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東南アジアの買い物がAIを通り始めた。243百万人が使う市場

Google・Temasek・Bain & Companyのe-Conomy SEA 2026は、東南アジアで生成AIを使う人が243百万人になったと公表しました。買い物の入口がどう変わるのか、日本の実務者が確認できる点まで整理します。

東南アジアで生成AIを使う人が243百万人になりました。働いている人の58%にあたります。Google、Temasek、Bain & Company が2026年10月21日に公表した年次報告「e-Conomy SEA 2026」の数字です。同じ報告は、この地域のデジタル経済が前年比17%で伸び、2026年に368 billionドルのGMV(流通取引総額)へ達すると見込んでいます。

先に、数字の性格をはっきりさせておきます。368 billionドルは2026年の見込み値であって、確定した実績ではありません。利用者数も、報告書が調べた範囲での推計です。それでも実務の側から見逃せないのは、利用者が何人いるかより、買い物の入口そのものが動いていることのほうです。報告書は、eコマースで画像や音声を使った商品探しとアプリ内のアシスタントが広がったこと、旅行ではソーシャルメディアを抜いて生成AIが2番目に使われる道具になったことを、分野ごとの記述として挙げています。

この記事では、報告書に書かれている数字をそのまま追いながら、分野別に何が変わったのかを整理し、東南アジア向けの導線を持っている日本の実務者が、いま自社で確認できる項目まで落とします。金額は報告書の表記のままで、円には換算していません。

11回目の年次報告が、今年は「AIの経済」を主題にした

e-Conomy SEA は、Google、Temasek、Bain & Company が共同で毎年出している東南アジアのデジタル経済の報告です。2026年版は11回目にあたり、副題は「Building the intelligent economy」です。報告書本体は共同サイトで配布され、国別の版もあわせて公開されています。

今年の中心にあるのは生成AIの普及の速さです。報告書は、243百万人が生成AIを使っており、これは働いている人の58%にあたると述べています。広がり方については、モバイルインターネットが普及したときの4倍の速さだとしています。Bain & Company 側のまとめでは、この243百万人は SEA-6 と呼ぶ6カ国の数字で、普及に要した期間は3年未満です。

利用の深さについても記述があります。生成AIを使っている人のうち、半数が週に1回は使い、5分の1近くが毎日使っています。ただし1人あたりの利用量は米国の水準のおよそ10%にとどまり、生成AIに料金を払っている人は人口の1%から2%ほどです。広く使われているが、まだ課金には至っていないという段階です。マーケティングの観点では、当面の接点は有料契約の内側ではなく、無料で使われている面に生まれていることになります。

報告書は、AIの経済を測る新しい物差しとしてトークンを置き、エージェント型の取引への信頼が高まることで、今後5年で域内のAI利用が60倍になると見込んでいます。2030年までの見通しとして示されている数字です。

5つの分野は、すべて前年を上回った

報告書は、この地域の主要5分野について規模と伸びを示しています。規模の数え方は分野ごとに違い、GMV(流通取引総額)、売上、GTV(取扱総額)が混在しています。そのため、規模を横に並べて大小を比べることはできません。

分野 報告書の表記 報告書が挙げているAIの効き方
eコマース $226B GMV 画像や音声での商品探し、アプリ内アシスタントが複雑な買い物を支える
オンライン旅行 $59B GMV 行程づくりで、生成AIがソーシャルメディアを抜いて2番目の道具に
オンラインメディア $44B revenue フィードの個別化と広告の関連性向上。コマースメディアは $4 billion の市場へ
配車・フードデリバリー $40B GMV 需要の予測、経路の最適化、相乗りなどで利用者の時間を節約
デジタル金融サービス $1,650B GTV 即時の不正検知、与信の裾野拡大、個別化した資産の提案
5分野の前年比成長率の棒グラフ。オンラインメディアが22%増で最も高く、eコマース18%増、デジタル金融サービス16%増、配車・フードデリバリー15%増、オンライン旅行10%増と続く
棒は前年比の伸びだけを並べたものです。左側に添えた金額は数え方が分野ごとに違うため、棒の長さは成長の速さであって規模の順位ではありません。 出典:Google「Southeast Asia digital economy to hit $1 trillion by 2035」(確認日 2026-10-23)

伸び率でいちばん高いのはオンラインメディアで、前年比22%です。規模が最も大きいデジタル金融サービスも16%伸びています。どの分野も前年を上回ったという点が、今年の報告のいちばん素直な読み方になります。

eコマースについては、効果の記述も添えられています。個別化された体験が、自然な形でコンバージョンを10%押し上げ、注文量については最大で75%の上振れが見られたという書き方です。これは報告書が観測した範囲の値であり、どの事業者でも同じ結果になるという意味ではありません。オンラインメディアでも、質の高いエンゲージメントが10%から20%上がったとされています。

