「アンケートは何人に聞けばいいのか」という問いには、計算で答えが出ます。決めるのは3つだけです。誰の中から選ぶか(母集団の大きさ)、結果を何ポイントの幅で読めれば判断できるか(目標の誤差)、測りたい割合がどのくらいになりそうか(回答比率)。この3つを総務省統計局が公開している式に入れると、必要な回答数が出ます。
先に結論を書きます。母集団が1万人でも100万人でも、±5ポイントの幅で読むなら必要な回答数は数百人で止まります。母集団の大きさは、ある規模を超えるとほとんど効きません。効くのは、どこまで細かい幅で読みたいかと、集まった回答をどこまで分けて見るかです。年代別や利用期間別に分けて読む予定があるなら、全体で足りている人数は層では足りません。
この記事では、統計局の解説にある式とそこに示されている計算例を出発点に、必要な回答数の決め方、数字に添える幅の意味、人数を増やしたときの縮み方、クロス集計で広がる大きさ、配る人数の決め方を順に扱います。設問そのものの作り方はアンケート調査の作り方|設問の点検と回答者の偏り、個人情報の扱いにまとめているので、ここでは人数と誤差だけに絞ります。確認日は2026年10月16日です。参照したページに記載が見つからなかったことは、推測で埋めずに後半へ残しました。
人数は「母集団・目標の誤差・回答比率」の3つで決まる
統計局が公開している学習サイト「データ・スタート」の標本設計の節に、割合についての標本誤差の計算が載っています。使う記号は4つです。母集団の大きさ N、標本の大きさ n、回答比率 p、そして信頼度の係数 t です。同ページは、95%信頼区間の場合の係数として2を使っています。
同ページは、標本調査では誤差が避けられないことを、標本の選び方が厳密であっても抽出方法の性質上、対象者が異なれば結果も異なるため、必然的に誤差が生じると説明しています。誤差は失敗の印ではありません。一部から全体を推し測るときに必ず付いてくる幅です。決めるのは、その幅をどこまで狭めるかだけです。
同ページの計算例は次のとおりです。20歳以上の市民20万人から1,000人を選び、ある質問の回答比率を0.5としたとき、標本誤差は約0.0315。±3.2ポイントほどの幅で読む、という意味になります。さらに同ページは、この幅を0.02以下に収めたい場合、必要な標本は2,470人以上になると示しています。
実務での使い方は、この逆向きです。先に「±何ポイントで読みたいか」を決め、式を人数について解き直します。p の見込みが立たないときは0.5を入れます。p が0.5のとき p と 1−p の積が最大になり、必要な人数がいちばん多く出るためです。見込みを外しても足りなくならない側へ倒しておく、という考え方です。
±3ポイントは「同じやり方で100回調べれば95回はこの幅に入る」という意味
幅を資料に書くときは、その言葉が何を指しているのかまで合わせておきます。ここを曖昧にしたまま出すと、質問されたときに答えられません。
統計局のなるほど統計学園は、95%信頼区間について、母集団から標本を取り出してその標本から母平均の95%信頼区間を求めることを100回実施したとき、95回程度はその区間内に母平均が入ることを表すと説明しています。あわせて注意も書かれています。母平均は知られていないだけで確定した値であるため、得られた標本のもとで母平均がその区間内にある確率が95%という意味ではない、と明記されています。
細かい違いに見えますが、社内の説明では効きます。「この幅に真の値が入る確率が95%です」と言い切ると、根拠を問われたときに説明が続きません。「同じやり方で調べ直せば、ほとんどの回はこの幅の中に収まります」と言えば、幅の意味と、それが手続きについての性質であることの両方を伝えられます。
書き方としては、数字の横に幅を添えるだけで読み方が変わります。満足度が「68%」と書かれていれば1つの値に見えますが、「68%(回答1,000人、±3.2ポイント)」と書けば、前回の65%との差を効果と呼べるかどうかを、読む人が自分で判断できます。社外へ出す場合は、根拠や調査概要の書き方にも決まりがあります。自社調査の結果を公表するときの注意点|景品表示法から見た根拠と調査概要の側で扱っています。
回答を4倍にしても、誤差は半分しか縮まない
