中小企業成功事例/海外事例

1店舗の人気を型にする|The Sports Braが公表した拡大の手順

米ポートランドの女性スポーツ専門バーThe Sports Braは、開業から8か月で売上ほぼ$1 million、いまは他都市へのフランチャイズ展開を公表しています。公表値と公表されていないことを分けて整理します。

客層を思いきり絞った店は、当たれば強い代わりに、広げるときに行き詰まります。その店が成り立っているのは、たいてい店主本人の事情と熱量だからです。米オレゴン州ポートランドのThe Sports Braは、女子スポーツの中継だけを流すバーとして開業し、いまは他都市のオーナーへ同じ形を渡す段階に入ったと公表しています。

先に要点を書きます。公表されているのは、開業前に銀行の融資が得られずKickstarterで資金を集めたこと、開業から8か月で売上がほぼ$1 millionに達したこと、開業直後に客が来ないのではなく処理が追いつかないという形で躓いたこと、そしてフランチャイズで標準にする項目と現地に委ねる項目を分けて発表していることです。売上の内訳や契約条件は公表されていません。この記事で扱うのは、決済事業者の公式導入事例、同社の公式サイト、フランチャイズ側の公式プレスリリース2件に記載がある範囲だけです。確認日は2026年10月21日です。

音を消した画面から始まった店

導入事例によると、きっかけは2018年の全米大学女子バスケットボール決勝です。創業者のJenny Nguyenさんは、その試合を店のいちばん小さなテレビで、音を消した状態で見ていました。同じ店でその試合を見ていたのは自分たちだけだったとされています。本人は、状況そのものより自分がその扱いに慣れてしまっていたことに苛立った、という趣旨の言い方をしています。全部を楽しめる形で女子の試合を見るには自分たちの店を持つしかない、と口に出したのがこのときだと書かれています。

開業までの資金集めについては、具体的な経緯が残っています。見つけられる事業融資に片端から申し込んだものの、構想が新しすぎて銀行は投資しなかったとされています。友人と家族から数千ドルを確保したのち、Kickstarterで資金を募りました。導入事例には、物件の賃料や在庫などに充てる当初の目標が$47,500で、30日間で$105,000超が集まり、目標の2倍を超えたと書かれています。

The Sports Braの経緯を縦に並べた図。2018年のきっかけ、開業前のKickstarter、2022年4月の開業と週末の来店、8か月後の売上、2年後の出資、2025年春の最初のフランチャイズ契約、2026年10月のボストン物件確保
公表されている出来事を、起きた順に並べました。金額と人数は原文の数字列のままで、通貨や単位の換算はしていません。 出典:Square 導入事例「Growing From the First-of-its-Kind to Franchising」、フランチャイズ公式プレスリリース(確認日 2026-10-21)

開業日は2022年4月1日です。Nguyenさんは、きっかけになった決勝と同じ日付にしたかったと説明する一方で、準備が整わなければ「エイプリルフールだった」と言って延ばせるからでもあった、という趣旨の話をしています。資金の出どころが融資ではなく支援者だったことは、あとの展開にも関わります。開業前の時点で、この店に来たい人が実在することが数字で見えていたからです。

開業の週末に起きたのは「人が来ない」ではなく「処理できない」

開業は盛況でした。導入事例には、同時に300人ほどが肩を触れ合わせて立っていたというNguyenさんの回想が載っています。その後も客足は続き、3日間で3,000〜5,000人が来たとされています。全米各地から訪れた人がいて、元競技者が「これほど肯定された場所はなかった」と話したという記述もあります。開業から8か月で、売上はほぼ$1 millionに達したと書かれています。

ここで起きたのが設備側の問題です。当初は取引のあった信用組合が提供するPOSを使っていましたが、来客数を処理しきれませんでした。Nguyenさんは週末のあいだシステムが落ち続けたと述べ、何百件もの取引が落ちたこと、すでに導入してしまっていたので動けなかったことを挙げています。しかもそのPOSは従業員のほとんどが不慣れで、教育の手間も増えていました。

スポーツバーで大きな画面の中継に見入る客の集まり
中継を見る目的で人が集まる業態は、来店が試合の時間帯に重なります。写真はイメージで、The Sports Braの店内ではありません。 写真: Karl Rayson(Pexels)

対応として選んだ手順が具体的です。Nguyenさんは自分で決めるのではなく、どの決済手段を使いたいかを従業員に聞きました。返ってきた答えがSquareで、移行が楽になること、レポートが充実していて飲食店にとって使い勝手がよいこと、この店の規模の取引量を処理できることを理由として挙げています。現在は据え置きのPOS3台とハンドヘルド端末2台で運用し、試合日やイベントの注文をさばいているとされています。

