海外企業のマーケティング/解説

MailchimpとMicrosoftの公開ガイドに学ぶブランドボイスの決め方

海外企業のなかには、社内の文章ルールを公開している会社があります。MailchimpとMicrosoftのガイドから、ボイスとトーンの分け方、書き換え例まで下ろす粒度、そして再利用のライセンス条件を確認し、自社ガイドで先に決める項目を整理します。

MailchimpとMicrosoftの公開ガイドに学ぶブランドボイスの決め方 - 株式会社セイビー

社内で使っている文章のルールを、そのまま社外へ公開している海外企業があります。メール配信サービスのMailchimpと、Microsoftの2社です。どちらも「顧客にどんな言葉づかいで話しかけるか」を、誰でも読めるWebサイトに置いています。

先に結論を書きます。この2社のガイドは、扱う製品も組織の規模もまったく違うのに、構成がよく似ています。変えない「ボイス」を決め、文脈で動かす「トーン」と切り分け、最後は原稿の書き換え例まで下ろすという3層です。この3層がそろっていると、原稿のレビューで「なんとなく雰囲気が違う」という差し戻しが起きにくくなります。逆にいえば、3層のどれが欠けているかで、自社のガイドが使われない理由も見当がつきます。

この記事では、2社が公開しているページに実際に書かれている内容を引きながら、自社の文章ガイドへ移せる部分と、英語圏向けであるために移せない部分を分けます。確認日は2026年9月4日です。引用は原文の英語表記のまま載せ、日本語の説明が当社によるものである箇所はその都度示します。

公開されているのは、社内向けに作った文書そのものです

まず押さえておきたいのは、この2つが対外的な宣伝資料ではないという点です。Mailchimpのガイドは、冒頭で想定読者を明示しています。

This style guide was created for Mailchimp employees, but we hope it’s helpful for other content and communications teams too.

社員のために作ったものだが、ほかのコンテンツ・コミュニケーションのチームにも役立てばうれしい、という書き方です。Microsoftのガイドも対象を狭めていません。

Welcome to the Microsoft Writing Style Guide, your guide to writing style and terminology for all communication—whether an app, a website, or a white paper. If you write about computer technology, this guide is for you.

アプリでも、Webサイトでも、ホワイトペーパーでも、すべてのコミュニケーションを対象にすると書かれています。同じページには、役割に関係なく誰もが使える、単純で分かりやすいスタイルガイドが必要だという趣旨の説明も置かれています。書く専任者だけに向けた文書ではないということです。

2社の公開範囲を並べると、次のようになります。

項目 Mailchimp Content Style Guide Microsoft Writing Style Guide
置き場所 独立したWebサイト 開発者向けドキュメントサイトの一部
確認できた節の例 Voice and Tone/Grammar and Mechanics/Web Elements/Writing for Accessibility/Writing for Translation/Word List/TL;DR Top 10 tips for Microsoft style and voice/Bias-free communication/Global communications
想定読者の記載 社員向けに作ったが、ほかのチームにも役立つことを願う旨 技術について書く人に向けた案内
権利の表記 © Mailchimp 2023/Creative Commons Attribution-NonCommercial 4.0 International License © 2024 Microsoft. All rights reserved.

節の名称は各サイトの表記のままです。すべての節を列挙したものではなく、確認日に見えた範囲の例です。

節の並びを見ると、宣伝したい順ではなく、書き手が困る順に置かれていることが分かります。声のトーンで迷う、文法と表記で迷う、ボタンやリンクの文言で迷う、翻訳に出すときに迷う。実際の作業で発生する順番です。自社のガイドを作るときも、章立てはブランド理論の体系ではなく、書き手が詰まる場面から起こすほうが使われます

ボイスは変えず、トーンだけを動かす

2社が最初に置いているのは、同じ区別です。Mailchimpはこう書いています。

You have the same voice all the time, but your tone changes.

声そのものはいつも同じで、変わるのはトーンのほうだ、という説明です。Microsoftも同じ構造で書いています。

Though our voice is constant regardless of who we’re talking to or what we’re saying, we adapt our tone—from serious to empathetic to lighthearted—to fit the context and the customer’s state of mind.

誰に何を話していてもボイスは一定で、真剣な調子から共感的な調子、軽い調子まで、文脈と顧客の心理状態に合わせてトーンのほうを変える、と書かれています。

文章ガイドの土台を、変えないボイスと文脈で変えるトーンの2つに分けた分岐図。左にMailchimpとMicrosoftのボイスに関する記述、右にトーンに関する記述を置き、それぞれ決める頻度と書き手の判断を並べている
2社の記述を、決める頻度と書き手の判断で並べ直したものです。原文は英語表記のまま、下段2行は当社による整理です。 出典:Mailchimp Content Style Guide「Voice and Tone」Microsoft Writing Style Guide「Microsoft's brand voice」(確認日 2026-09-04)

日本語の現場では、この2つを「トンマナ」の一語でまとめることが多くあります。まとめてしまうと、議論が噛み合わなくなります。「もっと柔らかく」という指摘が、会社の人格を変えろという話なのか、この1本だけ場面に合わせろという話なのかが区別できないためです。ボイスは年単位で決めて動かさないもの、トーンは1本ごと・1画面ごとに選ぶもの、と役割を分けておくと、レビューの指摘がどちらに属するかを先に確認できます。

トーンを選ぶ基準も、Mailchimpは書き手の好みに委ねていません。読み手の状態から選ぶ、という置き方です。あわせて、次のように優先順位も示しています。

Mailchimp’s tone is usually informal, but it’s always more important to be clear than entertaining.