同ページは、標本の大きさを大きくすると同じ条件では標本誤差が小さくなり、より正確な推定ができると説明しています。ただし縮み方は人数に比例しません。誤差は人数の平方根に反比例するため、幅を半分にするには人数を4倍にします。
同じ条件で人数だけを変えると、次のようになります。回答が100人なら約±10ポイント、その4倍で約±5ポイント、1,000人で±3.2ポイント、2,470人で±2ポイント、1万人まで集めても約±1ポイントです。100人を4倍にすると幅は半分になりますが、そこから1万人まで25倍に増やしても±1ポイントまでしか縮みません。
この性質は、そのまま費用の話になります。回答を1件集めるのにかかる費用がほぼ一定なら、幅を半分にする費用は4倍です。「もう少し精度を上げたい」という要望が出たときは、何ポイントまで詰めたいのかを先に数字で確かめてください。±5ポイントを±3ポイントにするだけなら1,000人ほどで届きますが、±1ポイントまで求められているなら1万人規模の調査になります。
逆向きにも使えます。すでに集め終わった調査の人数から幅を出せば、その数字でどこまで言えるのかが分かります。回答が80件しか集まらなかった調査で、48%と52%のどちらが多いかを論じるのは、幅の外側の話をしていることになります。
母集団の大きさは、ある規模を超えると効かない
次に、3つの値がそれぞれどれくらい効くのかを見ます。幅と回答比率を固定して母集団だけを動かした場合と、母集団を固定して見込む回答比率を動かした場合です。
左側を見ると、母集団は1,000人から1,000万人まで1万倍に動いているのに、必要な回答数は数百人のところで止まっています。母集団に対する割合でいえば、3割近くから1万分の1以下まで下がります。「母集団の何%を集める」という決め方をしないでください。100万人を相手にした調査で1%を集めようとすれば1万人になりますが、±5ポイントで読むだけなら数百人で足りています。
小さい側では事情が変わります。母集団が1,000人のときだけ必要な回答数がはっきり少なくなるのは、母集団が小さいと「選ばれなかった人」も少なく、そのぶん推定が安定するためです。会員数が数百人の規模なら、標本を設計するより全員へ配ってしまうほうが早い場面もあります。
右側は、見込む回答比率を動かした場合です。五分五分と見込むと必要な回答数は1,000人あまりになり、見込みを3割に置けば1,000人を下回り、1割ならその半分以下で足ります。ただしここには読み方の落とし穴があります。1割の項目を±3ポイントで測ると7〜13%の範囲になり、割合そのものに対しては3割ほどの振れ幅です。5割に対する±3ポイントとは、意味の重さが違います。
ごく少数しか選ばない項目を扱うときは、幅を絶対のポイント数で決めるのではなく、「その割合に対して何割まで振れていいか」で考えます。解約理由のうち出現率が数%の項目を比べたいなら、全体の人数を増やすか、その項目を選んだ人だけに追加で聞く設計にします。
配る人数は、必要な回答数を見込みの回収率で割る
式が返す n は、返ってきた回答の数です。配った数ではありません。ここを混同すると、計算どおりに配ったのに回答が足りない、という結果になります。
統計局の同じページも、回答が100%得られない場合は、計算した人数を回答率で割って対象者数を補正すると説明しています。見込みの回収率が5割なら必要な回答数の2倍、2割なら5倍、1割なら10倍、5%なら20倍を配ることになります。必要な回答数が数百人でも、配る相手は数千人規模になるということです。
回収率の目安は、今回参照したページには書かれていません。配る相手、依頼の仕方、謝礼の有無、設問数で変わるため、自社の過去の実績から置くのが確実です。前回のメール配信で何通に対して何件返ってきたかを数えれば、それが自社の見込み値になります。実績が無い初回は、低い側で見込んでおくと、足りずに追加で配る手間を避けられます。
設問数が多いほど、途中でやめる人が増えます。幅を狭めるために人数を増やす一方で、設問を足して離脱を招いていれば、集まる回答は増えません。この2つは同じ調査の中で引っ張り合うので、人数の計画と設問の数は同じ机の上で決めます。
クロス集計で分けた瞬間、誤差は全体の2倍以上に広がる
人数の計画でいちばん見落とされるのが、ここです。全体で足りている人数は、層に分けると足りません。
