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Airbnbのマーケティング戦略を10-Kで読む|広告費とマーケ費の差

ブランド重視で知られるAirbnbが、実際にいくらをどこへ使っているのか。米国SECへ提出された2025年度のForm 10-Kから、マーケティング費用2,588百万ドルと広告費843百万ドルの関係、そして公表されていない項目を整理します。

Airbnbのマーケティング戦略を10-Kで読む|広告費とマーケ費の差 - 株式会社セイビー

「広告に頼らずブランドで集客できている会社」の例として、Airbnbの名前が挙がることがあります。では実際に、いくらをどこへ使っているのか。Airbnbが米国の証券取引委員会(SEC)へ提出した2025年度のForm 10-K(2026年2月12日提出)に、その手がかりが載っています。

先に結論から書きます。2025年度の Sales and marketing(販売・マーケティング費用)は2,588百万ドルで、直近3年でいちばん多い金額でした。ところが同じ10-Kの注記に出てくる広告費は843百万ドルで、前年に注記された11億ドルを下回っています。マーケティング費用は過去3年で最も多く、広告費は前年より少ない。この2つが同じ年の同じ書類に並んでいます。

この記事では、その並びが何を意味するのかを、10-Kに書かれていることだけで整理します。読み終えたときに持ち帰れるのは、Airbnbが公表している金額そのものと、「マーケティング費用」と「広告費」を区別して自社の数字を並べ直すための見方です。金額は10-Kの表記どおり米ドルで、円へは換算していません。年度はいずれも12月31日締めです。確認日は2026年9月4日で、2026年度に入ってからの四半期開示はこの記事の対象にしていません。

3年分の数字を並べると、2025年度だけ向きが違う

まず、連結損益計算書に出ている金額です。売上と主な費用区分を3年分並べます。

年度 売上 販売・マーケティング費用 注記の広告費
2023年度 9,917百万ドル 1,763百万ドル 953百万ドル
2024年度 11,102百万ドル 2,148百万ドル 注記の表記は「1.1 billion」
2025年度 12,241百万ドル 2,588百万ドル 843百万ドル

いずれも10-Kに載っている金額です。2024年度の広告費だけ書き方が違うのは、注記が「1.1 billion」と丸めて記載しており、百万ドル単位の値が示されていないためです。売上に対する比率は10-Kに載っていないため、この表には入れていません。

販売・マーケティング費用が1,763から2,588百万ドルへ増え続ける一方、注記の広告費は953百万ドルから1.1 billionへ増えたあと2025年度に843百万ドルへ下がったことを示す折れ線グラフ
2本の線は、同じ会社の同じ3年間です。上の線が販売・マーケティング費用、下の線が注記の広告費で、2025年度だけ向きが分かれています。 出典:Airbnb, Inc. Form 10-K(2025年度)連結損益計算書(確認日 2026-09-04)

売上は9,917から12,241百万ドルへ、販売・マーケティング費用は1,763から2,588百万ドルへ、どちらも3年続けて増えています。増え方は費用のほうが大きく、売上に占める割合は年を追って上がっている形です。ここまでは「成長のためにマーケティングへの投入を増やしている会社」の並びに見えます。

向きが変わるのは広告費です。2023年度から2024年度にかけては953百万ドルから「1.1 billion」へ増えていますが、2025年度は843百万ドルで、前年を下回りました。売上が増え、マーケティング費用も増え、広告費だけが減った年だったことになります。

念のため、これがマーケティングだけの現象ではないことも書いておきます。同じ3年で、製品開発費は1,722から2,354百万ドルへ、運営・サポート費は1,186から1,327百万ドルへ増えました。費用の合計は8,399から9,697百万ドルになり、営業利益は2024年度の2,553百万ドルに対して2025年度が2,544百万ドルと、ほぼ横ばいです。費用が増えているのは販売・マーケティングだけではありません。

「マーケティング費用」と「広告費」は、同じものを指していない

ここまでの数字が矛盾して見えるのは、2つの金額が別のものを数えているからです。10-Kの重要な会計方針の注記には、販売・マーケティング費用が何で構成されているかが書かれています。原文はこうです。

Sales and marketing costs primarily consist of performance and brand marketing, personnel-related expenses, including those related to field operations, portions of referral incentives and coupons, policy and communications, and allocated costs for facilities and information technology.

