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AIが買い物をする時代へ。Microsoftが示した3段階の備え

Microsoft Advertisingは、AI経由の小売トラフィックが前年比693%伸び、AIとAIエージェントが世界の小売売上の20%に影響したと公表しました。同社が示す3段階の備えを、日本の実務者向けに整理します。

商品を探し、比較し、決済まで済ませるのが人ではなくAIだとしたら、自社の商品情報はそのAIに正しく読まれているでしょうか。Microsoft Advertisingは2026年8月21日、AIを介した買い物がどこまで広がったかを数値で示し、企業が取るべき備えを3つの段階に整理した記事を公開しました。同社が挙げた数値は、AI経由の流入が小売トラフィックの中で最も伸びた経路であり前年比693%だったこと、AIとAIエージェントが世界の小売売上の20%、金額にしておよそ262 billion米ドルに影響したこと。買い手が人からAIへ移りつつあるという主張の根拠として、これらが並べられています。発表の中身と、日本の実務者が今日から着手できる部分を整理します。

発表の内容:売る相手が変わるという指摘

記事を書いたのは、同社でAIコマースの製品マーケティングを統括するShirley Chen氏(Senior Director, Product Marketing, AI Commerce)です。冒頭で示されているのは「AIを介した買い物の台頭は、モバイル以来のデジタルコマース最大の変化であり、あなたが誰に売っているのかを変える」という主張でした。売り方の変化ではなく、売る相手が変わるという整理の仕方が、この記事の骨格になっています。

その根拠として置かれているのが、AIアシスタントとAIエージェントは構造化されたデータと事実にもとづいて動く、という指摘です。人間の買い物客は写真やブランディングに反応しますが、エージェントは商品フィードに書かれた属性を読んで判断します。つまり、これまで「見せ方」に投じてきた工夫の一部が、そのままでは相手に届かなくなる。だからこそ、完全で正確な商品データが最も価値のあるマーケティング資産になる、というのが同社の主張です。

この見立ては、検索エンジン向けの最適化とは前提が違います。検索の場合、順位が上がったページを最後に読むのは人でした。エージェント型のコマースでは、候補の絞り込みそのものを機械が行い、人はその結果を受け取ります。商品名の表記ゆれ、在庫状態の反映漏れ、返品条件の未記載といった、これまで「読めば分かる」で済んでいた不備が、そのまま候補から外れる理由になり得ます。

公表された数値をどう読むか

同社が公開している数値を整理します。まず、直近のホリデーシーズンにおいて、AIは小売トラフィックの供給源として最も成長が速く、前年比693%の伸びでした。同じ期間に、AIとAIエージェントは世界の小売売上の20%に影響し、金額ではおよそ262 billion米ドルにあたるとされています。消費者側の意識としては、72%が今後1年以内に小売事業者からAIを使った買い物体験が提供されることを期待しているという数値が挙げられました。さらに、AI経由で訪れた人は購入意欲が固まった状態で到達するため、AI以外の流入と比べてコンバージョン率が42%高いとしています。

同社の公式ソリューションページには、別の切り口の数値も置かれています。訪問あたりのAI起点の売上は前年比で84%増加し、ブラックフライデーのような繁忙期にはAI起点のトラフィックが前年比800%に達したという記載です。ここで注意したいのは、693%と800%が同じ指標ではないことです。前者はホリデーシーズン全体、後者はピーク時点の値として書かれており、測定の窓が異なります。数値を引用するときは、どの期間の、何の値なのかを合わせて持ち出す必要があります。

そしてもう一つ、これらはすべてMicrosoftが自社の広告事業に関連して公表した値であり、第三者による検証を経た統計ではありません。傾向の大きさを掴む材料としては有用ですが、そのまま自社の予測値に使うべき性質の数字ではない、という前提で扱うのが妥当です。

数値カード。AI流入の伸び693%、AI経由のコンバージョン率の優位42%、AI体験への期待72%
693%はホリデーシーズンのAI経由の小売トラフィックの前年比、42%はAI経由の訪問者が非AI経由より高いコンバージョン率、72%は今後1年以内にAIを使った買い物体験を期待する消費者の割合です。 出典:Microsoft Advertising「How businesses win when AI does the shopping」(確認日 2026-08-22)

Microsoftが示した3つの段階

同社は、事業者が取るべき行動を3段階に整理しています。

第1段階は「見つけてもらう」です。原文では「AIがあなたを推薦できるようになる前に、AIはあなたを見つけて理解する必要がある」と書かれ、その出発点はMicrosoft Merchant Center(MMC)に置くAI対応の商品フィードだとされています。エージェントが何を売っているのかを識別し、信頼できる状態にすることが最初の仕事だという位置づけです。

