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相続する財産が多額にある場合には、どうしても念頭に入れておきたいのは相続税をどうやって減らすか、ということになります。
相続で税金を納める額を減らせるようにしたいのですが、そのためには相続税の知識だけではなく、相続前後でどのような対策ができるかを総合的に知っておく必要があります。
このページでは相続税というものについて理解しつつ、相続税対策について効く施策を9つお伝えします。
相続税とはどのような税金か
まず相続税というものがどのようなものかの基本を知っておきましょう。
相続税というのは、人の死亡をきっかけに財産が移転することに対して税金を課するものです。
端的には遺産相続の相続人にかけられる税金と考えておけばよいのですが、亡くなった人(被相続人)が相続人以外の第三者に財産を譲ることを内容とした遺言をしていたような場合には、遺言で財産を受け取る人(受遺者)も相続税の課税対象となります。
相続税がどの程度かかるかの概算を知る
相続が発生するとかかる相続税ですが、どの程度の相続税が発生するかを知っておきましょう。
基礎控除の額を調べる
まず、相続税は「富の再分配」という趣旨によるものなので、すべての相続に納税義務が発生するわけではなく、一定額以上の財産の相続が発生したときに発生することになります。
そこで、「この金額までならば相続税はかかりません」という基準(基礎控除)というものを設定しておき、その金額を超える遺産がある場合に相続税が発生する仕組みになっています。
基礎控除は、
で算出します。
例えば、父・母・子2人という構成の家族で、父の相続をする場合には、母・子2人が相続人になるので、
が基礎控除の額となります(以後この例に従って計算をしてみます)。
遺産の総額を計算する
遺産の計算については、相続税の計算上どのように評価されるか、という観点から遺産がいくらなのかを確定していきます。
たとえば不動産の場合には、不動産屋さんに確認してもらった上での実勢価格を計算するのではなく、その不動産の路線価を調べて、土地がどのような状態なのか(道路に面しているかなど)を調べた上で計算をします(路線価方式の場合)。
課税資産総額の計算
遺産と相続人の数が確定したら、遺産総額から基礎控除を引いた課税資産総額を計算します。
たとえば上記の例で遺産が1億4,800万円だった場合には、
となります。
相続税の総額の計算
次に相続税の総額を計算します。
相続税の総額は課税資産総額をいったん法定相続分で相続したものとして、各人に課税がいくらされるかを計算します。
上記の例で言うと,法律に従った法定相続分は母が1/2・子2人がそれぞれ1/4づつとなりますので、
母:1億円×1/2=5,000万円
子A:1億円×1/4=2,500万円
子B:1億円×1/4=2,500万円
という計算になります。
各人ごとの相続税を計算
次に、次の速算表に従って各人の相続税額を計算します。
課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | ー |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
今回の家族の例で言うと
母:5,000万円×20%-200万円=800万円
子:2,500万円×15%-50万円=325万円
子:2,500万円×15%-50万円=325万円
と計算されます。
各人の納付額を計算
遺産分割協議をした場合には、法定相続分と異なる割合での相続になりますので、ここから各人が納付する額を計算することになります。
一旦上記で計算した額を足して、各人が相続する割合を掛けて計算をします。
上記の家族で、母20%、子Aが50%、子Cが30%を相続することにした場合には、
800万円+325万円+325万円=1,450万円
母:1,450万円 × 20% = 290万円
子A: 1,450万円 × 50% = 725万円
子B: 1,450万円 × 30% = 435万円
となります。
相続税対策として有効な方法9選
では、相続税がかかりそうな場合に、相続税がかからないようにしたい、相続税の支払う税金を減らしたい、と思ったときに、どのような対策があるでしょうか。
相続税法自体にある税額が安くなるしくみ
まず相続税法自体に、様々な目的から税額が安くなる仕組みがありますので、知っておきましょう。
小規模宅地の特例
相続税が発生する相続が発生する場合には不動産があることがほとんどです。
不動産が住居である場合には、小規模宅地の特例という制度があります。
小規模宅地の特例を利用すると、遺産の不動産の評価を通常の場合の80%にすることができることになるので、課税の対象となる資産を圧縮することになり、相続税の額が下がる・納税の必要がなくなる可能性が出てきます。
利用にあたっては、同居する親族が相続をする必要があります。
養子を迎える
基礎控除の額は、上記のように相続人の数が多ければ多いほど増えます。
そこで、養子を迎える事で相続人を増やして、基礎控除の額を増やすことが選択肢として検討されます。
上述の家庭の例で、子Aさんには孫Cさんがおり、父は孫にもある程度財産を譲りたいと考えている場合には、孫を父の養子にすることで法定相続人を増やすことが可能です。
もちろん、養子を山ほど迎えれば相続税がかからないわけではなく、実子が居る場合には1人・実子が居ない場合には2人までしか相続税法上の相続人の数は増えませんので注意が必要です。
お墓や仏壇などの非課税資産の購入
お墓や仏壇といったものは購入すると非常に高額になるのですが、相続にあたっては資産として計上しないことになっています。
このような非課税資産を生前に購入しておくと、わずかですが相続財産を減らすことができます。
その他の控除
その他にも、
- 相続人が配偶者である場合には最大1億6,000万円の控除(配偶者控除)
- 未成年者である場合には、成人するまでの年数×10万円の控除(未成年者控除)
- 障害者が相続人である場合には、満85才までの年数×10万円(特別障害者の場合には20万円)の控除(障害者控除)
