企業のアカウントでTikTokに動画を出すとき、アプリに並んでいる流行曲をそのまま選ぶことはできません。TikTokは商用音楽ライブラリ(CML)という別のライブラリを用意しており、公式ヘルプは一般のライブラリを商用利用することはできないと明記しています。商用音楽ライブラリは、商用利用が許可されている100万もの楽曲を集めたグローバルなミュージックライブラリだと説明されています。
ここで取り違えやすいのが対象の広さです。必要になるのは広告を出すときだけではありません。公式ヘルプは、ユーザー動画とのデュエット、リアクション、リミックスといったオーガニックコンテンツも、動画広告やブランドコンテンツと並べて挙げています。つまり、お金を払って配信していない通常の投稿でも対象に入ります。
もうひとつ見落としやすいのが、ライセンスが届く範囲です。商用音楽ライブラリの利用規約は、楽曲を含む動画を投稿・共有できるのはTikTokの中だけで、TikTokの外での商用利用は認められないと書いています。同じ動画を他のSNSへ転載する運用では、音の扱いを分けて考える必要があります。
この記事では、TikTokのビジネスヘルプセンターと商用音楽ライブラリの利用規約、ブランドコンテンツポリシーをもとに、アカウント種別で変わる楽曲の選択肢、商用に当たるかどうかの判定材料、ライセンスの範囲、楽曲の探し方、開示設定の選び方を順に整理します。アプリの表示は日本語版の案内に合わせています。画面の文言は改定されることがあるため、社内の手順書に書き写すときは実機の表記も見てください。
ビジネスアカウントに切り替えると、楽曲の選択肢が変わる
公式ヘルプは、アカウント種別によって「サウンドを追加」の画面が変わると説明しています。ビジネスアカウントで新しい動画を作ると、表示されるのは商用音楽ライブラリのサウンドだけです。画面には商業利用可能な音楽であることが示され、利用者が絞り込みを操作する必要はありません。
個人アカウントの場合は逆になります。初めはすべてのサウンドが表示され、「サウンド」のメニューから「商業利用可能な音楽」を自分で選ぶことで、商用に使える楽曲だけに絞られます。選ばなければ一般の楽曲が混ざった一覧のままです。
この差は、運用の設計に直結します。投稿する担当者が複数いる体制では、個人アカウントのまま運用すると、切り替え忘れが権利の問題として残ります。ビジネスアカウントは、選べる範囲があらかじめ狭められているぶん、担当者の判断に頼らずに済みます。アカウント種別の決め方と開設の手順はTikTok企業アカウントの始め方|開設から投稿・分析までを解説で扱っています。
反面、ビジネスアカウントでは流行している一般の楽曲が候補に入りません。「その曲に乗る」こと自体を企画の軸にしていた場合、企画の立て方から変わります。ここを後から知ると、撮影済みの素材を使えない事態になります。楽曲の制約は、台本を書く前に確認する項目です。
「広告だけ」ではない。オーガニック投稿も対象に入る
公式ヘルプは、商用音楽ライブラリが必要になる活動を挙げています。並んでいるのは次の3種類です。
| 公式が挙げている活動 | 具体的に何を指すか | 企業の運用で当たる場面 |
|---|---|---|
| オーガニックコンテンツ | ユーザー動画とのデュエット、リアクション、リミックス | 顧客の投稿にデュエットで答える、他の投稿へリアクションを付ける |
| 動画広告 | 配信する動画広告 | 認知目的の配信、商品ページへの誘導 |
| ブランドコンテンツ | 第三者のブランドや商品・サービスの宣伝やレビュー | クリエイターへの依頼、タイアップ投稿 |
ここで押さえるのは、オーガニックコンテンツが明示的に入っていることです。広告費を出していない通常の投稿でも、企業のアカウントから発信する以上、商用の活動として扱われます。広告かどうかではなく、商用かどうかで線が引かれています。
あわせて、公式ヘルプには他の利用者の楽曲やライセンス音楽を使う場合の注意も書かれています。自社の法務部門と相談のうえ、適切な許可を得ていることを確認するようにという案内です。つまりTikTokは、商用音楽ライブラリの外側については許諾を与えておらず、確認の責任は使う側に置かれています。広告として配信する場合の費用の仕組みはTikTok広告の費用はいくら?種類・課金方式・予算を解説にまとめています。
商用かどうかは、公式が挙げる3つの材料で見る
では、自社の投稿が商用に当たるかどうかは何で判断するのか。TikTokは商用コンテンツ開示設定の説明ページで、動画が商用コンテンツとして扱われる材料を3つ挙げています。金銭的インセンティブ、ブランドメンション、特定商品の推薦です。
金銭的インセンティブは、金銭や恩恵を受けられるもの全般とされ、例としてURL、プロモーションコード、ハッシュタグやメンションを使ったコラボレーション、QRコード、オーバーレイ広告が挙がっています。ブランドメンションは、ハッシュタグやタグにブランド名が入っていたり、ロゴが表示されているものです。特定商品の推薦は、デモやチュートリアルなど、特定の商品やサービスを紹介したり、それについて語っているものを指します。
