検索広告の管理画面には、1つの広告に見出しを15本まで入れられる欄があります。Googleの公式ヘルプが示している上限です。欄があることと、15本の案を毎回ひねり出せることは別の話で、しかもコピーは数週間おきに差し替える前提になります。運用の規模が大きくなるほど、作る量そのものが仕事になっていきます。
Anthropicの公式ブログに、同社のグロースマーケターであるAustin Lauさんが、この作業を自分で道具に変えた経過が載っています。コードを書いた経験はなく、ターミナルの開き方を検索したところから始めて、1週間後にはFigmaのプラグインと広告コピーの生成ワークフローが動いていた、という内容です。公表されている数値は、広告1本あたり30分かかっていた作業が30秒になった、というものです。
この記事では、公式ブログ、Google広告の公式ヘルプ、Agent Skillsの公式説明に書かれている範囲で、何を機械へ渡し、何を人が先に用意したのかを整理します。先に断っておくと、短くなったと公表されているのは制作にかかる時間だけです。クリック率や獲得単価が変わったかどうかは書かれていません。導入の費用、対象のアカウントの規模、他社で同じ結果が出るかどうかも書かれていません。確認できなかったものは、確認できなかったと書きます。
広告の見出しは、なぜ本数が要るのか
Google広告のレスポンシブ検索広告(RSA)は、見出しと説明文を複数入れておき、その組み合わせをGoogle側が試して、検索語に合うものを学習する仕組みです。公式ヘルプの記載はこうなっています。
| 項目 | Google広告の公式ヘルプ(英語版)の記載 |
|---|---|
| 見出しの本数 | 最低3本、最大15本 |
| 説明文の本数 | 最低2本、最大4本 |
| 見出しの文字数 | 30文字まで |
| 説明文の文字数 | 90文字まで |
| 組み合わせの扱い | Google広告が有望な組み合わせを試し、検索語ごとに関連性の高いものを学習する |
文字数の上限は、英語版ヘルプの記載です。日本語で入稿するときは、自分の管理画面の表示で確認してください。
ここで効いてくるのは上限の存在ではなく、上限まで埋めたほうが有利だとされている点です。公式ヘルプは、見出しと説明文を多く入れるほど、検索語に近い広告を出せる機会が増えると書いています。つまり本数は削れません。
そのうえで、Lauさんの発言として引かれているのは「このくらいの規模で動かしていると、コピーをとても、とても頻繁に差し替える必要が出てくる」という趣旨の言葉です。本数と更新の頻度がかけ算になるので、1本ずつ手で書いていると移動だけで時間が溶けます。公式ブログは、作業がGoogle Sheets、Google Docs、Figma、Google広告を行き来する形になっていたと書いています。
RSAを含む検索広告の立ち上げ方そのものは、Google広告の始め方|アカウント作成から広告配信までの手順に整理しています。
作ったのは2つの道具
1つ目はFigmaのプラグインです。Google Sheetに並べた見出しのコピーを貼り付けると、1クリックでクリエイティブの組み合わせを作ります。作るのにかかったのは45分から1時間で、大量のクリエイティブを差し替えるたびに約30分が浮くとされています。材料にしたのはFigmaの公式APIドキュメントです。仕様が公開されている相手なら、その文書をそのまま渡せるということです。
2つ目は、/rsa という自分用のスラッシュコマンドです。走らせると、見出し15本と説明文4本を作り、そのままアップロードできるCSVに書き出します。RSAの本数が、そのまま出力の形になっているのが分かります。出力の形式を媒体の仕様に合わせておくと、人に残る作業は確認だけになります。
人が先に用意したもの
このワークフローには、3つのSkillsが参照されています。Anthropicのブランドのトーン、製品の正確性、そしてGoogle広告のRSAのベストプラクティスです。
Agent Skillsの公式説明では、Skillsは「指示・スクリプト・資料を入れたフォルダで、Claudeが必要なときに読み込めるもの」と定義されています。同じ説明では、専門知識をまとめて渡すための新人向けの資料にたとえられています。作業中に使えるSkillsを見渡し、合うものがあれば必要な分だけ読み込む、という動きです。
大事なのは中身の出どころです。公式ブログは、Claudeへ渡したコピーと例は、プロダクトマーケティングとコピーライティングのチームと組んで書かれたものだと明記しています。人の判断が先に文書になっていて、その文書を機械が読んでいるという順序です。ブランドの声をAIに決めさせたわけではありません。
