絶対に間に合わせる相続税申告の手続きを把握しておく

相続財産がたくさんある場合には気を付けなければならないのは相続税の申告です。

手続き自体は非常に難しいものにもかかわらず、後述するように相続開始から10ヶ月以内に行うという期限のついたものになるので、手続きを行う際にはスムーズに進める必要があります。

このページでは相続税申告の手続きについてお伝えします。

相続税のあらまし

まず、相続税というものがどのようなものか知りましょう。

相続税は、人の死亡により財産が移転する相続にあたって課税する税金のことで、相続税法という法律に基づいて課される税金です。

相続税がある理由は富の再分配

相続税というものがなぜあるのでしょうか。

主な理由としては、富の再分配を行って貧富の格差をなくことに理由があるとされています。

相続税というものが無いと、お金持ちの家は永遠にお金持ちとなり、貧富の格差を招きます。

そのことを是正するために相続をきっかけに課税をすることで、富の再分配を行い、貧富の格差を解消しようとするのが狙いです。

Expert
ですので、生前贈与で課税を免れる行為については贈与税が課せられますが、贈与税は相続税法によって規定されています。

相続税の課税対象となる人

ではどのような相続が課税対象となるのでしょうか。

上述した富の再分配という趣旨からは、「相続財産がたくさんある人に課税をする」という方法と取ることになります。

そのため、基礎控除というものを設けて、相続財産が一定の金額までのものである場合には相続税は課さないとする方法にしています。

現在の相続税法における基礎控除は

3,000万円+(600万円×法定相続人の数)=基礎控除の額

という内容になっています。

例えば家族構成が父・母・子2人という家庭で、父が亡くなった場合には、法定相続人は母(配偶者)・子2人ということになるので、

3,000万円+(600万円×法定相続人3人)=3,000万円+(600万円×3=1,800万円)=4,800万円

と計算されますので、4,800万円未満の相続財産しかない場合には、そもそも申告自体が不要であるということになります。

相続財産の計算方法は相続税法の規定する方法による

ではこの相続財産をどうやって計算するのかというと、基本的には相続税法の計算のために行う方法によって行います。

ある財産を評価する方法は目的によってたくさんの方法があります。

たとえば不動産であれば、売買をするために算出する価格や、賃料を決めるために算出する価格、固定資産税を課税するために決める価格などがあります。

相続税も相続税法所定の課税目的を達成するために、各種財産を計算する方法が定まっているので、相続税法等の規定に従って行います。

現金や銀行預金のように価値が一目瞭然のものであれば計算は容易なのですが、土地や建物・未公開の株式など価値の算定が難しいものもあるので注意が必要です。

相続税申告の方法

相続税の申告はどのようにして行うのでしょうか。

相続税の申告は、申告書を作成して添付書類と一緒に提出することで行います。

相続税の申告は相続開始を知ってから10ヶ月以内にすることになっています。

参考:相続税法27条

前項の規定により申告書を提出すべき者が当該申告書の提出期限前に当該申告書を提出しないで死亡した場合には、その者の相続人(包括受遺者を含む。第五項において同じ。)は、その相続の開始があつたことを知つた日の翌日から十月以内(その者が国税通則法第百十七条第二項の規定による納税管理人の届出をしないで当該期間内にこの法律の施行地に住所及び居所を有しないこととなるときは、当該住所及び居所を有しないこととなる日まで)に、政令で定めるところにより、その死亡した者に係る前項の申告書をその死亡した者の納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

 

相続税申告書の作成

上記の相続税法27条2項が「…申告書を…提出しなければならない。」と規定しているように、相続税の申告は、申告のための書類を提出しておこないます。

相続税申告の書類のひな形は国税庁のホームページにありますので、もし自分で申告をする場合には、こちらを利用して行うのが一般的です。

こちらの相続税申告書をプリントアウトして手書きで記載することになります。

添付書類

相続税の申告書を作って提出しても、その内容が真実であるかはわかりません。

そのため、申告書の内容があっているということを証明するために、添付書類を一生に提出する必要があります。

添付書類は主に3つの観点から提出が求められることになっています。

一つは本当に相続が発生しているということを証明するためで、戸籍謄本などの書類を必要としています。

Expert
不動産登記をする際に戸籍の取り寄せは必須ですが、相続税の申告が必要になりそうな場合には相続税申告のために必要になるので、相続登記の際に「原本還付」という法務局に提出した書類を返してもらえる手続きがあるので利用するようにしましょう。

二つ目は、次に申請した財産に関する添付書類です。

不動産が小規模宅地に該当する場合で不動産の評価を下げることができる場合や、遺産の分割を遺産分割協議で行った場合など、遺産に応じて必要な書類があるので、添付をします。