くだけた調子が基本だが、面白いことより明確であることのほうが常に重要だ、という順序です。この一文があると、判断に迷ったときの優先順位が決まります。ガイドに載せる価値があるのは、こうした「両立しないときにどちらを取るか」の記述です。

ボイスの書き方が、形容詞1語で終わっていない

次に見るのは、ボイスの中身の書き表し方です。Mailchimpは4つの項目を立て、それぞれに説明文を付けています。項目の見出しは「We are plainspoken.」「We are genuine.」「We are translators.」「Our humor is dry.」で、たとえば translators の項では、業界用語をかみ砕いて実際に教えるのが自分たちの仕事だ、という説明が続きます。

Microsoftは3つの原則を挙げ、同じく説明文を添えています。

Warm and relaxed—We’re natural. Less formal, more grounded in real, everyday conversations.

Crisp and clear—We’re to the point. We write for scanning first, reading second. We make it simple above all.

Ready to lend a hand—We show customers we’re on their side. We anticipate their real needs and offer great information at just the right time.

Mailchimpの4つのボイス項目とMicrosoftの3つのボイス原則を左右に並べた比較図。どちらも英語の見出しに説明文がセットで付いていることを示している
左がMailchimpの4項目、右がMicrosoftの3原則です。太字が各ガイドの原文で、下段の日本語は訳ではなく当社による説明です。 出典:Mailchimp Content Style Guide「Voice and Tone」Microsoft Writing Style Guide「Microsoft's brand voice」(確認日 2026-09-04)

注目したいのは、項目数の違いではなく、どちらも1語で終わらせていないことです。「誠実」「親しみやすい」「専門的」といった形容詞だけを並べたガイドでは、目の前の原稿が合っているかどうかを判断できません。「専門的」を根拠に、難しい用語を残す判断も、逆に平易に書き直す判断も成り立ってしまうためです。

Microsoftの「Crisp and clear」に添えられた「We write for scanning first, reading second」は、その点で使える記述です。読まれる前にまず流し読みされる、という前提が示されているので、見出しの立て方や結論の位置について、原稿を見ながら判断できます。自社のガイドでも、形容詞の隣に「そのとき何をするのか」を1〜2文で置くのが最低条件になります。

判断できる粒度は、書き換え例まで下りている

3層目が、実際の文の対です。Microsoftの「Top 10 tips for Microsoft style and voice」には、各項目に「Replace this」と「With this」の対が置かれています。原文のまま4件を引きます。

項目(原文の見出し) Replace this With this
Use bigger ideas, fewer words If you’re ready to purchase Office 365 for your organization, contact your Microsoft account representative. Ready to buy? Contact us.
Write like you speak Invalid ID You need an ID that looks like this: someone@example.com
When in doubt, don’t capitalize Limited-Time Offer Limited-time offer
Revise weak writing You can access Office apps across your devices, and you get online file storage and sharing. Store files online, access them from all your devices, and share them with coworkers.

このうち3件目は英語の大文字の規則なので、日本語には対応するものがありません。それでも形式そのものは参考になります。禁止事項だけを並べたガイドは、書き手が直す方向を示せないため使われなくなります。「この書き方を、この書き方へ」の対で置くと、レビューの指摘もその対を指すだけで済みます。

Mailchimp側も同じ方向で、能動態を使う、平易な言葉で書く、否定形より肯定形を使う、といった具体の指示を置いています。抽象度を下げる作業をどこまでやるかが、ガイドが使われるかどうかを分けます。

公開されているガイドそのものを見る

言葉で構成を説明するより、実際の画面を見たほうが早い部分があります。Mailchimpのガイドはトップページに節の一覧が並んでいて、書き手はそこから自分が今困っている節へ直接入る作りです。Voice and Toneから読み始め、実際に書く段になったらGrammar and Mechanicsへ、製品名の表記で迷ったらWord Listへ、という動線になっています。

自社でガイドを作るときも、この入口の作りは参考になります。冒頭から通読させる構成にすると、更新のたびに全体を読み直す必要が生まれ、結局は誰も開かなくなるためです。

Mailchimp Content Style Guideのトップページのファーストビュー
引用キャプチャMailchimp Content Style Guideのトップページ。記事で扱っている節の一覧が並び、書き手が困っている節から直接入る作りになっています。 出典:Mailchimp Content Style Guide(トップページ)(確認日 2026-09-04/表示のファーストビュー)

