同じ厨房で、昼はカフェが動き、夜はイタリア料理店が動きます。ロサンゼルスのメローズヒル地区にある Café Telegrama と Ètra は、別の名前と別の業態を持ちながら、1つの厨房を共有しています。Square は2026年9月30日にこの2業態をプレスリリースで取り上げ、同年10月6日に事例ページを公開しました。
この記事で扱えるのは、その2本と Ètra の公式サイトに書かれている範囲だけです。公表されているのは、サブスクリプション料と決済手数料の合計で年間40,000ドル近くの削減見込み、注文がPOSから共有厨房のプリンターへ直接流れること、コースの進行が予約システムへ同期すること、売上に合わせて人時を動かしていること、この4つです。売上額、客数、従業員数、以前使っていたPOSの名前と料率は、どの資料にも書かれていません。
先に誤解を防いでおきます。これは「POSを替えれば利益が出る」という話ではありません。削減見込みの額は公表されていますが、その前にいくら払っていたかが公表されていないため、削減率は計算できません。読み取れるのは金額の大小ではなく、2つの業態を同じ場所で回すときに、何を1系統へ寄せたのかという設計の順序です。確認日は2026年10月9日です。
1つの厨房で、昼と夜に別の店が開く
プレスリリースによると、2つの店は2023年に開業し、どちらも地元の常客を持つようになりました。昼はクイックサービスのカフェとして Café Telegrama が、夜はフルサービスのイタリア料理店として Ètra が営業します。並んでいるのではなく時間帯で入れ替わる構成で、プレスリリースは2つの間にほとんど空き時間がなく需要が続く状態だと説明しています。
場所の関係は、Ètra の公式サイトの案内で確かめられます。Ètra は Café Telegrama の真後ろの区画にあります。公式サイトは店名の意味を「in between(あいだ)」だと説明しており、立地と設計、料理の考え方のどれにもかかる言い方になっています。営業時間は火曜から土曜が17時30分から22時、日曜が17時から21時、月曜は休みです。つまり夜の業態が動く時間は1日あたり4時間半前後で、残りの時間はカフェ側が同じ厨房を使っています。
運営しているのは共同オーナー2人です。事例ページでは Evan Algorri さんが共同オーナー兼執行シェフ、Andrew Lawson さんが共同オーナー兼ゼネラルマネージャーとして紹介されています。2人はどちらもニューヨークの飲食店で働いた経歴があり、Algorri さんの言葉として “We both worked in New York City restaurants… we both have a very similar sensibility for dining out.”(2人ともニューヨークの飲食店で働いていた。外食に対する感覚がよく似ている。)が載っています。プレスリリースは、2025年に Algorri さんが James Beard Award の Best Chef: California 部門で準候補(semifinalist)に選ばれたことにも触れています。
何をしたか:POSを替え、2業態を1つの記録に寄せた
乗り換えの理由として事例ページが先に挙げているのは、コストです。利益の幅が薄い商売で、高いサブスクリプション料と決済手数料を払い続ける余地がなかった、という書き方になっています。もう1つ挙がっているのが、以前の事業者が困ったときに十分に寄り添ってくれなかった(wasn’t as present)という点です。価格と支援、どちらも使い続けるかどうかの判断材料として並んでいます。
移った先は Square for Restaurants です。使っている仕組みと用途を、2本の資料に書かれている範囲で並べます。
| 使っている仕組み | 何に使っているか |
|---|---|
| Square for Restaurants | フルサービスの夜の営業と、カフェの昼の営業を同じ土台で動かす |
| Square Register・Stand・Handheld | 注文入力と決済。どの機器から入れても同じ流れに乗る |
| Square Terminal(無音)+厨房プリンター | POSから共有厨房へ注文を直接送る。客に音と操作を見せない |
| Square Dashboard | 売れているもの・売れていないものを見て、メニューを調整する |
