顧客に口コミの投稿を依頼すること自体は、景品表示法で禁止されていません。禁止されているのは、事業者が投稿の内容を決めておきながら、それを第三者の自主的な声のように見せることです。分かれ目は「依頼したかどうか」ではなく、事業者が表示内容の決定に関与したかどうかにあります。
この違いは、依頼文の一語で入れ替わります。「率直なご意見をお寄せください」と書いて割引を渡すのは、消費者庁のQ&Aでは「事業者の表示」に当たらない扱いです。同じ割引でも「星5を付けていただいた方に」と条件を付けた時点で「事業者の表示」になり、「広告」などの明瞭な表示が必要になります。特典の有無ではなく、内容を指定したかどうかで切り替わります。
この記事では、景品表示法第5条第3号のステルスマーケティング告示について、規制されている範囲、場面ごとの線引き、特典と内容指定の違い、投稿先の規約とのずれ、「広告」表記の置き方、実際に処分された事例、社内で先に決めておくことを順に扱います。一次情報は消費者庁の公表資料とQ&A、および投稿先の公式ポリシーで、確認日は2026年10月16日です。確認できなかった項目は推測で埋めず、後半にそのまま残しました。
口コミを集める手順そのものは口コミを増やす方法|顧客に自然にレビューしてもらう施策を解説にまとめているので、ここでは「どこまでやってよいか」だけに絞ります。
口コミ依頼が規制される場所は景品表示法第5条第3号
景品表示法の不当表示は3つに分かれます。消費者庁の表示規制の概要によると、第5条第1号が優良誤認表示、第2号が有利誤認表示、第3号が「商品・サービスの取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがあると認められ内閣総理大臣が指定する表示」です。
第3号の指定は品目ごとに積み上げられてきたもので、同ページには原産国表示、無果汁清涼飲料水表示、おとり広告、有料老人ホーム表示、融資費用表示、不動産おとり広告、そしてステルスマーケティングが並んでいます。口コミ依頼の問題は、景品表示法の新しい条文ではなく、この指定告示の1つとして扱われています。
告示の正式な名称は「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(令和5年内閣府告示第19号)で、令和5年10月1日から施行されています。名称がそのまま規制の対象を表しています。事業者の表示なのに、事業者の表示だと分からない状態が対象です。
規制されるのは誰かという点も、Q&Aで明示されています。景品表示法の規制対象は広告主である事業者で、投稿したインフルエンサーやアフィリエイターは対象外です(商品の供給を共同して行っている場合は例外になります)。投稿者に責任を移せる構造ではありません。依頼した側が負います。
違反したときの対応は措置命令です。Q&Aは、告示違反は課徴金の対象ではないものの、優良誤認表示などを併せて含む場合には課徴金の対象となることがあると説明しています。効果や価格について事実と違うことを書かせていれば、ステマ告示だけの問題では終わりません。
分かれ目は「依頼したか」ではなく「内容を決めたか」
判断は2段です。1段目は、その投稿が「事業者の表示」に当たるかどうか。2段目は、当たるとして、事業者の表示であることが一般消費者に明瞭かどうかです。1段目で該当せず終わるか、2段目で明瞭になっていれば、告示違反にはなりません。
1段目の基準は、事業者が表示内容の決定に関与している場合、という形で置かれています。消費者庁は具体化として、客観的な状況に基づき、投稿者の自主的な意思による表示内容とは認められない場合がこれに当たるとしています。「指示を出していない」という社内の認識ではなく、外から見た状況で判断されます。
ここで見落とされやすいのが、明示的な依頼や指示がなくても該当しうる点です。消費者庁は、第三者との関係性を踏まえて、表示内容の決定に関与していると判断される場合があるとしています。やり取りの履歴、過去の取引、継続的な金銭の流れが、関係性の材料になります。「お任せします」と書いたメール1通で切り離せるものではありません。
2段目の明瞭化の方法は、Q&Aに具体的に書かれています。「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」という用語を記載する方法、または「A社から商品の提供を受けて投稿している」といった文章で記載する方法により、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になると考えられるとしています。用語は4つに限定されていません。この点は後半でもう一度扱います。
場面と依頼の仕方を組にすると、線引きが見える
