デジタルマーケティングとWebマーケティングは、しばしば同じ意味で使われます。実際に重なる部分は多いのですが、扱う範囲が違います。この記事では2つの違いを整理したうえで、デジタルマーケティングの代表的な施策と、中小企業が現実的に始められる範囲を解説します。
2つの違いは「接点の範囲」
Webマーケティングは、Webサイトを中心とした接点を扱います。検索、Web広告、SNS、メールなど、ブラウザやアプリの中で完結する領域です。
デジタルマーケティングは、それに加えてWeb以外のデジタル接点も含みます。実店舗のPOSデータ、会員カードの利用履歴、アプリの通知、デジタルサイネージ、コールセンターの記録などです。
つまりデジタルマーケティングは、Webマーケティングを含むより広い概念です。違いを一言で言えば、Webマーケティングが「経路」を扱うのに対し、デジタルマーケティングは「経路とデータの統合」まで扱います。
この違いが実務で効いてくるのは、オンラインとオフラインの両方に顧客接点がある事業です。たとえば実店舗を持つ小売業では、Web上の行動と店頭での購買を結びつけられるかどうかで、打てる施策が変わります。
定義の刷新が示す方向
日本マーケティング協会は2024年に、34年ぶりにマーケティングの定義を刷新しました。同協会は刷新の背景として、社会全体のデジタル化が急速に進展し、AI、IoT、ビッグデータなどの技術を用いたDX(デジタルトランスフォーメーション)によるマーケティング施策が広がっていることを挙げています。
さらに、デジタル技術の実装を通して顧客に関する膨大なデータが蓄積され、顧客の分析を目的としたテクノロジーの活用も高度化していると説明しています。
これは、デジタルマーケティングが特別な分野ではなく、マーケティングの前提そのものになったことを示しています。「デジタルをやるかどうか」ではなく、「蓄積されるデータをどう扱うか」が論点になっている、と読めます。
代表的な施策
デジタルマーケティングの施策は、データの流れに沿って3つに分けると理解しやすくなります。
集める施策は、顧客との接点を作り、そこから情報を得る取り組みです。Web広告、SEO、SNS、アプリ、会員登録、店頭のデジタル端末が該当します。ここで得られるのは、閲覧履歴、購買履歴、属性情報などです。
つなぐ施策は、別々の場所にあるデータを結びつける取り組みです。Webの行動データと購買データを同じ顧客のものとして扱えるようにする作業がこれにあたります。CRM(顧客管理)やMA(マーケティングオートメーション)と呼ばれるツールが担う領域です。
活かす施策は、統合したデータをもとに、相手に応じた対応をする取り組みです。過去の購入内容に応じたメール、離脱した人への再アプローチ、利用状況に応じた案内などが該当します。
データを扱う前提
データを活用する話は、ツールの導入から始まりがちですが、順番が逆です。先に必要なのは、何を見れば判断できるかを決めることです。
Googleアナリティクスの公式ヘルプでは、データがディメンション(属性)と指標(数量的な測定値)で構成されると説明されています。この構造はどのツールでも同じで、「誰が・どこで・何を」という属性と、「何回・いくら」という量の組み合わせで現実を記述します。
自社にとっての判断材料が「どの経路から来た人が、何件問い合わせたか」であれば、必要なのは流入元というディメンションと、問い合わせ数という指標だけです。高機能なツールを入れる前に、この最小構成を確実に取れる状態を作るほうが先です。
中小企業が現実的に始められる範囲
大企業向けの事例には、複数のシステムを統合した大規模な仕組みが並びます。同じことを中小企業がいきなり実現する必要はありません。
現実的な出発点は、顧客リストを一箇所にまとめることです。名刺、問い合わせフォーム、購入履歴、メール配信リストが別々の場所に散らばっている状態を解消するだけで、できることは大きく増えます。
次が、Web上の行動と問い合わせのつながりを見えるようにすることです。どの経路から来た人が問い合わせたのかが分かれば、予算配分の判断ができます。