日本語のチームがそのまま持ち込めない部分

2社のガイドには、英語の表記規則そのものを扱った項目が相当量あります。短縮形(it’s、you’re)を使う、3つ以上を並べるときは接続詞の前にコンマを置く、見出しは文頭だけを大文字にする、ピリオドのあとの空白は1つにする、といった内容です。これらは日本語には対応するものがないか、全角と半角の使い分け、送り仮名、括弧や中黒の扱いなど、まったく別の論点に置き換わります。翻訳して自社のガイドへ貼っても意味がありません

一方で、言語に依存しない部分もあります。要点から先に書く、余分な語を削る、動詞から始める、といった指示は日本語でもそのまま機能します。Mailchimpのアクセシビリティの節は、確認事項が問いの形で置かれているのが特徴です。

Would this language make sense to someone who doesn’t work here?

Could someone quickly scan this document and understand the material?

If someone can’t see the colors, images or video, is the message still clear?

社内の人以外に通じる言葉か、流し読みで内容をつかめるか、色や画像や動画が見えなくても意味が伝わるか、という3つの問いです。断定形の規則ではなく問いの形にしてあるので、原稿を前にしてそのまま確認に使えます。画面の位置に頼った指示(右のボタン、下の欄)を避ける、という考え方も日本語のまま通用します。この観点は、記事だけでなく画面の文言にも効くため、使いやすさの改善の作業とあわせて持っておくと無駄がありません。

記事を書く手順そのものはSEO記事の書き方で扱っています。メールの文面に適用する場合は、配信の設計を扱ったメールマーケティングのやり方とあわせて読むと、どの単位でトーンを切り替えるかを決めやすくなります。

再利用の条件は、2社で違います

自社のガイドへ取り込むことを考えるなら、権利の表記を先に見てください。ここは2社で明確に違います。

Mailchimpのガイドは、各ページのフッターに次の表記があります。

© Mailchimp 2023. This work is available under a Creative Commons Attribution-NonCommercial 4.0 International License

表示と非営利を条件とするクリエイティブ・コモンズのライセンスです。一方、Microsoftのガイドの案内ページには次の表記があります。

© 2024 Microsoft. All rights reserved.

すべての権利を留保する表記で、再利用の条件は示されていません。したがって、文章をそのまま取り込む前提には置けません。考え方を参照し、自社の言葉で書き直す使い方にとどめるのが安全です。

Mailchimp側についても、事業を営む会社が社内ガイドとして使うことが「非営利」の範囲に入るかどうかは、ライセンスの原文と自社の法務で判断する必要があります。当社は法的な判断を示す立場にないため、ここでは表記の事実だけを記録します。なお、確認日時点でフッターの著作権表記は2023年でした。この表記から、その後の更新の有無までは分かりません。

自社のガイドで先に決める5項目

最後に、2社の公開ガイドの構成から、日本語のチームでも使える部分だけを取り出して整理します。項目名と順序は当社によるもので、2社がこの5項目を推奨しているという意味ではありません。

自社の文章ガイドを作る前に決める5項目のチェックリスト。ボイスに説明文を付ける、トーンを切り替える場面を列挙する、置き換え例の対で示す、用語一覧と更新担当を決める、読みやすさの確認を問いの形にする
2社のガイドに共通して置かれている構成要素のうち、言語に依存しないものを当社が5項目へ整理したものです。 出典:Mailchimp Content Style GuideMicrosoft Writing Style Guide(確認日 2026-09-04)

このうち、着手を止めがちなのは1つ目です。ボイスを決める段になると、経営陣を含めた合意形成が必要に見えて、そこで止まります。実務的には、すでに評判のよい原稿を数本並べ、共通している振る舞いを書き出すほうが速く進みます。2社のガイドも、抽象的な理念からではなく、実際にどう書いているかの説明から成り立っています。

3つ目の置き換え例は、運用が始まってから増えます。最初から網羅しようとせず、レビューで実際に指摘した箇所を、その日のうちに対の形で追記していく運用にしてください。5項目のうち、更新が止まりやすいのは4つ目の用語一覧です。担当者を決めずに始めると、製品名や機能名の表記は数か月で元のばらつきに戻ります。

この記事で確認できたこと

MailchimpとMicrosoftは、社内で使う文章のガイドを公開しています。どちらも、変えないボイスと文脈で変えるトーンを最初に分け、ボイスには形容詞ではなく振る舞いの説明を添え、Microsoftは書き換え例の対まで示しています。Mailchimpのアクセシビリティの節は、確認事項が問いの形で置かれていました。

英語の表記規則の部分は日本語へ移せませんが、構成の考え方と、判断できる粒度まで下ろすという方針は移せます。再利用の条件は2社で異なり、Mailchimpはクリエイティブ・コモンズの表示・非営利ライセンス、Microsoftは全権利留保の表記でした。取り込みを検討するなら、この違いを先に確認してください。

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