広告の運用をプラットフォーム側の自動化機能へ渡すかどうかを決めるとき、他社の事例ページに並んだ数値は手がかりになります。ただし、そのまま自社の見込み値として置き換えられるものではありません。シンガポール発の家具ブランド Castlery が、Pinterest の自動化スイート Pinterest Performance+ を手動設定と比べたテストの結果として、3つの数値を公表しています。
掲載されているのは、広告費用対効果が manual setup との比較で +2.3X、平均注文額が +98%、顧客獲得単価が −14% という3点です。いずれも数値の右に脚注番号が付いていますが、ページの中に脚注の本文は見当たりません。テストの期間、投じた予算、対象の商品、件数、統計的な有意性についての記載もありません(2026年10月30日に確認、原文は英語です)。
この記事では、何と何が比べられたのか、Performance+ がどこまでを自動で決めるのかを先に押さえ、そのうえで公表された3つの数値から言えることと言えないことを分けます。使うのは Pinterest の事例ページ・ヘルプセンター・製品ページと、Castlery の公式サイトに書かれている範囲だけです。最後に、同じ判断を自社でするなら何を記録しておくかをまとめます。
どんなブランドが、何をテストしたのか
事例ページは Castlery を「シンガポールで創業したデジタル起点の家具ライフスタイルブランド」と説明しています。公式サイトでは、アメリカ・シンガポール・オーストラリア・カナダ・イギリスの国と地域を選べるようになっており、扱っているのはモダンな家具です。
商材の性質は、数値の読み方に直接ひびきます。家具は1点の単価が高く、検討の期間も長い買い物です。平均注文額が動きやすい一方で、月あたりの注文の件数はそれほど多くならない商材だと考えられます。件数が公表されていないため、平均注文額の +98% が何件の平均なのかは分かりません。ここは推測せず、分からないものとして扱います。
テストの枠組みも書かれています。Castlery は Pinterest と、Pinterest の APAC 向け販売パートナーである Aleph と組み、手動で設定した Catalogue Sales のキャンペーンと、Performance+ の一式に任せたキャンペーンを A/B で比べました。自動側は Shopping ads を使い、ターゲティングを自動に任せ、リンクは直接の遷移にしたと説明されています。
比較の相手が手動設定のキャンペーンである、という点はこの種の事例では重要な情報です。「前年の同じ時期と比べて」でも「業界の平均と比べて」でもなく、同じ広告主のアカウントの中で、設定の方式だけを変えた比較だと読めます。もっとも、それぞれにいくら配分したのか、どれだけの期間回したのかは書かれていません。
公表されているコメントは、Castlery のシンガポールのパフォーマンスマーケティングを担当する Camille Wong さんのものです。Performance+ の一式によって、通常なら必要になる手作業をかけずに強い結果が得られ、規模を広げながら高い広告費用対効果を達成できた、という内容で、テストの結果にもとづいて Performance+ の採用と投資を続けていく、と述べられています。
見出しの言い方と、数値の表記は別のもの
同じ結果が、1枚のページの中で2通りに書かれています。見出しは「double ROAS」、つまり広告費用対効果が2倍になったという言い方です。いっぽう数値のブロックの表記は「+2.3X return on ad spend compared to manual setup」です。見出しのほうは丸めた表現で、指標の名前も比較の相手も省かれています。
社内で共有するときに引くのは、数値ブロックのほうの表記です。見出しだけを持ち出すと、何と比べた値なのかが落ちます。さらに「+2.3X」という書き方は、その倍率になったとも、その倍率のぶん増えたとも読めます。事例ページにはどちらであるかの説明がありません。見出しが「double」であることから前者と読むのが自然ですが、読み方が2つ立つ表記だという点は残しておくべきです。
Performance+は、どこまでを自動で決めるのか
公表された数値を読む前に、何に任せた結果なのかを押さえておく必要があります。Pinterest のヘルプセンターによると、Performance+ はキャンペーンを作るときのトグルで切り替える仕組みで、対応する目的は Consideration、Lead、Sales の3つです。商品カタログを使う場合には、クリエイティブ側の自動機能が追加されます。
自動に寄る範囲は4つの領域に分かれます。入札は、最も低い費用で最も多くの成果を得ることを狙って調整されると説明されています。予算は合計予算か平均日予算のどちらかに限られ、キャンペーンごとの上限は設けられていません。ターゲティングは興味関心やキーワードの提案を取り込み、最初に指定した範囲の外へ広がります。クリエイティブでは画像の切り出しと寸法の調整が自動で行われ、生成AIで背景を作る機能も含まれます。
広告主の側に残るものも、はっきりしています。目的の選択、予算の種類と金額、商品フィードを使うかどうか、地域・言語・顧客リストの指定、そして計測する行動の設定です。つまり自動化されるのは配信の調整であって、何を売るか・何を成果とみなすかは自動化されません。ここを決めないまま切り替えると、何が良くなったのかを読めない結果が出ます。
| 項目 | 誰が決めるか |
|---|---|
| キャンペーンの目的(Consideration/Lead/Sales) | 広告主 |
| 予算の種類(合計予算/平均日予算)と金額 | 広告主 |
| 商品フィードを使うかどうか | 広告主 |
| 地域・言語・顧客リストの指定 | 広告主 |
| 計測する行動 | 広告主 |
| 入札 | Performance+ |
| 予算を使う時機 | Performance+ |
