夏に売れて冬に売れない商売は、毎年おなじ場所でつまずきます。閑散期の資金繰りです。米ケンタッキー州北部でアイスクリーム店Piper’s Ice Cream Barを共同経営するChip Adkinsさんも、寒い時期は店を閉め、売上が消えているあいだの支払いを信用枠からの借入でしのいでいました。決済事業者Squareが運営する媒体The Bottom Lineの取材記事に、その状態をどう変えたかが載っています。
先に要点を書きます。Adkinsさんが変えたのは売上を配る順序です。経費を払って残った額を利益とみなすやり方をやめ、入金のたびに決めた割合を利益・税・運転費・設備へ先に振り分ける形に切り替えました。取材記事によれば、運転費は売上総額の70%から58%へ下がり、前年比では12%減っています。
この記事で確認できるのは、その取材記事、Profit Firstを提唱したMike Michalowiczさんの公式サイト、Squareの公式ヘルプに書かれている範囲だけです。店の年間売上額、従業員数、開業年、店舗数は、いずれもこれらの出典に書かれていません。確認日は2026年9月8日です。
閉めている数か月が、いちばん重い
Piper’s Ice Cream Barは季節性の強い店です。取材記事では、寒い時期に店を閉めているあいだ、売上が入らないまま支払いだけが続き、Adkinsさんが請求書と信用枠の残りを気にしていた状態が説明されています。
季節商売の資金繰りは、繁忙期にどれだけ売ったかだけでは決まりません。売れない月をどう越えるかで決まります。繁忙期の売上が大きくても、そこから閑散期ぶんを取り置く手順が無ければ、毎年おなじ時期に借入へ手が伸びます。
同時に、Adkinsさんはもう一つの問題を抱えていました。自分への報酬です。本人の言葉はこうです。「ずっと苦労してきたことの一つが、自分たちに払うことです。……あるべき額には決してなっていませんでした」。売上から経費を払い、残った額を自分に回す順序では、残りが少ない月ほど自分の報酬が削られます。閑散期のある店では、その月が毎年決まってやってきます。
「残ったものが利益」をやめる
Adkinsさんが取り入れたのはProfit Firstという考え方です。著者のMike Michalowiczさんが提唱したもので、公式サイトでは「売上の入金があるたびに、あらかじめ決めた割合を利益として取る」と説明されています。同じページには「利益は出来事ではない。利益は習慣だ」という一文も置かれています。
順序を入れ替えるだけの話に見えますが、実務上の意味は小さくありません。経費を先に払う形では、経費は「使えるだけ使えるもの」になります。利益と税を先に取り分けてしまうと、残った額が経費の上限になります。上限が先に決まるので、経費のほうを合わせにいくことになる、という順序の違いです。
Adkinsさんがこの方法を知ったのは、Squareが運営していた読書会のコミュニティでした。取材記事では、この方法が事業主自身の報酬を正面から扱っている点に引かれた、と説明されています。
4つのフォルダに、入金のたびに振り分ける
実際の運用は、Square Savingsの「フォルダ」を4つ作るところから始まっています。用途は、利益(自分への報酬)、税、運転費、設備・修繕です。売上のうち決めた割合が、それぞれのフォルダへ自動で入ります。Squareの公式ヘルプにも、貯蓄用の口座を開き、カード決済の売上から一定の割合を自動で取り分けられること、口座に月額の手数料はかからないことが記載されています。
取材記事に載っている割合は次のとおりです。運転費が売上の60%、設備・修繕が20%、税が6.7%、利益は黒字の月に8%。この割合は固定ではなく、季節や実際の売上に応じて見直すと説明されています。
Adkinsさんは、この仕組みが効く理由を短く言い切っています。「考え方は単純です。目に入らなければ、意識からも外れる」。同じ口座に置いたままでは、税や設備のために取ってあるはずの金額も、目の前の支払いに使えてしまいます。物理的に別の置き場所へ移すことで、使える額と使えない額を分けている、という説明です。
慣れるまでは楽ではなかったとも語っています。「最初のころは毎月こわかった」。先に取り分ける運用は、手元に残る額を意図的に減らします。回るかどうかを試している最中は、その減り方が不安に見えます。
冬に開けるほうが理にかなうと分かった
この仕組みが生んだいちばん大きな変化は、割合の設定そのものではなく、判断の材料が手元に増えたことでした。
取材記事によると、Adkinsさんは冬に店を開けていることが損にはなっていないと気づきます。本人の言葉では「冬の期間に開けていることが、うちにとって痛手にはなっていないと分かった」。閉めても家賃などの固定費は消えないため、閉店と営業を並べて比べたときに、開けるほうが理にかなう、という判断です。
季節商売では「閑散期は閉める」が既定になりがちです。ただ、閉めた月にも消えない費用があるなら、比べるべきは売上の大小ではなく、閉めた場合と開けた場合の差です。この事例で参考になるのは、その比較ができる形に数字を置いた点です。仕組みを入れた結果として、営業日の決め方まで変わっています。
18か月先まで書いた予定表
閑散期の運用にも線引きがあります。信用枠から借りて事業を回している月は、自分への報酬を取らない、という決まりです。本人はこう説明しています。「事業を回すために信用枠から借りているなら――うちは1年のうち4か月そうしています――その月は自分たちへの支払いをしません」。
さらに、これから18か月ぶんの経費を見通す表を作っています。取材記事では、この表によって、自分への報酬を取れる時期と、税を納める時期を見分けている、と説明されています。不意の出費にも備えやすくなった、とあります。