つまり、成果型広告とブランド広告に加えて、現地運営の担当者を含む人件費、紹介インセンティブとクーポンの一部、ポリシーとコミュニケーション、施設とITの配賦費用が同じ区分に入っています。広告の出稿費は、この区分の一部でしかありません。

販売・マーケティング費用2,588百万ドルの内側に、成果型広告とブランド広告、人件費、紹介インセンティブとクーポンの一部、ポリシーとコミュニケーション、施設とITの配賦費用の5要素を並べ、注記で金額が示されているのは広告費843百万ドルだけであることを示した図
10-Kが列挙している5つの構成要素と、注記で金額が示されている広告費の関係です。5要素それぞれの金額は開示されていないため、引き算で内訳を出すことはできません。 出典:Airbnb, Inc. Form 10-K(2025年度)重要な会計方針の注記(確認日 2026-09-04)

注記の広告費843百万ドルは、「連結損益計算書に含まれる広告費」として示された金額です。この843百万ドルが、上の5つの要素のどこにいくら入っているかは10-Kに書かれていません。したがって、販売・マーケティング費用から広告費を引いた残りが人件費などである、という読み方はできません。差し引きで内訳を作らないでください。

この区別は、日本のマーケティング担当者にもそのまま効いてきます。社内で「マーケティング費用」と呼んでいる数字に、広告の出稿費だけが入っているのか、制作費・ツール費・人件費まで含んでいるのかで、売上比の意味はまったく変わります。他社と比べるときに前提がそろっていなければ、比率の大小に意味はありません。指標の定義をそろえる考え方はマーケティングのKPI設計で扱っています。

Airbnbが自分で説明している戦略は、4つの組み合わせ

では会社自身は、何をやっていると説明しているのか。10-Kの事業の説明には、次のように書かれています。

Our marketing strategy combines brand marketing, communications, performance marketing, and strategic partnerships to increase awareness among existing and potential hosts and guests, demonstrating what makes Airbnb distinct.

ブランド広告、コミュニケーション(広報)、成果型広告、そして戦略的提携の4つの組み合わせだ、という説明です。成果型広告をやめたとは書かれていません。続く文はこうです。

While performance marketing remains a component of our multi-faceted approach, the strength of Airbnb’s brand and our communication strategy has allowed us to maintain lower reliance on paid marketing channels.

成果型広告は今も構成要素の1つであり、ブランドとコミュニケーションの強さによって有料チャネルへの依存度を低く保てている、という書き方です。「使っていない」ではなく「依存度が低い」。ここは読み替えないほうがよい箇所です。

2025年度に何を打ち出したかも書かれています。

In 2025, we focused on unified brand campaigns promoting our full suite of offerings: homes, experiences, and services, showcasing where guests can seamlessly book all three on Airbnb.

宿泊・体験・サービスの3つをまとめて訴求する統合ブランドキャンペーンに集中した、という説明です。あわせて、文化施設、スポーツ・エンターテインメント団体、観光地、メディアとの協賛や共同マーケティングでブランドを増幅させる、とも記載しています。

広告で伝えている中身は、商品の拡張とセットになっている

統合ブランドキャンペーンという説明を、広告表現の工夫として読むと的を外します。訴求する対象そのものが増えているためです。Airbnbが自社のニュースルームで公開した「2026 Summer Release」には、発表内容が具体的な数字とともに載っています。

発表項目 公表されている内容
ブティックホテル ニューヨーク、パリ、ロンドン、マドリード、ローマ、シンガポールを含む世界の主要20都市で、数千軒の独立系ホテルを掲載
レンタカー 2026年夏からアプリ内で検索可能。初めて利用する人には次回の滞在・体験・一部サービスに使える20%のクレジット
体験 ランドマークの体験3,000件超、食文化の体験2,500件超、FIFAワールドカップ関連の体験は6つの開催都市で提供
サービス 食料品配達は米国25都市以上、空港送迎は160都市以上、荷物預かりは175都市の15,000か所以上
AI機能 レビューの要約、比較、旅程の共有、11言語に対応するAIカスタマーサポート

