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画面を開かせない設計。Rocket MoneyがSMSで動かす金融エージェント

米Rocket Moneyは、Claudeで作った金融エージェントRowanをSMSだけで提供しています。3つのモデルを役割で分けた構成と、揺らぎを許さない場所の切り分けを公式事例から整理します。

自社サービスにAIを載せるとき、多くの場合はアプリの中にチャット欄が増えます。米Rocket Moneyがとった選択は逆でした。同社の金融エージェント「Rowan」に、専用の画面はありません。利用者はSMSで受け取り、SMSで返します。

Rocket Moneyは、支出の把握、サブスクリプションの解約、請求の交渉、貯蓄の自動化を扱う個人向け家計アプリです。公式リリースの日付は2026年8月25日で、RowanはAnthropicのClaudeを使って作られたと明記されています。この記事では、Anthropicが公開した導入事例と同社のリリースに書かれている範囲で、設計の考え方と、そこから他業種のマーケティング担当者が持ち帰れる論点を整理します。

画面を開かせないという前提

VP of AI EngineeringのChase Adamsさんは、事例の中で「誰かにダッシュボードを開かせたり、グラフを読ませたりしたくない」と述べています。VP of Product & AIのAaron Dignanさんの言葉はこうです。「最も成功している人には、チームに金融の専門家がいる」。それを全員のポケットに入れたらどうなるか、というのが出発点だとされています。

つまりRowanは、利用者が能動的にアプリを開いて操作するのではなく、支出を常時見張って、節約の余地を見つけたときに向こうから声をかける形をとります。利用者は普通の言葉で返信し、あとはRowanが処理します。公式リリースには、定期的な請求の再交渉、サブスクリプションの解約、貯蓄への自動振替の設定ができると書かれています。

具体例として挙げられているのは、コーヒーの購入額を1ドル単位に切り上げ、その差額を高利回りの貯蓄口座へ移す、という指示です。利用者がそれをテキストで伝えると、Rowanはその規則を作り、以後は自動で回します。1回の作業を代行するのではなく、規則として置きに行くところが特徴です。

マーケティングの言葉に直すと、これは接点の設計の話です。アプリを開く回数を増やす方向ではなく、開かなくてよい方向へ振ったという判断で、指標の置き方まで変わります。

3つのモデルを役割で分けた

中身の構成は、事例に具体的に書かれています。Rocket Moneyは複数の提供元を社内で比較したうえでClaudeを選び、次のように役割を分けました。

入口はHaiku 4.5の分類器です。届いた要求を見て、責務を1つに絞ったサブエージェントへ振り分けます。振り分けられた先の大半はSonnet 5が動かします。そして、より深い推論が要る金融の処理にはOpus 5を充てています。

軽い処理に軽いモデル、重い処理に重いモデルという分け方です。全部を一番強いモデルに通す構成に比べると、費用も応答時間も抑えられます。同時に、分類器の段階で扱わない要求を落とす仕組みも入っており、話題から外れた依頼は早い段階で止まります。

階層図。上からHaiku 4.5の分類器、Sonnet 5のサブエージェント、Opus 5の金融処理の3層を積んだ図
導入事例に記載された3層の構成です。上から順に、要求の振り分け、各サブエージェント、深い推論が要る金融の処理にあたります。 出典:Claude「How Rocket Money built its personal finance agent with Claude」(公式導入事例)(確認日 2026-08-28)

揺らぎを許す場所と、確実性が要る場所

この事例で最も参考になるのは、エージェントに任せる範囲の切り方です。

Dignanさんはこの考え方を「third way engineering」と呼んでいます。決まりきった作業は決定的なコードとして書き、ウェブサイトの側が変わって手順が通らなくなったときにだけ、エージェントが入ってコードを直す。つまり平常時は機械的に、想定外のときだけ賢く、という配分です。

背景にあるのは、Dignanさんの次の一言です。「我々は金融をやっている。精度の基準は100%でなければならない」。ここが小売やメディアと違うところで、もっともらしい答えを返すだけでは足りません。

