米国ルイジアナ州の「BATTER a bakery」は、創業者Abi Caswellさんが一人で始めた菓子の副業から、ハモンドとニューオーリンズの2店舗を構えるベーカリーに成長しました。CNBC Make Itのインタビュー(2026年1月)によると、2店舗の年間売上は7桁(ドル)に達しています。ベーカリーを開く5年前には「クッキーを一度も焼いたことがなかった」という創業者が、どのような順番で事業を組み立てたのか。公表されているインタビューと公式サイトの情報から、その道筋を追います。
何をしたか:副業から店舗までの道筋
Caswellさんの出発点は、フルタイムの仕事を続けながらの趣味の菓子づくりでした。大学で経営学を専攻し、マーケティングを副専攻した後、エグゼクティブアシスタントとして働きながら、友人向けにケーキを焼き始めます。周囲から「これは売るべきだ」と勧められたことが転機になりました。
商品戦略の判断も注目に値します。当初はケーキとカップケーキを考えていましたが、当時人気が急上昇していたクッキー専門チェーンがまだ地元ハモンドに出店していないことに着目し、クッキーを主力に据えました。2021年秋から夫の協力を得てレシピの試作を重ね、看板商品となるチョコチップクッキーのレシピ完成までに6カ月をかけています。本人は「ひどい出来のクッキーを何度も焼いた。作るたびに何かを学んだ」と振り返っています。
2022年春に退職して菓子づくりに専念し、地元のファーマーズマーケットに出店します。毎週金曜に500枚のクッキーを焼き、土曜の市場では30分ほどで売り切れる状態が続きました。ここで「店舗がなければ需要に応えられない」と確信したといいます。
店舗取得は簡単ではありませんでした。地元の中小企業支援センターの助けを借りて事業計画を作りましたが、貯蓄がなく、複数の銀行に融資を断られています。最終的に自宅を担保に40,000ドルの融資を受け、2022年11月、8人の従業員(ヘッドベーカー1人とパートタイムの店舗スタッフ7人)とともにハモンドのダウンタウンに1号店を開きました。
販路の各段階で、SNSが需要づくりを支えていたことも語られています。Caswellさんは焼き菓子の写真をオンラインとSNSに投稿し続け、地元の固定客を素早く獲得しました。広告費をかけたのではなく、商品そのものを継続的に見せることで、ファーマーズマーケットに並ぶ前から「買いたい人」が待っている状態を作っています。
開店直後の運営は楽ではありませんでした。本人は開店から数カ月を「アドレナリンで走っていた」と表現し、需要に追いつくため1日18時間働く日もあったと語っています。商品が店に並べば売り切れる状態が続き、嬉しい悲鳴の裏で、体制づくりが追いかける形になりました。個人事業が店舗を持つ瞬間の現実として、参考になる証言です。
公表されている結果
インタビューで公表されている数字を整理します。1号店は初年度に6桁半ば(ドル)の売上を上げ、Caswellさんは2023年5月までに銀行融資を完済しました。2024年12月には、より大きな商圏を狙ってニューオーリンズに2号店を開いています。直近の1年では、2店舗合計の売上が7桁(ドル)に達したことを、CNBC Make Itが書類で確認しています。
販売規模については、1日に1,000点を超える焼き菓子が売れると本人が見積もっています。看板のチョコチップクッキーは1枚3.75ドル。クッキーのほか、カップケーキ、ケーキ、プチフール、シーズン商品が定番で、他の地元の女性経営のベーカリーから仕入れる商品や、コーヒーの提供もあります。現在は、看板クッキーのレシピを家庭用ミックス粉として商品化する準備を進めており、最初のロットとして150袋の販売を予定していると語っています。
公式サイトでは、ハモンドの旗艦店とニューオーリンズ中心部の2号店の2拠点体制が確認できます。
成長の次の一手も具体的です。現在準備しているのは、看板のチョコチップクッキーのレシピを家庭用ミックス粉にして販売する展開です。店舗の営業時間と立地に縛られる販売から、商圏の外へ届けられる商品への展開は、労働集約的な飲食業が売上の天井を破る定石のひとつです。最初のロットが150袋という規模であることも示唆的で、ここでも「小さく出して確かめる」という創業以来の型を崩していません。
商品構成の作り方にも学ぶ点があります。定番はクッキー、カップケーキ、ケーキ、プチフール、ちぎりパンで通年提供し、マルディグラ向けのキングケーキ風クッキーのように季節商品を重ねています。定番で安定した売上を作り、季節商品で来店の理由と話題を作る構造です。さらに、ケーキボール、クロワッサン、自家製ポップタルトは地元の女性経営のベーカリーから仕入れており、自社で作らずに品揃えを広げています。両店舗ではコーヒーも提供しています。小さな店が客単価と来店頻度を上げるときの、現実的な組み立て方です。
日本の実務者が参考にできる点
この事例から、日本で小さく事業を始める人が持ち帰れる要素を3つ挙げます。
第一に、需要の実証を段階的に積み上げていることです。友人向けの提供、SNSでの発信、ファーマーズマーケットでの週次販売、そして店舗。各段階で「売れる証拠」を確かめてから次の投資に進んでいます。毎週500枚が30分で売り切れるという事実は、店舗という固定費を引き受ける根拠として十分でした。日本でも、間借り営業やマルシェ出店、ECでの受注販売など、店舗の前に需要を測る手段は豊富にあります。
第二に、競合の空白を突く商品選定です。全国的に流行しているカテゴリ(クッキー専門店)がまだ地元に届いていないことを確認し、そこへ最初に参入しました。トレンドの後追いではなく、トレンドと地理の掛け合わせで空白を見つける考え方は、商圏ビジネス全般に応用できます。
第三に、公的な支援機関の活用です。事業計画づくりでは中小企業支援センターの支援を受けています。日本にも商工会議所、よろず支援拠点、日本政策金融公庫など、創業計画と融資の相談先が整っています。融資を断られても計画を磨いて再挑戦するという順番も含めて、参考になる動き方です。
なお、この事例は自宅を担保にした借入という大きなリスクテイクを含みます。同じ結果が誰にでも再現できるわけではなく、商圏・商品・タイミングの条件がそろった一例として読むべきです。
資金調達で起きたこと
この事例で最も現実的なのは、開業資金の調達過程です。事業計画は地元の中小企業支援センターの助けを借りて作りましたが、当時は貯蓄がなく、複数の銀行に融資を断られています。最終的に、ある銀行の担当者の協力で40,000ドルの融資を確保できましたが、自宅を担保に入れることが条件でした。この資金で店舗を借り、製菓設備を導入しています。
融資は2023年5月に完済されました。開店が2022年11月ですから、およそ半年での返済です。初年度に6桁半ば(ドル)の売上を上げたという公表値と合わせて読むと、返済を最優先に据えた資金繰りだったことがうかがえます。
創業融資を検討する日本の事業者にとって、参考になる点が2つあります。ひとつは、断られた回数ではなく、計画を持って回り続けたことが結果につながっていること。もうひとつは、担保を差し入れるという重い意思決定の前に、ファーマーズマーケットで需要を実証していたことです。返せる根拠を先に作ってから借りる、という順番が守られています。
出典と注記
この記事はCNBC Make Itが公開した創業者インタビューと、BATTERの公式サイトのみを出典とし、金額・数量・年月は原文の表記のまま記載しました。売上の内訳や利益、2号店単体の業績は公表されていません。為替換算は行っていません。
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