この3つを自社の投稿へ当てると、商用に当たらない投稿を探すほうが難しいことが分かります。社名のハッシュタグを付けただけでブランドメンションに当たり、商品の使い方を説明すれば特定商品の推薦に当たります。企業アカウントの投稿は、原則として商用側に置いて設計するほうが実態に合います。
迷う投稿を商用側へ寄せる判断には、もうひとつ理由があります。公式ヘルプは、開示設定を有効にしないまま商用コンテンツを投稿した場合、投稿の削除や制限の対象になりうると案内しています。どちらに寄せても楽曲の選択肢が狭まるだけであるのに対し、寄せ損なったときの損失は投稿そのものです。投稿が残らなければ、企画も導線も成立しません。表示そのものの判断材料はTikTokのおすすめに乗る仕組み|公式が示す判断材料と対象外の条件で別に扱っています。
ライセンスはTikTokの中で止まる
商用音楽ライブラリの利用規約は、使える場所をはっきり限定しています。楽曲を含む動画を投稿・共有できるのはTikTokの中で、TikTokが用意している共有機能を使う場合に限られます。TikTokの外での商用利用は認められておらず、その用途についてTikTokは何の権利も与えないと書かれています。
外で使う場合は、権利者から直接、必要な権利のライセンスを得ることになります。規約が例として挙げているのは、第三者のデジタルプラットフォームへ動画を投稿すること、テレビやラジオ、劇場で流す音声や音声付きの映像に楽曲を入れることです。これらに限られない、という書き方になっています。楽曲を動画から切り離して、単体で配布したり演奏したりすることも認められていません。
実務でこれが効くのは、縦型動画を複数のSNSへ同時に展開している場合です。1本撮って、TikTokとInstagramのリール、YouTubeのショートへ横展開する運用は一般的ですが、商用音楽ライブラリから選んだ楽曲は、その横展開には使えません。撮影と編集は共通化できても、音は差し替える工程が入ります。
ここを工数として見込んでいないと、公開直前に音源の手当てが必要になります。実務上の打ち手は2つです。各プラットフォームの音源をそれぞれのライブラリから選ぶか、自社で権利を持つ音源か、TikTok以外でも使える条件で契約した音源を使うかです。後者を選ぶ場合、TikTok側の画面には出てこないため、動画へ音を入れてから書き出す作り方になります。リールの側の手順はInstagramリールの作り方|企業マーケティングで活用する基本手順で整理しています。
規約はもうひとつ重要なことを書いています。商用の目的に使えるのは商用音楽ライブラリの楽曲だけで、それ以外のサウンドを商用に使う権利は与えられていません。アプリで再生できることと、使う権利があることは別です。
楽曲を探すときの絞り込みの軸
公式ヘルプは、楽曲を探す手順を示しています。まずキャンペーンを配信する地域を選びます。商用利用できる楽曲が地域によって違うため、どこで配信するかを先に決める形です。次に「すべての音楽」またはプレイリストから選びます。一覧には表示の上限があり、一度に1万曲までと書かれています。
そのうえで、絞り込みの軸が用意されています。
| 絞り込みの軸 | 何を決めるためのものか |
|---|---|
| 地域 | 配信する地域で商用利用できる楽曲に限る |
| 利用可能なプレースメント | その楽曲を使える配信面を確かめる |
| テーマ | 動画の題材に合う曲調を探す |
| ジャンル | 音楽としての種類で絞る |
| ムード | 動画で作りたい雰囲気で絞る |
| 使用期間 | その楽曲を使える期間を確かめる |
曲名が決まっている場合は、検索ボックスから直接探せます。選んだあとは、オーガニックと有料のどちらのコンテンツにも使えると案内されています。
この一覧でいちばん実務に効くのは、使用期間とプレースメントです。期間が区切られている楽曲があるということは、いま使える楽曲が将来も使えるとは限らないということです。シリーズ物として同じ楽曲で何本も作る企画は、途中で使えなくなる可能性を含みます。
ただし、公式ページには個別の楽曲がいつまで掲載されるのか、外れる前に予告があるのかという記載はありませんでした。社内の運用としては、連載企画の音を1曲に固定しないか、固定するなら代替の候補を先に決めておくのが現実的です。
開示設定は「自身のブランド」と「ブランドコンテンツ」で分かれる
楽曲を商用音楽ライブラリから選んだだけでは終わりません。商用コンテンツを投稿するときは、商用コンテンツの公開設定を有効にするよう案内されています。目的は透明性の確保で、視聴者がオーガニックの投稿と商用コンテンツを見分けられるようにするためだと書かれています。
設定のとき、区分を選びます。