Pew Research Centerは、単純無作為抽出で1,067件を集めた調査を例に挙げ、全体の支持率については±3ポイントになると説明しています。そのうえで、回答者の15%にあたる層を取り出すと人数は約160件になり、個々の候補については±8ポイント、2つの候補の差については±16ポイントになると示しています。同センターは、部分集団の推定値は全体より誤差が大きく、場合によってはずっと大きくなると述べています。
同センターはもう1つ、重み付けについても触れています。偏った結果を避けるために重み付けは欠かせない手順である一方、誤差を大きくする効果もあり、このばらつきの増加を design effect(設計効果)と呼ぶとしています。つまり実際の調査では、単純な計算より幅が広くなる方向に動きます。
実務に移すと、順番が1つ変わります。必要な人数は、全体ではなくいちばん小さい層から決めます。年代を4つに分けて読む予定で、いちばん小さい層が全体の15%にあたるなら、その層で必要な回答数を満たす人数が全体の目標になります。それが現実的でないなら、小さい層だけ多めに配る割り付けにするか、層別の数字は参考として扱い、判断の根拠にはしないと決めておきます。
「全体では差が出なかったが、30代だけを見ると差が出た」という読み方は、ここに引っかかりやすい形です。その層の人数を確かめ、その層の幅の中に収まる差であれば、見つけたのは差ではなく、ばらつきです。
偏った集め方は、人数を増やしても直らない
最後に、この計算が扱っていない部分を確かめます。なるほど統計学園は、標本調査では標本誤差が生じるため、標本は偏りが生じないように選ぶ必要があると説明しています。式が表しているのは、偏りなく選べたときに残るばらつきだけです。
つまり、自社の顧客リストにだけ配った調査は、人数をどれだけ増やしても「自社を選んだ人の意見」に近づくだけで、市場全体には近づきません。幅は狭くなるので、数字は正確そうに見えます。見かけの精度だけが上がるのが、この間違いのやりにくいところです。
配り先によって何が集まりやすいかは、アンケート調査の作り方|設問の点検と回答者の偏り、個人情報の扱いに配り先ごとの表としてまとめています。自分で聞く前に公表されているデータで足りるなら、そのほうが範囲も定義もはっきりします(市場規模の調べ方|公表統計と検索需要から見積もる手順)。聞いた結果と実際の行動を並べるなら、サイト側の記録から見る指標の選び方がアクセス解析で見る指標の選び方|定義と前提から絞り込むにあります。
今回参照したページで確認できなかったこと
推測で埋めないために、確認できなかった項目を残します。
回収率の目安は、今回参照したページには記載がありません。配布方法別・業種別の水準を示す記述も見つけられませんでした。自社の実績から置いてください。
層化抽出や多段抽出のような設計での誤差の計算は、今回参照した割合の式の範囲を超えます。層ごとに抽出率を変える調査では、この式のままでは幅を出せません。
2つの数字の差に意味のある違いがあるかを判定する手続きは、今回は確認していません。差を見るときに幅が広がるという点までが、この記事で扱った範囲です。
回答比率 p を事前に見込む方法についても、具体的な手順の記載は見つけられませんでした。過去に同じ設問を聞いていればその結果を使えますが、無い場合に0.5を入れるのは、必要な人数が最大になる側へ倒すための選び方です。
人数を決める前に書き出す3行
必要な回答数を出す前に、次の3行を書いてみてください。
1行目は、誰の中から選ぶかです。顧客リストなのか、見込み客を含むのか、自社を知らない層まで入れるのか。ここが決まらないと母集団の大きさが決まらず、同時に、その調査で何が言えるのかも決まりません。
2行目は、±何ポイントで読めれば判断できるかです。前年との差を1ポイント単位で見るのか、5ポイントの差があれば動くのか。目標の誤差は精度の好みではなく、判断の分かれ目から決まります。
3行目は、集計をどこまで分けて見るかです。ここを書かずに全体の人数だけを決めると、層に分けた段階で幅が足りず、集め直すことになります。年代別に読むと決めているなら、その層の人数で計算します。
この3行が書ければ、必要な回答数は計算で出ます。人数は勘で決める項目ではなく、決めた条件から導かれる結果です。
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