その先に、メールの出し分けや、行動に応じた自動化があります。順番を飛ばしてツールを導入すると、入れたものの使われない状態になりがちです。
個人情報の扱いに関する注意
デジタルマーケティングはデータを扱う以上、個人情報の保護と切り離せません。取得の目的を明示すること、同意なく第三者へ提供しないこと、保管と削除の方針を決めることは、施策の前提条件です。
自社サイトでどの情報を取得しているかを把握し、プライバシーポリシーに書かれている内容と実態が合っているかを確認しておく必要があります。ここが曖昧なままデータ活用を進めると、後から手戻りが発生します。
この記事のまとめ
デジタルマーケティングは、Webマーケティングを含むより広い概念で、Web以外のデジタル接点とデータの統合まで扱います。
日本マーケティング協会の定義刷新の背景にも、デジタル化とデータ蓄積の進展が挙げられています。実務では、集める・つなぐ・活かすの3段階で整理し、中小企業はまず顧客リストの一元化から始めるのが現実的です。
ツールを導入する前の確認
デジタルマーケティングの相談では、CRMやMAといったツールの選定から入ることが多くあります。しかし導入しても使われないケースが後を絶ちません。原因は決まっています。
運用する人が決まっていないこと。ツールは設定して終わりではなく、配信内容を作り、結果を見て直す担当が要ります。
入れるデータが揃っていないこと。顧客情報が各所に散らばったままでは、ツールに読み込ませる元データがありません。
判断に使う指標が決まっていないこと。何を良しとするかが決まっていなければ、機能を使う理由が生まれません。
この3点を先に整えておけば、ツールは小さなものでも機能します。逆に、3点が欠けたまま高機能なものを入れると、費用だけが残ります。
オンラインとオフラインをつなぐ実務
実店舗とWebの両方を持つ事業では、両者をつなぐことで打ち手が増えます。
現実的な方法は3つあります。会員番号やアプリで同一人物と分かるようにすること。来店予約や取り置きをWebで受けること。店頭で使えるクーポンをWebから配ることです。
どれも大掛かりな仕組みを必要とせず、既存のツールの組み合わせで実現できます。まずはひとつの導線で「Webの行動が来店につながった」ことを確認できる状態を作り、その効果を見てから広げます。
用語の整理
この分野は似た言葉が多く、社内の会話がずれる原因になります。実務でよく出るものを整理します。
**DX(デジタルトランスフォーメーション)**は、デジタル技術を使って事業のやり方そのものを変えることを指します。マーケティングの施策より広い概念で、業務プロセスや組織のあり方まで含みます。
**MA(マーケティングオートメーション)**は、見込み客への接触を自動化する仕組みです。メールの出し分け、行動に応じた通知、見込み度合いの点数付けなどを担います。
**CDP(カスタマーデータプラットフォーム)**は、各所に散らばった顧客データを集約する仕組みです。「つなぐ施策」を担当します。
**CRM(顧客関係管理)**は、顧客情報と取引履歴を管理し、関係を維持するための仕組みです。
これらは役割が重なる部分があり、製品によって呼び方も違います。名前ではなく、何ができるかで選ぶことが重要です。
効果を測るときの注意
デジタルの施策は数字が取れる一方、数字が取れる部分だけで判断すると誤ります。
たとえば、店頭での購入が最終成果である事業では、Web上のクリック数がいくら増えても、来店が増えていなければ意味がありません。逆に、Web上の数字が動かなくても、認知が広がって指名検索が増えていることもあります。
測れる指標と、事業として重要な指標を分けて考える必要があります。そのうえで、両者をつなぐ中間の指標(来店予約、資料請求、指名検索の回数など)を置くと、判断の材料が揃います。
出典と注記
定義刷新の背景は公益社団法人日本マーケティング協会の公表内容、ディメンションと指標の説明は Google アナリティクス ヘルプに基づきます。施策の3分類と着手の順番は、当社が支援の現場で用いている整理であり、公的に定められた区分ではありません。
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