消費者庁のQ&Aは、実務で起きる場面を具体的に挙げて、告示に当たるか当たらないかを示しています。同じ場面でも依頼の仕方で結論が分かれるため、場面と仕方を組にして並べます。各行の末尾は、根拠にしたQ&Aの項目番号です。
| 場面 | 依頼・掲載の仕方 | 告示上の扱い |
|---|---|---|
| 街頭での試供品配布(Q4) | 不特定多数へ無償で配り、投稿内容を指示しない | 「事業者の表示」に当たらない |
| 利用の条件としての口コミ依頼(Q6) | 内容を指示せず、対価は割引程度にとどめる | 「事業者の表示」に当たらない |
| 同(Q6) | 「星5を付けること」を条件にする | 「事業者の表示」に当たる |
| 購入商品のレビュー(Q7) | 投稿した人へクーポンを進呈する | 通常「事業者の表示」に当たらない |
| SNSのキャンペーン(Q8) | 「感想」の投稿を募る | 「事業者の表示」に当たらない |
| 同(Q8) | 「おいしさ」「ダイエット向き」など具体的な内容を条件にする | 「事業者の表示」に当たる |
| 投稿の修正依頼(Q9) | 客観的事実に反する内容や名誉毀損にあたる内容の修正だけを求める | 「事業者の表示」に当たらない |
| 同(Q9) | 自社に都合のよい内容へ修正を求める | 「事業者の表示」に当たる |
| お客様の声の掲載(Q10) | アンケート回答を無作為に選んで引用する | 「事業者の表示」に当たらない |
| 同(Q10) | 好意的な評価だけを抽出する、または都合のよい部分だけを引用する | 「事業者の表示」に当たる |
| インフルエンサーへの依頼(Q5・Q19) | 個別に依頼し、報酬を支払って投稿してもらう | 該当する可能性が高い |
| 従業員のSNS投稿(Q3) | 販売促進が必要な職位の者が、販売促進のための表示を行う | 「事業者の表示」となり得る |
| 投稿者の自主的な投稿(Q18・Q21) | 事業者の依頼によらず、投稿者が自分の意思で書く | 「事業者の表示」に当たらない |
表を縦に見ると、分かれ目が1か所に集まっていることが分かります。該当するのは、評価の方向か、書く語句か、載せる対象を事業者が選んだ場合です。それ以外の行は、投稿の機会を作ることまでしかしていません。
インフルエンサーの扱いには1つ補足があります。Q17によると、過去から愛用していた商品の無償提供を受けて投稿した場合でも、投稿者の自主的な意思によるものであれば「事業者の表示」に当たりません。ただし無償提供の目的や提供後のやり取りの内容によって判断が変わるため、同Q&Aは、無償提供を受け取った時点で提供を受けた旨を記載しておくことが有益だとしています。
逆に、インフルエンサーの投稿を自社サイトへ転載するときは注意が必要です。Q16は、インフルエンサーの投稿を「お客様の声」として掲載することは適当ではないとしています。依頼して書かせたものを、依頼のない顧客の声の欄へ移すと、場所を変えたことで性質を偽ることになります。
特典を渡すこと自体は禁じられていない
ここが実務でいちばん誤解されている部分です。「対価を渡したらステマになる」という理解で、口コミ依頼そのものを止めてしまう例があります。Q&Aの立て方は違います。
Q6は、サービス利用の条件として口コミ投稿を依頼する場面について、投稿内容を指示せず、対価が割引程度であれば「事業者の表示」には当たらず、告示に違反しないとしています。Q7は、購入商品のレビュー投稿に対してクーポンを提供する場面について、通常「事業者の表示」には当たらないとしています。
一方、同じQ6の後段では、「星5を付けること」を条件とした場合は「事業者の表示」に当たるとされています。Q8も同じ構造です。「感想」を募るなら該当せず、「おいしさ」「ダイエット向き」といった表示の具体的な内容を条件にすれば該当します。渡したものではなく、渡す条件が判断を変えています。
依頼文を点検するときは、文面から次の3つを探してください。評価の高さを指す語(星5、高評価、よい評価)、書いてほしい内容を指す語(おいしい、効果があった、他社より安い)、そして「〜の方に限り」という条件の形です。3つのどれかが残っていれば、その依頼は右側の列に入ります。
修正依頼にも同じ線が引かれています。Q9は、客観的事実に反する内容や名誉毀損にあたる内容の修正を求めるだけであれば「事業者の表示」に当たらないとしています。事実関係の誤りを正すことは認められています。認められないのは、低い評価を自社に都合のよい内容へ書き替えてもらう依頼です。
景品表示法で適法でも、投稿先の規約では禁止されていることがある
ここが実務で最もずれる箇所です。景品表示法の線と、投稿先のプラットフォームが引いている線は一致していません。国の規制に適合していても、投稿先の規約に違反する組み合わせがあります。