| 興味関心とキーワードの拡張 | Performance+ |
| 画像の切り出しと背景の生成 | Performance+ |
| カタログからの広告の組み立て | Performance+ |
| 広告グループの作成 | Performance+(広告主があとから追加もできる) |
広告グループについても書かれています。ターゲティングの選択に応じて自動で作られ、見込み客を広げる目的やクリエイティブを分ける目的で、広告主が追加することもできます。レポートの側では、広告グループ・年齢・性別・地域・掲載面・端末・オーディエンスリスト・興味関心・キーワードの単位に分けて見られると説明されています。自動に任せた部分の中身を、あとから分解して確かめる余地は残っているという理解になります。
製品ページの数値には、すべて脚注番号が付いている
Performance+ の製品ページには、機能ごとの数値が並んでいます。ターゲティングでインプレッション単価が17%下がった、入札でアクションあたりの費用がカスタム入札より2%下がった、といった値です。ここで見ておきたいのは中身よりも形式のほうで、これらの数値には例外なく脚注番号が振られています。
脚注が付くのは、測定の条件が限られているからです。どの広告主を対象に、いつ、どの指標で測ったのかという前提が、数値そのものとは別の場所に置かれている形です。前提が変われば値も変わる、という扱いになっているわけです。
Castlery の事例ページでも、3つの数値にはそれぞれ脚注番号が付いていました。ところが、そのページには対応する脚注の本文が見当たりません。前提を確かめようとしても、たどれる先がない状態です。ここから言えるのは、プラットフォーム側が出す数値は、確かめられる前提とセットでしか意味を持たないということです。引き写す前に脚注が読めるかどうかを見て、読めなければ自社の計画の根拠には使わない、という線引きが要ります。
公表されていること・されていないこと
社内で共有する前に、記載があるかどうかで分けておきます。
| 項目 | 事例ページの記載 |
|---|---|
| ブランド | シンガポールで創業したデジタル起点の家具ライフスタイルブランド |
| 市場とパートナー | シンガポール。Pinterest の APAC 向け販売パートナー Aleph と協働 |
| テストの方式 | 手動の Catalogue Sales キャンペーンと Performance+ 一式の A/B |
| 自動側の構成 | Shopping ads、自動のターゲティング、直接のリンク |
| 広告費用対効果 | 手動設定との比較で +2.3X |
| 平均注文額 | 手動設定との比較で +98% |
| 顧客獲得単価 | 手動設定との比較で −14% |
| テストの期間 | 記載がありません |
| 予算の額と配分 | 記載がありません |
| 対象の商品と件数 | 記載がありません |
| 統計的な有意性 | 記載がありません |
| 脚注の本文 | 数値に番号は付いていますが、本文は見当たりません |
| 第三者による検証 | 記載がありません |
下半分が空いているのは、この種の事例ページでは普通のことです。推測で埋めるのではなく、「記載がありません」と答えられる状態にしておいたほうが、社内で検討するときに困りません。あわせて、この数値を公開しているのは広告を売っている側であるという前提も、読むときに外さないでください。
自社で試すなら、どこを記録しておくか
同じ判断を自社でするなら、他社の数値を目標に置くのではなく、自社のアカウントで比較の相手を用意するところから始まります。Castlery のテストが手動設定との A/B だったことは、結果の大きさとは別に、手順としてそのまま使えます。
予算の種類はそろえる必要があります。Performance+ が合計予算と平均日予算に限られるため、上限の置き方が違うまま比べると、配信の量の差が結果に混ざります。商品カタログを使うかどうかでも、動く自動機能の数が変わります。同じ「自動に任せた」という言い方でも、カタログがある場合とない場合では別のものを比べていることになります。
見る指標を1つに絞らないことも大事です。Castlery のケースでは、広告費用対効果と平均注文額が上がり、顧客獲得単価が下がったと公表されています。仮に平均注文額だけが動いて獲得単価が上がっていれば、読み方は変わります。単価の高い商品に配信が寄っただけなのか、獲得そのものが効率化したのかは、3つを並べて見ないと切り分けられません。
自動化の機能を検証する道具は、プラットフォーム側にも用意されています。Google は検索キャンペーンの自動化について、実験の形で比較する手順を公開しています。Pinterest という配信面そのものの性質は、視覚検索から広告へつながる仕組みの側で扱っています。配信面の性質と、設定の方式のどちらが効いたのかを混ぜないためにも、比較の相手は同じ配信面の中に置くのが筋です。
まとめ
Castlery の事例で公表されているのは、手動設定との比較としての広告費用対効果 +2.3X、平均注文額 +98%、顧客獲得単価 −14% の3点です。期間も予算も件数も、脚注の本文も載っていません。自動化へ切り替えれば同じ結果になる、という根拠にはなりません。効果は商材と運用、配信先の市場によって変わります。
残るのは手順のほうです。Performance+ が自動で決めるのは入札・予算を使う時機・ターゲティングの拡張・クリエイティブの組み立てで、目的と予算と計測する行動は広告主が決めます。だからテストでは、手動設定のキャンペーンを比較の相手として同じ期間に走らせ、予算の種類をそろえ、広告費用対効果と平均注文額と顧客獲得単価を並べて見る。公表値の役割は、そのテストを始める理由を与えることまでです。
この分野の実務を相談したい方へ
記事で扱っている内容は、当社が実務として支援している領域です。 自社で進めるか外部に任せるかの判断からご相談いただけます。