競合を調べてきてほしい、と言われたときに手が止まるのは、探し方を知らないからではありません。どこまでが公表されていて、どこから先は誰も公開していないのかを知らないまま探し始めるからです。公表されていない数字を探して半日を使い、結局は「たぶんこのくらい」と書いた資料は、会議で一度質問されると崩れます。この記事では、無料で誰でも見られる公的な情報源と、各プラットフォームが公開している広告の一覧だけを使って、競合の輪郭を確かめる順番を整理します。あわせて、公開情報では届かない領域をはっきりさせ、そこを推計で埋めずに扱う方法まで扱います。確認できなかったことは、埋めずに残しています。
「何の判断に使うのか」を先に一文で書く
競合調査は、範囲を決めないと終わりません。相手の会社について書けることは無数にあり、全部を集めても判断は進まないためです。最初に決めるのは、その調査結果を何の判断に使うのかという一文です。
たとえば「自社の新しいプランの価格を決めるために、同じ提供形態の競合が公表している価格の並びを知りたい」と書ければ、集めるものが価格の公表ページとその改定履歴に絞られます。「競合の全体像を把握したい」までしか書けていないなら、まだ調査は始められません。全体像という言葉は、何を集めれば終わりなのかを決めていないからです。
用途が決まると、必要な精度も決まります。価格を決めるための調査なら、相手の売上高まで正確に知る必要はありません。逆に、新しい市場へ参入するかどうかの判断なら、市場そのものの大きさを見積もる作業が先に来ます。その手順は市場規模の調べ方の記事で扱っているので、そちらから戻ってきてください。
もう一つ決めておくと楽になるのが、いつまでに、どのくらいの手間をかけるかです。公開情報の調査は、やろうと思えばいくらでも続けられます。締め切りと時間の上限を先に置いておくと、途中で「これ以上は公表されていない」と判断しやすくなります。
誰を競合とするかは、自社の顧客が決める
情報源の話に入る前に、調べる相手を決めます。ここを業界の順位表から選ぶと、実務では役に立たない調査になります。見るべきは、自社の顧客が検討の場で並べた相手です。
材料は社内にあります。失注の記録には、最終的に選ばれた相手が書かれていることがあります。問い合わせの文面には、何と比べているのかが表れます。商談のメモには、比較表を作って持ってきた相手の名前が残っています。これらは公開情報より先に当たるべき一次情報で、しかも自社にしかありません。
競合は同業とは限りません。内製する、表計算ソフトで済ませる、今は何もしないという選択肢が実際の競合になっている場合があります。この並べ方の考え方は3C分析の記事で整理しています。調べる相手は、多くても数社に絞ります。相手が増えるほど一社あたりの調査は浅くなり、どの相手についても判断できない資料になります。
公開されている情報源を、知りたいことから選ぶ
相手が決まったら、情報源を選びます。公的な情報源は、誰が何を目的に公開しているかがはっきりしているため、出どころの分からない数字とは扱いが違います。まず、知りたいことと情報源の対応を押さえます。
| 情報源 | 提供しているところ | 確かめられること |
|---|---|---|
| 法人番号公表サイト | 国税庁 | 商号又は名称、本店又は主たる事務所の所在地、法人番号 |
| EDINET | 金融庁 | 金融商品取引法にもとづく有価証券報告書等の開示書類 |
| 官報 | 国立印刷局 | 会社法の法定公告。決算公告もここに載る |
| J-PlatPat | INPIT | 特許・実用新案・意匠・商標と、審決の検索 |
| 広告の透明性について | 広告主の名前、所在地、広告料金を支払う当事者、過去の一定の期間に配信した広告 | |
| 広告ライブラリ | Meta | Metaの各サービスで配信中の広告 |
情報源ごとの使い方と、載っている範囲
同じ「公開情報」でも、載っている項目はまったく違います。一つずつ、何が確かめられるのかを見ていきます。
会社の実体を確かめる:法人番号公表サイト
国税庁の法人番号公表サイトは、法人番号の指定を受けた法人等の基本3情報を公表しています。中身は、商号又は名称、本店又は主たる事務所の所在地、法人番号の三つです。逆に言えば、ここに事業内容や売上は載りません。
それでも最初に開く価値があります。似た商号の会社を取り違えていないか、登記上の所在地はどこかといった、あとから効いてくる基本を、公的な記録として確かめられるからです。営業資料に相手の社名を書くとき、表記が一字違うだけで別の会社になります。
同サイトには基本3情報ダウンロードの機能があり、全件データと差分データを取得できます。全件データは前月末時点で公表している法人等の最新情報を、全国分または都道府県・国外の単位別に取得できます。差分データは、新たに法人番号を指定した情報や商号変更などの更新情報を、日別に取得できます。形式はCSVとXMLです。特定の地域で新しく設立された会社を定期的に把握したい場合は、この差分データを使う方法があります。取得したデータを社内で使うときは、同サイトの利用規約に従います。
