AIエージェントを個人で使うところまでは、多くの組織が到達しています。難しいのはその先です。NotionのプロダクトマネージャーであるEric Liuさんは、Anthropicの公式Q&Aで、規模を広げたときに壊れるのは能力ではなく協働の部分だと述べています。承認をどう通すか、誰が確認するか、既存の業務システムとどうつなぐか。この記事では、Notionが自社の製品づくりの中でこの問題にどう答えたかを、公開されているQ&Aの範囲で整理します。
この事例の概要
Q&Aの見出しは「Notionは、チームとエージェントが協働するワークスペースをどう作っているか」です。掲載されている情報では、業種はソフトウェア、企業規模は大企業、所在は北米、使っている製品はClaude Managed Agentsとされています。
挙げられている指標は2つです。1つのタスクボードから30件を超えるエージェントの作業を同時に走らせていること。そして、完了した作業のたびにClaudeが自ら更新する、自己改善型のスキルのデータベースを持っていることです。
Liuさんの言葉として最初に置かれているのが、この一文です。「同僚と働くのと同じように、Claudeと働いているのです」。
規模で壊れるのは「協働」の部分
組織でエージェントを増やしたときに何が壊れるのか、という問いに対して、Liuさんはこう答えています。「エージェントを規模を広げて展開するときの課題は、本当のところ協働に関わるものです」。
理由は道具の前提にあります。現在のエージェント向けのツールは、個人が使うことを想定して作られています。一方で組織には承認の手順があり、チームで進める仕事の流れがあります。この差が埋まっていないまま台数だけ増やしても、確認が追いつかなくなります。
Notionが取った方法は、新しい仕組みを発明することではありませんでした。人どうしの協働で使われてきた型を、そのままエージェントとの協働へ持ち込んでいます。変更提案、変更履歴、共有された知識のデータベース。人間の側がすでに慣れている作法を使えば、確認の負担そのものを減らせるという発想です。
接続についてのLiuさんの指摘も具体的です。「私たちの顧客は、あるエージェントに別のエージェントと話をさせて、宙返りをさせてまで物事をつなげたいわけではありません。ただNotionの中にいて、『Claude、このウェブサイトを作るのを手伝って』と言いたいだけなのです」。
タスクボードをそのまま司令塔にする
実装は素朴です。チームはタスクボードを司令塔として使っています。利用者がタスクを作り、「開始できる状態」へ移し、Claudeのセッションを呼び出す。この仕組みで、30件から40件の作業を同時に管理し、チームの承認へ回していると説明されています。
支えているのは、長時間の作業を扱えるインフラの層です。Liuさんは「長時間かかる作業を実行できるインフラの層を持つことは、本当に不可欠です」と述べています。作業の中には20分で終わるものもあれば、数時間かかるものもあります。人が画面の前で待っている前提では、この使い方は成立しません。
効果として挙げられているのが、試作の時間です。約12時間かかっていた試作の作業が、およそ20分に縮んだと述べられています。Liuさん自身の体験も紹介されています。「30件ほどのタスクがありました。全部を選んで、開始へドラッグしただけです。おやつを取りに行って戻ってきたら、試作はすべてできあがっていました」。
利用者から見た画面も変わっています。「いまでは、自分のNotionのタスクの中でClaudeが作業をしているのが見えて、親指を上げるか下げるかで評価します」。
人の作法をそのまま持ち込む
Notionが採用した3つの型は、いずれも人が長く使ってきたものです。変更提案は、いきなり書き換えるのではなく「こう変えたい」を示して相手に判断させる仕組みです。変更履歴は、誰がいつ何を変えたのかを後から辿れるようにします。共有された知識のデータベースは、同じ前提を全員が参照できる場所を作ります。
この3つをエージェントとの協働に当てはめると、必要なものがそのまま揃います。エージェントの出力を変更提案として受け取れば、確認する人が最終的な判断者でいられます。履歴が残れば、後から問題が見つかったときに、どの作業が原因かを辿れます。共有された知識があれば、エージェントごとに前提が食い違うことを防げます。
新しい概念を持ち込まずに済むことには、実務上の利点があります。使う側が覚え直す必要がなく、承認の権限も既存の運用をそのまま使えるためです。Notionの公式サイトでは、AIの機能として、定例の業務を予定や条件で自動化するカスタムエージェント、社内の各サービスをまたぐ検索、会議の記録の作成などが挙げられています。いずれも、既存の業務の場所から離れない形で提供されています。
使うほど溜まるスキル
作業が完了すると、Claudeがそこから学べることを特定し、スキルのデータベースを自動で更新します。Liuさんの説明は具体的です。「『これはいい試作だ』とか『これはいいPDFだ』と言うたびに、それがスキルに反映されていきます」。
この設計が意味するのは、評価の入力が単なる採点で終わらないということです。良し悪しを伝える行為が、そのまま次の出力の材料になります。逆に言えば、評価を誰もしない運用では、この仕組みは働きません。
人の役割は「実行」から「確認」へ
Liuさんは今後の方向についてこう述べています。「私たちがNotionのために作ってきたインターフェースは、人間がタスクをこなすためのものでした。しかしインターフェースは、人間がエージェントの仕事を確認するためのものへ変わりつつあります」。
そして問いの形でこう続けます。「人間が、エージェントの作業を直接こなす人ではなく、それを確認する人になるにはどうすればよいか」。
この転換は、AIの性能が上がれば自動的に起きるものではありません。確認する対象がどこに表示され、どの単位で承認され、履歴がどう残るかが決まっていなければ、人は確認役になれず、結局は自分でやり直すことになります。Notionが人どうしの協働の型を持ち込んだのは、この部分を新規に設計しないためです。
日本の組織が読み取れること
第一に、エージェントの導入で最初に設計すべきは能力ではなく確認の経路だということです。誰が、どの画面で、何を見て承認するのか。ここが決まっていない状態で並列数を増やすと、確認が滞ります。
第二に、既存の業務の場所から離れないことです。Notionが選んだのは、専用の画面を新設せず、すでに使っているタスクボードを入口にすることでした。新しい画面を覚えてもらう負担は、それ自体が導入の障害になります。
第三に、評価を運用に組み込むことです。良し悪しの入力が次の品質に反映される設計なら、評価は感想ではなく作業の一部になります。反映されない仕組みで評価だけを求めても、続きません。
出典と注記
この記事はAnthropicの公式Q&AとNotionの公式サイトのみを出典とし、数値・製品名・引用は原文の表記に従いました。数値はNotionが公表した内容であり、当サイトが計測したものではありません。導入の費用、対象人数、他社環境での再現性については記載がありません。
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