広告クリエイティブの良し悪しは、ふつう配信して数字が出てから決まります。事前に分かるのは「過去に似た素材がどうだったか」までで、いま手元にある1本が売れるかどうかは、出してみるまで誰も断言できません。米国の食品小売Krogerが、クリエイティブ分析のVidmob、業界団体のMMA Globalと組んで公表した調査は、この「出す前」をどこまで機械が言い当てられるかを、実際の配信データで測ったものです。
先に要点を書きます。1年分の実配信データで学習した採点モデルは、eコマースの獲得成果を81%の精度で予測したと記録されています。採点から導いた指針に沿ったクリエイティブは、獲得率が最大4倍で、獲得単価は最大70%低いという結果も並んでいます。対象になったのはKrogerのキャンペーンのクリエイティブ1,934点で、配信面はMetaとGoogleのDV360です。
この記事で扱えるのは、MMA Globalが公開している調査ページとサミットの記録、そしてVidmobの製品公式ページに書かれている範囲だけです。白書そのものは「Coming Soon」の扱いで、まだ公開されていません。費用、実施した体制、測定に使った期間の内訳、日本での提供状況は、いずれにも記載がありません。確認日は2026年10月1日です。読みどころは81%という数字そのものではなく、その数字を信じてよい条件がどこまで書かれているかのほうです。
何を測ったのか。クリエイティブの属性と獲得の関係
調査の組み立ては、公開ページとサミットの記録の両方に書かれています。出発点は、Krogerが実際に出したクリエイティブ1,934点と、その配信実績です。期間は2025年の1年分で、媒体はMetaとGoogleのDV360の2つ。ここにVidmobのAIが属性のタグを付け、どの属性が獲得に結びついているかを統計で見る、という順序です。
タグの数は231です。人物が写っているか、食卓の場面か、商品の見せ方はどうか、といった単位で素材を分解していきます。この231のうち、統計的な有意性の検定を通ったのは105。さらに記録は、そこから3つの関門を通したと書いています。実際の獲得が動いたか、実配信でも再現したか、予測モデルの判断とも一致したか。これを全部満たしたものだけが残り、最終的に23の指針になりました。
最後の段が、この調査のいちばん重要な部分です。モデルは2025年のデータで学習したあと、2026年第1四半期の、モデルが一度も見ていない配信に対して前向きに検証されています。過去の成績を説明できるモデルは珍しくありません。学習に使っていない期間で当てられるかどうかは別の問題で、記録もその区別をはっきり書いています。
公表された数値と、書かれていないこと
数値を、どこに書かれているかと合わせて並べます。
| 公表された内容 | 数値 | 書かれている範囲 |
|---|---|---|
| 獲得成果の予測精度 | 81% | MetaとDV360。学習に使っていない配信で検証 |
| 指針に沿った資産の獲得率 | 最大4倍 | 指針に沿っていない資産との比較 |
| 同じ資産の獲得単価 | 最大70%低い | 同上 |
| 分析したクリエイティブ | 1,934点 | Krogerのキャンペーン、2025年の1年分 |
| タグ付けした属性 | 231項目 | うち105項目が有意性を通過し、23の指針へ |
読み方の注意を3つ書きます。ひとつめは、この調査が当事者と、採点の仕組みを提供している側、そして業界団体によって公表されていることです。Krogerは広告主、Vidmobは採点の仕組みを売っている側です。MMA Globalは業界団体ですが、Krogerのメディア責任者がその委員会の議長を務めています。第三者が独立に再現した結果ではありません。
ふたつめは、範囲です。記録は「1つの小売、2つのプラットフォーム」と自分で書いています。商材が食品中心の小売で、面はMetaとDV360。同じ精度が別の業種、別の面で出るとは書かれていません。
みっつめは、白書が未公開だという点です。回帰分析の詳細、23の指針の中身、母数の内訳は、現時点では公開ページに書かれている範囲しか確認できません。採点モデルの評価で本当に見たいのは、外れたときの外れ方です。それが読めるのは白書が出てからになります。
何が効いていたのか。人の場面か、買い物の場面か
23の指針そのものは公開されていませんが、いちばん効いていた軸は記録に書かれています。実在の人が食事を楽しんでいる場面のほうが、商品そのものや買い物という行為を中心にした素材より強かったというものです。
裏づけとして挙がっているのが出現率の差です。Metaで成績のよかったクリエイティブには、この「実在の人が食べ物を楽しむ場面」が87%に現れていました。そうでないものでは38%です。獲得単価の差も並んでいて、スコアの高い資産はMetaで$11、低い資産は$25と記録されています。