上場している相手なら:EDINET
相手が上場企業であれば、情報量が一気に増えます。EDINETは、金融庁が説明しているとおり、金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システムです。24時間365日、定期保守等の計画停止期間を除いて稼働しています。
有価証券報告書には、事業の内容、セグメントごとの状況、従業員の数、経営方針や経営環境についての記述が、一定の書式で並びます。競合調査でとくに使えるのは、相手が自分の言葉で書いた事業のリスクや課題の記述です。ニュース記事の要約ではなく、会社自身が提出した書類にその表現がある、という点に意味があります。
注意したいのは、書かれている数字がいつ時点のものかです。決算期をまたぐと状況は変わりますし、開示書類は提出されたときの記録として残ります。引用するときは、書類の種類と提出日、対象の期間まで記録に残してください。
上場していない相手なら:官報の決算公告
相手が非上場の場合、EDINETには基本的に出てきません。そこで見るのが官報です。官報は行政機関の休日を除き毎日発行され、会社法にもとづく法定公告が掲載されます。決算公告もその一つです。
官報のサイトでは、直近90日間は全て無料で閲覧できると案内されています。つまり、いま調べたい会社の決算公告が、たまたま直近のものであれば無料で確認できます。それより前のものを調べる場合や、掲載された内容の証明が必要な場合の扱いは、同サイトの案内を確認してください。
決算公告で得られるのは、貸借対照表の要旨など、公告として出された範囲に限られます。事業ごとの内訳や顧客数は含まれません。ここでも、数字は原文の表記のまま記録し、単位を換算し直さないでください。換算すると、あとで原文と突き合わせられなくなります。
商品名と技術を確かめる:J-PlatPat
INPITが提供するJ-PlatPatは、無料で特許情報の検索・閲覧サービスを提供しています。扱うのは特許、実用新案、意匠、商標で、審決も検索できます。
競合調査で使いやすいのは商標です。相手が新しいサービス名を出願していれば、まだ発表されていない名前が先に見えることがあります。ただし、出願されたことと、その事業が始まることは別です。出願だけして使われない名前も珍しくありません。「出願がある」以上のことを、この情報源から読み取らないでください。
特許や意匠は、相手がどの技術や形状に権利を求めたのかを示します。これも、実際にどれだけ売れているかは教えてくれません。売上や販売数は、この情報源には載っていないものとして扱います。
いま出している広告を見る:各社の広告ライブラリ
広告は、相手が今どの市場に力を入れているかが最も早く表れる場所です。主要なプラットフォームは、配信中の広告を誰でも確認できる仕組みを公開しています。
Googleの広告の透明性については、広告主またはウェブサイトの名前で検索でき、日付や対象地域などで結果を絞り込めます。表示されるのは、広告主の名前、所在地、広告料金を支払う当事者、過去の一定の期間に配信した広告などです。確認済みの広告主にはバッジが表示されます。Metaは、Metaの各サービスで配信中の広告を検索できる広告ライブラリを公開しており、社会問題・選挙・政治に関する広告については、配信中かどうかにかかわらず7年間ライブラリに保存されると英語のページに記載しています。
ここで分かるのは、出している広告の内容と、出しているという事実までです。いくら使っているのか、成果が出ているのかは公開されていません。表現の傾向、訴求している相手、出している期間を読み取る場所だと考えてください。相手の訴求語を自社のキーワード設計に生かす方法はSEOキーワードの選び方の記事と合わせて読むと使いやすくなります。
公開されていない領域を、公開されていないまま扱う
ここまでの情報源を全部当たっても、埋まらない欄が残ります。それは調べ方が足りないのではなく、公表されていないからです。この線引きをしておくと、無駄な時間と、危うい書き方の両方を避けられます。
右側を埋めたくなったときが、調査を切り上げる合図です。相手の解約率を推し量る時間があるなら、自社の顧客に聞いたほうが速く、しかも確かめられます。聞き方の設計はアンケート調査の作り方の記事で扱っています。
生成AIに相手の売上や利用者数を尋ねて埋める、という進め方も避けてください。もっともらしい数字が返ってきても、出どころを示せなければ資料に書けません。AIを使うなら、集めた公開情報を整理させる用途に限るのが安全です。その線引きはChatGPTで競合分析する記事で整理しています。
記録は、出どころを書ける行と書けない行に分ける
集めた情報は、一社一枚の記録票にまとめます。大事なのは項目の多さではなく、一行ごとに出どころを書けるかどうかです。
