあります。次の点について考えてみましょう。
- 支払対象外期間がある
- 「就業不能状態」の定義がわかりにくい
- 精神疾患の場合保障が受けられないケースがある
1.支払対象外期間がある
就業不能保険には「支払対象外期間」が設けられています。つまり「その期間内で回復し、また働けるようになった場合、保険金は下りない」ということです。

短期間の入院には備えられない商品であるため「短期間の入院にも備えつつ、働けない場合の備えもしたい」という場合は、医療保険に就業不能特約を付けるほうが現実的な選択かもしれません。
2.「就業不能状態」の定義がわかりにくい
就業不能状態とは、簡単に言うと「働けない状態」のことです。しかし、保険金給付の対象となる「就業不能状態」には、かなり細かい定義があります。具体的に言えば、次の状態にある場合、働けなかったとしても、保険金給付の対象にはなりません。
- 病気やケガで働けなくなる前の仕事に復帰することは無理でも、肉体的・精神的な負荷が軽い別の職種などで働ける
- リストラ、メインの取引先の倒産など自分の病気、ケガとは関係のない原因で働けなくなった
3.精神疾患の場合保障が受けられないケースがある
うつ病や統合失調症などの精神疾患は、一度かかると治療が長期化します。また、容態が悪化した場合、働くどころかベッドから出られなくなったり、最悪の場合、自ら命を絶ったりするのは珍しくありません。しかし、就業不能保険の中には、精神疾患が原因で働けなくなった場合、保険金給付の対象外になっているものもあるのです。
背景にあるのは、精神疾患が持つ病気としての性質です。まず、精神疾患は他の病気とは違い、血液検査の結果や患部の病変など、外から見て「この人は病気」とわかる客観的なデータが乏しいです。

また、精神疾患は一度落ち着いたと思っても、なんらかのきっかけで状態が悪くなることはいくらでもあり得ます。いつ、病気になったのか、そして、いつ治ったのかという判断がつけにくいため、保険金の給付対象になる期間を確定するのが難しいのも事実です
しかし、昨今は精神疾患による就業不能状態も、保障の対象に含める就業不能保険も増えてきました。比較検討する際は、この点に着目して選んでみるといいでしょう。
就業不能保険が必要な人、そうでもない人
ここまでの話を踏まえ、就業不能保険が必要な人と、そうでない人について考えてみましょう。まず、必要なのは、以下の条件に当てはまる人です。
- 貯金、医療保険など「働けない間の生活費」に充てるものがない、十分でない
- 配偶者など、お金や生活面で頼れる家族、パートナーがいない
- 専業主婦・主夫であり、家の家事を一手に引き受けている
- 独立起業している経営者、個人事業主である
一方、次の条件に当てはまる人は、無理に就業不能保険に入る必要はないでしょう。
- 貯金、医療保険など「働けない間の生活費」に充てるものが既にある
- 配偶者など、お金や生活面で頼れる家族、パートナーがいる
- 会社員、公務員など、どこかに勤めて給料をもらっている(給与所得者)
就業不能保険を選ぶポイント
次に、就業不能保険を選ぶポイントについて考えてみましょう。以下の3点について解説します。
ポイントその1.給付金支払いの条件
就業不能保険は、所定の就業不能状態になった場合に、保険金が受け取れる商品です。そのため、どうなったときが就業不能状態に当たるのか、加入するまえに確認しておきましょう。例えば、ライフネット生命の就業不能保険「働く人への保険2」の場合は、以下の状況に相当した場合、就業不能状態にあたるとしています。
入院:所定の就業不能状態とは、病気やケガの治療を目的として、日本国内の病院または診療所において入院している状態。
在宅療養 :所定の就業不能状態とは、病気やケガにより、医師の指示を受けて、日本国内の自宅等で、軽い家事および必要最小限の外出を除き、治療に専念している状態。ただし、梱包や検品などの軽労働または事務などの座業ができる場合は、在宅療養をしているとはいいません。