いずれもAirbnbの発表ページに書かれている内容です。第三者が検証した数値ではありません。

並べてみると、キャンペーンで語れる中身が商品側で増えていることが分かります。「泊まる場所を探すサービス」だったものが、同じアプリの中で体験・サービス・ホテル・レンタカーまで扱う形に広がりました。10-Kが言う「3つをまとめて訴求する」キャンペーンは、この拡張を前提にしています。ブランド広告に寄せられる会社は、広告表現の前に、語る材料を商品側で用意しているという順序で読むほうが実態に近いはずです。

Airbnb Newsroom「2026 Summer Release」のファーストビュー
引用キャプチャAirbnbのニュースルームにある「2026 Summer Release」の発表ページ。記事の表で扱っているブティックホテル、レンタカー、体験、サービスの発表内容がここに記載されています。 出典:Airbnb Newsroom「2026 Summer Release」(確認日 2026-09-04/表示のファーストビュー)

この数字から言えないこと

ここまでで確認できた金額は、公表資料に書かれているものです。一方で、マーケティングの記事でよく語られる項目の多くは、10-Kには載っていません。

左に公表値から言えること3件、右に10-Kに記載が見当たらない項目4件を並べた比較図。右側は広告費が減った理由、チャネル別の配分、直接流入の比率と獲得単価、地域別のマーケティング費用
左は10-Kに載っている金額と会社自身の説明から言えること、右は本記事で確認した範囲では記載が見当たらなかった項目です。 出典:Airbnb, Inc. Form 10-K(2025年度・米国SEC EDGAR)(確認日 2026-09-04)

いちばん重要なのは、広告費が2025年度に減った理由が10-Kに書かれていないことです。方針を変えたのか、出稿単価が変わったのか、費目の振り替えがあったのか、判断する材料がありません。「ブランド重視に舵を切ったから広告費が減った」という説明は、この書類からは導けません。

検索・SNS・テレビといったチャネル別の配分も、直接流入の比率も、新規顧客の獲得単価も、地域別のマーケティング費用も、確認した範囲では記載がありませんでした。10-Kは投資家向けの開示書類なので、載っていないことと社内で管理していないことは別です。ただ、外部の私たちが確かめられる範囲はここまでです。

自社の費用を同じ粒度で並べ直す

この事例から持ち帰れるのは、施策のまねではなく、数字の並べ方です。3つの手順で自社に当てはめられます。

1つ目は、費目の中身を書き出すことです。自社の「マーケティング費用」に、広告の出稿費、制作費、ツールの利用料、人件費、キャンペーンの原資のうち何が入っているかを列挙します。Airbnbの10-Kが5つの要素を列挙していたのと同じ粒度です。ここがそろっていない状態で他社比較をしても、比率の差は定義の差でしかありません。

2つ目は、出稿費だけを別建てで追うことです。Airbnbが広告費を注記で分けて示しているように、費用全体の増減と、出稿費の増減は別の線として見ます。この2本が違う向きに動いた月に何をしたのかが、施策の記録として残ります。測定の設計はWeb広告の効果測定、流入側の指標はアクセス解析の指標で扱っています。

3つ目は、単年の増減を戦略の変更と読まないことです。Airbnbの2025年度は広告費が減りましたが、理由は公表されていません。自社の数字でも、1年ぶんの動きだけで方針転換を語らず、増減の理由を自分たちの記録で説明できるかを先に確かめます。説明できないなら、それは判断材料としてまだ弱い数字です。

この記事で確認できたこと

Airbnbの2025年度は、売上12,241百万ドル、販売・マーケティング費用2,588百万ドル、注記の広告費843百万ドルでした。マーケティング費用は3年で最も多く、広告費は前年を下回っています。会社は自らの戦略を、ブランド広告・広報・成果型広告・戦略的提携の組み合わせと説明し、成果型広告は続けたうえで有料チャネルへの依存度を低く保てている、としています。

減った広告費の理由も、チャネル別の配分も公表されていません。この事例から確実に言えるのは、費目の中身を書き出したうえで数字を並べると、「マーケティング費用が増えた」と「広告費が減った」が同時に成り立つ、ということです。海外企業の取り組みを扱った記事は海外マーケティングにまとめています。

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