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米国の起業家パロールの条件|投資311,071ドルと持分10%

米国の起業家パロールは、ビザではなく個別の判断で認められる滞在の許可です。持分10%、適格投資311,071ドル、再パロールの622,142ドル、30か月+30か月という期間を、USCISの公表ページの記載だけで整理します。

米国で会社を立ち上げた外国籍の創業者が、その会社の仕事をするために米国へ滞在する方法として、USCIS(米国市民移民局)は「起業家パロール」という仕組みを公表しています。根拠になっている規則の名前が International Entrepreneur Rule で、申請に使う様式は Form I-941 です。

最初に押さえたいのは、これがビザではないことです。USCISはこれをパロール(一定期間の滞在を認める扱い)として説明しており、E-2やO-1Aのような区分の名前を与えていません。認められるかどうかも、条件を満たせば自動的に決まるのではなく、個別の判断(case-by-case)として扱われます。

そのかわり、条件の側は数字でかなりはっきり書かれています。持分は審査の時点で10%以上。会社は米国で過去5年以内に設立されたもの。資金は、適格投資家からの投資が311,071ドル以上、または政府の助成金・補助金が124,429ドル以上です。期間は最長30か月で、基準を満たせばもう30か月だけ加わります。

この記事では、USCISの公表ページと、同局が公開している Policy Manual(審査の考え方を示した公式ガイダンス)に書かれている範囲だけを使って、初回の条件、投資した側に課された条件、期間と再パロールの基準、認められたあとに続く条件を順に見ていきます。金額は公表されている通貨(米ドル)の表記のまま書き、日本円へは換算していません。確認日は2026年10月17日です。

個別の申請が認められるかどうかの判断と、日本側の手続きは扱いません。実際に申請する場合は、米国の移民法の専門家に確認してください。

1社で3人まで、という上限から設計が読める

条件に入る前に、この仕組みが誰を想定しているかを見ておきます。USCISのページは、1つのスタートアップにつき最大3人までがこの仕組みの対象になりうると書いています。

1人の起業家を想定した制度ではなく、創業チームを前提にしている一方で、3人という上限があります。共同創業者が4人いる場合、全員が同じ方法で滞在するという前提は置けません。だれが申請するかを先に決める必要があり、その判断は持分の設計とも結びつきます。

家族については、配偶者と子も対象になりえます。申請はForm I-131で行い、パロールされたあと、配偶者は就労許可を申請できます。子は就労許可の対象ではないと書かれています。

初回に満たす3つの条件

条件は3つで、そのうち2つは創業者自身について、1つは会社の見通しについてのものです。

起業家パロールの初回申請で満たす条件の図。前提として会社が米国で過去5年以内に設立されていること、そのうえで持分10パーセント以上、中心的かつ能動的な役割、急成長と雇用創出の見込みの3つが必要で、3つ目は適格投資311,071ドル以上、政府の助成金124,429ドル以上、一部充足と追加の証拠の3経路のどれか1つで示す
黄色の箱が、金額で示す経路です。1と2と3はすべて必要で、3だけが3つの経路に分かれます。 出典:USCIS Policy Manual Volume 3, Part G, Chapter 2(確認日 2026-10-17)

1つ目は持分です。Policy Manualは、申請の審査の時点で10%以上の持分を持っていることを求めています。あわせて、パロール中はこれが5%まで下がってもよいとされています。10%は入口の数字で、維持すべき下限は別に置かれている、という形です。

2つ目は役割です。会社の運営において中心的かつ能動的な役割を担っていること、そして自分の知識・技能・経験によって会社に実質的に貢献できる立場にあることを示します。役職名を書けば済むものではなく、運営のなかで何をしているかと、その人がいることで会社が何を得るのかを説明する項目です。

