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人物は生成しない。L'OréalがAIコンテンツ基盤に引いた線

L'Oréalの社内基盤CreAItechは、複数社のモデルを束ねて画像と動画を作ります。2026年6月のOpenAIとの発表内容と、広告に人物を生成しないという方針、公表されていない項目までを一次情報の範囲で整理します。

人物は生成しない。L'OréalがAIコンテンツ基盤に引いた線 - 株式会社セイビー

生成AIでマーケティングの素材を作るとき、実際に難しいのはモデル選びではありません。作り始める前に、何を作らせないかを決めておくことのほうです。L’Oréal(ロレアル)が公開している社内基盤CreAItech(クリエイテック)は、その線が公式サイトの文章として先に置かれている、数少ない例のひとつです。

先に要点を書きます。CreAItechはL’Oréalの社内向けGenAIビューティコンテンツ基盤で、画像、動画、音、3Dデジタルツインを作ります。モデルは1社に固定していません。Google、Adobe、NVIDIA、Seedance、OMIのモデルを束ねており、2026年6月17日の発表で、ここへOpenAIの最新モデルが加わることが示されました。そのうえで同社は、製品の効能を裏づけたり強調したりする目的では、ライフライクな顔・体・髪・肌をAIで生成しないと明記しています。

この記事で扱えるのは、L’Oréalの公式ページ2件と、Google Cloudの公式ブログ1件に書かれている範囲だけです。制作した点数、削減できた費用、公開後の反応といった数値は、いずれも公表されていません。確認日は2026年9月7日です。

CreAItechは道具の名前ではなく、社内の制作基盤

公式サイトはCreAItechを、マーケティングの未来を形づくるGenAIビューティコンテンツ基盤として紹介しています。単体の生成ツールではありません。複数の提供者のモデルを1つの入口の後ろに束ね、社内の人がそこから使う形になっています

作れるものとして挙がっているのは、画像、動画、音、3Dデジタルツインの4種類です。静止画だけを扱う仕組みではなく、音や3Dまで同じ基盤の上に載っています。素材の種類ごとに別々のツールと別々の運用ルールが増えていく状態を、入口の側で防いでいる形です。

使っているのは、グループ内の数千人規模の人たちです。公式サイトの表記は「thousands of users across the Group」で、作り手、アーティスト、技術者の集まりを立ち上げたことも書かれています。道具を配ってから使い方を募ったのではなく、使う人の集まりのほうを先に作ったという書き方になっています。ここは、社内へ生成AIを広げるときの順序として読める部分です。

階層図。CreAItechを、使う人の層、基盤の層、モデルの層、守るための仕掛けの層の4段に分けて示す
4つの層はいずれも公式サイトとプレスリリースに記載がある要素です。層の順序は、記述の関係を読みやすくするためにこの記事で並べたものです。 出典:L'Oréal公式サイト「L'Oréal's CreAItech」(確認日 2026-09-07)

公表されているのは3つの一次情報

この事例は、性質の違う3つの公式ページに分かれています。1つだけを読むと、提携の話と制作現場の話が切り離されたまま残ります。

発表元 公開時期 そこで分かること
L’Oréal 公式プレスリリース 2026年6月17日 OpenAIとの提携。ブランドごとにAIがどこへ入るか、経営側の発言
L’Oréal 公式サイト(CreAItech) 掲載日の記載なし 基盤の位置づけ、束ねているモデルの提供元、守ることとして挙げている項目
Google Cloud 公式ブログ 2025年4月10日 制作現場での使い方、Imagen 3・Veo 2・Geminiの役割、担当者の発言

3つのうち、日付が明記されているのは2件です。CreAItechの紹介ページには掲載日も更新日も出ていないため、この記事では確認日を2026年9月7日として扱い、内容がいつ時点のものかは断定していません

Google Cloudの記事は2025年4月10日の公開で、いま読むと1年以上前の状態を示しています。それでも外す理由がないのは、制作現場で何に使っているかを具体的に書いた一次情報が、ほかに見当たらないためです。新しい提携の発表だけを読むと、実際の作業がどう変わるのかは分かりません