この結果は、日本の現場でもよく出る対立をそのまま含んでいます。商品を大きく、価格を目立たせ、売場を見せる。作る側がいちばん指示しやすいのはこの形です。調査が示したのは、食品小売のeコマースの獲得という限られた場面では、その形が弱かったということでした。自社の商材でも同じとは限りません。属性の効き方は商材と目的で変わるので、指針は自分のデータで作り直す必要があります。
「新しく作らない」という一文の意味
記録には、Krogerのメディア責任者であるKay Vizonさん(Media Director、MMAのMedia & Data Board Chairを兼務)の言葉として、次の一文が載っています。“Create nothing new. Change no media. Reallocate to high-scoring assets and conversions double.”(新しいものは何も作らない。媒体も変えない。スコアの高い資産へ配分を移すと、獲得は倍になる。)
この一文は、制作の話ではなく配分の話です。手元にある素材群にスコアを付け、高いものへ出稿を寄せる。新しい素材を作らず、媒体プランも触らないという前提が置かれているので、費用をかけずに動かせる範囲だけで結果が出た、という主張になります。
同時に、この言い方は誤読されやすいところでもあります。倍になったのはこの検証の条件のもとで観測された結果で、どの広告主にも当てはまる約束ではありません。スコアの分布が偏っていない、高スコアの資産に十分な在庫がある、寄せても配信面の質が落ちない、といった条件が必要です。それらが公表されていない以上、社内で共有するときは「配分を変えるだけで伸びた例がある」までにとどめるのが誠実です。
Vidmobの製品ページ側は、この使い方を3段で書いています。いまの素材が目的と定石に沿っているかを評価し、沿っている度合いを継続して追い、予算を配る前にスコアを判断材料に混ぜる。3段目が今回の調査で検証された部分にあたります。なお同ページには、スコアがどう算出されるかの説明も、向いていない用途の記載もありません。
日本の実務者が参考にできる点
ひとつめは、採点の前に何を採点するのかを決めておくことです。この調査で最初に起きているのは、素材を231の属性へ分解する作業でした。人物の有無、場面、商品の扱い方。ここが曖昧なまま「AIにクリエイティブを評価させる」と、出てくるのは根拠の追えない点数になります。分解の単位は、自社の素材を見ながら人が決めるものです。
ふたつめは、検証の設計です。学習に使っていない期間で当てられるかを見る、という段を最初から計画に入れてください。過去のデータに当てはめて相関を出すところまでは、どんな道具でもできます。未見の期間で外れたら、その指針は使えないという判定基準を先に置くかどうかで、出てきた数字の意味が変わります。
みっつめは、指針を借りないことです。「人が食事を楽しむ場面が強い」は、食品小売のeコマースで観測された結果です。業種、商材、目的、配信面のどれかが変われば効く属性も変わります。借りてよいのは手順で、答えではありません。
よっつめは、配分の意思決定にどう入れるかです。スコアを出すだけなら報告書が1枚増えるだけで終わります。誰が、どのタイミングで、どの数値を見て出稿先を動かすのかを決めないと、採点は運用に届きません。生成AIで素材を作る側の判断はSliceが実在しない曲だけのラジオ局を作った事例、作らせないものを先に決める設計はL’OréalのCreAItechにまとめています。
いつつめは、期待値の置き方です。この調査は、クリエイティブの評価を勘から数字へ移せる場面があることを示しています。ただし効果を保証するものではなく、条件も1社2媒体に限られています。自社で試すなら、小さい範囲で同じ手順を踏み、自分のデータで確かめるところからになります。
出典と注記
この記事は、MMA Globalが公開している調査ページ「Kroger Study: Predictive Creative Scoring Leads to Real Ecommerce Outcomes」、同団体のサミット記録「What We Proved」、Vidmobの製品公式ページ「Creative Scoring」を出典としています。いずれも調査を実施した当事者側が公表しているもので、第三者による検証ではありません。白書は現時点で未公開です。本文の数値は原文の表記のまま記載し、単位や通貨の換算、記載のない項目の補完はしていません。確認日は2026年10月1日です。数値も指針も更新されるため、判断に使う前に各ページの現在の記載を確認してください。ほかの事例は海外AI活用事例にまとめています。
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