| 選ぶ区分 | どんな投稿か | 投稿に付くもの |
|---|---|---|
| 自身のブランド | 自社の商品・サービスを自社で宣伝する投稿 | 商用コンテンツのラベル |
| ブランドコンテンツ | 第三者のブランドの宣伝やレビュー | 有償パートナーシップの表示 |
ラベルは、投稿または動画の説明欄の下に付きます。第三者の宣伝でブランドコンテンツを選んだ場合は、商用コンテンツではなく有償パートナーシップの表示になります。ブランドコンテンツのときは、ブランドパートナーシップからパートナーのタグ付けを行います。
設定できる経路は投稿画面だけではありません。公式ヘルプは、投稿を作る画面、すでに投稿したコンテンツの詳細なオプション、LIVEの設定画面、ブラウザからのアップロードの4つを挙げています。LIVE配信も対象です。商品を紹介するLIVEを行う運用では、配信前の確認項目に入れておきます。
なお、TikTok Oneの協業プロジェクトについては、商用コンテンツの公開が自動的に有効になっており、ビジネスアカウントから投稿すれば要件を満たすものとして扱われると案内されています。自社で投稿する通常の運用では、この自動化は働きません。手で有効にします。
ブランドコンテンツの定義は、報酬の形を広く取っている
ブランドコンテンツに当たるかどうかは、金銭のやり取りだけで決まりません。TikTokのブランドコンテンツポリシーは、ブランドコンテンツを、支払いまたはその他のインセンティブと引き換えに、第三者のブランドおよびその商品やサービスを宣伝またはレビューするコンテンツと定義しています。発効日は2026年8月31日と記載されています。
含まれるものとして挙がっているのは、ブランド代理人からのギフト商品、投稿報酬(金銭または物品)、販売によるコミッション、ブランドアンバサダーの関係です。商品を無償で受け取って紹介する形も入ります。クリエイターへ商品を送って投稿してもらう企画は、金銭を払っていなくてもブランドコンテンツです。
ポリシーは、ブランドコンテンツを投稿する際に商用コンテンツ公開のトグルを有効にする必要があるとしています。有効にすると自動的にブランドコンテンツであることを示すラベルが付き、TikTokの商用コンテンツライブラリに追加される場合があるとも書かれています。クリエイターへ依頼する企画では、依頼書にこの設定を入れておくほうが確実です。投稿するのはクリエイター側で、設定を操作できるのもクリエイター側だからです。
企画全体の進め方と、権利や承認の置き方はTikTokマーケティングとは?企業が集客に活用する方法を解説で扱っています。
公式ページで確認できなかったこと
今回確認したページには、記載がなかった項目があります。推測で埋めずに、確認できなかったこととして残します。
日本で使える楽曲の数は分かりません。公式が示しているのは商用音楽ライブラリ全体として100万もの楽曲という規模で、地域ごとの内訳は書かれていません。地域を選んで絞り込む仕組みがあるため、日本で選べる範囲は全体より小さくなりますが、どの程度かは確認できませんでした。
個別の楽曲の掲載期間も分かりません。絞り込みの軸に使用期間があることは書かれていますが、楽曲ごとの期間がどう決まるのか、掲載から外れる前に通知があるのかという記載はありませんでした。
違反したときの措置の段階も、確認した範囲では具体的に書かれていません。開示設定を有効にしなかった場合に投稿の削除や制限がありうるという案内はありますが、音源の扱いについて何段階の措置があるのかは記載がありませんでした。
これらは、記載がないという事実のほうが運用に効きます。社内の基準を公式の記載だけで作ろうとすると、期間と地域の2点は埋まりません。埋まらない前提で、代替の候補を持つ運用にします。
社内で決めておくこと
ここまでの公式の記載から、制作に入る前に決められることが3つあります。
1つ目はアカウント種別です。ビジネスアカウントにすると楽曲が商用音楽ライブラリへ限られ、担当者の切り替え忘れが起きません。流行曲に乗る企画を前提にしていた場合は、企画の立て方から見直します。
2つ目は横展開の方針です。TikTokだけに出すのか、他のSNSへも同じ動画を出すのかで、音の選び方が変わります。横展開するなら、商用音楽ライブラリとは別に音源を用意する工程を見込みます。
3つ目は開示設定の運用です。自社の投稿は「自身のブランド」、クリエイターへの依頼は「ブランドコンテンツ」で、LIVEも対象に入ります。依頼する企画では、設定の操作をクリエイター側に委ねることになるため、依頼内容に書き入れておきます。
逆に、公式の記載だけでは決められないこともあります。特定の楽曲を長期の企画で使い続けられるか、日本でどれだけの選択肢があるかは、公表されている情報からは分かりません。1曲に依存しない形で企画を組むのが、公表されている範囲で取れる備えです。
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