- 10年間で2回以上の相続が発生している場合の相次相続控除
- 生前贈与を相続財産に加算する場合の贈与税額控除
- 外国の資産について課税されたものについての外国税額控除
- 相続時精算課税制度贈与税額の控除
といった控除の制度があるので、適用ができる場合にはきちんと申告と添付書類の作成の際に適用申請をするようにします。
生前贈与を活用
相続税は相続時の遺産に対して課税されるので、相続を見越して相続人などに贈与をしていく、生前贈与を利用することで遺産になる額を減らしておくことは相続税対策になります。
贈与税との関係を知っておく
生前に全部贈与してしまえば、財産が完全に移転するので良いんではないか、と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、それでは相続税課税逃れが簡単にできてしまいます。
そのため、贈与についても贈与税という形できちんと課税されているので注意が必要です(贈与税は相続税法で規定されています)。
贈与税にも基礎控除という制度があり、年間110万円までの贈与であれば課税されません。
そのため、この非課税枠を利用することが最初に検討すべきものとなります。
直前3年間の贈与は相続財産に組み入れられる仕組みになっておりますので、両親がまだまだ健全だが、長い目で見ると確実に相続税が発生しそうな場合には、なるべく早い段階から少しづつ贈与をしておくことで資産を移すことが可能になります。
非課税枠のみだけでの生前贈与だけではなく、贈与税で課税されることがあっても相続税での課税が減るような場合には、贈与税の支払いが発生する贈与も積極的に使っていくことも検討することになります。
相続時精算課税制度の利用
110万円を超える贈与でも、相続時精算課税制度を利用した場合には2,500万円までの贈与を非課税にすることができます。
相続時精算課税制度とは、相続のときにすべて清算をすることを前提に、この年の贈与について2,500万円までの贈与については非課税、それ以上の贈与についても20%におさめるという制度です。
相続をするときに相続財産として計算をすることが前提になるのですが、大きな財産の移転ができる制度です。
たとえば、収益不動産を持っているような場合は、被相続人が手元でもっている場合には収益が被相続人に入ってくるのですが、その資産を相続人に移すことができれば、移転後の収益は相続人が収受することができます。
教育資金贈与の非課税の制度を利用する
子や孫の教育のための資金の贈与をする場合には最大1,500万円までの贈与に贈与税がかからない制度(教育資金贈与の非課税の制度)があります。
平成31年3月31日(年号が変わるのですが本稿執筆段階では新しい年号がわかっていないので平成のまま記載します)までの時限的な措置ですが、直接学校に通うための入学金や授業料のみならず、習い事のようなものまで適用できる制度になります。
特例の利用には贈与対象が30歳未満の子や孫である必要があったり、信託銀行との契約が必要であったり、将来現金が必要になったとしても払い戻しができない、という事情もありますので、利用にあたっては税理士などの専門家に相談しながら行うのが通常といえるでしょう。
おしどり贈与の非課税の制度を利用する
いわゆる「おしどり贈与」による最高2,000万円の贈与税の課税がされない贈与の利用も検討すべき制度の一つになります。
- 婚姻期間が20年以上の夫婦の間
- 居住用不動産の贈与
以上の条件を満たす場合には、最高2,000万円まで贈与税がかからなくなる特例です。
贈与単体だけ見ると生前贈与としては魅力的ですが、小規模宅地の特例を利用するほうが有利な場合があったりします。
また、昨今いろんな家族の形があるとはいえ、夫婦の一方から他方に財産を移転できても、その一方の相続が開始するのもそんなに間が空くとは考えづらいので、利用するかどうかは専門家に相談しながら行うのがよいでしょう。
保険の活用
保険商品の利用も実は相続対策になることを知っておきましょう。
死亡保険金と相続の関係について
まず、死亡保険金と相続の関係について知りましょう。
保険金は保険事故に対して支払われる給付です。
父が死亡した場合に、母や子に給付されるものなので、父の財産を受け継ぐものなので、相続財産とは法律上別の存在になります。
しかし、父が保険をかけて自分で保険料を支払って、母や子が固有の請求権として受け取れるものとはいえ、実質的には財産が移転しているので、相続税との関係では相続財産として評価しなければ税金逃れに使われます。
そのため、相続税との関係では相続財産として取り扱うことになります。
相続財産として扱われるが非課税の制度がある
上記のように相続税との関係で相続財産として計算されるものの、ある程度の保険をかけておくこと自体は望ましいことなので、下記のような非課税の制度があります。
つまり相続人が3人であれば、
が非課税になります。
保険の利用ができる状況なのであれば保険への加入は検討すべきでしょう。
不動産の活用
不動産がある場合には、不動産の形態によって様々な方法があります。
保有している不動産がたとえば割と利用価値があるような土地である場合には、資産価値が高く評価されます。
この土地に賃貸マンションを建てて他人に貸し出すことが相続税対策になる場合があります。
他人に賃貸をすることで自分達の利用が制約されることから、資産としての評価が下がることになり、節税対策が期待できることがあります。
もちろん、税金との関係では安くなるものであったとしても、その後の利用や収益の計画もあるので、相続に詳しい不動産会社や税理士に相談しながら行うのが良いでしょう。
まとめ
このページでは相続税の節税対策について、よく紹介される9つの方法について、相続税というものの基本と一緒にお伝えしてまいりました。
相続に関してはどのくらいの遺産になりそうか、どのような遺産があるのか、相続人の構成などによって、とるべき対策が違ってきます。
単発としては以上のようなお得な制度があることを知っておき、税金との関係のみならず、争いにならない相続にするためにも、早めから専門家に相談しながら対策を行うことをお勧めします。