マーケティング調査/解説

市場規模の調べ方|公表統計と検索需要から見積もる手順

市場規模を公表データから見積もる手順を、数える対象の決め方、e-Statでの探し方、統計を読む前の確認、検索需要データの限界、仮定の書き分けまで整理しました。出典と確認日の残し方も扱います。

市場規模の調べ方|公表統計と検索需要から見積もる手順 - 株式会社セイビー

市場規模を調べてほしいと頼まれたとき、最初に詰まるのは探し方ではありません。何を数えれば市場規模になるのかが、まだ決まっていないことです。範囲が決まらないまま検索を始めると、対象も期間も単位も違う数字が手元に集まり、どれを採用しても社内で説明できない見積もりができあがります。この記事では、公表されているデータだけで市場規模を見積もるときの順番と、そこで扱う数字がどこまでのことを言えるのかを整理します。使うのは政府統計の総合窓口(e-Stat)の案内と、Googleが公開している検索需要データの説明です。確認できなかったことは、埋めずに残しています。

数える対象を1文で書けないうちは、まだ調べられない

市場規模は、数える範囲を決めて初めて数になります。決めるのは4つです。誰の支出か、何に対する支出か、どの期間か、金額と数量のどちらで数えるか。この4つを途中で切らずに、1文にします。

たとえば「日本国内の中小企業が、社内向けの動画編集ツールに、1年間で支払う金額」と書ければ、探すデータの形が決まります。逆に「動画編集ツールの市場規模」までしか書けていないなら、個人向けを含むのか、買い切りと月額の合算なのか、制作を外注する費用まで入れるのかが決まっていません。この状態で見つけた数字は、たまたま目に入った定義の数字です。

1文が書けないのは、データが足りないからではなく、調べる対象がまだ決まっていないからです。決め切れないときは、その見積もりを何の判断に使うのかへ戻ります。新しい商品を出すかどうかの判断なら、自社が売れる範囲だけで足ります。事業計画の説明資料なら、広い定義で全体像を示し、そのうち自社が狙う範囲を内側に置く形になります。用途が違えば、正しい範囲も変わります。

公表されているデータから当たる

自分で聞き取りを始める前に、すでに公表されているものを当たります。国の統計は、調査の設計から集計までが公開された手順で行われていて、範囲と定義がはっきりしている点で、出どころの分からない数字とは扱いが違います。

政府統計の総合窓口(e-Stat)は、各府省等が実施している統計調査の各種情報をワンストップで提供することを目指したサイトです。総務省統計局が整備し、独立行政法人統計センターが運用管理しています。国土・気象、人口・世帯、労働・賃金といった分野別、または各府省等の組織別に探せます。

探すときに使える入口は、統計の一覧だけではありません。e-Statには公表予定情報と調査票項目情報も置かれています。公表予定情報は、どの統計がいつ出るのかの予定表です。四半期ごとに更新する資料を作るなら、この予定に合わせて作業日を決められます。調査票項目情報は、その統計がどんな質問で集められたのかを確かめる場所です。数字だけを見て使うのと、どう聞いた数字かを見てから使うのとでは、あとで説明できる範囲が変わります。

提供の形も複数あります。データベースやファイルとしての提供のほか、グラフや地図による表示、ミクロデータの利用、APIによる自動取得が案内されています。毎月同じ表を手で書き写しているなら、取得を自動化できないかを先に確認する価値があります。

工程図。数える対象を1文で決める、公表データを探す、定義と調査時点を照合する、埋まらない部分を式にする、出典と確認日を残す、という5つの段階を順に並べた図
探す前に対象を決め、使う前に定義を照合します。順番を入れ替えると、集めた数字を採用してよいかを判断できません。 出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)「e-Statについて」(確認日 2026-09-03)

統計を読む前に確認する4つのこと

見つけた表をそのまま使わず、次の4つを確認します。ここを飛ばすと、正しい数字を正しくない意味で使うことになります。

確認すること 何を見るか 飛ばしたときに起きること
調査の対象範囲 誰が含まれ、誰が外れているか 自社の市場と違う範囲の数字を採用する
用語の定義 その統計が言葉をどう定義しているか 同じ名前の別のものを数えてしまう
調査時点と公表時点 いつの状態を、いつ公表したものか 直近の変化が反映されていない数字で判断する
数値の種類 全数か、標本からの推計か 誤差の幅を無視して小さな差を語る

対象範囲と定義は、多くの場合、表そのものではなく調査の概要や用語解説の側に書かれています。表だけを保存して概要を読まないと、この確認ができません。ダウンロードするときは、数値の表と一緒に定義のページも記録しておきます。

使い方の決まりもあります。e-Statの利用規約は、掲載された情報を複製、公衆送信、翻訳・変形等の翻案等、自由に利用でき、商用利用も可能としています。ただし出典の記載を求めており、編集・加工等を行った場合は、出典に加えてその旨を記載するよう求めています。さらに、第三者が著作権その他の権利を有している場合があるため、権利処理済みであることが明示されていないものは、利用者の責任で許諾を得る必要があるとしています。社内向けの資料でも同じ形で出典を残しておくと、あとで外部へ出すときに作り直さずに済みます。

検索需要のデータは、関心の量であって金額ではない

公表統計で埋まらない部分を、検索データで補おうとすることがあります。ここは取り違えが起きやすいところなので、それぞれの数字が何を表しているのかを公式の説明で確かめておきます。

Google Ads Helpは、キーワード プランナーについて、商品・サービスやウェブサイトに関連するキーワードの候補を得られること、あるキーワードが毎月どれくらい検索されているかの推定値を見られること、その語で広告を表示するための平均費用を確認できることを案内しています。候補を集める道具であると同時に、需要の大きさを比べる道具でもあります。

