Spotify Wrapped は、利用者ひとりひとりに「今年の聴取」を見せる年末の施策です。2025年版は2025年12月3日に公開され、集計の対象になったのは1月から11月中旬までの再生でした。個人別の体験が出るには、30曲以上を1曲30秒超で再生し、5人以上のアーティストを聴いていることが必要だと書かれています。
この記事が扱うのは、Wrapped の見た目ではなく、集計の定義が公開されているという点です。どの期間を数えたのか、どの条件を満たすとその数字が出るのか、同じ再生が用途によってどう扱いを変えるのかを、Spotify が自社のニュースルームに書いた4本の記載だけで追います。読み取れなかった項目は埋めずに「記載がありません」と書きます。
数字は原文の表記のまま書き、単位や通貨の換算はしていません。参照したのはすべて2025年版の記載で、確認日は2026年10月7日です。年ごとに条件が変わる可能性があるため、来年の数字をこの記事から引き写すことはできません。
集計の期間は1月から11月中旬まで
まず期間です。公式ページはこう書いています。
Wrapped captures your 2025 listening journey from January until mid November, just a few weeks prior to this year’s launch on December 3
1月から11月中旬まで、公開日の数週間前までが対象、という書き方です。ここで注意したいのは、締めの日付が示されていないことです。「mid November」と「just a few weeks prior」は幅のある表現で、11月の何日で切ったのかは読み取れません。公開日だけが12月3日と確定しています。
年間の振り返りを出す施策では、ここが最初の分かれ目になります。1年分と言いながら最後の2週間ほどが入らないことを、見せる側が先に書いておくか、黙っておくかの違いです。黙っていると「12月に毎日聴いた曲が入っていない」という問い合わせに、あとから説明を作ることになります。Spotify は、公開の当日にこの説明を別のページとして出しています。
集計の対象になる中身についても、幅を広く取っていることが分かります。合計の聴取時間には音楽だけでなくポッドキャストとオーディオブックが含まれ、2025年版ではオーディオブックがリスナー側の Wrapped に初めて登場しました。扱う範囲を増やした年に、数え方の説明も合わせて出している形です。
公開されている8つのしきい値
Wrapped に並ぶ項目は、ひとつずつ出現の条件が違います。公式ページに書かれていたものを、項目と条件の対で並べます。
| 項目 | 公表されている条件 |
|---|---|
| 個人別の体験が出る条件 | 30曲以上を1曲30秒超で再生し、5人以上のアーティストを聴いている |
| トップソングの順位 | 30トラック以上を再生していれば、聴いた回数で順位を付ける |
| トップアルバム | アルバムのトラックの70%以上を聴いたものが対象。1枚で表示され、3枚で一覧が開く |
| トップポッドキャスト | 1番組を60分以上、3エピソード以上、3日以上に分けて聴いている |
| オーディオブックのジャンル | 1冊の70%以上を聴き終えるとジャンルに算入される |
| トップ5アーティストの推移 | トップ5のうち1人を、2か月を超える期間にわたって聴いている |
| リスニングエイジ | 登録された生年が1925年以降で、発売年5年分の帯に5回の再生がある |
| リスニングアーカイブ | 意味のある聴取が20日を超え、特別な日が2日分そろっている |
しきい値の形が項目ごとに違うことが、この表のいちばんの読みどころです。アルバムは割合(70%)、ポッドキャストは時間と回数と日数の組み合わせ(60分・3エピソード・3日)、アーティストの推移は期間(2か月超)で判定しています。数えたい対象の性質に合わせて、別の形の条件を置いているわけです。
ポッドキャストの「3日以上に分けて」は、とくに意図が読み取りやすい条件です。1日でまとめて聴いた番組は、合計時間が60分を超えていても対象になりません。たまたま長時間聴いたものと、繰り返し戻ってきたものを分ける条件になっています。繰り返しの回数を指標にするときの考え方はリピーターを増やす方法でも扱っています。
もうひとつ、トップアルバムの「1枚で表示され、3枚で一覧が開く」という段階も見ておきたい設計です。条件を1つ置いて出す・出さないを決めるのではなく、データが足りない人にも小さい形で見せ、足りている人には一覧を開くという二段になっています。指標の定義をそろえる手順はマーケティングKPIの決め方にまとめています。
同じ再生が、用途ごとに別の扱いになる
この施策で最も参考になるのは、ひとつの再生ログを、用途ごとに別の集合として扱っているところです。合計の聴取時間については、こう書かれています。
Private Mode sessions, content marked Exclude from Taste Profile, and even tracks filtered out from Wrapped’s taste-based stories like white noise.
