EUでは2026年7月31日から、修理が「頼まれたら応じるもの」になりました。対象の製品であれば、消費者はメーカーへ修理を請求できます。売る側から見れば、これまで自社の都合で受けるか断るかを決めていた作業に、断れない部分と、値段を付けてよい部分の線が引かれたということです。
政策としての看板は廃棄物の削減ですが、商売として読むと別の顔が出てきます。修理はここで、保証の付け足しでも社会貢献でもなく、値段を付けて売るサービスとして制度の中に置かれました。しかも値段の付け方のほうに条件が付いています。見積の様式が用意され、それを渡したら30暦日は条件を動かせません。部品は修理を妨げない価格で出さなければならず、中古や3Dプリントの部品を締め出すこともできません。消費者の側では、買い替えではなく修理を選ぶと法定保証が12か月延びます。
この記事では、EUR-Lexにある指令の条文と、欧州委員会の公式ページに書かれている範囲だけを使って3つを整理します。どこからが断れない義務で、どこから対価を取れるのか。在庫と納期という費用が、終売のあとどのくらい残るのか。そして自社がこの義務の連鎖のどこに当たるのか。「合理的な価格」がいくらなのかは条文に書かれていないため、金額の相場はこの記事では扱いません。
修理は、請求されたら応じるものになった
指令の名前は Directive (EU) 2024/1799 です。欧州委員会の公式ページによれば、2024年6月13日に採択され、加盟国は2026年7月31日からこの内容を適用します。中心にあるのは、消費者の求めに応じてメーカーが修理するという義務です。
条文は、修理を「無償または合理的な価格で、合理的な期間内に」行うとしています。無償か有償かは、法定保証の範囲内かどうかで分かれます。保証の範囲内なら売り手の責任で直すことになり、範囲の外であれば対価を受け取れます。つまり義務が増えたのは修理を受けること自体で、保証外の修理が無料になったわけではありません。ここを読み違えると、修理部門をまるごと費用の側に置いてしまいます。
もう一つ、事業の設計に効くのが義務を負う主体の決め方です。条文は、修理する義務を負うメーカーがEU域外にいる場合、EU内の正式な代理人がその義務を果たし、代理人がいなければ輸入者が、輸入者もいなければ流通業者が果たすとしています。EU域内に法人を置いていない日本のメーカーにとって、これは「自分には関係のない制度」とは読めないという意味です。義務は連鎖のどこかで必ず誰かに落ちるので、その誰かが代理店なのか、輸入している商社なのか、現地の販売店なのかを先に確かめる必要があります。
自社が対象かどうかは、製品名ではなく法令の一覧で決まる
ここが最初の判定です。指令は、すべての製品に修理の義務を付けたわけではありません。条文は、対象を附属書IIに挙げられたEUの法令で修理可能性の要件が定められている製品に、その要件の範囲で限っています。
この作りの意味は、対象リストが別の場所で動くという点にあります。欧州委員会の公式ページは、新しい製品分類に修理可能性の要件ができたときに、この一覧を更新していくとしています。つまり、いまは対象外の製品カテゴリでも、エコデザインの側で要件が作られれば、その時点で修理の義務が付いてくる構造です。自社の製品名で検索しても答えは出ません。確認する順番は、まず自社製品にEUの修理可能性の要件があるかどうか、次にその法令が附属書IIに入っているかどうかです。
対象になっている製品の例として、欧州委員会の公式ニュースは、洗濯機、掃除機、携帯電話、タブレットといった家庭用の機器と電子機器を挙げています。家庭向けの耐久消費財が中心で、産業用の設備を一般に含むという説明は見つかりませんでした。
見積の様式が決まり、出した条件は30暦日動かせない
修理を商売として見たときに、いちばん手触りが変わるのはここです。指令には「欧州修理情報フォーム」という様式が用意されています。EUR-Lexで読める条文では、修理業者がこのフォームを消費者へ渡せる、という書き方になっています。渡すこと自体が常に義務なのか、どの場面で義務になるのかは、国内法の実装によって差が出る可能性があるため、自社の販売先の国の法律で確認する前提で読んでください。
はっきりしているのは、渡したあとの効き目です。フォームは無償で渡し、そこに書いた条件は30暦日のあいだ変えられません。欧州委員会の公式ページも、提示した見積が30日間有効であり、消費者が修理の見積を比べるための様式だと説明しています。
| フォームに書く項目 | 事業者側で先に決めておくこと |
|---|---|
| 修理業者の身元と連絡先 | 誰の名前で受けるか(メーカー、代理人、提携先) |