Google Ads Help「Use Keyword Planner」のファーストビュー
引用キャプチャキーワード プランナーで何ができるかを説明した公式ヘルプです。検索数は推定値として案内されている、という一次情報にあたります。 出典:Google Ads Help「Use Keyword Planner」(確認日 2026-08-22/表示のファーストビュー)

大事なのは、その数字の性格です。日本語のヘルプは、検索ボリュームのデータは概数ですと明記しています。また既定では、言語に関係なくそのキーワードの12か月間の平均検索ボリュームが表示されるとしています。つまり、直近の1か月に実際に起きた回数ではありません。季節性のある商材でこの平均だけを見ると、山と谷がならされた数字で年間を判断することになります。

Googleトレンドは、さらに間接的な数字です。ヘルプによれば、各データポイントが対象の地域と期間における検索の合計数で割られ、その値がすべてのトピックの総検索数に対する割合にもとづいて0〜100の範囲で調整されます。ですから、異なる地域で検索インタレストが同じ値になっていても、検索ボリュームの合計まで同じとは限りません。地域どうしを見比べるときに、この点を落とすと結論が逆になります。

この2つは、関心が増えているか、季節の波があるか、利用者がどの言い方をしているかを見るには向いています。一方で、そのまま金額へ変換することはできません。検索した人が買うとは限らず、買う人が検索するとも限らないためです。3種類のデータを並べると、役割の違いがはっきりします。

比較マトリクス。公的統計、検索需要のデータ、自社の実績データについて、何を数えているか、更新の間隔、読み取れること、読み取れないことを行ごとに対比した図
公的統計は範囲、検索需要は関心の動き、自社の実績は実際に売れた条件を持っています。読み取れないことの行を、見積もりの限界としてそのまま資料に残します。 出典:Google トレンド ヘルプ「Google トレンドのデータに関するよくある質問」ほか(確認日 2026-09-03)

見積もりは掛け算の式として書き出す

公表統計と検索需要をそろえても、狙っている範囲にぴったり合う数字が見つかることは、あまりありません。そこで合計値を1つ出して終わりにせず、掛け算に分けて、因子ごとに出どころを書きます。対象の数、使う割合、1回あたりの金額、年間の回数、という並べ方が扱いやすい形です。

こうすると、どの数字が公表統計から来ていて、どの数字が自社の実績で、どの数字が仮定なのかが一目で分かります。仮定を置くこと自体は問題ではありません。使えるデータが無い部分は、必ず仮定になります。問題になるのは、仮定が出典のある数字と同じ見た目で並び、区別が付かなくなることです。

仮定を置いた因子は、低めと高めの2通りで計算し、両方を残します。1つの数字だけを出すと、その1つが独り歩きします。幅で出しておけば、前提が変わったときに直す場所が決まり、議論も「その割合は妥当か」という具体的な形になります。

構造図。見積もりを対象の数、使う割合、1回あたりの金額、年間の回数の掛け算に分け、それぞれの数字をどこから取るか(統計、自社の実績、仮定)をラベルとして添えた図
因子ごとに出どころのラベルを付けます。左端は公表統計から取れることが多く、右へ行くほど自社の実績と仮定の比率が上がります。 出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)「e-Statについて」(確認日 2026-09-03)/因子の分け方は当社の整理

公表データで埋まらない部分を、一次調査の設計に回す

式を書くと、どうしても自分で聞くしかない部分が残ります。そのときも、いきなり質問文を書き始めません。先にe-Statの調査票項目情報で、同じことを聞いている公的な調査があるかを見ます。近い質問文が見つかれば、それに寄せて聞くことで、あとから公表値と並べられる形になります。自分だけの聞き方をすると、その回答はどことも比べられません。

もう1つ注意するのは、誰に聞いたのかです。自社の顧客リストへ送ったアンケートは、すでに自社を選んだ人の意見です。市場全体の姿ではありません。市場規模の見積もりに使うなら、その偏りを結果と一緒に書き残します。回答者をどう集めたかを書けない調査結果は、あとから読む人が判断できません。

生成AIに調べさせる場合の限界と、それでも使える範囲はChatGPTを市場調査に使うときの手順にまとめています。市場と競合と自社を並べて整理する枠組みは3C分析の進め方を参照してください。

出典と確認日を残すところまでが調査

見積もりが出たら、数字と一緒に出どころを残します。どの統計の、どの表の、いつ公表されたものか。自分が確認した日はいつか。加工したなら何をしたか。e-Statの利用規約が求めているのは公表物での扱いですが、社内資料でも同じ形にしておくと、半年後に同じ数字を再現できます。

再確認の周期も、そのときに決めます。統計は改定されますし、公表の周期も統計ごとに違います。公表予定情報で次回の公表時期を見て、資料に「次に見直す日」を書いておくと、古い数字が資料の中で生き残り続ける事故を防げます。

見積もりを目標へ落としていく段では、測る指標を決める作業が続きます。指標の定義と前提の押さえ方はアクセス解析で見る指標の選び方、目標から指標へ分解する手順はマーケティングKPIの決め方にまとめました。検索需要の側から記事や商品ページの設計へつなぐなら、SEOのキーワード選定が近い話をしています。

市場規模の調査は、大きな数字を1つ見つける作業ではありません。数える範囲を決め、公表されているものを当たり、埋まらない部分を仮定として明示し、出どころを残す。この4つが揃っていれば、数字が動いたときにどこを直せばよいかが分かります。揃っていない見積もりは、当たっていても説明できません。

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