旅行では、検索の次に生成AIが来ている

分野別の記述のなかで、日本の実務者にとっていちばん確認しておきたいのは旅行です。報告書は、旅行の計画でいまも最も使われているのは従来の検索エンジンだとしたうえで、複雑な行程を組むときの道具として、生成AIがソーシャルメディアを抜いて2番目になったと述べています。

ここで読み違えたくないのは、検索が置き換わったとは書かれていない点です。順位としては検索が先頭のままで、変わったのは2番目の顔ぶれです。つまり、いま起きているのは検索からの移行ではなく、行程づくりという手間のかかる作業の相談先が入れ替わったことだと読めます。

この違いは打ち手に影響します。検索の順位を落とさない作業はこれまでどおり必要で、そのうえに、生成AIが要約しやすい形で情報を置く作業が増える、という順番になります。生成AIの画面で引用されるための考え方は、GEO対策として実際に行うことの記事で扱っています。

東南アジアの屋外の市場で、携帯電話を並べた露店に人が集まっている様子
東南アジアの市場の様子です。報告書の画面やグラフではなく、記事の内容に合わせたイメージ画像です。 写真: Quang Nguyen Vinh(Pexels)

代理で買わせることに、4人に3人が前向きという回答

報告書がもう一方で扱っているのが、エージェント型の取引に対する受け止め方です。日常の自動化はすでに定着しており、価格の追跡のような機能を使っている人は72%にのぼります。そのうえで、AIエージェントに価格の比較と取引の実行まで任せてよいと答えた人が75%でした。

背景として、AIへの信頼そのものが上がっていることが示されています。1年前よりAIを信頼していると答えた人は62%で、その理由は実績が積み上がったこと(56%)、使い慣れてきたこと(55%)、出力が正確だったこと(53%)の順です。使ってみた結果が根拠になっている、という回答の並びです。

ただし、任せることへの条件も同時に挙がっています。強固なプライバシー保護(44%)、AIにできることとできないことがはっきり示されていること(36%)、エージェントが行った取引を取り消せること(30%)です。

左にAIを信頼する理由として実績56%、慣れ55%、正確さ53%、右に求める条件としてプライバシー保護44%、できることの明示36%、取引の取り消し30%を並べた左右比較図
左は消費者の経験から出てきた理由、右は提供する側が用意しなければならない条件です。回答は複数選択のため、各欄の合計は全体と一致しません。 出典:Google「Southeast Asia digital economy to hit $1 trillion by 2035」(確認日 2026-10-23)

右側の3つは、いずれも事業者が画面と規約で用意するものです。取り消しの手順が見当たらない、何ができるのか書かれていない、個人情報の扱いが分からない。この3つが揃っていない状態では、前向きだと答えた75%の層は実際には進みません。エージェントを前提にした導線をプラットフォーム側がどう整えているかは、Microsoftが示したエージェント型コマースへの備えの記事と、TikTokがBuy DirectとTTANで示した変更の記事で扱っています。決済まで含めた仕様の動きは、Googleのユニバーサルカートの記事が近い内容です。

成長を続けるために挙げられた4つの条件

報告書は、見込みどおりに利用が増えるためには、地域の側が4つの条件を満たす必要があるとしています。市場の成長を無条件の前提にしていない点が、今年の報告の特徴です。

条件 報告書が挙げている内容
エージェント活用と採算 1問1答ではなく複数工程の作業を任せる使い方へ。あわせて運用費用が下がり、実利が見えること
物理インフラの拡張 計算需要に合わせ、今後5年でデータセンターの容量をおよそ3倍にする必要がある
モデルと電力の効率 シンガポールのDigital Infrastructure Billに基づくPUE規則、マレーシアのCRESSのような枠組み
域内の共通ルール 2026年11月のASEAN DEFA。地域全体を対象にした世界初のデジタル貿易の枠組みとされる

Bain & Company 側の記述では、直近12か月のデジタルインフラへの投資は $20 billion に達し、容量の追加は年52%を超える勢いだとしています。電力と用地の制約があるなかで、この拡張が続くかどうかが見通しの前提になっています。

4つ目の ASEAN DEFA は、日本側の実務にも直接関わります。域内の規則が揃えば、国ごとに違う手続きを前提に組んでいた販売・配送・決済の設計を、見直す余地が出てきます。発効の時期と対象範囲は、公表され次第あらためて確認する項目です。

日本の実務者が、いま自社で確認できること

ここからは報告書の外に出ます。当社の整理として、東南アジア向けの導線を持っている場合に点検できる項目を挙げます。実施によって成果を約束するものではなく、報告書が示した消費者側の条件を、自社で確かめられる作業に置き換えたものです。