閑散期のある事業にとって、この表の役割は予測というより順番決めです。いつ何を払うかが先に並んでいれば、目の前の入金を何に使うかで迷う回数が減ります。逆にいえば、割合を決めただけでは足りません。割合は月ごとの配分を決めるもので、年をまたぐ支払いの順序までは決めないためです。
公表されている結果
取材記事に載っている結果は3つです。
第一に、運転費の削減です。「開業以来はじめて、前年比で運転費を12%削減できました。これは大きな金額です」とAdkinsさんは語っています。人件費と備品を含む運転費は、この方法を始める前の年で売上総額のおよそ70%でした。「それを58%まで下げられました。そして毎年少しずつよくなっています」。
第二に、経費の見直しが具体的に進んだことです。自分への報酬を動かせない項目にしたことで、支出を一つずつ確かめるようになったと説明されています。例として挙げられているのが、月に50ドルかかる仕入先の会員プログラムに入ったことで、4年間で運賃と配送費を20,000ドル節約できた、という話です。金額そのものより、見直しの対象が「削る」から「入るべきものに入る」へ広がっているところが要点です。
第三に、冬の営業に関する判断です。これは前の節で見たとおりで、閉めるより開けるほうが理にかなうと判断できた、というものです。
これらはいずれも本人の申告であり、第三者が検証した数値ではありません。同じ割合を使えば同じ結果になることを示すものでもありません。店の規模、費用の構成、季節の振れ幅が違えば、適切な割合も変わります。
閑散期を越えるための助言
同じ取材記事には、アイスクリーム店の元経営者でSquareのアドバイザーを務めるAylon Pessoさんの助言が4点まとめられています。
一つ目は、繁忙期の利益を最大にすること。まとめ買いと販促を繁忙期に寄せる、という内容です。二つ目は、閑散期のための備えを別に作ること。固定費と、過去の変動費の実績から必要な額を割り出し、専用の積立を用意します。三つ目は、借入を道具として計画的に使うこと。売上の画面で状況を見ながら、必要な額を超えて借りないことが挙げられています。四つ目は、閑散期を清掃や積み残しの作業に充て、自分の休息も確保することです。
二つ目の「必要な額を先に割り出す」は、Adkinsさんが実際にやったことと同じ形です。閑散期にいくら要るかが分からないままでは、繁忙期にいくら取り置けばよいかも決められません。順序としては、必要額の計算が先に来ます。
日本の小規模事業者が参考にできる点
読み取れることは3つあります。
第一に、順序を変えるだけでも運用は変わるという点です。特別な道具は要りません。入金のたびに、決めた割合を別の置き場所へ移すだけです。日本でも、事業用の口座を用途別に分けたり、定額の自動振替を設定したりすれば、同じ形は作れます。割合をいくつにするかは、この事例の数字をそのまま持ってくるのではなく、自分の費用構成から決めることになります。この事例でも、割合は季節ごとに見直されています。
第二に、閑散期の判断を「閉めるか開けるか」ではなく、閉めても消えない費用がいくらかから始めることです。この事例では、その計算ができる状態になってはじめて、冬の営業を続ける判断ができています。家賃、リース、通信、保険のように営業の有無と関係なく発生する費用を先に並べておくと、比較が具体的になります。
第三に、自分への報酬を先に確定させると、経費の見直しが進むという点です。取材記事はこの順序で説明しています。ただし、報酬を先に取れば経費が下がるという因果を測った調査ではありません。実際に下がったのは、支出を一つずつ確かめる作業をしたからです。仕組みは、その作業をやらざるを得なくする役割を担っています。仕組みを入れただけでは、費用は下がりません。
制度面の違いにも触れておきます。ここで紹介したのは米国の事例で、信用枠の借入、税の納め方、貯蓄用口座の扱いは日本と異なります。自分への報酬の出し方も、法人か個人事業かによって扱いが変わります。仕組みの発想を持ち帰る場合でも、具体的な運用は税理士に確認してください。在庫や設備の資金をどう回すかという観点では、売上に連動して返済する資金調達を使った林業用品店の例も併せて読めます。開業時に何にいくらかかったかを内訳で見たい場合は、開業6か月の総支出を公開したサロンの記録があります。
公表されていないこと
確認できなかったことを残します。店の年間売上額、従業員数、開業年、店舗数、信用枠の金額と条件は、いずれも取材記事に書かれていません。割合を季節ごとにどう変えているのか、その具体的な数値も示されていません。
Profit Firstを始めた時期についても、取材記事は「数年前」とだけ述べています。運転費がおよそ70%だったのは「この方法を始める前の年」であり、それが何年かは書かれていません。運転費の削減が何年から何年への比較かも同様です。期間を特定できないため、年ごとの推移として読むことはできません。
Square Savingsのフォルダに関する細かい仕様――作れる数の上限、設定できる割合の上限、現金売上の扱い――は、今回参照した公式ヘルプのページには記載がありませんでした。導入を検討する場合は、提供元の案内を直接確認してください。
出典と注記
この記事は、Squareが運営する媒体The Bottom Lineの取材記事、Mike Michalowiczさんの公式サイト、Squareの公式ヘルプを出典としています。数値と引用は原文の表記に従い、通貨や単位の換算はしていません。日本語訳は当サイトによるものです。当サイトが店舗を訪問したり、Profit Firstの方法やSquare Savingsを自ら利用して評価したものではありません。売上や削減額は本人の申告であり、第三者が検証した数値ではないため、同じ方法で同じ結果が得られることを示すものではありません。確認日は2026年9月8日です。
この分野の実務を相談したい方へ
記事で扱っている内容は、当社が実務として支援している領域です。 自社で進めるか外部に任せるかの判断からご相談いただけます。