| Square Team Management | 誰が出勤中かを確認し、売上に合わせて人時を調整する |
| Square Online | Café Telegrama のオンライン注文を受ける |
| Resy 連携 | コースの進行を予約システムへ同期し、ホールが各卓の状況を把握する |
表のとおり、業態ごとに別の道具を足したのではありません。入力と記録の経路を1本にして、業態の違いは同じ土台の上の設定として扱っています。1つの厨房を共有している以上、注文が2系統から届くと厨房の側で突き合わせが必要になります。そこを増やさない選び方だと読めます。
業態をそろえない店をまとめて運営する話は、同じく米国の小売の例として5店舗すべて業態が違うThe Epicurean Traderの回し方でも扱いました。店の数が増えるときに最初に足りなくなるのが記録の仕組みだという点は、業態が2つに増える場合も同じ向きに働きます。
1回の入力が、厨房とホールの両方へ届く
プレスリリースの説明で具体的なのは、注文が流れる経路です。注文はPOSから共有厨房のプリンターへ直接送られます。昼のカフェの営業中でも、夜のフルサービスの営業中でも、同じ流れで厨房に届きます。事例ページは、無音の Terminal と、POSから注文をそのまま回す厨房プリンターの組み合わせだと書き、乗り換え後に印刷の不具合は起きておらず、技術が客の目に触れない状態(the tech stays invisible to the guest)を保てていると述べています。
もう1つが予約システムとの同期です。Square の Resy 連携は、前菜・メイン・デザートというコースの進行状況を、POSで入力した時点で予約システムへ自動で反映します。ホールの担当者は、どの卓がいまどの段階にいるのかを予約システム側の画面で把握できます。卓の回転を人の記憶と声かけで追う作業が、入力の副産物として置き換わっている形です。
Lawson さんの言葉として事例ページに載っているのは “The technology is just reliable, and that’s what we need it to be 100% of the time.”(技術はとにかく安定している。それがこちらが100%の時間で必要としていることだ。)です。評価の軸が速さや機能の多さではなく、落ちないことに置かれています。1つの厨房を2業態で共有していれば、入力の経路が1か所止まるだけで昼夜のどちらかが止まります。
公表されている結果
金額として出ているのは1つです。事例ページは、サブスクリプション料と決済手数料を合わせて、年間でおよそ40,000ドル近くの削減見込みだと書いています。内訳は示されていません。月額の費用で減った分がいくらで、決済手数料で減った分がいくらなのかは分かりません。以前の支払額も公表されていないため、何割減ったのかも計算できません。この記事で言えるのは、2業態を回す規模の店で、固定費と手数料の見直しが年間でこの桁の金額として説明されている、というところまでです。
運用面では3つが挙がっています。1つ目が数値の見方で、オーナーは売れているものと売れていないものを確認し、それに応じてメニューを調整しています。Lawson さんの言葉として、事業の両側(カフェ側と夜の営業側)にわたって信頼できるレポートがあることが実際に効いている、という評価が載っています。2つ目が人時の調整で、誰が出勤中かを確認し、売上が伸びない日は人時を削って売上に対する人件費の比率を保っています。3つ目がカフェ側のオンライン注文で、決済までの流れがなめらかになったことでオンラインの注文が増えた、と書かれています。増加率や件数は公表されていません。
次にやることとして挙がっているのは、イベントや体験の幅を広げること、そして現在の区画の中でさらに広げることです。Lawson さんの言葉として “We want to be open for 100 years. That’s the goal.”(100年続く店にしたい。それが目標だ。)が載っています。拠点を増やす計画は書かれていません。
公表されていない項目をまとめておきます。売上額、利益、客数、客単価、従業員数、人件費率の実数、オンライン注文の増加率、以前使っていたPOSの名前と料率、削減見込み40,000ドルの内訳です。これらを他の店の数値や一般的な相場で補うと、公表されていない数字をこの店の実績として読ませることになります。ここは空欄のまま残します。
薄い利益率という前提
