生成AIに記事の中身を読み取られている一方で、そこから自社サイトへの訪問が起きているのかどうかは、通常のアクセス解析では見えにくい状態が続いていました。Microsoft Clarityは、この2つを1つの指標として並べる「AI Scrape-to-Referral Ratio」を公式ブログで公開しました。ボットの活動データと、Clarityが持つ行動分析のデータを結び付けて、AIプラットフォームが収集の対価として訪問を返しているのかを見るための指標です。この記事では、公式ブログと公式ドキュメントに書かれている範囲で、この機能の中身と、導入前に確認すべきことを整理します。
追加された内容
公式ブログでは4つの要素が説明されています。
中心になるのは「AI Scrape-to-Referral Ratio」のカードです。AIによる収集の活動量と、参照元としての流入を1つの指標にまとめて比較します。ブログの表現では、AIプラットフォームがコンテンツを抽出するだけなのか、訪問という形で価値を返しているのかを判断するための指標だと説明されています。
2つめは、オペレーター単位の内訳です。参照元となっているオペレーターを順位付きの一覧で確認でき、どのAIソースが流入を返していて、どれが収集ばかりで流入の見返りが少ないのかを見分けられると案内されています。
3つめは、セッション記録への導線です。参照元のインサイトから、選んだAI参照元で絞り込んだ状態のRecordingsタブへ直接移動できます。流入の帰属を確かめ、実際の閲覧の様子を確認するためのものです。
4つめは、ドメインの対応関係に関する安全策です。比率は正しく対応付けられたドメインの範囲でのみ計算されると説明されています。CDN側の対象範囲とClarity側の対象範囲がずれているときに、誤った集計が出ないようにするための制限です。
どこにある機能か
公式ドキュメントによると、この機能はClarityのAI Visibilityダッシュボードの中にあるBot Analyticsに置かれています。ダッシュボードのAI Visibilityから「AI Bot Activity」を開いて確認する形です。
利用にはCDNとの接続が必要です。プロジェクトの管理者が、プロジェクト設定のAI Visibilityから対応するCDNを接続することで有効になります。ドキュメントに挙げられている対応CDNは、Fastly、Amazon CloudFront、Cloudflareです。裏を返すと、これらのCDNを使っていないサイトでは、この指標をそのまま得ることができません。
費用についても記載があります。Clarity自体は、AI VisibilityとBot Activityのダッシュボードについて課金しません。ただし、Bot Activityの連携を有効にすると、設定とトラフィックの量に応じて、自社のサーバー・CDN・クラウド事業者の側で費用が発生する可能性があるとされています。無料のツールだからコストがゼロになるとは限らない点は、導入の稟議で必ず問われるところです。
同じ画面で見られる他の指標
比率だけを単独で見ても判断はできません。公式ドキュメントには、Bot Activityのダッシュボードが持つ他の指標も記載されています。
ひとつは「AIリクエストの割合」です。ページへのリクエスト全体のうち、AIのボットによるものがどれだけを占めるかを示します。もうひとつは、自動化されたリクエストを主な役割ごとにまとめる指標です。検索のためのクローラーなのか、AIアシスタントのためのものなのかを区別します。そしてもうひとつが、自動化された仕組みから頻繁にアクセスされているページの一覧です。
この3つと今回の比率を組み合わせると、見え方が変わります。全体に占めるAIの割合が小さいのに比率だけが悪い場合と、そもそもAIからのアクセスが大半を占めている場合とでは、取るべき対応が違います。どのページが集中的に読まれているかが分かれば、対象を絞った判断もできます。
比率をどう読むか
ドキュメントに書かれているBot Activityダッシュボードの目的は、自動アクセスの規模と発生源を把握すること、ボットの注目を集めているコンテンツを特定すること、生産的なボットの動きと抽出的または価値の低い動きを区別すること、そしてボットの扱いやコンテンツの公開方針について判断材料を得ることです。今回の比率は、このうち3つめを1つの数字にしたものだと位置づけられます。
読み方は単純です。収集の量に対して流入が乏しいオペレーターは、コンテンツを持ち出す一方で読者を返していないことになります。逆に、収集の量に比べて流入が多いオペレーターは、記事を読ませる導線として機能していることになります。
ただし、比率の良し悪しに一律の基準はありません。公式ブログには、目安となる数値の基準は示されていません。自社の比率が高いか低いかは、自社の過去の推移とオペレーター間の相対で見るしかない、というのが現時点で言えることです。
この指標で分かること・分からないこと
分かるのは、収集と流入の関係の相対的な姿です。どのオペレーターが流入を返し、どれが返していないか。そしてその流入が実際にどんな閲覧につながっているか。セッション記録へ直接移動できるため、流入の中身まで確かめられます。
分からないことも明確にしておきます。第一に、収集された内容がAIの回答でどう使われたかは、この指標からは分かりません。第二に、CDNを接続していない範囲や、対応付けが取れていないドメインの活動は集計に入りません。第三に、AI側の回答内で完結して訪問が起きなかった場合の影響は、流入の不在としてしか見えません。読まれなかったのではなく、訪問という形にならなかった可能性を、この数字だけでは切り分けられません。
そのうえで、この指標が実務にもたらす変化は小さくありません。これまで「AIに使われているらしい」という感覚で語られていた部分に、自社のデータで確認できる材料が入るからです。
導入する前に確認すること
導入を検討する場合、順番は決まっています。まず自社のCDNが対応する3つに含まれるかを確認します。含まれない場合は、この指標を得る前提が揃いません。次に、CDNとClarityの対象ドメインが一致しているかを確認します。ずれたまま接続すると、比率そのものが読めない値になります。最後に、連携によって自社側で発生しうる費用を、CDNまたはクラウドの契約内容に照らして見積もります。
そのうえで、見るべきは単月の絶対値ではなく推移です。記事の公開方針やクローラーの制御を変えたときに、比率がどう動いたかを追う。そこまでやって初めて、この指標は判断に使えるものになります。
なお、この指標を根拠にクローラーを一律で遮断するのは、判断としては早すぎます。収集を止めれば、AIの回答に載る機会も減るためです。まず自社のどのページが対象になっているのかを把握し、そのうえで扱いを決める順番になります。
出典と注記
この記事はMicrosoft Clarityの公式ブログと、Microsoft LearnのClarity公式ドキュメントのみを出典としました。比率の目安となる基準値は公式情報に記載がないため、本文では示していません。日本語環境での表示や、対応CDNの追加予定についても記載がありません。導入の前に、公式ドキュメントで対応状況と費用の条件を確認してください。
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