シークレットモードの再生、テイストプロファイルから除外した曲、ホワイトノイズのように好み系のストーリーから外れる曲も、合計の分数には入る、という記載です。一方で、好み系のストーリーには影響しないと書かれ、さらに出現条件の判定については別のページでこう書かれています。
Streams from Private Mode or from songs or playlists you’ve excluded from your Taste Profile don’t count toward eligibility.
つまり、同じ再生が「合計の分数には入る」「好み系の集計には影響しない」「出現条件としては数えない」という3つの扱いを同時に受けます。
時間の数え方にも同じ姿勢が出ています。ポッドキャストを2倍速で聴いた場合について、実際に聴いた分だけを数えると書かれています。再生したコンテンツの長さではなく、使われた時間を数えるという選び方です。
自社の数字でこれをやると何が起きるかは、想像しやすいはずです。「総利用時間」と「おすすめの根拠」と「レポートを出す条件」が同じログから作られているのに、それぞれ違う絞り込みを使っていると、社内で数字が合いません。合わない理由を聞かれたときに答えられる状態にしておくには、指標ごとに、どの行を含めてどの行を外したかを書き出しておく必要があります。集計した数字を外へ出すときの注意は調査結果を公表するときの注意点にまとめています。
アプリの中で終わらせず、30以上の市場へ持ち出している
Wrapped は、アプリの中で個人別の画面を見せるだけの施策ではありません。キャンペーンについてのページには、規模の記載があります。
The Wrapped creative campaign is live in more than 30 markets globally as Spotify moves beyond traditional billboards to create immersive experiences that celebrate the artists who defined 2025.
30を超える市場で展開し、屋外の看板の先へ進むという書き方です。設置物の数についても記載があります。
Throughout the globe, fans will see around 50 installations and pop-ups that bring Wrapped’s digital storytelling into the real world, complete with artist integrations, interactive photo moments, and even some live performances for top listeners.
約50の設置物とポップアップ、という規模です。具体的な場所も挙がっていて、ニューヨークのユニオンスクエア駅には800フィートの赤い髪が広がる設置物を置いたと書かれています。向けた対象は、同じページの表現で「more than 700 million fans around the world」です。
持ち出せる形を用意しているのは、屋外だけではありません。アプリの中にも「Your Top Songs 2025」というプレイリストが作られ、上位100曲をそれぞれ何回再生したかが載ります。見せて終わりにせず、あとから開ける置き場所に残しているわけです。公開の体験そのものには Wrapped Party という複数人で見る機能も加わりました。
ここまでの流れを、記載から整理すると次の6段になります。
相手を分けて、別の振り返りを用意している
Wrapped は、聴いた人だけに出すものではありません。2025年版では、作り手と広告主にも別の振り返りが用意されています。
| 相手 | 公開されている内容 |
|---|---|
| アーティスト | トップアルバムとスーパーリスナー、Wrapped Clubs での称号。この年で9年目 |
| ソングライター | ソングライターページを持つ人に、共有できる年間のまとめ |
| ポッドキャスト制作者 | 前年比のリスナーとフォロワーの増加、トップエピソード、上位の国 |
| 著者 | 初めてオーディオブックを聴いた人の間で人気の作品、伸びた市場。著者向けは2回目 |
| 広告主 | アプリまたは Spotify Ads Manager で、上位のジャンルと使った広告フォーマットの構成 |
この表で注目したいのは、広告主向けの振り返りが、広告の管理画面の中に置かれていることです。年末の施策を、普段その人が開く画面の中へ入れています。相手ごとに別の面を用意するのではなく、相手がすでに見ている面へ置く、という選び方です。