三つ目は、延納する場合の理由を付した書類です。

納税は金銭で、一括で行うのが原則です。

相続税を納付するにあたって、極端な話遺産が不動産しかなく、その不動産がすぐに売却できるようなものではない場合には、相続税が発生するほどの資産がありながら、納税がすぐにできないという場合が発生します。

そのような場合に備えて、金銭にかわって相続財産を納付することで金銭の納付に替える「物納」と、何年かに分けて金銭を納付する「延納」という方法があります。

例外的な方法になるので、利用するには原則的な金銭の一括納付ができない場合でなければならず、利用をするには金銭納付が困難な理由などについての書類が求められます。

絶対に間に合わせる申告までのスケジュール

前述しましたが、相続開始から相続税の申告までは10ヶ月です。

人によっては「時間は結構ある」と感じる方も多いかもしれませんが、相続税の申告については申告書の作成も、所得税等の申告をするための確定申告に比べて複雑ですし、当然添付書類も複雑です。

特に気を付けたいのが、日本で相続税申告が必要な際には、そのほとんどのケースで不動産が相続財産に含まれています。

不動産がある場合には、小規模宅地等の特例の利用を含めて、遺産分割協議ができていないと利用できない手続きなどもあります。

ですので、ほとんどの方は納税直前には時間が足りないと感じることのほうが多いようです。

慌てて税理士に依頼をしようとしても、3ヶ月を切った相続税申告の代行については、いわゆる「特急料金」を申し向けるなどしています。

そこで相続開始からどのような事が起こるのかを把握しておくと、どの時期にどのような事が進んでいると相続税申告がスムーズか、という事を確認しておきましょう。

相続開始直後

相続開始の時期は、被相続人が亡くなった時です。

相続という観点からは効力発生のみですが、実際には葬儀などのスケジュールで遺族は忙殺されることがほとんどです。

戸籍法に記載されている死亡診断書の提出に関しては、葬儀を請け負う葬儀社が行ってくれることがほとんどです。

ですので、遺族としてはまず通夜・葬儀(最近では初七日法要も一緒にやってしまうことも多いようです)に専念します。

たとえば、父・母・長男・長女といった家族構成で、長男が妻と父・母とともに同居しており、長女は結婚して家を出ているような場合には、不動産をどのようにするかはすぐに決まりそうですが、そうでもない限りは遺産分割をどのようにするかは長い話合いが必要です。

とはいえ、葬儀直後から遺産分割をどのようにするか、という話合いはしづらいもので、亡くなった父名義で契約をしていた水道光熱費などの必要最小限の事項くらいしか手続きをしないのが通常です。

四十九日法要を過ぎたあたりから遺産分割の話をするようにする

葬儀関連の行事は四十九日方法で一旦次の三回忌まで時間が空く事になります。

相続人がいろんなところに住んでいるような場合には、なかなか集まって話すような機会もないことが通常です。

そのため、四十九日法要で集まった際に、大まかな進め方までは合意してしまうことがよく提案されています。

不動産がある場合には、固定資産税の納付を誰がするかという問題が相続・相続税の納付とは別にありますので、四十九日法要前に遺産について話し合う旨は伝えておいても良いかもしれません。

資産の種類が多いような場合には、できる限り事前にまとめておくことが望ましいです。

相続では、相続人各人にそれぞれ何分の何という形で割合をもって相続分が規定されていますが、細かく1円単位までこの割合にならなければならない…とするものではなく、この割合は最終的に裁判になった場合に、相続人それぞれは相続分に見合う遺産をうけつぐことができるようにする、とするものです。

たとえば上記の父・母・父母と同居の長男・長女という家族構成において、父が亡くなった場合の相続で、相続財産が不動産が5,000万円・預金が3,000万円あるようなケースを想定すると、遺産は8,000万円ということになります。

法定相続分としては母が1/2・子はそれぞれ1/4づつですが、必ず母に4,000万円が、子にそれぞれ2,000万円づつなければならないというわけではありません。

このケースでは母もすでに高齢であることが予測されるので、すでに母の面倒をみている長男に財産を継がせてしまうというのも相続の戦略としてはありえます。

ですので、5,000万円の不動産と1,000万円の預金を長男が、長女が2,000万円の預金を相続し、妻の相続分は0とするような協議の内容を確定させても問題はありません。

