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過払い金請求というものをテレビ・ラジオのCMや駅の看板広告、ポスティングされるチラシで見つけて気になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
借金を長年返済している人にとって、貸金業者からお金が返してもらえるというのは朗報なのですが、そもそもなんでそんな事ができるのかの根拠がわからず、検索をしている中でまれに過払い金に関する不祥事なども散見されて、怖くて相談なんかに行けないという気持ちを持っている方はたくさんいます。
確かに過払い金に関する不祥事が発生していたり、過払い金の請求について弁護士と依頼者がトラブルになった事は法律事務所の事務員として勤務していく中でたくさんありました。
法律的な仕組みと実務がどのようにして回っているのか、トラブルになるのはどのような点に集約されるのか、ということを知っておけばトラブルを防止しつつ請求ができます。
このページでは、過払い金請求について、実務に携わった事務員観点からお伝えします。
過払い金とは
そもそも「過払い金」というものがどのようなものか知りましょう。
「過払い金」というのは、貸金業者に払いすぎていて、返してもらえることになっているお金のことを言います。
「払いすぎていた」お金が発生するしくみ
まずは、そもそも「払いすぎていた」お金というのがどうして発生するのかを知りましょう。
貸金業者は貸付をする際に利息を受け取ることで利益を出しています。
受け取ることができる利息については、高利になりすぎないように「利息制限法」および「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(通称:出資法)」という2つの法律で制限がされています。
参考:
利息制限法1条
(利息の制限)
第一条 金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
一 元本の額が十万円未満の場合 年二割
二 元本の額が十万円以上百万円未満の場合 年一割八分
三 元本の額が百万円以上の場合 年一割五分
出資法5条2項
前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年二十パーセントを超える割合による利息の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。
民事上の効力について規定する利息制限法と刑事処罰の観点から規定されている出資法という2つの法律が併存しているのですが、刑事罰は実は出資法にしかありません。
そしてこの出資法は2010年6月18日に改正がされるまでは、29.2%までは利息の受け取りを許容しており、利息制限法の上限金利との間にいわゆる「グレーゾーン金利」というものが発生していました。
貸金業者のうち、消費者金融・信販会社は、グレーゾーン金利での貸付を行っているところが多く存在していたのですが、この金利の受け取りについては、最高裁判所が次のような判断をしています。
参考:最高裁判例
昭和39年11月18日判決抜粋(本文はこちらから:裁判所ホームページ)
債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息、損害金を任意に支払つたときは、右制限をこえる部分は、民法第四九一条により、残存元本に充当されるものと解すべきである。
昭和44年11月25日判決抜粋(本文はこちらから:裁判所ホームページ)
債務者が利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金を元本とともに任意に支払つた場合においては、その支払にあたり充当に関して特段の意思表示がないかぎり、右制限に従つた元利合計額をこえる支払額は、債務者において、不当利得として、その返還を請求することができると解すべきである。
2つの判例が何を意味しているかというと、利息制限法を超える利息の受け取りについては「無効」であり、無効と評価された金銭については、残元本に充当され、残元本よりも多い場合には返還を請求できるということになっているということです。
つまり、30万円の「無効となる利息の受け取り」が発生している場合に、残元金が50万円になる場合には30万円と差し引き計算をして残元金が20万円になり、50万円の無効部分があり残元金が30万円である場合には20万円の返還を請求できることになっています。

過払い金請求の代理をしてくれる人は「債務整理」に強い弁護士・司法書士
過払い金請求については、「債務整理」に強い弁護士・司法書士に依頼をするのが一般的です。
過払い金請求は、通常の民事の請求の代理になるので、弁護士法所定の「法律事務」になるので、弁護士しか有料で相談・依頼をうけることができません。
参照:弁護士法72条
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
法律上例外があるのは、司法書士は簡易裁判所で扱われる案件についての代理をすることができるので、140万円未満の過払い金請求をすることができることになっています。
司法書士法:3条6号イ
第三条 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
六 簡易裁判所における次に掲げる手続について代理すること。ただし、上訴の提起(自ら代理人として手続に関与している事件の判決、決定又は命令に係るものを除く。)、再審及び強制執行に関する事項(ホに掲げる手続を除く。)については、代理することができない。
イ 民事訴訟法(平成八年法律第百九号)の規定による手続(ロに規定する手続及び訴えの提起前における証拠保全手続を除く。)であつて、訴訟の目的の価額が裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの
裁判所法33条
第三十三条(裁判権) 簡易裁判所は、次の事項について第一審の裁判権を有する。
一 訴訟の目的の価額が百四十万円を超えない請求(行政事件訴訟に係る請求を除く。)
ただし、司法書士は第一審の請求のみで、140万円を超える場合には代理ができなくなるので注意が必要です。

扱うことができるのが、弁護士・司法書士になるのですが、弁護士・司法書士にも取り扱いにあたって得意・不得意があります。
過払い金請求は、「債務整理」に付帯して取り扱っている弁護士・司法書士がほとんどです。

