マーケティング戦略/解説

マーケティング戦略とは?立て方を市場分析から施策実行まで解説

マーケティング戦略の立て方を、市場と自社の把握、対象の決定、価値の定義、施策への落とし込み、計測という順番で解説します。戦略と戦術の違い、中小企業向けの進め方も整理します。

「マーケティング戦略を立てよう」という言葉は、実際には何をすることなのかが曖昧なまま使われがちです。資料を作ることでも、施策を並べることでもありません。この記事では、戦略が何を決める作業なのかを定義したうえで、市場の把握から施策への落とし込みまでの手順を順に解説します。

戦略とは「やらないことを決める」作業

日本マーケティング協会が2024年に制定した定義では、マーケティングは「構想でありプロセスである」とされ、構想には戦略・仕組み・活動が含まれると注釈されています。

この構造でいえば、戦略は最上位にあり、その下に仕組みと活動が並びます。戦略が決まっていれば、どの施策をやり、どれをやらないかが自動的に決まります。逆に、施策を並べただけのものは戦略ではありません。

実務的に言い換えると、戦略とは限られた資源をどこに集中させるかの決定です。人も時間も予算も足りない中で、何に使い、何を捨てるかを決める。決めた結果として、やらないことが明確になっているかどうかが、戦略と呼べるかの判定基準になります。

手順1:市場と自社を把握する

出発点は事実の収集です。ここで必要なのは、次の3方向の情報です。

顧客:誰が、何に困って、何を基準に選んでいるか。既存顧客への聞き取り、問い合わせ内容、検索されている言葉が材料になります。

競合:同じ困りごとに対して、他社が何をいくらで提供しているか。ここで見るべきは競合の売上規模ではなく、顧客が比較検討に挙げる相手です。異業種や「何もしない」という選択肢が競合になることもあります。

自社:提供できること、できないこと、他社より強い点、弱い点。ここは希望ではなく事実で埋めます。

この段階でよくある失敗は、調査を目的化することです。判断に必要な情報が揃えば次へ進みます。完璧な情報を待つと、市場のほうが先に変わります。

手順図。把握、対象の決定、価値の定義、施策への落とし込み、計測の設計
順番を飛ばすと、施策の選択が勘になります。手順の分け方は当社の整理です。 出典:公益社団法人日本マーケティング協会「34年振りにマーケティングの定義を刷新」(確認日 2026-08-20)

手順2:対象を決める

集めた情報をもとに、誰に向けるかを決めます。

ここが戦略の最初の分岐点です。すべての人に向けると、誰にも刺さらないという原則があります。特に資源の限られた中小企業では、対象を絞ることが競争上の優位になります。

絞り方には、属性(業種、規模、地域)で切る方法と、状況(困りごと、利用場面、検討段階)で切る方法があります。実務では後者のほうが施策に落としやすくなります。「製造業の中小企業」より「人手不足で受注を断っている製造業」のほうが、書くべき内容も、届けるべき場所も明確になります。

手順3:提供する価値を定義する

対象が決まったら、その相手に対して何を約束するのかを決めます。

判断の材料になるのは、次の3つの重なりです。顧客が求めていること、競合が提供できていないこと、自社が提供できること。この3つが重なる部分が、選ばれる理由になります。

重なりが見つからない場合、対象の絞り方を変えるか、提供するものを変える必要があります。ここを曖昧にしたまま先へ進むと、「価格が安い」以外の理由を説明できない状態になります。

手順4:施策に落とし込む

ここでようやく、具体的な施策を決めます。

決めるのは、どの経路で届けるか、どんな内容を伝えるか、どの順で実行するか、いくら使うかです。手順3までが定まっていれば、施策の選択はかなり自動的に決まります。対象が検索で情報を集める層ならSEOと記事、展示会で情報を集める層なら出展、という具合です。

施策の優先順位は、効果の見込みと必要な労力の2軸で並べます。効果が大きく労力が小さいものから着手するのが基本です。

手順5:計測を設計する

施策を決めたら、何をもって成否を判断するかを先に決めます。

Googleアナリティクスの公式ヘルプでは、データがディメンション(属性)と指標(数量的な測定値)で構成されると説明されています。計測の設計とは、判断に必要なディメンションと指標の組み合わせを決めることです。

実務では、最終成果(問い合わせ・購入)と、その手前の中間指標(訪問数、資料請求数など)を並べます。中間指標があると、成果が出ないときにどの段階で詰まっているかを特定できます。

施策を始めてから計測を考えると、比較対象となる開始前の数字が残りません。 先に決めるのが鉄則です。

戦略と戦術の違い

戦略は「どこで戦うか」、戦術は「どう戦うか」です。

対象を絞る、価値を定義するのが戦略。広告の文言を変える、記事を増やす、フォームを短くするのが戦術です。戦術の改善は成果を数割動かしますが、戦略が間違っていると、戦術をどれだけ磨いても届く相手が違います。

