中小企業成功事例/海外事例

端末ごとの月額をやめた飲食店|Bar Etoileが選び直した構成

ロサンゼルスのワインビストロBar Etoileは、端末1台ごとに月額がかかるPOSから乗り換えました。粗利の薄い飲食店で何を基準に選び直し、裏方をどこまで1か所にまとめたのかを、Squareの公式事例と公式ヘルプから整理します。

レジやPOSの費用を考えるとき、多くの人はまず決済手数料の率を見ます。ところが小さな飲食店でじわじわ効いてくるのは、売上に比例しない固定費のほうです。しかもその固定費は、席数でも売上でもなく端末の台数で増える契約があります。ホールにハンドヘルドを1台足す、カウンターにもう1台置く。そのたびに毎月の支払いが増えていく形です。

ロサンゼルスのワインビストロBar Etoileは、まさにその形の契約から乗り換えました。Squareが公開した公式導入事例に、何が負担だったのか、入れ替えたあとに何を1か所へまとめたのかが、経営者自身の言葉で載っています。この記事は、その事例とSquareの公式ヘルプに記載がある範囲だけを扱います。売上や削減額といった数値は公表されていないため、効果の大きさを測る記事ではありません。確認日は2026年10月16日です。

端末が増えるほど、月額も増える契約だった

事例には、以前使っていたPOSの課金の形がはっきり書かれています。端末1台ごとに月額のソフトウェア料金がかかり、在庫の管理のような中核的な機能は別料金のアドオンとして上に積まれ、さらにカード決済のコストが上がっていた、という説明です。共同経営者のジル・バーンハイマーさんは、クレジットカードの手数料と、保有する端末1台ごとに払っていた月額のソフトウェア料金の両方について、費用が増えていくことを懸念するようになった、と語っています。

ここで効いてくるのが、飲食業の利益の薄さです。事例は、フルサービスのレストランは税引前でおおよそ3〜5%という利益率で動いている、と書いています。この水準の商売では、月額の固定費が少し増えるだけで、利益の相当な部分が消えます。しかも端末ごとの課金は、店が良くなる方向の変化、つまり席を増やす、ホールの会計を速くする、といった判断にそのまま費用を結び付けます。やりたいことをするほど月額が増えるという構造です。

日本の店でも事情は似ています。レジの月額が「1店舗あたり」なのか「1端末あたり」なのか、在庫やシフトの機能が標準で入っているのか別売りなのかは、契約書を読まないと分かりません。導入時の見積りには、1台しか置かない前提の金額が並んでいることがあります。

どんな店なのか

Bar Etoileは、ロサンゼルスのMelrose Hillにあるフレンチのネオビストロで、2024年10月に開きました。馬蹄形の亜鉛カウンターを備え、クラシックなカクテル、人の手を加えすぎない造りのワイン、フランス料理を出す店です。開業から数か月のうちにミシュランガイドに掲載され、とくにワインの扱いが評価された、と事例に書かれています。

経営しているのは2人です。ジル・バーンハイマーさんは、自然派ワインの先駆けとなった小売店Domaine LAを立ち上げた人です。もう1人のジュリアン・カーランドさんは、ホールの経験が長く、以前はDomaine LAで働いていました。カーランドさんは「Bar Etoileは、ジルと私が同じホスピタリティの考え方を持っていたからこそ形になった」と述べています。

Bar Etoileの経緯を並べた年表。2009年に共同経営者がワイン小売店Domaine LAを開き、2024年10月にロサンゼルスのMelrose HillでBar Etoileを開業、開業から数か月でミシュランガイドに掲載され、2025年3月にPOSをSquareへ入れ替えた
公式導入事例に記載のある出来事を、時期の順に並べました。レジを入れ替えたのは、店を開いたあとの話です。 出典:Square「How a Michelin Guide LA Wine Bistro Runs on Square」(確認日 2026-10-16)

年表にすると分かることがあります。この店は、開業と同時に道具を選び切ったのではありません。開いて数か月動かしたあと、2025年3月に入れ替えています。何が要るかは営業してみないと決まらない、という順番がそのまま出ています。

小売の経験を持つ2人だという点も、読み落とさないほうがよいところです。ワインを売る仕事では、仕入れ、在庫、単品ごとの売れ方を見る習慣が先にあります。レジの機能のうち在庫とレポートを別料金で買う形に違和感を持ったのは、そこが本業の感覚と合わなかったからだと読めます。ただし、2人がそう語っているわけではありません。事例に書かれているのは、費用への懸念までです。