この線引きは、他の事例でも同じ形で出てきます。インフルエンサーの原稿確認をAIに任せたMiroも、ルールとの照合は機械、良し悪しの判断は人という切り分けを先に決めていました(Miroはインフルエンサー原稿の一次確認をAIに任せ、48時間内公開を99%にした)。
ほかの部門で公表されている値
公式ブログには、マーケティングの他部門についても、使った作業と公表値が並んでいます。
読むときに注意が要るのは単位です。月あたり、週あたり、1回あたり、前年比と、そろっていません。足し合わせて「全社で何時間」と言い換えると、元の記載から離れます。社内の資料へ引くときは、部門と単位をそのまま持ってきてください。
もう一つ、これらはすべて同社が自社の運用について述べた値で、第三者の検証を経ていません。作業の内容も部門ごとに違います。台本、導入事例の下書き、Web制作の工程、ローンチのブリーフ、展示会の準備。共通しているのは、どれも社内に型があり、繰り返し発生する制作物だという点です。ゼロから方針を決める仕事は挙がっていません。
部門ごとに使い方が分かれる構図は、HubSpotはClaudeを3部門でどう使ったか。開発・マーケ・カスタマーサクセスでも確認できます。
立ち上がりに1週間。出発点はターミナルの開き方
経過も書かれています。出発点は、ターミナルの開き方を検索した状態です。最初に作ったのは簡単な電卓アプリで、何ができるのかを確かめるためでした。その1週間後に、2つのワークフローが動いています。
本人の言葉として引かれているのは「必要なのは、自分の課題と、解決したいことを、とても明確で簡潔な形で説明できること」という趣旨です。プログラミングの知識ではなく、課題を言語化できるかどうかが入口だ、という整理になります。
ただし、この期間をそのまま自社に当てはめないほうがよいです。書かれているのは1人の経験であり、業務の複雑さ、扱うツールの公開仕様の有無、社内の規程によって必要な時間は変わります。公式ブログが助言として挙げているのは、小さくて反復のある作業から始めることです。
公表されていないこと
推測で埋めないために、探しても見つからなかった項目を残します。
| 確認したかった項目 | 公式ブログの記載 |
|---|---|
| クリック率・獲得単価など広告の成果の変化 | 記載がありません |
| 対象のアカウント規模・出稿額 | 記載がありません |
| 作った道具の保守にかかる時間 | 記載がありません |
| 他社・他環境での再現性 | 記載がありません |
| 社内の承認や権限の扱い | 記載がありません |
とくに1行目は、社内でこの種の取り組みを提案するときに重要です。短縮された時間は、広告の成果ではありません。制作が速くなった結果として成果が上がるかどうかは、この出典からは言えません。
日本の実務者が参考にできる点
第一に、自動化の対象の選び方です。この事例で道具になったのは、仕様が外に公表されていて、反復があり、正解を定義できる作業でした。RSAの本数と文字数はGoogleのヘルプに書かれており、ブランドのトーンは社内の文書にあります。どちらも機械へ渡せる基準です。逆に、何を訴求するかを決める仕事は基準が外にないので、同じやり方では渡せません。
第二に、材料を先に集めることです。Figmaの公式APIドキュメント、媒体のベストプラクティス、自社のコピーの実例。渡せる資料の量が、出力の質の上限を決めます。資料がないまま書かせると、一般論が返ってきます。出典のない数値が混ざる危険もあります。
第三に、出力を入稿の形式までそろえることです。見出し15本と説明文4本をCSVで書き出すところまで作ってあるから、人の作業が確認だけになります。途中まで自動にして、最後の整形を手作業で続ける形だと、短縮の効果はかなり落ちます。
第四に、短縮した時間を何に使うかを先に決めておくことです。制作が速くなっただけでは、成果の指標は動きません。空いた時間を検証や出稿先の見直しへ回す前提まで含めて、社内で合意しておくほうが安全です。自動化に向く業務の選び方は、AIでマーケティングを自動化する方法|始めやすい業務から解説にも整理しています。
出典と注記
この記事は、Anthropicの公式ブログ、Google広告の公式ヘルプ(英語版)、Agent Skillsの公式説明を出典としています。数値は原文の表記のまま記載し、単位や通貨の換算はしていません。図に入れた数値も、同じ出典に記載のあるものだけです。担当者の発言は、英語の原文を要旨として日本語にしたもので、逐語の訳ではありません。導入の費用、対象のアカウント規模、広告の成果指標の変化、他社環境での再現性は、この記事の出典からは確認できませんでした。
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