3つ目が会社の見通しで、「急成長と雇用創出の見込み」を示します。ここだけが3つの経路に分かれていて、適格投資で311,071ドル以上、政府の助成金・補助金で124,429ドル以上、あるいは金額の一部を満たしたうえで追加の証拠を出す、のいずれかです。3つ目の経路は、金額に届かない場合の余地ですが、Policy Manualの書き方は「一部を満たしていること」を前提にしており、資金の裏付けがまったくない状態を置き換えるものではありません。

会社についての前提がもう1つあります。米国で過去5年以内に設立された会社であることです。長く続いている会社の経営者がこの仕組みで滞在する、という使い方は想定されていません。どの州に設立するかは別の判断になり、州ごとの維持費はデラウェア法人の年間費用の記事で扱っています。

投資の経路には時期の条件も付いています。Policy Manualは、適格投資について申請の前18か月以内に受けたものと説明しています。数年前の投資を足し合わせて金額を満たす、という形にはなりません。

金額だけでなく「誰から受けたか」が条件になっている

311,071ドルという数字は、見落とされやすい条件とセットになっています。投資した側にも条件があるのです。Policy Manualは、適格投資家(qualified investor)を次のように説明しています。

見る項目 Policy Manual の記載
投資家の属性 米国市民、合法的永住者、または米国で組織され、その過半をこれらの者が保有する法人
投資の実績(直近5年) 投資の合計が746,571ドル以上
投資先の成果 そのうち2社以上が、それぞれ適格な雇用を5件以上創出したか、622,142ドル以上の売上を上げ、かつ年20%以上の伸びを示した
除外 証券に関する違反や、投資に関する法的制裁を受けた者は適格投資家にならない

出典:USCIS Policy Manual Volume 3, Part G, Chapter 2(確認日 2026-10-17)

この条件があるため、金額だけを集めても経路は成立しません。知人や親族から311,071ドルを受けても、その相手が上の属性と実績を満たしていなければ、適格投資としては数えられない書き方になっています。定義をそのまま読むと、日本の個人や日本法人からの出資も、属性の条件(米国市民・永住者・米国で組織された法人)に当てはまりません。自分の資金調達がどう評価されるかは、契約書を持って専門家に確認してください。

机の上で書類に署名している2人の手元。投資契約の締結を思わせるイメージ写真
投資の金額と時期、そして投資した側の属性と実績が、申請では書類で示す対象になります。写真はイメージで、特定の様式や契約を写したものではありません。 写真: Mikhail Nilov(Pexels)

資金調達の側から見ると、この条件は「どの相手から受けるか」を設計の段階で決めることを意味します。海外のアクセラレーターを経由する場合、投資の主体と金額はそれぞれの募集ページに公表されており、海外アクセラレーターの出資条件の記事で整理しています。また、米国で持分を発行して資金を受け取ると、SEC(証券取引委員会)への届出が別に必要になる場合があります。期限の数え方はForm Dの提出期限の記事にまとめました。

期間は30か月+30か月で、合計5年が上限

次に期間です。認められる長さと、延ばすための条件は、金額の条件とは別に置かれています。

起業家パロールの期間の図。初回は最長30か月、満了前にForm I-941で再パロールを申請すると最長30か月が1回だけ加わり合計60か月になる。再パロールは持分5パーセント以上を維持したうえで、追加の資金622,142ドル以上、米国内の年間売上622,142ドル以上かつ年20パーセント以上の成長、適格な雇用5件以上のいずれか1つ以上を示す
再パロールは1回だけです。下の3つは、どれか1つ以上を満たせば足ります。 出典:USCIS「International Entrepreneur Rule」、同 Policy Manual Volume 3, Part G, Chapter 5(確認日 2026-10-17)

初回の期間は最長30か月(2.5年)です。そのあと、追加の基準を満たせば最長30か月の再パロールが認められ、合計で最長5年になります。再パロールは1回で、そこから先を延ばす仕組みは書かれていません。

再パロールの条件は2段です。まず持分を5%以上維持していること。そのうえで、会社について次の3つのうち1つ以上を示します。追加の適格投資または政府の助成金・補助金を622,142ドル以上受けたこと、米国内の年間売上が622,142ドル以上で、かつ年20%以上の伸びがあること、初回のパロール期間中に適格な雇用を5件以上創出したこと。

