同じ商品を並べているかぎり、小さな店は大型店とネット通販に価格で負けます。では何で勝つのか。米イリノイ州カロルストリームの園芸店Barn Owl Garden Centerは、この問いに「商品を買う以外の来店理由を増やす」という形で答えてきた店です。決済とPOSを提供するSquareが公開した取材記事によると、この店のリピート客は前年比で40%増えました。
この記事は、その取材記事と店の公式サイトに載っている範囲だけで、この店が何をしたのか、どこまでが公表されていてどこからが公表されていないのかを整理したものです。売上金額は公表されていないため、ここにも書きません。確認日は2026年9月11日です。
どんな店なのか
取材記事によると、Barn Owl Garden Centerは家族が創業して家族が運営している園芸店で、2003年からイリノイ州カロルストリームの地域に根を張っています。植物とガーデニング用品を11,000点を超える品目でそろえ、オンラインと実店舗の両方で売り、造園のサービスを提供し、地域の催しまで開いています。取材記事は冒頭で「よくある園芸店ではない」と書いています。オーナーはClark Hudmonさんです。
公式サイトを見ると、扱いの幅はさらに具体的です。観葉植物、一年草、多年草、野菜と香草の苗といった植物のほかに、肥料や土や種、屋内で育てるための器具、ペット用品、野鳥の餌と餌台、季節ごとのリースが並びます。サービスの側にはプロパンガスの充填、薪の配達、融雪剤、カーブサイドでの受け取りと地域配達があります。「About Us」のページは、自分たちを単なる店ではなく、芝生と庭と屋外の暮らしのための行き先だと説明しています。
公表されているのは4つの数値
取材記事に出てくる数値は4つです。どれも伸び率で、金額はありません。
ひとつ目は、リピート客が前年比で40%増えたこと。ふたつ目は、それが取引件数の7%の増加につながったことです。取材記事はここにほかに大きな投資をしておらず、チームの人数も変えていないという条件を添えています。みっつ目は、2022年にSquareを使い始めて以降、事業が15%成長したこと。よっつ目は、請求書の発行をSquareへ切り替えてから、商用の取引先からの期日内の入金が約20%増えたことです。
伸び率だけの公表なので、元の水準は分かりません。リピート客がもともと何人だったのか、取引件数がいくつだったのかは記載がありません。比率は、母数が小さいほど大きく動きます。この事例を読むときに、まず外せない前提です。
価格ではなく、来店の理由で競う
Hudmonさんは取材記事の中で、大型店との違いをこう説明しています。毎週土曜に農産物市を開き、地元の出店者を呼んでいること。それが地域と自分たちの商品を知ってもらう良い方法であること。催しをやると「barnで何が起きているのか」と人が気にするようになること。そして「家族どうしが店で偶然出会うのを見るのがいちばん好きだ。大型店に入ると、あの感じはとても冷たい」と続けます。
そのうえで、はっきり言い切っています。たとえばAmazonより高いことがあるとして、なぜ自分たちなのかを客に示す必要がある。それは知識であり、雰囲気だ、と。値段で並ぶことを最初からあきらめて、比較の土俵を変えているわけです。
この店の収入は、商品の販売だけに載っていません。取材記事と公式サイトに記載のある範囲で並べると、次のようになります。
| 柱 | 中身 | 記載のある出典 |
|---|---|---|
| 小売 | 11,000点を超える植物・園芸用品。ペット用品や野鳥用品も含む | 取材記事/公式サイト |
| 造園のサービス | ランドスケープの施工と、庭づくりの助言 | 取材記事/公式サイト |
| 催し | 毎週土曜の農産物市、地元の出店者、休暇期のポップアップ | 取材記事 |
| 暮らしまわりの用役 | プロパンガスの充填、薪の配達、融雪剤、配達と受け取り | 公式サイト |
| 法人・学校との取引 | 請求書での支払い。税の要件が特殊な取引先を含む | 取材記事 |
取材記事は、収入源を分けたことで弱点や落ち込みの影響を受けにくくなり、計算されたリスクを取る余地も生まれたと書いています。園芸は季節の商売です。売るものが植物だけなら、天候の悪い年はそのまま商売の落ち込みになります。季節をまたぐ資金の作り方という点では、米ケンタッキー州のアイスクリーム店の事例と同じ問題に手を打っていると読めます。
