生成AIの回答画面から自社サイトへ来た人を、いまどう扱っているでしょうか。多くの解析設定では「その他の参照元」に紛れ込み、自然検索とまとめて眺めるか、そもそも見ていないかのどちらかです。Shopifyが公式ブログで公開した2本の集計は、この扱いが実態と合っていないことを示しています。AI経由の訪問者は、自然検索から来た人とは着地する場所も、買う確率も、買う商品の種類も違っていました。
先に結論を書きます。Shopifyの集計では、AI経由の訪問は商品ページへ直接着地する割合が高く、転換率も自然検索を上回っています。一方で流入の絶対量は自然検索のほうがはるかに大きく、AI検索が自然検索を置き換えたわけではありません。分けて測らなければ、伸びている小さな塊が大きな塊に埋もれて見えなくなる、というのがこのデータの実務的な含意です。
この記事で扱えるのは、Shopifyが公表した割合と倍率だけです。母数となる実店舗数、対象国、AI経由をどう判定したかの定義は公開されていません。数字の読み方には後半で条件を付けます。出典はShopifyの企業向けブログ2本で、確認日は2026年9月5日です。
何が公開されたのか
Shopifyは自社の加盟店データを集計した記事を2本出しています。1本目は第1四半期のデータで、AI経由の訪問者が自然検索の訪問者と比べてどう違うかを扱っています。2本目は2026年8月11日公開で、第2四半期のデータを使い、商材のカテゴリーによって差が出ることを扱っています。
どちらも同社が自分の基盤上で観測した数字であり、外部の調査会社が第三者として測ったものではありません。その意味では利害のある発表です。ただし、AI検索についてはプラットフォーム側しか持っていない種類のデータであり、加盟店の側から同じ集計を作ることはできません。利害を承知したうえで、いまのところ他に代わりのない一次情報として扱うのが妥当だと考えます。
伸び方:小さいが速い
第2四半期のデータでは、AI経由のセッションが前年同期比197%の伸びを記録しました。同じ期間の自然検索は12%の伸びです。ここだけ見ると差は圧倒的に見えますが、Shopifyは自然検索の伸びが「はるかに大きな母数の上での12%」だと明記しています。割合の大きさと、増えた実数の大きさは別の話です。
第1四半期の集計でも同じ方向の数字が出ています。AIチャットボットからの参照セッションは前年同期の8倍を超え、AI経由の注文は13倍近くになったとされています。注文の伸びがセッションの伸びを上回っている点は、単に人が増えただけではないことを示しています。
着地点と転換率:買う手前まで進んだ人が来る
もっとも実務に効くのは、着地するページの違いです。第1四半期のデータでは、AI経由のセッションの55%超が商品詳細ページから始まっていました。自然検索では20%程度です。第2四半期でも、AI経由の半数が商品ページへ直接着地しています。
転換率も違います。商品詳細ページ上では、AI経由の訪問者は自然検索の訪問者より約50%高い率で購入まで進みました。注文単価も14%高いとされています。カテゴリー別に見ると、25分類のうち23分類でAI経由のほうが自然検索を上回り、その差は平均で56%でした。
| 観点 | 集計期間 | 公表されている内容 |
|---|---|---|
| 商品ページから始まるセッション | 第1四半期 | AI経由は55%超、自然検索は20%程度 |
| 商品詳細ページでの転換率 | 第1四半期 | AI経由は自然検索より約50%高い |
| 注文単価 | 第1四半期 | AI経由は自然検索より14%高い |
| 転換率がAI優位の分類 | 第1四半期 | 25分類中23分類。差は平均56% |
| セッションの伸び | 第2四半期 | AI経由は前年同期比197%、自然検索は12% |
| 商品データの持ち方 | 第2四半期 | 構造化した自社カタログは、外部取得のデータの2倍の転換 |
Shopifyはこの傾向を、AI検索が「発見」と「比較検討」の段階を1回の会話へ圧縮しているためだと説明しています。検討を済ませた状態の人が、いきなり商品ページに現れるということです。トップページで世界観を伝え、一覧で絞り込ませ、最後に商品ページへ、という設計を前提にしていると、この入り方は想定から外れます。
カテゴリーで役割が分かれる
第2四半期のデータで新しいのは、商材によって効き方が違うと示したことです。仕様で選ぶ商材では、AI経由の訪問者の転換率が自然検索の約2倍でした。例として挙げられているのは腕時計で、AI経由が2.4倍の転換率です。数値や規格を突き合わせて選ぶ買い物は、会話で条件を詰めていく形と相性がよい、という説明になっています。