| 不具合の内容と修理の種類 | 症状の分類と、対応できる範囲の線引き |
| 価格、または価格の算定方法と上限 | 上限を書く以上、見込み違いの分は自社で持つ |
| 修理に要する期間 | 部品の調達を含めた所要日数 |
| 代替機の有無と、その費用 | 貸出機を用意するか、しないか |
| 引き渡しをする場所 | 持ち込み、集荷、送付のどれを標準にするか |
| 付随するサービスとその費用 | 診断料、送料、データの扱いを別立てにするか |
表の項目は指令の条文に挙げられているもので、右の列は当社が事業側の作業として書き出したものです(確認日 2026-10-17)。価格の算定方法と上限を書く欄があることの意味は小さくありません。分解しないと原因が分からない故障でも、上限を提示した時点で、その上限を超えた分は自社が持つことになります。見積の精度がそのまま利益率になる商売だということです。
30暦日という期間も、価格の決め方に効きます。部品の仕入れ値や為替が動いても、提示した条件は動かせません。見積を出す数が増えるほど、この固定された期間が在庫と調達の計画にそのまま乗ってきます。
部品で囲い込めないと、修理そのものが競争になる
修理を自社の工場に集めて収益を取る形は、この制度の下では成り立ちにくくなっています。条文は、部品と工具を提供する場合、修理を妨げないような合理的な価格で提供するよう求めています。さらに、契約の条項や、ハードウェア・ソフトウェアの手段で修理を妨げてはならないとしています。知的財産の保護といった正当な理由がある場合は例外とされていますが、原則は妨げないほうです。
妨げてはならない対象として条文が名前を挙げているのは、純正の部品だけではありません。中古の部品、互換の部品、3Dプリントで作られた部品の使用も妨げられません。加えて、他の修理業者が前に修理したことだけを理由に、その後の修理を断ることもできません。
この3つが並ぶと、修理の市場で何が起きるかは見えてきます。部品の値段で独立の修理業者を遠ざけられず、履歴を理由に受け入れを拒めないので、修理の品質と速さと価格で選ばれるしかありません。メーカーにとっては、自社で受けるか、認定した提携先に流すか、独立の業者が修理する前提で部品を売るかという選択になります。中古の部品が妨げられないため、回収と再販の側にも商売の余地が残ります。中古品を扱う側の事情は一点物しか売らないECの検索をAIへで別に扱っています。
情報の出し方にも義務があります。条文は、修理の義務が続くあいだ、修理サービスについての情報を無償で、分かりやすい形で提供するよう求めています。欧州委員会の公式ページは、よくある修理の費用の目安を、無料で見られるウェブサイトに掲示することを挙げています。価格表を外に出すということは、比較されることを前提に値段を決めるという意味です。
在庫と納期が、終売のあとまで費用として残る
修理の義務を支えているのは、製品ごとのエコデザインの規則です。スマートフォンとタブレットについては Regulation (EU) 2023/1670 があり、欧州委員会の公式案内によれば、要件は2025年6月20日から適用されています。ここを見ると、修理を引き受けるための固定費がどのくらいの長さで乗るのかが具体的に分かります。
| 項目 | 公式案内に書かれている要件 |
|---|---|
| 重要な部品の供給 | 専門の修理業者へ、EU市場での販売終了から7年のあいだ提供する |
| 部品の納期 | 注文から5〜10営業日で届ける |
| OSのアップグレード | 最後の個体の販売終了から少なくとも5年のあいだ提供する |
| 電池の耐久性 | 800回の充放電のあとも初期容量の80%以上を保つ |
| 修理業者の立場 | 交換に必要なソフトウェアやファームウェアへ、差別のないアクセスを認める |
要件は欧州委員会「Smartphones and Tablets」の記載によります(確認日 2026-10-17)。読み方として大事なのは、どれも販売そのものではなく販売が終わったあとに効く義務だという点です。売り切った時点で終わらず、部品の在庫と、届ける体制と、ソフトウェアを配る体制が年単位で残ります。
これは費用としては重いのですが、同時に修理を商売にする側の前提条件にもなっています。部品が7年のあいだ出てくると分かっていれば、独立の修理業者は修理の受付を事業として設計できます。納期が営業日で示されていれば、消費者に提示する所要期間も見積れます。義務の裏返しが、修理を売るための見通しになっているという構造です。
修理を選ばせる仕掛けは需要側にある