常連が増える経路は、店の外から始まっている
リピート客の増加を、ロイヤルティ制度だけの成果として読むと外します。取材記事に書かれている流れは、催しで人が集まるところから始まっています。
集まった人に対して、店の側が渡しているのは知識と雰囲気です。そのうえで、Square Loyaltyの登録が電話番号だけで済むことが効いてきます。取材記事は、この簡単さが参加を後押ししたと書いています。Hudmonさんは「客はロイヤルティ制度を本当に気に入っている。Small Business Saturdayにはポイントを2倍にしていて、それがうまくいっている。過去にいろいろなロイヤルティの仕組みを試したが、Squareのものは簡単で、自分にとっても客にとっても良い」と述べています。
メール配信も同じ道具の中にあります。「ひな形が単純なので、作るのが速い。オンラインストアから商品を直接足せるのがいい」というのが本人の説明です。催しで来た人が電話番号で登録し、メールで商品を見て、ポイントが2倍になる日に戻ってくる。ここまでが一続きの経路になっています。
日本で同じことをするなら、Small Business Saturdayに当たる日は自分で決める必要があります。米国の買い物の日をそのまま持ってくることはできません。決められるのは、戻ってくる日を店の側から作るかどうかという設計の部分です。
11,000点を回すための道具
品目が1万点を超えると、在庫の把握は勘では届きません。取材記事によれば、この店はSquare for Retailを使って、販売経路をまたいだ在庫を追い、販促の計画と仕入れの発注に使える詳細なレポートを出しています。Hudmonさんの言葉では「売上と在庫を正確に報告してくれるので、必要以上に使わずに済む。何が売れたかが分かるから、仕入先にどれだけ頼めばよいかも分かる」。
現場の運用では、バーコードの読み取り、SKUのない古い商品のためのボタンの割り当て、商品のバリエーション追加といった機能が挙がっています。取材記事は、これらが会計の手順を短くし、待ち時間を減らしたと書いています。
道具の習得についての記述も具体的です。若い世代にはほぼ教育が要らない。植物の世話のほうがずっと複雑だとHudmonさんは言い、69歳の従業員でも理解しやすいと述べています。小規模な店で新しい仕組みを入れるときは、たいてい「使えない人が出る」ことが止める理由になります。この事例では、そこが論点になっていません。POSに残る記録をどう判断に使うかという点は、ニューヨークのサンドイッチ店の事例でも扱っています。
Square Terminalの使い方にも触れられています。休暇期のポップアップに持ち出して、店を移動できる状態にすること。シカゴ市街から約27マイルの位置にあるため、市内へ出向いて自分たちの色を持ち込むこと。母の日のように列ができる日には、並んでいる人のところへ行って先に支払いを受けること。会計の場所を固定しない使い方です。
店で分かったことを、オンラインへ持っていく
地域とのつながりが中心にある店でも、販路は地域に閉じていません。取材記事によると、この店はオンラインストアで全米の客に届いています。Hudmonさんは「オンラインの存在を使っている。これが、同じ分野の伝統的な競合に対する強みになる。中には自分たちより60〜80年長い経験を持つ相手もいる」と述べています。
面白いのは、オンラインで伸ばす対象の選び方です。店とSquareのデータから見つけたのは、野鳥の餌でした。大手のECより安く、品質も高いものを扱えているという判断です。「そこがSEOを使ったオンラインの成長機会になると考えた」と本人が説明しています。
店頭で分かった強みを、そのままオンラインの狙いどころに移している形です。品ぞろえ全体をネットに載せて競うのではなく、自分が勝てる品目を先に決めています。実店舗とオンラインを同時に持つ小さな事業者にとっては、米ペンシルベニア州のコーヒー店の事例と並べて読める論点です。
事務作業を減らすと、現場の時間が戻る
少人数で大きな売場を回すために、この店が削ったのが事務です。請求書をSquareへ切り替えた結果として、商用の取引先からの期日内入金が約20%増え、請求の手順が整理されました。取材記事は、税の要件が特殊な企業や学校の取引先で特に効いたと書いています。