| 列 | 書く内容 |
|---|---|
| 項目 | 何を調べたか(商号、決算公告、配信中の広告など) |
| 内容 | 原文の表記のまま。単位や通貨を換算しない |
| 情報源 | どのサイトの、どのページか |
| 確認日 | その画面を見た日 |
| 区分 | 確認できた事実か、自分の推測か |
| 次の確認 | いつ見直すか |
区分の列が効きます。推測を消す必要はありません。消すと、同じ推測を半年後にもう一度することになります。推測のまま残し、事実と混ざらないようにしておけば、あとで公表された情報と突き合わせられます。
更新の間隔がそろっていないので、見直す日を決める
公開情報は、それぞれ別の周期で新しくなります。官報は行政機関の休日を除き毎日発行され、法人番号の差分データは日別に取得でき、全件データは前月末時点の内容です。開示書類は提出があったときに増え、広告は相手の判断で入れ替わります。
そのため、一度作った記録票は、作った瞬間から古くなり始めます。全部を毎週見直すのは続かないので、項目ごとに間隔を決めてください。商号や所在地のように滅多に変わらないものは長い間隔で構いません。配信中の広告のように入れ替わるものは、施策を検討する直前に見直すほうが実用的です。
見直しの日は、記録票の「次の確認」の列に書いておきます。日付が入っていない行は、いつの情報か分からなくなり、結局使われません。調査そのものより、この一列を維持するほうが、長い目で見ると効きます。
やらないこと
公開されていないことを知ろうとして、相手に直接近づく方法を取らないでください。購入を検討しているふりをして見積もりだけを取る、身分を伏せて相手の担当者に問い合わせる、相手の従業員から社内資料を持ち出させる、といったやり方です。
理由は二つあります。一つは、そうやって得た情報は資料に書けないことです。出どころを書けない行は、社内の判断材料になりません。もう一つは、法令や契約に触れる可能性があることです。どこまでが許されるかの判断は、この記事の範囲を超えます。迷う場面が出たら、進める前に社内の法務へ相談してください。
自動で情報を集める仕組みを作る場合も、相手のサイトの利用規約を先に読みます。公開されているページでも、取得の方法まで自由とは限りません。公的な情報源についても、それぞれの利用規約やダウンロードの案内に従ってください。
調べたことを、打ち手に変える
調査は、比較表を作った時点では終わっていません。表の中から、自社が明日から変えられることを一つ選んで初めて完了します。
見るのは差です。相手が公表している価格の形と自社の形はどう違うか。相手の広告が押している言葉と、自社が使っている言葉はどこが違うか。相手が出願した商標から、どの領域へ向かおうとしているように見えるか。差が見つかったら、それを自社の仮説として書き直します。
そして、その仮説は自社の側で検証します。相手の内側は見えませんが、自社の価格を変えたときの反応、訴求語を変えたときの問い合わせの変化は、自分で測れます。競合調査の価値は、相手を言い当てることではなく、自社で試す候補を根拠つきで絞り込めることにあります。
要点の整理
競合調査は、何の判断に使うのかを一文で書くところから始めます。調べる相手は業界の順位ではなく、自社の顧客が検討の場で並べた相手から選びます。
公開情報の入口は決まっています。会社の実体は国税庁の法人番号公表サイトで、公表されているのは商号又は名称、本店又は主たる事務所の所在地、法人番号です。上場企業の開示書類は金融庁のEDINETにあり、24時間365日、定期保守等の計画停止期間を除いて稼働しています。非上場企業の決算公告は官報で、行政機関の休日を除き毎日発行され、直近90日間は全て無料で閲覧できると案内されています。商品名や技術はINPITのJ-PlatPatで、特許・実用新案・意匠・商標を無料で検索できます。配信中の広告は、Googleの広告の透明性についてと、Metaの広告ライブラリで確認できます。
そのうえで、非上場企業の売上の内訳、顧客数、実際の販売価格、広告の費用と成果は公表されていません。ここを推計で埋めず、仮説として印を付けて残します。記録は一行ごとに情報源と確認日を書き、事実と推測を別の列に分けます。更新の間隔は情報源ごとに違うため、項目ごとに次の確認日を決めておきます。
出典と注記
本記事の記載は、国税庁法人番号公表サイトと同サイトの基本3情報ダウンロードの案内、金融庁のEDINETの説明、官報のウェブサイト、INPITの特許情報プラットフォームの案内、Google 広告ポリシー ヘルプの広告の透明性、Metaの広告ライブラリに関する透明性センターのページにもとづきます(確認日 2026年9月14日)。Metaの保存期間についての記載は、同ページの英語表記にもとづいています。
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