大きな露出が来たときに困るのは、客が来ないことではありません。来た客をさばききれないことです。ロサンゼルスのタコス店Villa’s Tacosは、Bad Bunnyのハーフタイムショーに登場したあと、客足が一夜で35%増え、フォロワーが100,000人以上増えました。それでも注文は止まりませんでした。
Squareが公開した取材記事を読むと、増えた客をさばけた理由は露出のあとの対応ではなく、その前に注文の受け方を変えていたことにあります。この記事で扱えるのは、その取材記事とGrand Central Marketの公式ベンダーページに書かれている範囲だけです。売上高、客単価、客数の実数は、どちらにも公表されていません。読みどころは金額の大きさではなく、一度きりの機会に対して、店の側が何を先に用意していたかという順序にあります。確認日は2026年9月12日です。
一夜で、客足が35%増えた
Villa’s Tacosは、シェフのVictor Villaさんが2018年に、ロサンゼルス北東部にある祖母の家の裏庭で始めた店です。取材記事は、グリルとキャノピー、そしてLAのタコス文化に新しいものを持ち込むという構想だけで始まったと書いています。裏庭のポップアップはHighland Parkの地元で評判になり、看板のqueso tacoで名前が広がりました。
いまはLAでもよく知られたタケリアの1つです。Netflixの「Taco Chronicles」に取り上げられ、Michelin Bib Gourmandに3年連続で掲載され、Grand Central Marketを含む複数の場所へ広がりました。取材記事に載っている拠点の数は3か所です。
そこへ、Bad Bunnyのハーフタイムショーへの登場が重なりました。取材記事は、この露出を「多くの飲食店の経営者が夢に見る種類の露出」と書き、その直後に客足が35%跳ね上がったと記しています。あわせて、100,000人を超える新しいフォロワーが増えました。Villaさん自身も、客足が35%増えるのを見た、と述べ、流れ込んだ注文をさばけたことをPOSの働きとして挙げています。
先に注意点を置きます。35%が何と何を比べた値なのか、期間の定義は書かれていません。100,000人という数がどの媒体の合計なのかも書かれていません。出どころは1本の取材記事であり、第三者が検証した数値ではありません。
露出の前に、手書きの注文をやめていた
開店した当初、注文はメモ帳に手書きで受け、それをインデックスカードへ書き写していました。客が増えれば、この方法は続けられなくなります。取材記事は、Villaさんが注文の管理と売上の記録に1日およそ2時間、週6日を使っていたと見積もっていることを伝えています。
Villaさんの言葉はこうです。“It just took three times as long to place an order as it does now. As you all know, time is money.”(注文を1件通すのに、いまの3倍の時間がかかっていた。ご存じのとおり、時間はお金です。)
入れたのは、Square RegisterとSquare Terminalを含む一式です。注文の受け付けと行列の流れが速くなりました。“The POS allows us to effectively and efficiently take orders and keep up with demand.”(POSのおかげで、効率よく注文を受け、需要についていける。)
順序が大事です。速くしたのは露出のあとではありません。速くしてあった店に、露出が来ました。取材記事も、35%という急増について、動きの遅い運営なら飲み込まれていたかもしれない、という書き方をしています。
仕込みと人の配置を、曜日と時間帯から決める
手書きの運用で失われていたのは、時間だけではありません。もう1つは記録でした。取材記事は、売上の傾向を簡単に見られないために、どれだけ仕込むか、誰をいつ入れるか、突然の需要増にどう備えるかを判断しにくかったと書いています。手作業に取られた時間のぶん、客に向ける時間も減っていました。
POSに切り替えたあと、Villaさんはダッシュボードのレポートを判断に使うようになりました。データを見て会社の傾向を追えるようになった、という趣旨の発言に続けて、こう言っています。“I am able to prep and staff accordingly because I know what days and times are going to be busier through trends and data.”(どの曜日とどの時間帯が忙しくなるかを傾向とデータで知っているので、それに合わせて仕込みと人員を組める。)
