先物取引と裁定取引について知ろう!

今回は先物(日経225先物)の仕組みと、現物株との裁定取引について解説します。裁定取引をできるのは、機関投資家がメインですが、取引状況を見ることによって今後の展開を予想することができます。それでは、先物取引の仕組みから確認していきましょう。

先物取引とは

先物取引とは、デリバティブの一種です。デリバティブとは、リスク回避を目的として、株式や債券など元になる資産(原資産)から派生して開発され、低コストで取引することができます。原資産の価格変動や価格差、時間差を利用して利ざやを稼ぎます。デリバティブの多くはレバレッジを効かせて効率的に運用ができます。レバレッジとは、少額の資金で大きな取引をすることです。大きな利益を狙える反面、手持ち資金以上の損失を抱える場合もあり、リスクが大きくなります。

先物取引の定義を見てみましょう。

 

1.将来のあらかじめ定められた期日(満期日)に

2.日経平均株価など特定の商品(原資産)を

3.現時点で取り決めた価格で

売買することを約束する取引です。

 

先物取引と株式との違い

株式との違いは以下のようになります。

①取引できる期間が決まっている

現物株を取引する場合、その企業が倒産しない限りいつまでも株式を保有していくことが可能です。しかし、先物取引は取引の期日があります。例えば、日経平均先物では、3・6・9・12月の第2金曜日に自動的に決済されます。 先物取引では期間内であればいつでも自由に売買できますが、期限が決まっているということが、株式との大きな違いです。

売りから入ることもできる

先物取引は相場が上昇すると予想した時には、株式と同様に買いから、相場が下がると予想した時には売りから取引をすることができます。売りから入り、予想通り相場が下落すれば買い戻しを行うことで、利益を得ることができます。

ただし、予想に反して相場が変動した場合には損失が発生します。株式でも信用取引を利用すれば売りを行うことができますが、信用売りを利用できる銘柄は限られていますし、貸株料や逆日歩などのコストがかかります。先物取引では、売りでも買いでもコストは手数料だけで変わりません。

差金決済である

差金決済とは、株取引のように売買のたびに株券や代金を受け渡しするのではなく、売買により生じた差額のみの受け渡しを行うことです。現物の受け渡しがないので、売り買いを何度でも行うことができます。

証拠金取引である

株取引では100万円の株式を買う場合、原則100万円の資金が必要になります。これに対して、先物取引は株の信用取引と同じように、証拠金と呼ばれる担保を差し入れて取引を行います。証拠金に対してより大きな額で運用できることをテコの原理になぞらえて「レバレッジ効果」といいます。

例えば、100万円の取引に対して10万円の証拠金で取引ができるような場合、「レバレッジ10倍」ということになります。このように資金効率が高い取引ができるのも先物取引のメリットです。ただし、利益も大きくなる反面、損失も大きくなります。過剰なレバレッジをかけることは控え、あらかじめ多めに資金を用意するようにしましょう。

銘柄選択が不要

現物株の場合は、東京証券取引所に3,500社以上の企業が上場しています。この中から取引銘柄を決めるのは一苦労です。しかし、日経平均株価やTOPIX( 東証株価指数)などの指数を対象としている先物取引の場合、個別の銘柄が対象ではないので、銘柄選択をする手間が省けます。また、個別株のように倒産リスクはありません。テレビや新聞などのニュースでも常に報道されているので、価格の把握が比較的容易にできます。

取引時間が長い

現物株の取引は9時~15時となっています。一方、先物取引は日中取引が8時45分~15時15分。夜間取引が16時半~翌日の5時半までとなっています。取引時間が長いので、海外市場が動いている夜間でも取引ができるのは大きなメリットです。

先物取引の例

先物取引を開始するには、数万円から十数万円程度の証拠金を預けます。証拠金は信用取引の保証金にあたります。レバレッジは20倍~30倍程度です。ミニ日経先物なら一枚の売買で先物価格の100倍の取引ができます。呼値は5円で、損益ベースで1枚あたり500円の変動です。日経平均が2万円なら先物1枚買うと200万円相当の株を買ったのと同じで、100円変動すればその損益が1万円という計算になります。

先物の新規売りを売り建て、新規買いを買い建てといいます。現物株と違って長期の保有はできません。決済(限月)が決まっており、日経平均先物場合は、3・6・9・12月の直近5限月です。その月の第2金曜日に特別清算指数 (SQ)で最終決済金額を確定します。

反対売買されていない未決済の注文を「建玉」、建玉の量を「持ち高」あるいは「ポジション」と呼びます。相場の先高感から買い建玉を増やしたり先安感から売り建玉を増やしたりすることを「ポジションを傾ける」といいます。持ち高はすべて SQ値で自動精算されるので、通常は SQ 前にポジションを解消すると同時に次の限月を新たに新規で立てる必要があります。これを「ロールオーバー(乗り換え)」といいます。