端末が持ち出せることの効果も語られています。通りを封鎖して行ったPride Block Partyでは、ハンドヘルドを屋外へ持ち出しても店の仕組みにつながったままだったこと、物販や飲料のポップアップでも同じように使えることが挙げられています。注目が集まった直後に処理能力が足りず取りこぼす構図は、客足が一夜で増えたタコス店の事例でも同じ順番で起きていました。

公表されている数字と、添えられていないもの

導入事例に出ている数値を整理します。いずれも単位と通貨は原文の表記のままです。

公表された3つの数値カード。開業から8か月の売上がほぼ100万ドル、開業の週末3日間の来店が3,000〜5,000人、開業前のKickstarterが30日間で105,000ドル超で目標は47,500ドル。右側に公表されていない前提を併記している
左が公表値、右がその数字だけでは判断できない点です。利益、客単価、従業員数はいずれも記載がありません。 出典:Square 導入事例「Growing From the First-of-its-Kind to Franchising」(確認日 2026-10-21)

読むときに気をつけたい点が2つあります。ひとつは、この記事が決済事業者が自社の利用者を紹介したものだということです。数字は同社の申告で、第三者が検証したものではありません。もうひとつは、8か月でほぼ$1 millionという売上が、何にどれだけ残ったのかを示していないことです。原価、賃料、人件費、Kickstarterで集めた資金の使途はいずれも記載がありません。売上の規模と事業の健全さは別の話で、片方だけでは判断できません。

参考になるのは数字の大きさではなく、その数字が立った順番のほうです。支援者がいて、開業に人が集まり、そのうえで処理能力が足りないことが分かり、設備を入れ替えた。需要の確認が設備投資より先に来ています。手作業の会計を残したまま端末だけを足したPike Place Fish Marketの選択と並べると、何を先に確かめたかの違いが見えます。

1店舗の人気を、他人が再現できる形にする

2025年6月3日のプレスリリースによると、同社はBoston、Indianapolis、Las Vegas、St. Louisの4都市でフランチャイズを開くと発表しました。Nguyenさんは、この最初の4店がポートランドの店と並んで「Starting Five」になる、という言い方をしています。発表には、開業から2年後にAlexis Ohanianさんの776 Foundationがフランチャイズでの拡大を目的に出資していたこと、2024年10月にフランチャイズ向けの公式サイトを公開したこと、2025年春に最初のオーナー陣が契約したことが書かれています。

注目したいのは、プレスリリースが何を標準として配り、何を現地に委ねるのかを分けて書いている点です。標準の側には、女子スポーツだけを流す番組編成、看板メニュー、看板カクテル、食事制限への対応が並びます。現地の側には、各店を地元のオーナーが所有し運営すること、地域の生産者を支えることが挙げられています。

1店舗を別の都市へ渡すときに本部が型として決めている項目と現地のオーナーに委ねている項目を左右に分けた分岐図
左右は同じ発表の中で分けて書かれている項目です。加盟金や契約期間といった条件は、今回参照した公表文書には出てきません。 出典:フランチャイズ公式プレスリリース(4都市の発表)、Square 導入事例(確認日 2026-10-21)

相手の選び方についても、導入事例で明言されています。Nguyenさんは、拡大を通じて誠実さと理念と価値観を保つことが決定的に重要だと述べ、正確な都市を選ぶより、正しい人を見つけるほうに寄せるという趣旨の話をしています。4都市の発表では、契約したオーナー/運営者について、能力と熱意を備え、店の理念に深く共感していると述べられています。速度より相手、という順番です。

計画と、いま公表されている状況を並べてみます。

いつの公表 何が書かれているか
2025年4月30日公開の導入事例 翌年のうちに3〜4拠点を、契約・内装済みか開業済みの状態にしたい(Nguyenさんの発言)
2026年10月21日時点の公式サイト「Locations」 開業済みはポートランド(オレゴン州)。2026年にボストン、インディアナポリス、セントルイス、ポートランド(メイン州)、2027年にラスベガスと記載
2026年10月13日のプレスリリース ボストンの物件を確保。2 Broad Street、3,243平方フィート。地元のオーナー陣8名と運営責任者が運営

公式サイトの記載は開業予定であって、開業の事実ではありません。各店が予定どおり開くか、何店が実際に営業を始めたかは、この3つの出典からは確認できません。発表の件数を成果として読まないのが、この種の情報の扱い方です。

背景として引かれている市場の数値は、出典で違う

女子スポーツ市場の伸びは、どちらの公表文書も背景として挙げています。ただし同じ年の数字が一致していません。

記載している文書 市場規模の予測 伸びの基準 媒体の露出
2025年4月30日公開の導入事例 2024年に$1 billionを超えると予測(Deloitteの予測として記載) 2021年の評価額から300%増 記載なし
2025年6月3日のプレスリリース 2024年に$2.35 billionに達すると予測 2022年から300%増 過去5年で275%増