乗り換えで何を1か所にまとめたのか

入れ替えたあとの構成は、事例に列挙されています。iPadで動かすSquare for Restaurantsを土台に、会計はハンドヘルドとターミナル、厨房への注文はキッチンディスプレイ、人の管理はチーム管理、給与は給与計算の機能、そしてワインの小売販売には請求書の機能を使っています。

注目したいのは最後の1つです。ワインの小売を、飲食の記録と同じ場所で扱っているという点です。ワインの小売を知る2人にとって、店でボトルを売るのは自然な延長です。これを別の仕組みで受けると、売れた本数がどの台帳にも半分ずつ残る状態になります。

乗り換え前と後の契約の持ち方を左右で比べた図。左は端末1台ごとの月額ソフト料金、在庫管理の別料金アドオン、レポートの追加扱い、カード手数料の上昇。右はiPadのSquare for Restaurants、ハンドヘルドとターミナルでの会計、キッチンディスプレイ、チーム管理と給与と請求書を1か所、在庫とレポートが標準で含まれること
事例の記載を、支払いの形と道具の構成に分けて並べました。右側は「この店が使っている機能」であり、どの店でも同じ構成になるという意味ではありません。 出典:Square「How a Michelin Guide LA Wine Bistro Runs on Square」(確認日 2026-10-16)

事例は、以前の事業者が追加料金として請求していた機能、たとえば在庫とレポートが、いまは標準で含まれるようになり、それが薄い利益を守っている、と書いています。ここは金額の話ではなく、契約の形の話として読むのが正確です。いくら安くなったかは公表されていません。公表されているのは、必要な機能を使うために別の契約を足す必要がなくなった、という構造の変化です。

会計の方法についても一文があります。ハンドヘルドの端末でテーブルのそばで支払いを受けると、デザインを重視した客席の中で機械がほとんど目に入らない、という書き方です。小さな店では、レジ台のために使える面積そのものが限られます。

レストランのテーブルで、客が携帯型の端末にカードをかざして支払いをしている様子
テーブルのそばで会計を済ませる形は、レジ台の場所を取らずに済みます。写真はイメージで、Bar Etoileの店内ではありません。 写真: Yan Krukau(Pexels)

給与計算が10分で終わる、という話の前提

事例の中で、時間について具体的に語られているのが給与計算です。カーランドさんは、給与計算はきわめて簡潔で、勤務時間の集計からチップの入力まで含めて、早ければ10分で終えられる、と述べています。オーナーが2人で現場に立つ店にとって、この種の事務作業は営業時間を削る形で効いてきます。

ただし、この10分をそのまま日本の店に当てはめることはできません。前提が違います。Squareの公式ヘルプを読むと、チップの取り込みにはいくつもの条件が並んでいます。取り込めるのはW-2の従業員に対するクレジットカードのチップで、現金のチップは従業員が退勤時などに自分で申告する設定が必要です。カード決済の処理手数料はチップから差し引かれず、勤務時間を記録しない固定給の従業員や請負の契約者は対象外です。有効化できるのはアカウントの所有者だけで、フルサービスの給与計算の契約が前提になります。

つまり10分というのは、チップの慣行と雇用区分がこの仕組みに合っている店の数字です。日本では飲食店でチップを受け取る慣行が一般的ではなく、社会保険や源泉徴収の処理も米国とは別の形です。参考になるのは所要時間そのものではなく、勤怠の記録と給与の計算が同じ場所にあれば、転記の作業が消えるという関係のほうです。

「40杯のつもりが65杯」が見えたとき

事例には、記録が現場の見立てを上書きした一件も載っています。忙しい金曜日に、バーテンダーが自分はマティーニを40杯作ったと見積もったところ、売れた商品の内訳のレポートには65杯と出ていました。事例は、この数字がチームの誇りになったと書いています。

小さな店で記録を取る意味は、たいていこの方向にあります。売上の合計だけを見ていると、何がよく出たのかは記憶に頼ることになります。手が止まらないほど忙しい日は、とくに記憶が頼りになりません。なお、記録で思い込みが外れた事例そのものはサンド店Salt Hank’sの記事で詳しく扱っています。この記事で見たいのは、その数字を読む前に決めておくことのほうです。