この一文が、露出の話とつながります。普段の混み方を記録で言える店は、増えた日にも同じ根拠で動けます。仕込みの量も、シフトも、勘で決め直す必要がありません。ただし、露出の直後に具体的にどう調整したのかまでは、取材記事に書かれていません。そこは推測になるため、ここでは扱いません。
知った人が買える場所を、先に用意してあった
もう1つ、公式に確認できることがあります。Villa’s Tacosは、ロサンゼルスの公設市場Grand Central Marketに売り場を持っています。市場の公式ベンダーページには、この店がMichelin Bib Gourmandに載っていること、Taco Madnessで2021年・2022年・2024年に勝っていること、営業時間が毎日午前11時から午後9時であることが書かれています。
看板のqueso tacoの中身も、同じページに並んでいます。青いトウモロコシのトルティーヤに、refried beans、玉ねぎ、コリアンダー、ワカモレ、コティハチーズ、クレマ、そして溶かしたモントレージャックを重ねたものです。asadaやchorizoを合わせたもの、ヴィーガン向けのものも用意されています。
露出で最初に増えるのは、関心です。関心を来店に変えるのは、その人が今日どこで買えるかが分かることです。人が集まる市場に常設の売り場があり、営業時間が公開されている状態は、その受け皿にあたります。ただし、この店がいつGrand Central Marketに出店したのかは公表されていません。露出に備えて出したのか、たまたま先にあったのかは、資料からは判断できません。
公表されていること、公表されていないこと
判断に使う前に、確認できた項目とできなかった項目を分けておきます。
| 項目 | 状態 |
|---|---|
| 客足の増加 | 35%(比較の期間は記載なし) |
| 増えたフォロワー | 100,000人超(媒体の内訳は記載なし) |
| 手作業に使っていた時間 | 1日およそ2時間・週6日(本人の見積もり) |
| 注文1件にかかる時間 | 以前は「いまの3倍」(現在の実測値は記載なし) |
| 拠点の数 | 3か所 |
| 売上高・利益・客単価 | 記載なし |
| Squareを導入した時期 | 記載なし |
| Grand Central Marketへ出た時期 | 記載なし |
| 新店の開業時期 | 記載なし(South Pasadena、Hollywood、Atwater Villageの計画と、さらに3か所の予定のみ) |
したがって「POSを入れれば客足が35%増える」とは書けません。35%を連れてきたのはハーフタイムショーです。取材記事が示しているのは、その増加を受け止められる状態が先にあった、というつながりまでです。露出そのものは、店の側で作れるものではありません。
日本の小さな店が確認できること
規模も商圏も違うので、そのまま持ち込める部分は多くありません。それでも、自分の店に当てはめて確認できる問いにはなります。
1つ目は、注文を1件受けるのに何秒かかっているかを知っているかです。混んでいない日の速度が、混んだ日の上限になります。測っていない店は、行列が伸びた理由を人手の不足だけで説明しがちです。
2つ目は、あとから数えられる形で受けているかです。手書きの伝票は、その場では速く見えても、曜日別や時間帯別に数え直せません。数えられない記録は、仕込みと人員の根拠になりません。売上データを判断に使い始めた別の例はSalt Hank’sの記録で扱っています。
3つ目は、混む曜日と時間帯を、感覚ではなく記録で言えるかです。ここが言えると、人を増やす日と減らす日を先に決められます。店長を社内から育てて店舗を増やした例はPERC Coffeeの記録にあります。
4つ目は、知った人が今日どこで買えるかを、はっきり書いてあるかです。フォロワーが増えても、場所と営業時間が探しにくければ来店にはつながりません。海外の小さな事業者の事例は海外ビジネス成功事例にまとめています。
出典と注記
この記事は、Squareが公開した取材記事「How Villa’s Tacos Tripled Order Speed and Reduced Costs with Square」と、Grand Central Marketの公式ベンダーページを出典としています。他メディアのまとめ記事は使っていません。
数値は原文の表記のまま記載し、単位や通貨の換算をしていません。取材記事はSquareが自社の利用者を取材して公開したものであり、第三者が検証した数値ではありません。公表されていない項目は空欄のままにし、推測で補っていません。
営業時間、拠点、掲載の内容は変わります。判断に使う前に、それぞれのページの現在の記載を確認してください。成果を保証する記述は含みません。確認日は2026年9月12日です。
この分野の実務を相談したい方へ
記事で扱っている内容は、当社が実務として支援している領域です。 自社で進めるか外部に任せるかの判断からご相談いただけます。