事例ページは、この乗り換えを飲食業の利益率の話として位置づけています。引用されているのは全米レストラン協会(National Restaurant Association)の数値で、フルサービスの飲食店が2024年に報告した税引前利益の中央値が売上の2.8%、2025年の調査では42%の経営者が黒字ではなかったとされています。人件費については、フルサービスの売上に対する比率の中央値が2024年に36.5%で、黒字だった事業者はこれを34.2%の中央値に抑えていた、と書かれています。
この並びが示しているのは、利益の幅が売上の数パーセントの商売では、売上を増やさずに固定費を削った分が、そのまま利益の側に残るという単純な事情です。同時に、人件費の2ポイント前後の差が黒字と赤字の分かれ目として扱われていることも分かります。だから、売上に合わせて人時を日々動かす話と、月額の費用と手数料を見直す話が、1つの事例の中で並んで出てきます。
ただし、この4つの数値はいずれも中央値であり、特定の店に当てはまる値ではありません。米国の調査であって、日本の飲食店の利益率・人件費率・決済手数料の水準を示すものでもありません。自店の判断に使うなら、同じ指標を自分の数字で出し直すところからです。
日本の実務者が参考にできる点
ここから先は、公表されている内容から言える範囲の読み方です。同じ構成にすれば同じ結果が出る、という書き方はできません。
1つ目は、1か所で2業態を回すなら、入力の経路を増やさないことです。この事例でそろえているのは、注文の入力、厨房への出力、コース進行の共有という3つの経路です。業態が違っても同じ経路に乗るので、厨房側は「どちらの店の注文か」を気にする必要がありません。間貸しや時間帯別の営業を検討するときに、まず決める対象はメニューより先にこの経路です。
2つ目は、固定費の見直しは、売上を増やす施策とは別の枠で判断することです。月額の費用と決済手数料は、客足に関係なく毎月出ていきます。利益率が薄いほど、ここを削った効果は読みやすくなります。ただし乗り換えには、機器の入れ替え、メニューの再登録、従業員の慣れ直しという手間がかかります。この事例でも、削減見込みの額だけが公表されていて、移行にかかった期間と手間は公表されていません。判断するなら、自店の支払額を先に1年ぶんで出し、そのうえで移行の手間と見合うかを見る順序になります。
3つ目は、人時を日次で動かせる状態にしておくことです。この店がやっているのは、出勤中の人を確認して、売上が伸びない日に人時を削ることです。月末に人件費率を集計して反省する運用では間に合いません。注文を受ける仕組みと勤怠が同じ場所にあることが、この動かし方の前提になっています。小さな飲食店で注文の受け方そのものを変えた例は客足が一夜で35%増えたタコス店でも扱いました。
4つ目は、道具の評価軸を「客に見えないこと」に置くことです。この事例で繰り返されているのは、安定していること、客の目に技術が触れないこと、印刷が止まらないことです。機能の多さではありません。手元のデータをどう読むかという側面についてはSalt Hank’sがSquareのAIで売上の傾向を読む例が近く、どちらも道具を増やすより、1本に寄せた記録を読む方向の話になっています。
確認できなかったこと
まず、削減見込み40,000ドルの内訳です。サブスクリプション料と決済手数料の合計としか書かれておらず、どちらがどれだけなのかは分かりません。以前の支払額も公表されていないため、削減率にも直せません。
次に、以前使っていたPOSです。事業者名、契約していた月額、決済手数料の料率は、いずれも書かれていません。したがって「どの製品からどの製品へ替えると同じ額が減る」という読み方はできません。
3つ目に、成果の実数です。オンライン注文が増えたという記述に件数や増加率はなく、人件費率をいくらに保っているのかも書かれていません。売上額、客数、従業員数も公表されていません。
最後に、日本での条件です。決済手数料の料率、利用できる機器、Resy の提供範囲は国によって異なります。同じ組み合わせが日本でそのまま使えるかどうかは、この3本の資料からは分かりません。
全体を1行でまとめると、2つの業態を1か所で回すために増やしたのは店の数でも道具の数でもなく、1本に寄せた入力と記録だったということになります。公表されている金額はその結果の一部で、しかも内訳のない見込み額です。参考にするなら、額ではなく寄せ方のほうです。
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