記録を読む前に決めておくこと

Squareの公式ヘルプを見ると、商品別の売上レポートで何が分かるのかが書かれています。商品名、売れた数量、値引きと返金の前の総売上、値引きと返金のあとの純売上が並び、期間、店舗、端末の名前、注文の経路などで絞り込めます。このレポートはダッシュボードでしか見られない、という注記もあります。

同じヘルプには、見落とすと数字を読み違える注意点も書かれています。商品名、カテゴリー名、モディファイア名、値引き、税の名称を変えると、レポートでは別の項目として扱われるという記載です。入れ子になったモディファイアの階層は、いまのレポートには反映されません。

これは実務にそのまま響きます。「グラスワイン(赤)」を「赤グラス」に書き換えた月を挟むと、同じ商品が2行に分かれます。マティーニが何杯出たのかを後から数えるつもりなら、先に名前を決め、途中で変えないことが条件になります。レジの入れ替えは、この決め直しをする機会でもあります。移す前に項目の名前と粒度を決めておけば、入れ替えの前後をつないで見られます。指標の定義を先に押さえてから数字を読む考え方は、アクセス解析で見る指標の選び方で扱っている順番と同じです。

日本の小規模事業者が参考にできる点

この事例は、特定の会社の製品を選ぶべきだという話ではありません。日本で使える決済とPOSの組み合わせは別にあり、同じ機能が同じ区分で売られているとも限りません。参考にできるのは、何を基準に比べたかという順番です。

POSやレジの契約を見直す順序を5段階で示した図。1は課金の数え方を数える、2は中核機能が別料金かを確認する、3は記録の項目名を決めてから移す、4は入れ替える時期を決める、5は客前に戻った時間で評価する
事例の記載とSquare公式ヘルプの仕様から、確認する順に並べました。金額の比較は最後ではなく、1と2を数えたあとで初めて意味を持ちます。 出典:Square公式導入事例、Square公式ヘルプ「View item, category and modifiers sales reports」(確認日 2026-10-16)

最初にやることは、月額の数え方を数えることです。端末ごとなのか拠点ごとなのか。ホールにもう1台足したら月にいくら増えるのか。この問いに即答できない契約は、増やす判断のたびに費用が静かに動きます。

次に、中核の機能が標準なのか追加なのかを分けます。在庫、レポート、シフトのように、毎日使うものが別料金になっていると、合計は見積りの数字から離れていきます。Bar Etoileが不満を持ったのはこの形でした。

三つ目は記録の準備です。項目の名前を決めてから移します。順番を逆にすると、入れ替えの前後で集計が切れます。

四つ目は時期です。この店が切り替えたのは開業の数か月後でした。年末やイベントの直前に入れ替えると、覚え直しと繁忙が重なります。

最後が評価の仕方です。削れた月額だけで判断すると、裏方の作業に取られていた時間が計算に入りません。カーランドさんは、オーナーとして使っていて気に入っているのは、それが背景に退いて、目の前にあるものに集中させてくれるところだ、と語っています。ここでいう目の前とは客のことです。なお、同じ道具を入れれば同じ時間が戻るとは限りません。何が戻るかは、いま何に時間を取られているかで決まります。

公表されていないこと

確認できなかったことを残します。Bar Etoileの売上、客数、客単価、ワインの小売が売上に占める割合は公表されていません。乗り換えによって月額がいくら下がったのか、カード決済の手数料率がどう変わったのかも、金額や率としては出ていません。導入にかかった費用、設定の期間、スタッフが慣れるまでの日数も記載がありません。

ミシュランガイドについては、掲載されたという記載までで、この記事では区分を断定しません。マティーニの一件は、特定の金曜日の1人のバーテンダーの話であり、見立てのずれがいつもこの幅になるという意味ではありません。給与計算の10分も、この店の条件のもとでの記載です。

公式サイトで確認できたのは、予約を外部の予約サービスで受けていること、料理と飲み物のメニューを掲げていることまでです。営業時間や席数は、今回見た範囲では読み取れませんでした。事例には、メニューを変えていく予定と、ゲストシェフを招く計画があると書かれています。

出典と注記

この記事は、Squareが公開した公式導入事例、Squareの公式ヘルプ2件、Bar Etoileの公式サイトを出典にしています。いずれも、プラットフォームまたは事業者が自ら公開している一次情報です。数値は原文の表記に沿い、単位や通貨の換算はしていません。機能と条件は改定されるため、検討する際は各ページの現在の記載を確認してください。確認日は2026年10月16日です。

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