出典:ライフネット生命の就業不能保険「働く人への保険2」保障内容・商品詳細
なお、就業不能状態とは「生きている人が、入院や在宅療養などの理由で、働けない」ことを前提にしています。そのため、万が一のことになってしまった=死亡した場合は、いかなる場合でも就業不能状態にあるとはいいません。
ポイントその2.保障対象となる病気やケガの範囲
先ほどふれたように、就業不能保険の保障対象となる病気やケガの範囲は様々です。中でも、精神疾患に関する扱いは、個々の保険商品でかなり差があるので、確認しておきましょう。
就業不能保険「働く人への保険2」/ライフネット生命の場合
以下の病気・ケガが原因で就業不能状態に陥った場合を免責事項=保険金を支払わない場合として定めています。
- 精神障害(うつ病、統合失調症、社会不安障害 など)
- むちうち症、腰痛などで医学的他覚所見のない場合
もしも・・・のときの生活費/日本生命の場合
- 所定の傷病による就業不能状態
- 所定の精神・神経疾患による就業不能状態
に該当した場合、保険金の支払いの対象になるとしています。
ポイントその3.支払対象外期間の長さ
入院、自宅療養などが理由で働けなかった期間がどのぐらいになれば、保険金給付の対象になるのかということです。一般的には、支払対象外期間が長ければ長いほど、保険会社から見た場合、保険金を支払う確率は低くなるはずです。この点も踏まえ、他に入院、自宅療養が必要になった場合の生活費を確保する手段の有無、用意できそうな金額で選びましょう。
現役FPがおすすめする就業不能保険ランキング
ここから先は、現役FPがおすすめする就業不能保険について、具体例を見てみましょう。
1位.就業不能保険「働く人のたより」/SBI保険
保険期間 | 55歳、60歳、65歳、70歳満了 |
---|---|
支払対象外期間 | 60日間 |
就業不能の定義 | 「全疾病型」「3疾病型」「がん保障型」ごとに定義が異なる |
給付金額 | 5~50万円 |
就業不能保険「働く人のたより」
就業不能保険「働く人のたより」は、SBI保険の就業不能保険です。この商品をおすすめする理由は
- 保険料がかなり安い
- 重点的にカバーしたい病気に合わせてタイプを選べる
- 主婦・主夫でも月額保険金の上限を15万円まで設定できる
の3つです。まず、この商品の公式ホームページでは「業界最安水準の保険料」とうたっています。例えば、以下の条件でこの商品を契約した場合、毎月の保険料は1,850円です。
- 被保険者は30歳男性
- 毎月の保険金は10万円
- 保険期間は60歳で満了
- 支払対象外期間は60日
- 当初より満額保険料を受け取る
一方、同じ条件でライフネット生命の就業不能保険「働く人への保険2」を契約した場合、毎月の保険料は2,390円になります。
また、この商品の特徴として、就業不能状態に陥った原因別に保障される範囲を設定できることが挙げられます。2020年8月現在、以下の3タイプが用意されているので、必要に応じて選びましょう。
全疾病型 | すべての病気・ケガを原因として、所定の就業不能状態または所定の就業不能状態(精神疾患)になったとき |
---|---|
3疾病型 | 3疾病(がん、急性心筋梗塞、脳卒中)を原因として、所定の就業不能状態になったとき※上皮内がんを含む |
がん保障型 | がん(上皮内がんを含む)を原因として、所定の就業不能状態になったとき |
そして、この商品の場合、主婦・主夫が加入する場合の保険金の上限を毎月15万円までにできます。主婦・主夫は入れない、もしくは入れても保険金の上限が毎月10万円程度である保険が多いなか、かなり貴重です。
一方、デメリットとしては「就業不能状態と認定されるまでのハードルが高い」ことが挙げられます。この商品の場合、就業不能と認定されるのは「入院・在宅療養をしている場合」です。つまり、仮に国民年金法で定める障害等級1級または2級に相当する状態になり、元の仕事は到底できない状態だったとしても「寝たきりじゃなく、なんらかの形で働けそう」と認定された場合、保険金を受け取れないケースも出てくるのです。