成果が出ないとき、多くの現場は戦術の改善から入ります。しかし施策を一通り試しても伸びない場合は、対象と価値の定義に戻る必要があります。

左右比較。戦略はどこで戦うか、戦術はどう戦うか
戦術をどれだけ磨いても、戦略が違えば届く相手が変わりません。区分は当社の整理です。 出典:公益社団法人日本マーケティング協会「34年振りにマーケティングの定義を刷新」(確認日 2026-08-20)

中小企業での進め方

大企業の戦略立案は、調査に数か月をかけることもあります。同じ進め方は現実的ではありません。

中小企業では、1つの対象、1つの価値、1つの経路から始めるのが有効です。範囲を絞れば検証が速くなり、失敗しても被害が小さくて済みます。1つの形で成果が出てから、対象や経路を広げます。

もうひとつは、見直す周期を決めておくことです。四半期に一度、対象と価値の定義が今も正しいかを確認します。市場や競合は変わるため、一度立てた戦略を固定すると、いつの間にか前提が古くなります。

確認リスト。1対象・1価値・1経路から始める、見直す周期を決める
範囲を絞れば検証が速くなり、失敗しても被害が小さくて済みます。当社の整理です。 出典:Google アナリティクス ヘルプ「アナリティクスのディメンションと指標」(確認日 2026-08-20)

この記事のまとめ

マーケティング戦略とは、限られた資源をどこに集中させるかを決める作業です。市場と自社の把握、対象の決定、価値の定義、施策への落とし込み、計測の設計という順で進めます。

戦略が定まっていれば、やらないことが明確になります。施策を並べただけのものは戦略ではありません。成果が出ないときは戦術より先に、対象と価値の定義を疑います。

戦略を文書にするときの分量

戦略は資料の厚さではなく、判断に使えるかどうかで評価されます。

実務で機能するのは、A4で1〜2枚に収まる分量です。対象、提供する価値、使う経路、優先順位、判断基準の5点が書いてあれば足ります。数十枚の資料は、作るのに時間がかかるうえ、誰も見返しません。

書式より重要なのは、関係者が同じ内容を説明できる状態にあることです。経営者、営業、制作、外注先が別々の理解でいると、施策のたびに認識がずれます。1〜2枚に収めるのは、共有しやすくするためでもあります。

見直しが必要になるサイン

一度立てた戦略も、次のような兆候が出たら見直します。

問い合わせの内容が想定とずれてきたとき。対象の定義が実態と合わなくなっている可能性があります。

競合の訴求が自社と似てきたとき。ポジショニングが機能しなくなっているサインです。

同じ施策の成果が落ち続けているとき。市場側が変化しているか、施策が飽和しています。

社内で施策の判断に迷うことが増えたとき。戦略が判断基準として働いていない状態です。

これらは、施策の改善では解決しません。対象と価値の定義に戻る必要があります。

予算の決め方

戦略を立てる際、予算の考え方でつまずくことがあります。

出発点は、1件の成約から得られる利益です。この金額が分かれば、獲得に使える上限が決まります。取引が継続する事業では、初回だけでなく取引期間全体の利益で考えます。

次に、成約までの通過率を掛け合わせます。問い合わせのうち何割が成約するかが分かれば、問い合わせ1件に使える金額が逆算できます。

この2つが揃うと、広告費が高いのか安いのかを判断できます。逆に、この2つを把握しないまま「予算はこのくらい」と決めると、費用の妥当性を誰も説明できません。

関係者との合意の取り方

戦略は、決めた本人以外が動かなければ成果になりません。合意を得る際に効くのは、次の3点です。

やらないことを先に示す:やることだけを並べると、既存業務との衝突が見えません。何を止めるかを示すと、現実的な議論になります。

判断基準を数字で示す:「うまくいったら続ける」ではなく、「3か月後に中間指標が動いていなければ見直す」と決めます。

最初の一歩を小さくする:全社的な変更ではなく、1つの対象・1つの経路から始めると、反対が出にくく、検証も速くなります。

出典と注記

マーケティングの定義と注釈は公益社団法人日本マーケティング協会、ディメンションと指標の説明は Google アナリティクス ヘルプに基づきます。手順の5分割と中小企業向けの進め方は、当社が支援の現場で用いている整理であり、公的に定められた手順ではありません。

この分野の実務を相談したい方へ

記事で扱っている内容は、当社が実務として支援している領域です。 自社で進めるか外部に任せるかの判断からご相談いただけます。

支援サービスを見る 相談する