第2段階は「選ばれる」です。BingとCopilot上のAIネイティブ広告で意思決定の瞬間に接触し、Copilot Checkoutによって会話から離れずに購入できるようにし、さらに自社サイトにはブランドの声と商品に合わせて調整したBrand Agentを置いて、すべての顧客にパーソナルショッパーを付ける、という組み立てです。

第3段階は「何が効いているかを知る」です。Microsoft ClarityのAI Visibility insightsが、どのAIプラットフォームが自社を引用しているか、どのグラウンディングクエリやトピックと自社ブランドが結びつけられているか、競合と比べてどうか、AI経由で来た買い物客がクリック後に何をしたかを示すとされています。順位という単一の指標がない領域で、引用されているかどうかを可視化する道具を用意した形です。

3段階の手順図。見つけてもらう、選ばれる、効いているものを知るの順に並ぶ
発表に記載された3段階を順に並べました。出発点が広告ではなく商品フィードの整備に置かれている点が特徴です。 出典:Microsoft Advertising「How businesses win when AI does the shopping」(確認日 2026-08-22)

Copilot Checkoutの条件と設計

第2段階の中核にあるCopilot Checkoutについて、公式ソリューションページの記載を確認しておきます。買い物客はMicrosoft Copilotの中で購入を完了できますが、その際も販売者はmerchant of record(記録上の販売者)のままで、既存の決済と配送の仕組みを維持できるとされています。取引の主体を奪わない設計であることが、繰り返し強調されています。

利用条件は明確に絞られています。英語で販売し、米国の買い手を対象とし、通貨は米ドルのみ。MMCのアカウントとUCPに準拠したフィードを持つこと。加えて、Microsoftのプライバシーおよび責任あるAIの基準と、決済サービス提供者(PSP)のセキュリティ要件を満たすことが求められます。連携パートナーとしては、Store Sync連携のPayPal、管理画面で制御できる自動登録のShopify、Agentic Commerce SuiteのStripeが挙げられています。

費用面では、MicrosoftはCopilot Checkoutの取引に対して手数料もアフィリエイト報酬も取らないと明記されています。一方で、現時点では1販売者につき1つのPSPしかサポートしないという制約も書かれています。導入作業としては、MMCで返品ポリシー・カスタマーサポート・Copilot Checkoutといったストア設定を追加し、フィードにネイティブ決済の対象可否、商品の警告表示、Merchant Item IDといったUCPの属性を追加する、という順序が示されています。

Copilot Checkoutを中心に、販売者の位置づけ、対象の買い手、必要な準備、連携パートナー、手数料、制約の6要素を結んだ関係図
公式ソリューションページに書かれている利用条件と設計を整理しました。日本国内向け販売がそのまま対象になるとは記載されていません。 出典:Microsoft Advertising「Agentic Commerce」(公式ソリューションページ)(確認日 2026-08-22)

日本の実務者が参考にできる点

第一に、優先順位の置き方です。この発表が最初に求めているのは広告予算でも新しい配信面でもなく、商品データの正確さでした。日本でも、商品名の表記、在庫の反映、返品条件、サポート窓口といった項目は、担当者が分かっているという理由で更新が後回しになりがちです。エージェントに読まれる前提に立つと、これらは在庫表の整備ではなくマーケティングの仕事になります。まず自社のフィードで、未入力のまま放置されている属性を洗い出すことが出発点です。

第二に、今すぐ使えるものと使えないものの切り分けです。Copilot Checkoutの対象条件は英語・米国の買い手・米ドルに限られており、日本国内向けの販売がそのまま対象になるわけではありません。ただし、フィードの整備、返品条件やサポート窓口の明示、ブランドの説明を機械が読める形で置くことは、対象国かどうかに関係なく効きます。制度が届くのを待つ間にできる準備は、すでにはっきりしています。

第三に、計測の考え方です。AI経由の流入は、従来の検索順位という指標では捉えられません。どのAIに引用されているか、どの話題と結びつけられているかを見る道具が用意され始めている段階です。まずは自社サイトのアクセス解析で、AIサービスからの参照がどれだけあるかを分けて見られる状態にしておくと、後から施策の効果を検証できます。

留意点として、ここで挙げた数値はいずれもMicrosoftの公表値であり、同社の事業領域における観測に基づきます。他のプラットフォームで同じ比率になるとは限りません。また、AI経由の訪問者のコンバージョン率が高いという結果は、購入意欲が固まった段階でAIが人を送っているという構造の反映でもあり、AIを使えば成果が上がるという因果を示すものではありません。施策の判断には、自社の計測値を並べて見る必要があります。

出典と注記

この記事はMicrosoft Advertisingの公式ブログと公式ソリューションページのみを出典とし、比率・金額は原文の数字列のまま記載しました(262 billionという表記も原文どおりです)。為替換算は行っていません。日本国内でのCopilot Checkoutの提供可否や時期は、この記事の出典からは確認できませんでした。

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