当サイトではどちらの予測も検算できません。そのため原文の数字列をそのまま並べています。市場が伸びているという話と、特定の店が儲かるという話は別です。市場の数字は、この業態が成り立つ余地が広がったことまでしか示しません。

日本の実務者が確かめられること

この事例は、特定の業態や道具をすすめるものではありません。日本で女子スポーツ専門の飲食店を開けば同じ結果になる、という読み方もできません。参考になるのは、何を先に確かめたかという順番です。

日本で同じ形を試す前に確かめる4項目のチェックリスト。満たされていない需要かどうか、混み合う日に先に壊れるもの、他人へ渡せる形になっているか、広げる速さを自分で決めているか
事例の構造から逆算した確認項目です。4つはこの順に効いてきます。 出典:Square 導入事例「Growing From the First-of-its-Kind to Franchising」、フランチャイズ公式プレスリリース(確認日 2026-10-21)

第一に、その不満が他で満たされていないかどうかです。この店の出発点は、既存のスポーツバーでは音を消した小さな画面しか与えられなかった、という具体的な不満でした。我慢して済んでいる需要なら、専門店にする理由は弱くなります。既存の選択肢で代用できているかどうかは、開業前に確かめられます。

第二に、混み合う日に何が先に壊れるかです。この事例で足りなかったのは席でも人手でもなく、決済の処理能力でした。注目が集まる日は予測しにくいうえ、そこで落ちた取引はその日しか回収できません。席数や在庫と同じように、注文と決済が落ちない上限を数えておく必要があります。従業員に使う道具を選ばせた判断も、教育の時間という見えにくい費用を減らす方向に働いています。

第三に、他人へ渡せる形になっているかです。プレスリリースで標準として並んでいるのは、番組編成、看板メニュー、看板カクテル、食事制限への対応でした。いずれも文書に書き出せる項目です。逆に、店主の人柄や地元での関係は書き出せません。だから現地のオーナーに委ねる側へ置かれています。自分の店で同じ線を引くなら、まず書き出せるものと書き出せないものを分けるところからです。

第四に、広げる速さを自分で決めているかです。公表されている計画は、年に3〜4拠点という控えめな数と、都市より先に人を選ぶという順番でした。速く増やすほど、標準にした項目が守られているかを確かめる手間も増えます。顧客との関係を記録に寄せる手順は一見客を常連に変えたカーケア店の事例で扱っています。

なお、ここまでの4つを満たせば同じ結果になるという保証はありません。商圏、競合、中継の権利関係、酒類の規制によって、効く打ち手は変わります。公表されているのは1社の経緯であって、再現の条件ではありません。

公表されていないこと

確認できなかったことを残します。The Sports Braについては、利益、客数、客単価、従業員数、賃料、開業に要した総額のいずれも公表されていません。Kickstarterで集めた資金の使途の内訳、776 Foundationの出資額と条件も記載がありません。フランチャイズの加盟金、投資額、契約期間、ロイヤルティの条件は、今回参照した4つの文書には出てきませんでした。

各店の開業日も確定していません。公式サイトのLocationsは年だけを示しており、月日の記載はありません。ボストンについては物件の確保が発表されていますが、開業日は示されず、開業に向けた準備を進めながら市内でポップアップや観戦会を続けるとされています。ポートランド(メイン州)については、プレスリリースで発表された4都市に含まれていなかった都市で、経緯の記載は見つけられませんでした。

分かっているのは、需要の確認が設備投資より先に来たこと、処理能力が足りないことを開業直後に把握して入れ替えたこと、そして標準にする項目と現地に委ねる項目を分けて発表していることです。ここから先を数字で語ることはできません。

出典と注記

この記事は、Squareが公開しているThe Sports Braの導入事例、同社の公式サイトのLocationsページ、フランチャイズ公式サイトのプレスリリース2件を出典としています。いずれも事業者またはプラットフォームが自ら公開している一次情報で、他メディアの記事は使っていません。数値は原文の表記に沿っており、単位や通貨の換算はしていません。開業予定と店舗情報は変わるため、検討する際は各ページの現在の記載を確認してください。確認日は2026年10月21日です。

海外の小さな事業者が公表した経緯を読み解いた記事は海外ビジネスにまとめています。

この分野の実務を相談したい方へ

記事で扱っている内容は、当社が実務として支援している領域です。 自社で進めるか外部に任せるかの判断からご相談いただけます。

支援サービスを見る 相談する