Googleのマップのユーザー投稿コンテンツ ポリシーは、「虚偽のエンゲージメント」として、実体験に基づいていないコンテンツや対象の場所や商品を正確に表現していないコンテンツに加えて、直接的な金銭または現物が対価として支払われた口コミまたは評価を禁止しています。
さらに「評価の操作」として、企業が提供するインセンティブ(金銭的報酬、割引、無料の商品やサービスなど)が誘因となって投稿されているコンテンツを挙げています。あわせて、利益相反に基づくコンテンツも対象で、利益相反には現在または過去の雇用関係、契約関係や顧問関係、業界の競合他社や家族関係といったつながりが含まれると明記されています。
つまり、Q7が示す「レビュー投稿に対してクーポンを進呈する」という設計は、景品表示法の告示上は通常「事業者の表示」に当たらない一方で、Googleマップを投稿先にすると規約の禁止事項に触れます。法令の判断だけで依頼の設計を決めると、投稿の削除やプロフィールへの措置という別の形で跳ね返ります。従業員に自社の店舗へ投稿させる運用も、告示とは別に利益相反として扱われます。
投稿先は1つではありません。地図、予約サイト、通販サイト、求人サイトで禁止事項の書き方が違います。依頼の文面を決める前に、投稿先ごとの規約を読んでください。どの投稿先へ案内するかで、渡せる特典の設計が変わります。Googleを投稿先にするときの手順はGoogleの口コミを増やす方法|店舗・企業が実践できる施策にまとめています。
「広告」と書けば足りるわけではない
2段目の判断、つまり明瞭かどうかは、表記を入れたかどうかではなく、一般消費者が気付けるかどうかで決まります。Q&Aには、不十分とされる置き方が場面ごとに挙げられています。
従業員の投稿については、Q12が、「私は○○社の社員です」と所属を明示するだけでは、事業者の表示であることが明瞭となっているとは必ずしもいえないとしています。所属を書くことは、広告であることを伝えることと同じではありません。
アフィリエイトサイトについては、Q13が、文字のサイズや色なども踏まえて一般消費者にとって明瞭となっていることが必要だとし、サイト内に疑わしい表示があればその付近にも事業者の表示である旨の記載が必要だとしています。冒頭に1行入れて済ませる形は想定されていません。
SNSの返信(ツリー)の中に「広告」と書く方法については、Q14が、一般消費者が記載に気付かないおそれがあり、明瞭とはいえない場合が多いとしています。動画については、Q15が、冒頭に表示するだけでは見逃すおそれがあるとし、画面上に常に「広告」と表示するなど動画全体を通して明瞭にすることが望ましいとしています。
用語の選択については、むしろ自由度があります。Q11は、「A社から商品の提供を受けて投稿している」といった文章表示など、「広告」等以外の用語を記載する方法が禁止されていないとしています。決まった4語を入れる作業ではなく、読む人が気付く形にする作業です。
施行前の投稿にも関係があります。Q20は、施行前に投稿されたものでも施行後に継続して表示されている場合、事業者の表示であることが明瞭となっていなければ違反となる可能性があるとしています。過去に依頼した投稿が今も残っているなら、点検の対象です。
実際に処分された事例は、口コミ投稿への特典が理由になっている
公表されている事例を2件、一次情報で確認できた範囲で並べます。どちらも投稿先が一般的な口コミ欄で、依頼したのは一般の顧客です。大規模なインフルエンサー施策だけが対象ではありません。
| 公表 | 事業者 | 対象となった表示 | 根拠・手続 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月18日 | 医療法人社団スマイルスクエア | 「スマイル+さくらい歯列矯正歯科二子玉川」と称する診療所において供給する歯列矯正に係る表示 | 景品表示法第5条第3号(ステルスマーケティング告示)に該当。同法第7条第1項に基づく措置命令(命令日 令和7年3月17日) |
| 2025年8月28日 | 株式会社LAVA International | 「フェイシャル専門サロンDanjoBi」および「フェイシャル専門サロンMUQU」と称するエステティックサロンで提供する施術サービスについて行っていた表示 | 景品表示法違反被疑事件として確約手続に付すことが適当と判断され、確約計画が認定 |
2件目は、措置命令ではなく確約手続による決着です。公表ページの文言では、確約手続に付すことが適当であると判断したうえで、事業者からの申請を受けて確約計画を認定した、という流れになっています。処分に至らない形でも、違反被疑行為として社名と対象サービスが公表されます。口コミ運用の失敗は、行政処分の有無にかかわらず表に出ます。