先物取引の利用方法

先物の利用方法も見てみましょう。

リスクヘッジ

先物取引を利用することで、保有している株が価格変動により被る損失を回避することができます。これを「ヘッジ取引」といいます。例えば現物株を保有しているときに先物を売り立てておけば、市場全体が下がる時でもリスクを軽減させることができます。先物取引は取引コストが低く少額から取引することができるので、ヘッジ取引として有効に利用することができるのです 。

スペキュレーション

相場の動きを予想してポジションを取り、予想通りの方向に動いた時に反対売買を行って利益を確定させることです。通常の売り買いの取引になります。スペキュレーションを行う投資家は、多様な投資判断で参加することで、市場における価格発見機能を向上させたり、流動性を向上させたりする効果があります。リスクを取り投資をしていることで、リスクヘッジを行おうとする投資家のリスクの受け入れ先となるなど、重要な役割を果たしています。

そして先物取引の三つめの利用方法として「裁定取引」があります。裁定取引については詳しく解説していきます 。

裁定取引とは

裁定取引はアービトラージとも呼ばれ、同一の価値を持つ商品の一時的な価格の歪みが生じた際に、割高な方を売り割安な方を買います。その後、両者の価格差が縮小した時点でそれぞれの反対売買を行うことで利益を獲得しようとする取引のことです。

株式市場では主に先物相場が理論価格に対して高いか安いかで最低取引の機会が発生します。次の2つの手法があります。

  • 裁定買い

理論価格よりも高くなっている割高な先物を売却すると同時に現物株を購入

  • 裁定売り

理論価格よりも安くなっている割安な先物を購入すると同時に現物株を売却

 

裁定買い、裁定売りのポジションを反対売買で決済することを「裁定解消売り」といいます。

日経225先物の理論価格は次のようになります。

先物の理論価格=現物価格×{1 + (短期金利―配当利回り)× 満期までの日数 ÷ 365}

このように日経225先物は、将来の日経平均の値段なので、短期金利を上乗せしたり配当利回りを除いたりして理論値を求めます。仮に先物理論価格が2万円としましょう。先高感が強いと先物高いが入り、現物株より早い勢いで上昇します。仮に20,100円をつけたのであれば、割高な先物を売って現物株を買う裁定買いのチャンスです。先高観が強いほど裁定買いも入りやすく、現物株が押し上げられます。

しかし、いつまでも先物が理論値より高い状態ではありません。先物は決済期日があります。決済日が近づくと、どんなに上下に触れていても理論値に収斂していきますし、そうでなくても市場が落ち着けば適切値に戻ります。先物の割高感が消えれば、反対売買つまり「先物の買い戻し+現物売り」を実行して、裁定ポジションを解消します。これが「裁定解消売りです。

理論上先物を売って買い戻し、現物を買って売る行為なので需給に変化はなく、相場に中立要因です。裁定取引は日経平均先物と現物など連動性のある二つの商品を利用して割安なものを買い割高なものを売ることで、リスクなしで利ザヤを稼ごうとするものです。そのことから理論上は勝率100%となります。

しかし、実際に裁定解消売りが出やすいという時は、相場の先安感が強い時が一般的であるため、実態以上にインパクトが大きくなります。相場に中立というのは理論上の話であって、実際には下げを加速し、相場のかく乱要因となります。東証は裁定残高を定期的に公表しており、残高が増えれば将来の潜在的な解消売り要因になることを意識する必要があります。

また、日経平均採用銘柄は全部で225銘柄あります。すべての銘柄を同じタイミングで日経平均株価指数と同じようになるように書いつける必要があります。日経平均株価の計算方法としては、構成銘柄の株価をみなし額面に換算した上で合計し、除数で割って算出します。

このように225銘柄の単純な平均株価ではないので、常に動く株価を元に全ての銘柄を日経平均株価に近づくように購入する注文は難しいといえます。機関投資家はプログラムを組み、瞬時に売買が可能なため取引することは可能ですが、個人投資家にはかなり難しいでしょう。

さらに、日経平均採用銘柄先物を同時に買いつけるためには、すごく多額の資金が必要になります。スピードの面でも資金の面でも個人投資家が実行するのはほぼ不可能だといえます。

まれに先物が理論値を下回る時があるので、割安な先物を買って現物株を売る、全く逆の裁定ポジションを取ることがあります。これを「逆裁定取引」とか「売り裁定取引」などといいます。

裁定買い残を取引に活かすには

個人投資家が裁定取引を行うことは難しいものの、裁定取引を株式投資の参考にすることはできます。それは、裁定買い残、売り残を利用して、将来の株価推移の判断材料とすることです。