L'Oréal公式プレスリリース「L'Oréal and OpenAI join forces for Transformation in Beauty with AI」のファーストビュー
引用キャプチャL'Oréalの公式プレスリリース「L'Oréal and OpenAI join forces for Transformation in Beauty with AI」。記事で扱っているブランドごとの用途と、CreAItechにOpenAIの最新モデルが入ることがここに記載されています。 出典:L'Oréal 公式プレスリリース「L'Oréal and OpenAI join forces for Transformation in Beauty with AI」(2026年6月17日)(確認日 2026-09-07/表示のファーストビュー)

モデルを1社に固定していない

公式サイトは、CreAItechが技術大手とスタートアップの高性能なモデルを統合していると書き、提供元としてGoogle、Adobe、NVIDIA、Seedance、OMIを挙げています。特定の1社の基盤に全部を寄せる作りではありません

そこへ2026年6月の発表が重なります。プレスリリースには、OpenAIの最新モデルがCreAItechを動かし、ブランドの遺産を持つ画像と動画を作れるようにする、と書かれています。既存の提供元を置き換えるとは書かれていないため、読み取れるのは束ねる先が1つ増えたということまでです。

Google Cloud側の記事では、もう少し前の状態が分かります。CREAITECHという表記でGenAIビューティコンテンツ研究所として紹介され、Imagen 3とGeminiのマルチモーダルモデルが制作の工程に入っていること、静止画をVeo 2で8秒の動きのある映像へ変えていることが書かれています。同じ基盤の中で、画像を作るモデルと動画にするモデルが役割で分かれています

日本の実務でここを真似できるかというと、そのままは難しい部分があります。複数のモデルを社内の1つの入口の後ろへ束ねるには、権限、ログ、費用の管理を自前で持つ必要があるためです。ただし考え方は小さい規模でも使えます。画像はこのツール、動画はこのツール、と担当者ごとにばらばらに契約していく状態と、入口を1つ決めてから中身を入れ替える状態とでは、後から効いてくる差が大きくなります

2026年6月の発表で、AIが入った5か所

プレスリリースは、提携を2つの領域に分けて説明しています。1つはエージェント型の購買へ向かう消費者の体験、もう1つは研究・科学からマーケティングまでの社内の仕事です。同じ提携の中で、外向きの接点と内向きの制作が並べて示されている点が、この発表の特徴になります

関係図。2026年6月17日のL'OréalとOpenAIの発表を中心に、Maybelline New York、Lancôme・Kérastase、SkinCeuticals・CeraVe・Garnier、La Roche-Posay、CreAItechの5か所へAIが入ることを示す
ブランド名と用途は、いずれもプレスリリースに書かれている組み合わせです。開始時期や提供地域は、米国と書かれている商品発見の項目を除いて示されていません。 出典:L'Oréal公式プレスリリース(確認日 2026-09-07)

消費者に向いている側は3つです。Maybelline New Yorkが、L’OréalのModiFaceの技術を使ったメイクのバーチャル試着をChatGPTへ持ち込むこと。LancômeとKérastaseが、米国のChatGPT内で商品の発見を強化すること。SkinCeuticals、CeraVe、GarnierがChatGPTの広告のパイロットに参加すること。自社サイトへ集めるのではなく、対話の側へ売り場と広告を出していく形です

社内に向いている側は2つです。La Roche-PosayがOpenAIのライフサイエンス向け推論モデルGPT-Rosalindで肌のマイクロバイオームを解析すること。そしてCreAItechにOpenAIの最新モデルが入ることです。

発言も出ています。最高デジタル・マーケティング責任者のAsmita Dubey氏は「At L’Oréal, we believe we can be more demanding of AI to augment our beauty consumers, our metiers such as Marketing and Research and our employees.(L’Orealでは、消費者、マーケティングや研究といった職能、そして従業員を強くするために、AIへもっと多くを求められると考えている)」と述べています。OpenAIでEMEAを統括するEmmanuel Marill氏は「L’Oréal has long combined science, creativity and technology to shape the future of beauty.(L’Orealは長く、科学と創造性と技術を組み合わせて美の未来を形づくってきた)」と述べました。どちらの発言にも、成果を示す数値は含まれていません