そのために、出力は構造化された形に固定され、監査と追跡ができるようになっています。処理のあとには、その作業が本当に完了したかを確かめる検証が入ります。本番の実行記録を自動で解析する仕組みもあり、失敗が起きたときに、どの分類器のどの呼び出しで外れたのかを正確に特定できます。1件の修正が全利用者に効く、という構造です。

結果として、ベータ期間中の幻覚(事実でない内容の生成)はほぼゼロだったと記載されています。Adamsさんは、幻覚らしきものが見つかったときも、たいていはモデルが作り出したのではなく、元になったデータ側の問題だったと述べています。

左右比較。左に決定的なコードで固める領域、右にエージェントに任せる領域を並べた図
導入事例が third way engineering として説明している配分を、左右に置きました。平常時は機械的に、想定外のときだけエージェントが動きます。 出典:Claude「How Rocket Money built its personal finance agent with Claude」(公式導入事例)(確認日 2026-08-28)

開発の速度はどう変わったか

もう1つ公表されているのが、開発体制の側の変化です。

チームの月次のコミット数は11倍になりました。12月時点で11だったものが、7月には128になっています。開発にはClaude Codeを使っており、主にOpus、加えてFableを使っているとされています。

人の側の変化も記録されています。Rowanの担当プロダクトマネージャーは、3月に最初のコミットをしてから、6月にはリポジトリ全体の作成者76人のうち9番目に入っています。エンジニアではない職種の人が、3か月でその位置まで来たという記述です。

数字そのものより、意味のほうが重要だと考えています。プロダクトマネージャーが仕様書を書いて渡すのではなく、自分でコードを触って確かめられるようになると、仕様と実装の往復が消えます。マーケティングの現場でも、施策を考える人と実装する人が分かれている限り、往復の時間は縮みません。

数値カード。12月の月次コミット数11件と、7月の128件を並べた図
導入事例に記載された2つの月の値です。同社は7か月で11倍と説明しています。件数は活動量であって、成果そのものではありません。 出典:Claude「How Rocket Money built its personal finance agent with Claude」(公式導入事例)(確認日 2026-08-28)

マーケティングの視点で何が読み取れるか

自社に持ち帰れる論点は3つあります。

1つ目は、接点をどこに置くかです。Rowanは新しいアプリを作らず、既存のSMSに乗りました。利用者に新しい習慣を要求していません。自社でAIを載せるときも、「新しい画面を覚えてもらう」設計は、それ自体が離脱の理由になります。

2つ目は、精度の基準を業種から決めることです。100%を求める領域では、エージェントに全部を任せる設計は成立しません。決定的なコードで固める部分と、揺らぎを許す部分を先に線引きし、線引きの根拠を説明できるようにしておく必要があります。広告文の下書きと、料金の案内とでは、許される揺らぎがまったく違います。

3つ目は、失敗を追跡できる形にしておくことです。Rowanの設計で目を引くのは、精度そのものより「どこで外れたかを特定できる」ことに手間をかけている点です。運用が始まってからの改善速度は、ここで決まります。

Rocket Moneyは、人はいずれ生活の主要な役割ごとに専門のエージェントを数体持つようになるのであって、何でもこなす1体を持つのではない、という仮説を立てているとしています。Rowanを家計の管理に絞り続けているのは、その仮説に沿った判断です。

事例に書かれていないこと

正確を期すために、確認できなかった点を残します。

Rowanの提供範囲は、公式リリースによると新設のPremium Plusという上位プランの一部の契約者に限られており、より広い提供は2026年の後半に予定されているとされています。日本での提供予定については、記載がありません。

料金、利用者数、削減できた金額の実績も公開されていません。「幻覚はほぼゼロ」という記述についても、測定の方法、対象期間、件数は示されていないため、社内での評価としてそのまま受け取るのが正確です。コミット数の伸びについても、比較対象が同じチーム構成かどうかは書かれていません。件数は活動量であって、成果ではないという点も添えておきます。

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