Google広告の管理画面の中で、動画の素材そのものを作れるようになりました。Googleは、Google DeepMindのモデルであるGemini Omniを使ったマルチモーダルな動画制作機能を、Google広告のAsset Studioに載せたと発表しています。全世界へ無料の機能として展開されるとされており、日本のアカウントにも順に入ってきます。
先に誤解を防いでおくと、これは「動画制作が要らなくなる」という発表ではありません。作る工程のうち、素材のバリエーションを増やす部分が管理画面の内側へ移った、という発表です。この記事では、公式発表とGoogle Ads ヘルプに書かれている範囲で何ができるのかを整理し、そのうえで制作を外注しているチームと社内で作っているチームが、それぞれどこを見直すことになるのかを考えます。
何が発表されたのか
公式発表の見出しは「From brief to on-brand video in Asset Studio」です。ブリーフ(制作の依頼書)から、ブランドに沿った動画までを、Asset Studioの中で通す、という表現になっています。
Googleは前提として、Google・YouTubeのキャンペーン(Demand Genを含む)ではクリエイティブの多様性が配信結果に大きく影響すること、そして縦・横・正方形といった複数の高品質な形式を作るには、これまで相応の手間がかかってきたことを挙げています。今回の機能は、その手間の側に手を入れるものだという位置づけです。
Asset Studio自体は、以前から用意されていた場所です。Google Ads ヘルプの「About Asset studio」では、素材を作る・編集する・管理する・共有するための中心的な場所だと説明されています。アカウント単位の素材ライブラリ、パソコン・Merchant Center・Google ドライブ・Dropboxからの取り込み、商品画像の生成、テキスト指示による画像編集、横型と縦型の動画を作るビデオビルダー、動画の切り詰め、ナレーションの追加、Google広告のアカウントを持たない相手にも渡せる共有プレビューが挙がっています。AIによる画像生成の部分には、Nano Banana Proというモデル名が記載されています。
つまり今回の発表は、まったく新しい画面が生まれたのではなく、すでにある制作の場所に、動画を作るための強い部品が追加されたという構造です。
4つの段階で動画になる
公式発表には、作業の流れが4つの段階として書かれています。順番に見ていきます。
1段階目は「Anchor Your Brand」です。既存のブランドガイドラインとURLをAsset Studioへ取り込みます。ここが土台になります。
2段階目は「Generate Concepts」です。短いプロンプト(指示文)を書くか、すでに持っている静止画の素材を選ぶと、動画の絵コンテと動きのある場面が生成されます。ゼロから書かせるのではなく、手元の素材を出発点にできる点が実務的です。
3段階目は「Refine with Prompts」です。場面ごと、ナレーション、テンポ、縦横比を、プロンプトで詰めていきます。公式発表では「Prompt to edit」として、自然言語の指示でその場で直せることが挙げられています。作り直しではなく、会話の続きとして直していく形です。
4段階目は「Package & Deploy」です。仕上がった複数形式の素材を、Demand Gen、Performance Max、その他のYouTube・Googleのキャンペーンへ書き出します。
そのほか、公式発表に挙げられている性質が3つあります。ブランドの一貫性については、場面の生成に推論を組み込むことで、見た目とトーンの基準に沿わせるとされています。形式については、横(16:9)と縦(9:16)の展開が挙げられています。そして生成物にはSynthIDによる電子透かしが入り、透明性と保護のためだと説明されています。
何が変わるのか
いちばん変わるのは、動画の「本数」に対する考え方だと見ています。
これまで、動画広告の素材は1本作るのに費用と日数がかかりました。だから多くの現場では、まず1本を丁寧に作り、それを縦横に切り出して使い回してきました。配信面ごとに別の見せ方を試すのは、予算のある案件だけの話でした。
今回のように、ブランドガイドラインと既存素材を起点にして複数の形式へ展開できる機能が無料で載ると、この制約が変わります。Googleは自社の内部データ(2026年1月〜6月)として、Google広告を使う中小企業の半数を超える事業者が、すでにクリエイティブの制作か最適化にGoogleのAIを使っていると述べています。この機能は、その流れの延長線上に置かれています。
一方で、変わらないものもはっきりしています。ブランドガイドラインは人が作ります。何を訴求するかというブリーフも人が書きます。素材の起点になる静止画も、多くの場合は撮影したものです。増えるのは展開の速さであって、出発点の質ではありません。出発点が弱いまま量だけ増やすと、弱い素材が大量に配信されます。
生成した動画をそのまま出せるか
ここは慎重に扱う必要があります。公式発表は、推論によってブランドの基準に沿わせることと、SynthIDによる透かしを挙げていますが、出力をそのまま出稿してよいとは書いていません。景品表示法や薬機法のような表示の規制、実在しない機能の描写、契約上使えない要素の混入は、生成の側では判定できません。確認は広告主の側に残ります。
判断が要る箇所を、出してよい形と避けたい形に分けて整理しておきます。
とくに気をつけたいのが、ナレーションとテンポをプロンプトで詰められることの副作用です。直すのが速いということは、確認が追いつかないまま本数だけ増えるということでもあります。誰が最終確認をするのかを先に決めておかないと、量が増えた分だけ抜けが増えます。
日本の実務者はどう備えるか
やることは3つに絞れます。
1つ目は、ブランドガイドラインを機械が読める形にしておくことです。この機能の1段階目は、ガイドラインとURLの取り込みです。ロゴの使い方、使ってよい色、避けたい言い回しが、社内の誰かの頭の中にしかない状態だと、この段階で渡すものがありません。すでに文書があるなら、それを最新にしておくだけで足ります。
2つ目は、静止画の素材を整理しておくことです。2段階目は、既存の静止画を選ぶところから始められます。商品写真、利用シーン、人物のカットが、権利関係のはっきりした状態でまとまっているかどうかで、出発点の質が決まります。
3つ目は、確認の工程を先に設計することです。誰が、何を見て、どこで止めるのか。生成の速さに合わせて確認を削るのではなく、確認できる本数の上限を先に決めるほうが、結果として速く回ります。
制作を外注しているチームでは、依頼の切り分け方が変わります。「1本まるごと」を頼むのではなく、ブランドの土台と、起点になる素材の撮影を頼み、展開は社内で回すという分け方が現実的になります。社内で作っているチームでは、編集作業の時間が減る代わりに、ブリーフを書く時間と確認の時間が相対的に重くなります。
発表に書かれていないこと
正確を期すために、確認できなかった点を残しておきます。
日本語のナレーションや日本語のテキストがどこまで扱えるのかは、公式発表に記載がありません。「globally」(全世界へ)という表現はありますが、言語ごとの対応状況は書かれていません。展開の完了時期、1アカウントあたりの生成の上限、生成に使われた学習データの範囲についても記載がありません。生成した素材の権利関係についても、この発表では触れられていません。
また、公式発表にある「中小企業の半数を超える事業者がGoogleのAIをクリエイティブに使っている」という記述は、Googleの内部データとされており、調査方法は公開されていません。市場全体の比率として読むのではなく、Googleがそう述べている、という形で受け取るのが正確です。
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