3つは選択です。すべてを満たす必要はありません。ただし3つとも、初回の条件より水準が上がっています。初回は「見込み」を示す段階でしたが、再パロールは実際に起きたことを示す段階になります。売上の経路に年20%以上という伸びの条件が付くのも、この違いの表れです。

提出の時期も条件です。再パロールの申請は、初回のパロール期間が満了する前に出す必要があります。期間が切れてから基準を満たしても、満了前に出すという条件を後から満たすことはできません。事業の節目と申請の期限は、別の時計で動いていると考えたほうが安全です。

金額は改定される。どの時点の額かを必ず見る

ここまでに出てきた金額には、改定の履歴があります。古い資料や他媒体のまとめを読むときに、いちばん食い違いが出るところです。

起業家パロールの4つの金額基準を並べた図。初回の適格投資311,071ドル、初回の政府の助成金124,429ドル、再パロールの資金または年間売上622,142ドル、適格投資家の直近5年の投資総額746,571ドルと、それぞれの改定前の金額を示している
4つの金額と、それぞれの改定前の額です。現行額はいずれも2024年10月1日から適用されています。 出典:USCIS Policy Manual Volume 3, Part G, Chapter 2、同 Chapter 5(確認日 2026-10-17)

初回の適格投資は、2024年10月1日より前は264,147ドルでした。政府の助成金・補助金は105,659ドルです。再パロールの金額は3段階あり、2021年10月1日より前は500,000ドル、2021年10月1日から2024年9月30日までは528,293ドル、2024年10月1日以降が622,142ドルです。適格投資家の投資総額も、633,952ドルから746,571ドルへ変わっています。

端数の付いた金額が並ぶのは、元になる額に物価の調整が入っているためです。改定の周期そのものについては、今回参照したページに記載がありませんでした。したがってこの記事では、次の改定がいつかを書きません。申請を具体的に検討する段階では、USCISのページでその時点の額を確認してください。

認められたあとも続く条件がある

申請が通ったあとの話も、公式ガイダンスに書かれています。Policy Manual の Chapter 7 が、パロール中の条件と、終了する場合を扱っています。

数字で決まっているものとして、収入の条件があります。パロールされた人は、世帯の人数に応じた連邦貧困ガイドラインの400%より多い世帯収入を維持することが求められます。会社の資金の話ではなく、生活の収入の話です。無報酬で働きながら事業に専念する、という形は、この条件と衝突する可能性があります。

終了の事由も具体的です。Chapter 7は、申請に記載された事実や情報が真実かつ正確でなかった場合、重要な変更を報告しなかった場合、中心的かつ能動的な役割で会社に従事しなくなった場合、必要な持分を失った場合、条件に違反した場合、誤って付与された場合を挙げています。あわせて、継続した滞在が米国にとって大きな公益をもたらすものではなくなったと判断された場合も挙げられています。

手続きの面では、通知なしに終了させる場合と、終了の意思を通知して書面で反論する機会を与える場合の両方が書かれています。後者の場合、反論のために与えられる期間は最長30日です。

家族についての定めも読んでおく必要があります。創業者のパロールが自動的に終了するとき、配偶者と子のパロールも通知なしに自動的に終了します。会社を離れる、持分を手放す、事業をたたむといった出来事が、本人だけでなく家族の滞在にも同時に効いてくる構造です。

ビザとの違いは「何が決まっていないか」に出る

冒頭で、これはビザではないと書きました。違いが実務でどう現れるかは、ビザ区分の1つと並べると見やすくなります。ここでは、同じく事業への投資を前提にしたE-2(条約投資家)と比べます。