過払い金請求の法律の話
過払い金請求についてはどのような事を知っておくべきでしょうか。
過払い金請求権は民法では「不当利得返還請求権」という権利に分類される債権になります。
この「不当利得返還請求権」については10年で時効になってしまうということです。
民法703条
(不当利得の返還義務)
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
民法167条
(債権等の消滅時効)
第百六十七条 債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
出資法が改正されたのが2010年6月18日なので、それ以降はグレーゾーン金利での貸付というものは発生しておりません。
完済をしてから10年を経過すると過払い金請求自体が時効であるとされてしまい、請求できなくなります。
消費者金融等の貸付については、限度額があってその範囲の中で借りて・返してを繰り返していることが通常で、完済をしてから1年以上たっている場合でなければ、取引自体は続いているという評価がされていますので、今過払い金請求を悩んでいるのであれば早めに行うようにしましょう。
過払い金請求の実務的な話
次に、実務的な面についてのお話しをしたいと思います。
過払い金の調査の仕方
過払い金があるのかないのか、あるとしてどの程度の金額なのかはどのようにして計算すれば良いでしょうか。
当然なのですが、過去の取引の明細書をすべてひっぱりだしてきて、この時の利率がいくらで、法定利率といくら離れていて、支払いごとにいくら払いすぎていたのか、ということを確定させるのは至難を極めますし、そもそも明細書を置いていること自体がないでしょう。
実務的には、貸金業者は取引の履歴を開示してください、とお願いをすると、これに応じる義務があるという最高裁判所の判例が出てます。
参考:最高裁判所判例:平成17年7月19日(詳細)
貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業の規制等に関する法律の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,その業務に関する帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負う。
これに応じて通常の貸金業者であれば、取引履歴の開示窓口を設定してあるので、そちらに申し込みをします。
取引履歴を手に入れると、いついくら借入をした・いくら返済をした、というものの一覧が手に入りますので、そちらを「引き直し計算シート」というものに入力をすると、過払い金があるか・ないか、あるとしていくらあるのかを知ることができます。
「引き直し計算シート」というのは、パソコンの表計算ソフトExcelのフォーマットで、弁護士・司法書士も実務でこれを利用しています。
引き直し計算シートは下記のホームページで手に入ります。
エクセルのシートの対応する部分に借入をした額・返済をした額を入力すると法定利息で借り入れをしていたならば今いくらの残高があるか、過払い金になっているかを知ることができます。
過払い金の請求は実際にどういう行動をとるか
では過払い金があるということが判明した場合に、実際はどのような請求をするのでしょうか。
一般に債権がある場合の回収をする場合には、内容証明を送付した上で交渉をして、交渉がでは解決しない場合に裁判を利用するのが一般的です。
過払い金請求の場合には、弁護士・司法書士は内容証明をあまり使わず、通常の通知をもっておこないます。
ただし、時効が迫っているような場合には時効をとめる必要があるため、配達証明付きの内容証明郵便を利用します。
通知を受けた貸金業者は、請求内容に対して和解案の呈示をしてきます(内容については後述します)。
これに応じれば、和解書の締結をして、支払日を待つという流れになります。
弁護士・司法書士に依頼をする場合には、弁護士・司法書士の事務所に振り込みがされるので、報酬を計算して差し引いた額が依頼者に振り込まれることになるという流れになります。
和解内容はどのようになるのか
法律上請求できる額があるのであれば、それを全額回収したいという希望はあるかと思います。
しかし、法律上請求できるということと、実際に回収できるのは別です。

銀行系のグループ企業で体力のあるような会社や信販会社であれば支払いができるかもしれませんが、一般的に中小零細の消費者金融などは、発生している全額の支払いに応じる体力もありませんし、そもそも貸金業者が倒産してしまっているケースもあります。
そこで、大手でも8割~9割程度の和解に、中小零細であれば、1割も返してもらえればいい、というのが現状で、裁判をすれば多少は割合が上がる程度であることを知っておきましょう。
過払い金請求でトラブルになるケース
過払い金請求ではよく弁護士・司法書士と依頼者でトラブルになっているケースがありますので、注意が必要です。
弁護士・司法書士に対する報酬の計算
過払い金請求については対する報酬の計算が難しい場合があります。
たとえば、現状50万円の債務を抱えているけれども、払いすぎていた利息が80万円あった場合には、差し引きして30万円を返してくださいという請求をします。
このような場合には弁護士費用として、解決報酬金2万円に30万円の20%である6万円と、50万円の10%で5万円程度の債務を減額した報酬を差し引いて依頼者に返すので、実際に依頼者が手にするのは17万円程度ということになります。
30万円が返金されると思っている方にとっては半分くらいの金額になるので、報酬が50%とは契約では聞いていないという形でトラブルになってしまうことがあるのですが、弁護士・司法書士は「得られた経済的利益」を計算することになっているので、注意をしてください。
自己破産手続きをするような場合には返金しない
たとえば、30万円の過払い金が発生しながら、一方で残額として400万円残っており、自己破産手続きをするようなことがあります。
このような場合には過払い金は自己破産申立前に取り戻しをするのですが、取り戻した金額を自由につかえるわけではありません。
これは、自己破産手続きにおいては、過払い金も資産として、自己破産手続きにおける分配の対象になるためです。
なお、全額返さないというわけではありませんが、生活に必要であると客観的に認められるような特別な事情が必要であると考えてください。
弁護士・司法書士に支払う報酬が高すぎるという心配はしなくていい
弁護士・司法書士に払う報酬が相場よりも高かった、後から追加で請求された、というトラブルがかつてあったこともありました。
そのことについての反省から、弁護士会や司法書士会は過払い金請求に関する報酬の上限を定めました。
安全に過払い金請求を専門家に任せるのであれば、端的によく見る広告に問い合わせをするのが一番近道であるという状況になっています。
まとめ
このページでは過払い金とはどのようなものかをお伝えした上で、法律的観点から気を付けることと、実務での動きについてお伝えしてきました。
借入が長い人に関しては返済義務がなくなるうえに、払いすぎた利息がかえってくるものになるので、借金の返済がつらいな、と感じる方であれば、なるべく早く相談すると良いでしょう。