義務だけを並べても、修理の需要が増えるとは限りません。消費者が買い替えを選び続ければ、修理の体制は空いたままになります。指令はそこに2つの仕掛けを置いています。
1つは法定保証の延長です。2019年の売買指令(Directive (EU) 2019/771)が改正され、保証の期間中に買い替えではなく修理を選んだ場合、責任の期間が12か月延びます。欧州委員会の公式ニュースも、修理を選べば法定保証が少なくとも12か月延びると説明しています。適用されるのは、指令が適用される日より後に結んだ売買契約です。消費者の側で、修理を選ぶと保証が長くなるという計算が立つようにしてあります。
2つめは加盟国側の措置です。条文は、2029年7月31日までに、修理を促す措置を少なくとも1つ取るよう加盟国へ求めています。例として挙がっているのは修理のバウチャーや修理の基金といった金銭的な措置で、地域の取り組みへの支援のような金銭以外の形も認められています。どの国がどれを選ぶかによって、修理の需要の出方は国ごとに変わります。
探される場所が、公的なプラットフォームへ移る
修理を売るなら、見つけてもらう経路が要ります。指令は、欧州オンライン修理プラットフォームを作ることを決めています。条文によれば、欧州委員会が共通のオンラインインターフェースを2027年7月31日までに整備し、加盟国がそれぞれの国のセクションを持ちます。検索の機能として条文に挙がっているのは、製品の種類、所在地、越境での修理、修理に要する期間、品質の基準です。
ここで区別しておきたいのは、このプラットフォームが取引の通り道ではないという点です。登録されるのは修理業者で、決済を預かる仕組みではありません。取引そのものを握るプラットフォームの収益の立ち方についてはプラットフォームが決済を持つと、売上はどこから立つのかで扱っています。修理の側は索引に近く、売上は従来どおり修理業者と消費者の間で立ちます。
それでも、商売への影響は小さくありません。国ごとの公的なセクションに並ぶことになるため、載っているかどうかが集客の分かれ目になります。期間や品質の基準で絞り込める形が条文に書かれているので、提示する所要期間が、そのまま選ばれる条件になります。
稼働がいつ始まるのかについては、条文に書かれているのは整備の期限です。実際に使える状態になる日付は、今回確認した条文の範囲では読み取れませんでした。
日本の事業者がいま確認できること
金額の相場は分からなくても、順番として先に確かめられることがあります。
第一に、自社の製品にEUの修理可能性の要件があるかどうかです。製品名ではなく、適用される法令から調べます。要件があり、それが附属書IIに入っているなら、修理の義務が付いてくる範囲に入ります。
第二に、義務が誰に落ちるのかです。EU域内に代理人を置いているのか、輸入している現地の会社があるのか、販売店が最後に残るのか。条文はこの順番を決めているので、契約の相手と実務の担い手がずれていないかを見ます。
第三に、見積を出す体制です。価格の算定方法と上限を書き、30暦日は動かせないという前提で、誰が見積を作り、どこまでを上限に入れるのかを決めておきます。ここが決まっていないと、修理を受けるたびに利益が読めません。
第四に、部品と情報の出し方です。独立の修理業者へ部品と工具をいくらで出すのか、よくある修理の費用の目安をどこに掲示するのか。囲い込めないことが前提なので、出す形を先に決めたほうが早いです。
逆に、いま決めきれないこともあります。「合理的な価格」の水準、国ごとの実装の細かい違い、プラットフォームに載ったときの集客の効き方。どれも公表された数字がないため、見積りで事業計画を作る段階にはありません。
確認できなかったこと
この記事を書く時点で、確認した公式ページに記載が見つからなかった項目を残しておきます。「合理的な価格」の水準と、その判断の基準は書かれていません。修理の件数や、修理の市場の規模の実績も、今回の出典の中にはありません。加盟国それぞれの国内法で、修理情報フォームを渡すことがどこまで義務になったのかも確認していません。欧州オンライン修理プラットフォームが実際に使える状態になる日付も、条文には書かれていません。
埋めずに残しているのは、ここを推測で書くと、判断の材料として使えなくなるからです。
全体を1行でまとめると、EUは修理を「断れない義務」と「値段を付けて売れるサービス」に分けたうえで、値段の付け方のほうに条件を付けた、ということになります。自社で決めるべき順番は、対象かどうかの判定、義務を負う主体の確認、見積と部品の出し方の設計です。金額の相場を待つ必要はありません。
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