オーストラリア・メルボルンの「Milla Rose」は、創業者Alexandra(Ali)Matkowskyさんが自宅アパートの寝室で始めたドライフラワーアレンジメントのECです。公表されているインタビューによると、手元の300ドルで花材を仕入れてスタートし、3カ月目には月商がほぼ10,000ドルに到達。開業から18カ月あまりで約3000点のアレンジメントを販売し、月商は前年から倍増して10,000ドル近くで推移しています。大きな資本も店舗もなく、ニッチな商材で短期間に事業を立ち上げた道筋を、一次情報から整理します。
何をしたか:小資本で速く立ち上げる
Matkowskyさんは大学を1学期で中退した後、歯科矯正、飲食、デジタルマーケティングと職を変えながら、「自分の事業を持ちたい」という思いを持ち続けていたと語っています。Milla Roseの前にも、ケータリング事業やInstagramのフードブログ(フォロワー3万人規模)といった副業を試しており、育てることはできても収益化と拡大に苦労した経験がありました。
着想のきっかけは2020年、メルボルンのロックダウン下で迎えた初めての母の日に、ドライフラワーのアレンジメントを贈られたことでした。同時期に、在宅時間の増加で人々が住まいの装飾にお金と関心を向け始めていること、Instagramのフィードにドライフラワーの新規アカウントが次々と現れていることに気づきます。「自分にもできない理由はない」と考え、夫の後押しで参入を決めました。
立ち上げの実務は極めて軽量です。花材のドライフラワーステムは地元で調達でき、仕入れに使ったのは自己資金の300ドル。SEO代理店での勤務経験とフードブログで磨いた商品撮影のスキルを活かし、数週間でShopifyのストア、SNSアカウント、最初のアレンジメントを立ち上げました。最初の販売チャネルはGoogle広告とInstagramのオーガニック投稿で、開店から1カ月ほどで最初の注文が入り、そこから数十件単位で売れ始めます。本人は、当時のGoogle広告の設定は「推奨されるまま作った基本的な検索キャンペーン」で最適とは言えなかったが、単価が低く市場が熱かったため十分に機能した、と率直に振り返っています。
3カ月目に月商がほぼ10,000ドルに達した時点で、彼女はフルタイムの仕事との両立に限界を感じ、創業から6カ月で退職を決断します。当時の自身への給与は週200ドルほどで、決して余裕のある決断ではなかったことも公表されています。
過去の副業の経験も、この立ち上げに活きています。Matkowskyさんはケータリング事業と、フォロワー3万人規模まで育てたInstagramのフードブログを運営した経験がありましたが、本人いわく、どちらも育てることはできても収益化と拡大に苦労したプロジェクトでした。集客はできても売る仕組みがなければ事業にならない、という学びが、最初から物販ECとして設計されたMilla Roseの形につながっています。副業の経験は、次の挑戦の設計図になるという好例です。
また、参入判断の背景には消費行動の観察がありました。ロックダウンで在宅時間が増え、人々が住まいの装飾へお金と関心を向け始めていたこと。Instagramのフィードにドライフラワーの新規アカウントが増えていたこと。この2つの変化を自分の目で確認したうえで、需要が立ち上がる時期に商品を出しています。市場調査レポートを待つのではなく、身の回りの変化を証拠として集める姿勢は、小さな事業の意思決定の速さそのものです。
公表されている結果
インタビューと公式サイトで確認できる数字を整理します。開業資金は300ドル。3カ月目の月商はほぼ10,000ドル。インタビュー時点(開業から18カ月あまり)で月商は10,000ドル近く、前年同期から倍増しています。販売数は約3000アレンジメントで、オーストラリア全土へ出荷。体制は創業者1人と従業員3人です。
公式サイトでは、ドライフラワーが生花よりはるかに長持ちする(同社は最大260倍と説明)という商品特性を軸に、ブライダルやギフト向けの商品展開が確認できます。事業は現在も継続しており、オーストラリアのドライフラワー専門ECとして地位を築いています。
差別化の考え方も参考になります。参入時点で、Instagramにはドライフラワーを扱う新規アカウントが次々と現れていました。同じ商材で後発として入る以上、「増え続けるアカウントの中で、どう際立つか」が最初の課題になります。Matkowskyさんはここで、商品撮影の質とSEOという自分の武器を差別化の軸に据えました。商材そのものが似ていても、見せ方と見つけられ方で差がつくという判断です。
独立の決断のタイミングも現実的でした。3カ月目に月商がほぼ10,000ドルに達し、実需の裏づけを得てから、6カ月目に退職しています。当時は乳児の育児、フルタイムの仕事、事業運営が重なり、勤務先の在宅勤務方針の変更も重なるという状況でした。「収入の証拠が立ってから辞める」という順番は、家庭を持ちながら独立を考える人にとって、そのまま参考にできる進め方です。
日本の実務者が参考にできる点
この事例の要点は、「小さく始める」を徹底しながら、立ち上げの速度で市場の波に乗ったことです。日本で応用できる点を3つ挙げます。
第一に、既存スキルの棚卸しから商売を設計していることです。MatkowskyさんはSEOと商品撮影という2つの実務スキルを持っていました。ECの集客で最も費用がかかる部分を内製できたことが、300ドルという開業資金を可能にしています。自分が既に持つスキルで代替できる外注費は何か、という順番で事業を設計する考え方は、副業から始める人にそのまま使えます。
第二に、需要の兆候を複数の角度で確かめてから参入していることです。自分が顧客として体験した感動、消費行動の変化(在宅時間の増加)、競合の増加という3つのシグナルを重ねて、市場が立ち上がりつつあることを判断しました。競合が現れ始めている事実を「もう遅い」ではなく「需要の証拠」と読む視点は重要です。
第三に、完璧を待たずに出して、売りながら改善していることです。最初の広告設定は本人いわく最適ではありませんでしたが、まず出稿して売上を立て、運用は後から磨いています。ニッチ市場の初期は、精緻な戦略よりも参入の速さが結果を分けることを示す例です。
なお、この事例はロックダウンという特殊な需要環境が追い風になっており、同じ速度の成長がいつでも再現できるわけではありません。また金額はインタビュー原文の表記(ドル)のまま記載しています。
ニッチ市場を選ぶという判断
Milla Roseが扱うドライフラワーは、生花に比べれば市場規模の小さい商材です。しかし本人は、極めてニッチでありながら成長しているカテゴリだと表現しています。この「小さいが伸びている」という条件は、資本の小さい事業者にとって有利に働きます。大手が本格参入するには市場が小さすぎ、一方で需要は増えているため、先に入って専門性を確立すれば地位を築けるからです。
実際、Milla Roseはオーストラリアのドライフラワーアレンジメント専門ECとして認知を得ました。生花店との真正面からの競争ではなく、長持ちするという商品特性を軸にした別の土俵を作っています。公式サイトでは、この特性を活かしてブライダルやギフト向けの展開も行っていることが確認できます。
日本で同じ考え方を使うなら、既存の大きな市場の中から、特定の用途・特定の悩みに絞った小さな塊を切り出す作業になります。その塊が伸びているかどうかは、検索需要の推移、SNSでの新規アカウントの増減、実店舗での取り扱いの変化といった、身近な指標で観察できます。
出典と注記
この記事はStarter Storyが公開した創業者インタビューと、Milla Roseの公式サイトのみを出典とし、金額・数量・期間は原文の表記のまま記載しました。現在の売上や利益率は公表されていません。為替換算は行っていません。
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