最初に見るのは、商品や料金の情報が機械に読める形で出ているかどうかです。会話型の画面やエージェントが扱うのは、人間向けに整えた画像や装飾ではなく、構造化された記述です。価格、在庫、配送の条件、対応している国。この4つが本文と構造化データの両方に揃っているかを確認します。

2つ目は、現地語の一次情報を自社で持っているかどうかです。機械翻訳に任せている場合でも、どの範囲が翻訳で、最終更新がいつなのかを画面に出しておきます。生成AIが参照するのは公開されている記述なので、古い条件が残っていると、そのまま読者へ渡ります。

3つ目は、会話で聞かれる質問に本文で答えているかどうかです。用途、対象、そしてできないこと。この3つは、比較の場面で必ず問われます。できないことを書いていないページは、エージェントが候補から外す判断材料を持てません。

4つ目は、取り消しと返金の手順です。報告書で30%が条件として挙げていた項目で、代理で注文が入ったときに誰が対応するのかまで決めておく必要があります。

5つ目は計測です。報告書が分野ごとに違う物差し(GMV・売上・GTV)を使っているのと同じことが、自社の中でも起きます。流入、申込、取引のどれを数えているのかを分野ごとに揃えておかないと、施策の良し悪しを比べられません。

東南アジア向けの導線を点検する6項目のチェックリスト。商品情報の構造化、現地語の一次情報、会話で聞かれる質問への回答、取り消しと返金の手順、計測の定義、域内の制度変更の確認
報告書が挙げた消費者側の条件を、自社で確認できる作業へ置き換えた6項目です。並べ方は当社によるもので、報告書に書かれている推奨ではありません。 出典:Bain & Company「e-Conomy SEA 2026: Building the intelligent economy」(確認日 2026-10-23)/並べ方は当社

この報告書から言えないこと

扱いを間違えないために、書かれていないことも残しておきます。

第一に、368 billionドルも、2035年に1 trillionドルを超えるという見通しも、将来の見込みです。前年比17%という伸びも2026年の推計で、確定した決算値の集計ではありません。

第二に、示されているのは地域全体の姿です。報告書は国別の版も出していますが、本記事では地域全体の数字だけを扱っています。国ごと、業種ごとの差はここからは読めません。

第三に、消費者の回答は意向です。75%が代理購入に前向きだと答えたことと、実際にその割合が代理購入を行うことは別です。意向と行動の差は、自社の数字でしか確かめられません。

第四に、eコマースで示されたコンバージョンの押し上げや注文量の上振れは、報告書が観測した範囲の値です。同じ施策を行えば同じ結果になるという意味ではなく、扱う商材、価格帯、運用の体制によって変わります。

要点の整理

e-Conomy SEA 2026 は、東南アジアで生成AIを使う人が243百万人、働いている人の58%になったと公表しました。普及の速さはモバイルインターネットの4倍とされています。地域のデジタル経済は前年比17%で伸び、2026年に368 billionドルのGMVに達する見込みで、2035年には1 trillionドルを超える軌道にあるとしています。

5つの分野はすべて前年を上回り、伸び率はオンラインメディアの22%が最も高く、規模の最も大きいデジタル金融サービスも16%伸びました。買い物の入口では、画像や音声を使った商品探しとアプリ内アシスタントが広がり、旅行の行程づくりでは生成AIがソーシャルメディアを抜いて2番目の道具になっています。

エージェント型の取引については、価格の追跡のような自動化をすでに72%が使い、価格比較と取引の実行まで任せてよいと答えた人が75%でした。一方で、プライバシー保護(44%)、できることとできないことの明示(36%)、取引の取り消し(30%)が条件として挙がっています。この3つは、事業者が画面と規約で用意する部分です。

日本側で先に動かせるのは、商品情報を機械に読める形で出すこと、現地語の一次情報と更新日を自分で持つこと、できないことまで本文に書くこと、取り消しと返金の手順を公開すること、そして計測の定義を分野ごとに揃えることです。いずれも域内の制度が整うのを待たずに着手できます。

出典と注記

本記事の数値は、Google The Keyword「Southeast Asia digital economy to hit $1 trillion by 2035」、Bain & Company「e-Conomy SEA 2026: Building the intelligent economy」、および Google・Temasek・Bain & Company の共同サイト e-Conomy SEA にもとづきます(確認日 2026年10月23日)。

数値は公表値の表記のまま記載しており、通貨と単位の換算は行っていません。報告書の見込み値は毎年更新されるため、最新の値は公表元のページをご確認ください。本記事で示した確認項目は、報告書が挙げた消費者側の条件を当社が作業へ置き換えたものであり、実施によって成果を保証するものではありません。効果は、扱う商材、対象の国、体制、継続期間によって変わります。

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