裁定買い残とは、「先物売り + 現物買い」のポジションの時に、まだ裁定取引を解消していない現物買いの残高のことをいいます。裁定買い残が増加すると、日経平均株価は上昇するものの、裁定買い残はいずれ解消されるので、将来の売り圧力として捉えることができます 。

一方、裁定取引で「先物買い + 現物売り」のポジションの時にまだ裁定取引を解消してない現物売り残高のことを、裁定売り残といいます。裁定売り残が増加すると日経平均株価は下落しますが、これも裁定解消時には現物買いの圧力として捉えることができます 。

つまり、裁定買い残の増加から減少に転じる天井のタイミングで、日経平均株価も下落トレンドへなりやすいので、現物株の売り、もしくは信用取引で売りを仕掛けるチャンスです。一方、裁定買い残の下落から増加に転じる底のタイミングでは日経平均株価は上昇しやすいので、現物株の買い、または信用取引の買い戻しを行うという取引戦略を取ることができます。

ただし、これもテクニカル的な売買手法の一つなので、裁定買い残・売り残は売買の一つの目安です。他のテクニカル指標を合わせて取引をすると、より勝率は上がるでしょう。

日経225先物と現物株の裁定取引は、理論上リスクなしに収益を確定させる取引のことで「アービトラージ」と呼ばれます。その他の裁定取引についても見ていきましょう。まずは、限月間スプレッドです

限月間スプレッドとは

先物取引には決済の期日である限月が決まっています。例えば、日経25先物では、3月・6月・9月・12月の年4回あります。満期までの期間が遠い「期先物」と満期までの期間が近い「期近物」との間で行う取引が、「限月間スプレッド取引」です。

先物取引限月ごとに同じタイミングであっても、値段がずれていることがあります。この値段のズレ(スプレッド)が将来縮小する、または拡大すると考えて投資するのが限月間スプレッド取引です。

 

  • スプレッドの買い

期近が割高、期先が割安と判断した場合に行う取引

  • スプレッドの売り

期近が割安、期先が割高と判断した場合に行う取引

 

配当落ちに注意

ただし、日経225先物では配当落ちがあるので注意が必要です。基本的に配当は3月と9月に出す企業が多いので、日経225先物も6月限と12月限は配当落ちで値段が安くなります 。

市場間スプレッド取引

日経225先物は大阪取引所に上場されていますが、海外市場にも上場しています。シンガポールの市場であるSGX、アメリカ市場であるCME、この二つの市場にも上場しているのです。これらの市場では同時にリアルタイムで取引されていますが、価格のずれが生じる場合があります。その場合に、割高な市場で先物を売り、割安な市場で買う取引が「市場間スプレッド取引」です。

限月間スプレッド取引、市場間スプレッド取引いずれも理論的には可能な取引で、リスクがほぼありません。しかし、これも機関投資家が行う取引です。一瞬サヤが開いてもプログラム売買によってスプレッド取引が組まれ、サヤは元に戻ってしまいます。あくまでもこういった取引を機関投資家は行っているということだけを覚えておくようにしましょう。

ペアトレード

先物取引の裁定取引を見てみましたが、現物株でも似たような取引を行うことができます。このような取引をペアトレードといいます。ペアトレードは同業種などの連動性の高い銘柄をペアにし、株価が乖離しているタイミングで割高な株を売り、割安な株を買います。そして、その価格差が収斂した時に決済して利益を取る手法です。

ただし、裁定取引は同一商品同士の取引なので連動性が高い取引です。日経平均先物と日経平均株価現物の場合は 、SQは同じ価格なので、リスクはほぼゼロになります。

一方、ペアトレードは異なる株価同士となります。似たような値動きをしていることが多いものの、全く異なる動きとなることがあります。必ずしもサヤが開いた状態が再び収斂するわけではないので、リスク管理がより重要になってきます。裁定取引とペアトレードは取引手法が似ているので勘違いしやすいところですが、全く違う取引だということを認識するようにしましょう。

まとめ

今回は日経225先物の仕組みと現物株の裁定取引(アービトラージ)をメインに解説してきました。実際にこの取引を行えるのは、ほぼ機関投資家のみとなっていますが、裁定買い残がどの程度増えているのか、減っているのかを見ることにより、今後の相場展開を占うことができます。

また、個人投資家としては先物取引を単体で取引するスペキュレーション取引、また現物株で取引を行うペアトレードなどがあります。ただし、これらはリスクがある取引なので、必ず損切り注文を入れるなど、リスク管理を徹底する必要があります。裁定取引の仕組みを理解して、先物の売買や現物株の取引に役立ててください。

 

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