一方、好みで選ぶ商材では別の効き方をしています。こちらではAI経由が新規顧客を連れてくる率が自然検索の1.3倍でした。転換率で勝つのではなく、まだ取引のない人に出会う経路として働いているという違いです。
同じ「AI検索から来た人」でも、扱っている商材によって、見るべき指標が変わります。仕様で選ばれる商材なら転換率と注文単価、好みで選ばれる商材なら新規顧客の比率です。どちらか一方の指標だけで判断すると、片方のカテゴリーでは効いている施策を「効果なし」と誤読します。
商品データの持ち方で差がつく
もうひとつ、実装に直結する数字があります。Shopifyのカタログに構造化された形で入っている商品データは、外部から取得されたデータや第三者経由のフィードに比べて、AI経由の転換が2倍だったとされています。
これは検索エンジン向けの構造化データ対策と重なる部分もありますが、力点が違います。従来は「検索結果でリッチな表示を得る」ことが目的でした。AI検索では、回答を組み立てる側が読み取れる形で属性がそろっているかどうかが、そのまま候補に入るかどうかを左右します。素材の色、サイズ、対応規格、内容量といった項目が本文の中の文章にしか書かれていない状態は、人には読めても機械には拾いにくい状態です。
Shopifyの2本目の記事は、加盟店への提案として「買い物客が会話で使う言い回しに合わせて商品属性を足す」ことを挙げています。カタログの項目名を社内の呼び方のままにしておくのではなく、買う側が口に出す言葉へ寄せる、ということです。
日本の実務者が先に手を付けられること
このデータは海外の加盟店を集計したものです。日本語圏で同じ比率になる保証はありませんし、Shopify以外の基盤で同じ傾向が出るかも分かりません。同じ結果になるとは書けません。ただし、両方の記事が挙げている推奨事項は、比率が違っても損にならない性質のものです。
最初にやるべきは計測の分離です。AI経由の流入を独立したチャネルとして数える設定にしないと、比率が変わったことに気づけません。参照元のホスト名で振り分けるだけでも、当面の観測はできます。収集と流入の関係を測る方法については、Microsoft ClarityのAI Scrape-to-Referral Ratioの記事で扱っています。
次が商品ページ側の手当てです。商品ページに直接着地する人が半数を超えるなら、そのページ単体で判断が終わる状態にしておく必要があります。仕様、在庫、送料、返品条件、レビューが、一覧ページやカテゴリーページを見に行かなくても分かる形になっているか。トップページから読み進む前提の情報配置は、この入り方には対応できません。
最後に、自然検索への投資を止めないことです。Shopify自身が推奨事項の中でこれを挙げています。伸び率だけを見て予算配分を大きく変えると、実数で支えている側を細らせることになります。AI検索の位置づけについては、AI検索時代のSEOの考え方も併せて読んでください。
公表されていないこと
確認できなかった項目を残します。集計対象の加盟店数、対象国、通貨、期間の正確な区切りは公表されていません。「AI経由」をどう判定したのか、どのサービスからの参照を含めたのかも記載がありません。参照元の文字列で判定しているのか、別の方法なのかは分かりません。
絶対値も出ていません。AI経由のセッション数、注文数、売上金額はいずれも公表されておらず、公開されているのは前年同期との比と、自然検索との比だけです。したがって、AI経由が全体の何%を占めるのかはこのデータからは読めません。
カテゴリーの分類基準も示されていません。25分類がどう定義されているか、「仕様で選ぶ商材」と「好みで選ぶ商材」の線引きがどこにあるかは記載がありません。腕時計が例として挙がっているだけです。日本語圏の加盟店が含まれているかどうかも分かりません。
出典と注記
この記事は、Shopifyが公開している企業向けブログの2本、「AI-referred shoppers convert better and spend more」と「AI and organic search are doing different jobs: What Shopify’s data shows」を出典としています。数値は原文の表記のまま記載し、単位や通貨の換算はしていません。いずれもShopifyが自社基盤で集計した数字であり、第三者による検証を経たものではありません。成果を保証する記述は含みません。確認日は2026年9月5日です。他の海外の動きは海外マーケティング最前線にまとめています。
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