見る項目 起業家パロール E-2(条約投資家)
国籍の条件 参照したページに記載がありません 米国と通商航海条約を結んでいる国の国籍
持分 審査の時点で10%以上(パロール中は5%以上) 50%以上の持分、または管理職の地位による運営上の支配
金額の基準 適格投資311,071ドル、または政府の助成金124,429ドル 「相当額(substantial)」。金額そのものの明示はありません
事業の性質 急成長と雇用創出の見込みを示す 限界的(marginal)な事業ではないこと
認められる期間 最長30か月。再パロールで最長30か月を加え、合計5年が上限 初回は最長2年。2年までの単位で延長でき、延長の回数に上限はありません
配偶者の就労 パロールされたあとに就労許可を申請できる 身分に付随して就労が認められる

出典:USCIS「International Entrepreneur Rule」、USCIS「E-2 Treaty Investors」(確認日 2026-10-17)

2つを並べると、決まっている場所が逆になっていることが分かります。起業家パロールは金額の基準が数字で決まっているかわりに、期間の上限が5年で、そこから先を延ばす仕組みがありません。E-2は投資額が「相当額」としか書かれていないかわりに、延長の回数に上限がありません。どちらが有利かという比較ではなく、先に確定するものが違うという比較です。

E-2には国籍の条件があり、対象になる国は米国国務省が条約国の一覧で公表しています。今回はその一覧のページを取得できなかったため、この記事では個別の国名を書きません。自分の国籍が対象かどうかは、国務省の一覧で確認してください。

確認できなかったこと

今回参照したページに記載がなく、この記事で扱っていない項目を残しておきます。

Form I-941 の手数料の金額は書けませんでした。USCISのフォームのページは、料金表のページで確認するよう案内しており、金額そのものはそのページ上にありません。今回その料金表から金額を取得できていないため、この記事には金額を書きません。

E-2の条約国の一覧も取得できていません。前節のとおり、国名は書いていません。

金額の改定の周期、審査にかかる期間、承認された件数や割合についても、参照したページに記載がありませんでした。申請の件数や処理状況を前提にした判断は、この記事からはできません。

日本側の手続き、出国と再入国の扱い、日本の税務上の取り扱いは、米国側の一次情報から読み取れる範囲を超えます。扱っていません。

申請の前に確かめる順番

最後に、条件を確かめる順番を整理します。金額から見てしまうと、前提のところで外れていることに後から気づくためです。

  1. 会社の設立地と設立時期。米国で、過去5年以内に設立されたものか
  2. 自分の持分。審査の時点で10%以上あるか。共同創業者が何人で、だれが申請するか
  3. 投資してくれる相手の属性。適格投資家の定義(米国市民・永住者・米国で組織された法人、直近5年で746,571ドル以上の投資実績、投資先2社以上の成果)に当てはまるか
  4. 金額と時期。311,071ドル以上を、申請の前18か月以内に受けているか。政府の助成金で示すなら124,429ドル以上か
  5. 期間の設計。初回30か月のあいだに、再パロールの3つの基準のうちどれを満たせる見込みか
  6. 在留中の条件。世帯収入を連邦貧困ガイドラインの400%より多く保てるか

1から3のどこかで外れている場合、金額を積み増しても経路は成立しません。順番を逆にしないことが、この仕組みを読むうえでの要点です。

出典と注記

本記事の記載は、USCIS「International Entrepreneur Rule」、USCIS Policy Manual Volume 3, Part G, Chapter 2「Requirements for Consideration」、同 Chapter 5(再パロールの要件)、同 Chapter 7「Conditions on Parole and Termination」、USCIS「Form I-941, Application for Entrepreneur Parole」、USCIS「E-2 Treaty Investors」にもとづきます(確認日 2026年10月17日)。

移民に関する規則と運用、および金額の基準は変わります。パロールは個別の判断として扱われるものであり、条件を満たすことが認められることを意味しません。実際の申請にあたっては、その時点の公式ページを確認し、米国の移民法の専門家に相談してください。本記事は公表資料の内容を整理したものであり、個別の事案についての法的助言を行うものではありません。

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