ここで長男が自分が後継ぎなんだから、とすべての財産を自分に集めるというような強引な遺産分割協議案を長女に迫るようなことがあると、相続は紛糾します。

相続が紛糾した場合には、遺産分割をめぐって審判を起こし、審判に納得がいかない場合には裁判を起こす方法が採用されています。

審判は当事者が出席している状況であれば3回程度の期日を設けて行います。

1回の期日が進行するのに通常で約一ヶ月、夏季・冬季の裁判所の休業期間があるような場合には一ヶ月半程度かかるのが通常です。

裁判も同様で、判決までいくようなケースになると3回~5回程度の期日になることが実務上多いのです。

つまり争いになってしまうと、その解決をするためだけに8ヶ月程度はかかる可能性があるのです。

Expert
協議開始までに2ヶ月弱程度かかった後に8か月かかると当然に申告ギリギリとなります。遺産分割協議が終わってないので相続税申告を待ってくださいということはできません。その結果どのような事が発生するかというと、一旦法定相続がされたものとして申告をした上で、遺産分割協議が整った段階で訂正の申告をすることになります。不動産に関して言うと小規模宅地の特例を利用するには遺産分割協議がすんでいることが前提なので、不動産の評価を最大80%減にしてくれる恩恵をここで得ることができないということです。

申告書の作成と添付資料の収集

 

申告書の作成と添付資料の収集は、遺産分割協議が終わるとすぐに行います。

不動産の相続が行われる場合には、相続登記の手続きも並行して行われることがほとんどだと思いますが、両者に共通する「戸籍の収集」は場合によっては面倒な場合があります。

例えば、亡くなった父は、名古屋で生まれて名古屋で母と結婚し、東京に転籍してきたような場合を想定しましょう。

直近の戸籍は東京にあるので住んでいる区役所で取得します。

大阪より転入してきたという記載がこの戸籍に記載されているので、次は大阪に除籍謄本を求めることになります。

結婚をすると元の父母の戸籍から抜けることになっており、相続についてはこの前の戸籍についても取得しますので(結婚前に認知した子が居ないかなどを確認する)、大阪の元の父の父母の戸籍に入っているものを求めます。

この間に昭和32年と平成7年の戸籍法の改正にもとづく新しい戸籍編纂をはさんでいる場合には、「改正原戸籍」というものを取得する必要があります。

戸籍は近くであれば赴いて取得すればよいのですが、場所が遠い場合には郵送で取得をすることもできます。

この郵送での取得には、どうしても2,3日~の時間がかかることが想定されるので、4つ以上取得することが多い戸籍の収集だけでも順調に行っても2週間程度要する場合もあります。

前述しましたが、相続税の専門家の税理士でも、3ヶ月を切っている相続税申告については特急料金扱いになることがありますので、通常仕事をしているなどで相続税の申告のための書類をつくったり資料収集に専念できない一般の方が行う場合には、相続税法における評価の方法を調べながら行うのは大変な時間がかかるといえます。

通常は2か月~4ヶ月程度の時間がかかると思いましょう。

納税資金がない場合には早期に不動産売却に着手しよう

前述したのですが、日本において相続税がかかる場合にはほとんどのケースで不動産を保有しているといえます。

そのため、預金が十分になくて、不動産を売却しなければ納税をするための資金を作れないという場合が発生します。

不動産の売却が必要な場合には、不動産の種類、場所や形状によって、すぐに売却できるかどうか異なります。

築浅で人気のエリアのマンションなどであれば比較的早期に買主が見つかるでしょうが、郊外で大型のかなりの築年数になっている物件は売るに売れないということはあります。

不動産売却はタイミングの問題もあるので、必要だと感じた段階で早めに着手するようにしましょう。

相続税申告の税理士の選び方

ここまで記載してわかると思うのですが、相続税申告は非常に高度な知識と面倒な資料収集が必要となるため、個人が正確になんのミスもなく申告するのはハードルが高いといえます。

そのため、税理士に依頼することは手なのですが、どのような注意が必要でしょうか。

税理士と一口に言っても得意分野がわかれます。

Expert
相続税は税理士の試験科目としては必須ではないもののボリュームが多いので、積極的に受ける人が少ないようです。

主な分野としては、法人税や事業税・消費税などの法人の納税を扱うか、所得税や相続税などの個人の資産を扱うかという分かれ方をします。

相続税は個人の税金の中でも特殊な分野なので、得意・不得意がわかれるようです。

懇意にしている銀行などに教えてもらってもいいですし、インターネットで検索をして相続税が得意な税理士かどうかを調べることは重要といえるようです。

まとめ

このページでは、相続税とはどのような税金なのかお伝えした上で、スケジュールなどについてお伝えしてきました。

10ヶ月という期間制限があり、相続の中では比較的長いものになるのですが、申告までにやらなければならないことも相対して多いので、実は時間が足りないということはよくあります。

早めに着手して、難しいと思った場合には税理士に相談するなどしましょう。

コメントを残す