2位.働けないときの安心/アクサダイレクト生命
就業不能保険のシミュレーション | アクサダイレクト生命保険
保険期間 | 60歳満了、65歳満了、70歳満了 |
---|---|
支払対象外期間 | 60日 |
就業不能の定義 | 入院、在宅療養、一定レベル以上の障害認定 |
給付金額 | 月額5~50万円 |
働けないときの安心をおすすめする理由
働けないときの安心はアクサダイレクト生命の収入不能保険です。メリットとしては
- 多少は働ける状態であっても保険金を受け取れる可能性がある
- 幅広い精神疾患に備えられる
の2点が挙げられます。まず、この商品の場合、就業不能状態とは以下のことを指します。
精神疾患以外の病気やケガの場合 | 1)治療を目的とした入院、2)医師の指示による在宅療養、3)国民年金法施行令に定める障害等級2級以上に認定された場合 |
---|---|
精神疾患の場合 | 精神疾患を直接原因とする1)精神疾患の治療を目的とした入院、2)国民年金法施行令または精神保護及び精神障碍者福祉に関する法律施行令に定める障害等級2級以上に認定された場合 |
入院、在宅療養の場合以外にも、法律で定める一定以上の障害に該当した場合も入っているのです。実際には、一定以上の障害と認定された場合でも、無理のない範囲で働いている人はいます。そのため、ある程度病気やケガがよくなってきたら、この商品で受け取れる保険と給料で生活を成り立たせることは可能です。また、この商品で保障を受けられる精神疾患も幅広く設定されています。知名度の高い病気で言うと
- 統合失調症
- 双極性感情障害(躁うつ病)
- その他の不安障害(パニック障害)
- アルツハイマー病
- 摂食障害
などが含まれます。一方、デメリットとしては支払対象外期間として設定できるのが60日のみであるため、設計の自由度が低いことでしょう。
3位.くらすプラス/チューリッヒ保険
保険期間 | 主契約・入院給付金免責日数60日特約:終身 ストレス性疾病保障付就業不能保障特約:55歳満了・60歳満了・65歳満了・70歳満了 |
---|---|
支払対象外期間 | 60日 |
就業不能の定義 | 対象となる疾病により入院、自宅療養を送っており、職種を問わずすべての業務に従事できない |
給付金額 | 10万円 |
くらすプラスをおすすめする理由
「当座の生活をしのげるだけの蓄えはあるけど、長期化した場合の備えにできるものが欲しい」という人におすすめなのが、この商品です。この商品のメリットとして
- 保障対象を絞っているので保険料が安い
- 仮に回復して仕事に復帰できたとしても、保険金は受け取れる
の2つが挙げられます。まず、この保険において、就業不能保険金の対象となるのは、以下の疾病です。
5疾病 | 悪性新生物(がん) 急性心筋梗塞 脳卒中 肝硬変 慢性腎不全 |
---|---|
ストレス性疾病 | 気分(感情)傷害(うつ病など) 神経症性障害、ストレス関連傷害、身体表現性障害 摂食障害 更年期障害 統合失調症、統合失調症型傷害および妄想性障害 非器質性睡眠障害 胃潰瘍 十二指腸潰瘍 潰瘍性大腸炎 過敏性腸症候群 |
対象となる病気の範囲が狭いので、保険料も安くなります。
また「仮に回復して仕事に復帰できたとしても、保険金は受け取れる」についてですが、この商品は、一度所定の病気で就業不能状態に該当した場合、毎月10万円を2年、3年、5年、10年のいずれかの期間受け取れるようになっています。確定年金として支給されるので、仕事に復帰したからといって、支給が打ち切られることもありません。
一方、デメリットとしては「ケガが原因の就業不能状態に関しては一切保障が受けられない」ことです。あらゆる原因の就業不能状態に備えたい人には、やや不向きです。