Hudmonさんの説明はこうです。「請求の仕組みが入ったことで、いろいろな担当者が控えを受け取る必要がなくなった。買掛の担当へ直接届くからだ。携帯からも追える。全部が滑らかで、これまでやっていた作業から4〜5段階が消えた。客も、控えを探し回らずに済むから喜んでいる」。
紙の控えを手渡し、担当者が社内で回し、経理が入力する。この経路をやめただけで、入金の期日が守られやすくなったという記録です。売る努力ではなく、受け取る手順の話である点が、見落とされやすいところだと思います。
常連が効くことは、Square自身の集計にも出ている
1店舗の事例だけでは、常連を増やすことの意味は測れません。Squareは2026年に公表したLocal Economy Reportで、自社プラットフォームの匿名集計と消費者調査をもとにした数字を出しています。そこには、常連客は1回だけ訪れる客に比べて年間で6倍の売上を生むという記載があります。同じ郵便番号の中にある店どうしで、常連客の32%が重なっているという記載もあります。
後者は、Barn Owl Garden Centerが地元の出店者を農産物市に呼んでいることと、きれいに重なります。近所の店に来ている人は、自分の店にも来る可能性がある。地域の催しは善意の活動であると同時に、集客の設計でもある、という読み方ができます。
ただし、この報告は米国の集計です。日本の商圏、決済の習慣、地域の店舗密度に、同じ比率が当てはまるとは書かれていません。数字そのものではなく、常連の価値を測って設計に使うという考え方の側を持ち帰るのが妥当です。
日本の小規模事業者が持ち帰れること
道具の名前を外しても残るものを、確認できる形にしました。
とくに最初の項目が土台です。誰が何回目の来店なのかを取り出せない状態では、リピート客が増えたかどうかも分かりません。この事例で「前年比40%」と言えているのは、その記録が残っているからです。制度を作る前に、数えられる状態を作る順序になります。
2つ目も同じ性質の話です。登録の入力項目を増やすほど、集まる情報は増えて、登録する人は減ります。この店が選んだのは、電話番号だけという最小の形でした。
この事例から言えないこと
確認できなかったことを残します。売上金額、客数、従業員数、家賃、粗利は取材記事にも公式サイトにも記載がありません。「40%」「7%」「15%」「約20%」の元になった母数と、算出の期間の定義も公表されていません。
リピート客の定義も書かれていません。何回の来店から常連と数えているのか、期間をどう区切っているのかが分からないため、自社の数字と直接比べることはできません。比率を並べても、定義が違えば別のものを比べていることになります。
また、この取材記事はSquareが自社の利用者を取材して公開したものです。同社のサービスが良い結果につながった事例として編集されている前提で読む必要があります。同じ道具を入れれば同じ結果になる、とは書かれていませんし、当サイトも保証できません。日本での提供機能、対応言語、料金の条件も、この取材記事の範囲では確認できません。
出典と注記
この記事は、Squareの公式取材記事「How Multihyphenate Plant Retailer Finds Growth Outside of the Garden」、Barn Owl Garden Centerの公式サイトとその「About Us」ページ、Squareの公式プレスリリース「Square’s 2026 Local Economy Report Reveals the Neighborhood Network Effect」を出典としています。いずれも当事者が自ら公開している一次情報です。他メディアのまとめ記事は使っていません。
数値は原文の数字列のまま書き、通貨や単位の換算はしていません。発言は原文からの訳で、その箇所の内容に沿って訳しています。当サイトはこの店の商品やSquareのサービスを購入・使用して評価したものではありません。確認日は2026年9月11日です。海外の小さな事業者の事例は海外ビジネス成功事例にまとめています。
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