著者とオーディオブックの扱いも、同じ年に動いています。リスナー側の Wrapped にオーディオブックが入ったのが2025年からで、著者向けの Wrapped は2回目です。集計の対象に新しい種類を加えた年に、その作り手側の振り返りも同時に用意しているという並びになります。
海外企業が自社に貯まったデータを施策へ回した事例としては、Duolingoのマーケティング戦略を開示資料で読んだ記事も同じ棚にあります。
自社で年間の振り返りを作るなら、先に決めるのは4つ
この事例から持ち帰れるのは、企画のアイデアではなく決めごとの順番です。公式ページの記載から逆にたどると、先に決まっていたことが4つあります。
1つ目は締めの日と公開日の間隔です。1月から11月中旬までで切り、12月3日に出す形になっていました。全部の期間を入れようとすると公開が遅れるため、どこかで切ることになります。切った事実を見せる側から書いておくかどうかを、作る前に決めます。
2つ目は出せる人の条件です。30曲以上と5アーティスト以上という線が引かれていました。条件を満たさない人がいることを前提に置いている、という意味です。自社でやる場合、ここで決めるのは線の位置だけではありません。線に届かなかった人に何を見せるかも同時に決める必要があります。何も出ないのか、別の内容を出すのかで、受け取り方が変わります。
3つ目は同じログを用途別にどう分けるかです。合計の時間、好みの分析、出現の判定で、同じ再生の扱いが変わっていました。指標を3つ作る前に、どの行を含めてどの行を外すかを指標ごとに書いておくのが順番です。社内で見る数字の作り方はKPIレポートの作り方で整理しています。
4つ目は持ち出せる形にするかどうかです。上位100曲の再生回数を載せたプレイリストがその例でした。見せた内容が画面を閉じた時点で消えるのか、あとから開ける場所に残るのかという違いです。残す形にするなら、保存した側から見て意味のある粒度にそろえておく必要があります。
4つとも、新しいツールや追加の予算が要る話ではありません。すでに持っているログに、用途ごとの定義を与える作業です。
公式ページに書かれていなかったこと
今回読んだ4本の範囲で、探したものの見つけられなかった項目を挙げます。埋めずに空欄として残します。
利用者数と共有された回数です。公開後にどれだけの人が見たか、何回共有されたかという値は、今回の4ページには見当たりませんでした。キャンペーンのページにある「more than 700 million fans around the world」は向けた相手の規模として書かれているもので、数え方も対象期間も示されていないため、Wrapped を見た人数として読むことはできません。
費用と設置物の内訳もありません。約50の設置物とポップアップにいくらかかったのか、どの市場に何件置いたのかは書かれていません。効果の指標も同じです。新規登録、有料への転換、継続にどう効いたのかという数値は出てきません。年末の施策として何を成果とみなしているかは、この4ページからは読み取れませんでした。
日本の数値も見当たりません。30を超える市場という記載はありますが、市場の一覧はなく、名前が挙がっているのはリオデジャネイロ、ニューヨーク、パリ、バルセロナなどです。
いずれも「存在しない」という意味ではありません。ニュースルームの記事は公開に合わせた告知で、載る項目はその目的で選ばれます。外から確かめられる範囲がここまで、ということです。
記載から確認できたこと
2025年の Spotify Wrapped は2025年12月3日に公開され、集計の対象は1月から11月中旬まででした。個人別の体験が出る条件は、30曲以上を1曲30秒超で再生し、5人以上のアーティストを聴いていることです。項目ごとのしきい値は形が違い、トップアルバムはトラックの70%以上、トップポッドキャストは60分以上かつ3エピソード以上かつ3日以上、トップ5アーティストの推移は2か月を超える期間、リスニングアーカイブは意味のある聴取が20日超で特別な日が2日分、リスニングエイジは生年が1925年以降の登録と発売年5年分の帯での5回の再生でした。
シークレットモードの再生とテイストプロファイルから除外した曲は、合計の分数には入り、好み系のストーリーには影響せず、出現条件としては数えないと書かれています。ポッドキャストを2倍速で聴いた場合は、実際に聴いた分だけを数えます。キャンペーンは30を超える市場で展開され、約50の設置物とポップアップが置かれました。アーティスト、ソングライター、ポッドキャスト制作者、著者、広告主には別の振り返りが用意され、広告主向けはアプリまたは Spotify Ads Manager から見る形です。
利用者数、共有回数、費用、効果の指標、日本の数値は、確認した4ページには見当たりませんでした。
海外企業の取り組みを公表資料から読み解いた記事は海外マーケティングにまとめています。
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