いずれの公表ページも、依頼した投稿の具体的な内容や特典の金額、対象人数を本文には載せていません。詳細は添付されている公表資料のPDFにあります。ここでは、HTMLの公表ページで確認できた事項だけを表に入れました。
社内で先に決めておく6つ
判断の線が分かっても、現場では依頼文を書く人と特典を決める人と掲載する人が別です。線を1か所で守るのは難しいため、決め事として置きます。
| 決めること | 具体的に書く内容 | 根拠にする項目 |
|---|---|---|
| 依頼文の雛形 | 星の数・書いてほしい語句・評価の方向を条件にしない文面を1つに固定し、現場で書き換えさせない | Q6・Q8 |
| 依頼する相手の選び方 | 高評価が見込める人だけを選ばない。依頼する条件、除外する条件、依頼の回数を文章で決める | Q6 |
| 特典の設計 | 投稿したことに対して渡すのか、投稿の内容に対して渡すのかを分け、後者を作らない | Q6・Q7 |
| 掲載時の抽出ルール | 「お客様の声」へ載せる回答の選び方を決め、無作為に選んだ記録を残す。部分引用の範囲も決める | Q10・Q16 |
| 従業員の投稿の扱い | 職務として投稿する場合に、どの位置へどの文言で明瞭表示を入れるかを媒体別に決める | Q3・Q12 |
| 投稿先ごとの規約確認 | 案内する投稿先を一覧にし、特典付きの依頼が規約で禁止されていないかを個別に確認する | 投稿先の公式ポリシー |
このうち、運用の事故がいちばん起きやすいのは1行目と4行目です。依頼文は現場で「星5をお願いします」と口頭で足されやすく、「お客様の声」は掲載担当が読みやすい回答を選びがちです。どちらも悪意なく線を越えます。そのため、文面を固定し、選び方を記録に残す形にします。
口コミの収集と返信を複数の投稿先でまとめて扱う場合は、ツールの設定も点検の対象になります。依頼の自動送信の文面と、送る相手の抽出条件が、ここで決めた内容と一致しているかを確認してください(口コミ管理ツールおすすめ比較|レビュー収集・返信・分析を効率化)。集めた口コミを広告やLPへ引用するときは、表示の根拠という別の論点が加わります(自社調査の結果を公表するときの注意点|景品表示法から見た根拠と調査概要)。
今回の一次情報で確認できなかったこと
推測で埋めないために、確認できなかった項目を残します。
「割引程度の対価」の上限額は、今回参照したQ&Aに金額の基準の記載がありません。Q6は対価が割引程度であれば該当しないという書き方で、いくらまでかを示していません。高額な対価を渡す設計を検討する場合は、この記事の範囲では判断できません。
口コミ投稿に対する特典が、景品表示法の景品規制(総付景品など)に当たるかどうかは、今回は確認していません。告示の側の線引きだけを扱っています。表示の規制と景品の規制は別の条文です。
確約手続の要件と流れは、今回参照したHTMLの公表ページには記載がありません。消費者庁は確約手続に関する運用基準をPDFで公開していますが、今回は取得できていないため、LAVA Internationalの事例については公表ページで確認できた事項だけを書きました。
措置命令の事例で依頼された投稿の具体的な内容と特典の金額、対象人数も、公表ページのHTMLには記載がありません。報道されている数値は複数ありますが、公表資料で確認できていないため書きません。
投稿先ごとの規約の全体像も扱えていません。今回確認したのはGoogleのマップのポリシーだけで、予約サイトや通販サイトの規約は投稿先ごとに読む必要があります。
依頼文を出す前に確かめる3行
最後に、今日から使える確認手順にします。依頼文を送る前に、次の3行を書き出してください。
1行目は、投稿者に何を指定しているかです。評価の高さ、書いてほしい語句、投稿の長さ、添付する写真。指定が1つでもあれば、その投稿は「事業者の表示」として扱われる前提で設計し直します。何も指定していないなら、告示の1段目で止まります。
2行目は、特典を渡す条件は何かです。「投稿したこと」が条件なら、告示上は通常問題になりません。「よい投稿をしたこと」が条件なら、入れ替わります。この1語の違いを、依頼文の中で明確にしてください。
3行目は、投稿先の規約は何を禁止しているかです。景品表示法で適法でも、投稿先が対価付きの投稿を禁止していれば、そこへ案内することはできません。投稿先を決めてから特典を決める、という順番にします。
この3行が書ければ、口コミ依頼は止める必要のない施策です。止めるべきなのは、評価の方向を事業者が決めたまま、それを顧客の声として見せる設計だけです。考え方の全体像は口コミマーケティングとは?評判を集客につなげる方法にまとめています。
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