何を作らせているか:構想から絵コンテ、パックショットまで

制作の中身が具体的に分かるのは、Google Cloud側の記事です。マーケティングのチームが使っているのは、新しい構想づくり、絵コンテ、パッケージの作り直し、そして商品のパックショットをさまざまな場所で試すこと、と書かれています。

同社のgen AI global content directorであるThomas Alves Machado氏の説明では、AIによってアイデアを形にし、新しい構想を生み、絵コンテを作り、パックショットを別の世界観の中で試せるようになり、社内のチームや協力先へより明確な考えを示せるようになった、とされています。狙いは完成品を作らせることではなく、合意を取るまでの往復を減らすことに置かれています

Group data and AI enterprise architectのAntoine Castex氏は、ブランドごとにあらかじめ用意した素材を土台にして、その商品のまわりを生成できると説明しています。例として挙がっているのは、同じ商品の写真を日本の庭にも、パリの通りにも置けるという使い方です。ブランドの決まりを崩さずに、市場ごとの見え方だけを差し替える作業が、この基盤の主な用途になっています。

パッケージの検討にも使われています。香水の瓶であれば、キャップ、色、光の当たり方による見え方、そしてかばんや棚に入れたときの大きさを、生成した画像の上で試せると書かれています。記事は、この進め方が3Dプリントよりも効率よく、費用の面でも有利だとしています。初期の構想づくりに使うことで、必要な期間が数週間から数日へ短くなったとも書かれていますが、対象の範囲や測り方は示されていません

先に決まっているのは、作らないもの

CreAItechの紹介ページで目を引くのは、機能ではなく制約のほうです。公式サイトは「we do not use AI-generated life-like faces, body, hair, or skin to support or enhance product benefits(製品の効能を裏づけたり強調したりするために、AIが生成したライフライクな顔、体、髪、肌は使わない)」と書いています。

確認項目の図。広告のために人物を生成しない、知的財産の安全を優先する、使う人の技能と理解を引き上げる、電力の消費をCO2として見積もる、人を中心に置いたままにする、の5項目
5項目はいずれもCreAItechの紹介ページに書かれている内容です。違反したときの手順や、判断する担当者については記載がありません。 出典:L'Oréal公式サイト「L'Oréal's CreAItech」(確認日 2026-09-07)

化粧品は、肌や髪の見え方そのものが商品の説明になります。そこをAIで作れてしまうと、写っているものが実際の効果なのか生成物なのかを、買う側が区別できなくなります。この線は倫理の宣言というより、広告の表示が信用されるための条件として置かれています。Google Cloud側の記事でも、広告目的で人物を生成しないことが唯一の決まりとして紹介されており、2つの一次情報で内容が一致しています。

同じページには、知的財産の安全と、使う人の技能・理解の向上を優先していることも書かれています。さらに、電力の消費量をCO2として見積もる機能が組み込まれており、走った距離、動画を見た時間、口紅の製造数といった身近な単位へ置き換えて示す、とされています。環境の負荷を、別部署の報告書ではなく制作の画面の中で見せている点が特徴です

Google Cloud側では、生成物が管理されていない状態や、権利の面で問題のある内容が出ることへの不安が現場にあること、そのうえで評価と検証を済ませてあると示すのが自分たちの仕事だ、という趣旨のMachado氏の説明も紹介されています。生成AIの画像を仕事で使う前提条件はAI画像生成の商用利用で、動画側の道具の選び方はAI動画生成ツールで扱っています。

公表されていないこと

確認できなかった項目を残します。この事例で読み取れるのは構成と方針までで、成果の見積もりには使えません。

知りたくなること 一次情報での扱い
生成した画像・動画の点数 3つの出典のいずれにも記載がありません
削減できた費用、制作費の変化 費用の面で有利という記述はあるが、金額も比率も示されていません
期間短縮の測り方 数週間から数日という記述だけで、対象の工程と期間の範囲は不明です
公開後の反応や売上への影響 記載がありません
CreAItechの提供開始時期・現在の版 紹介ページに日付がなく、確認できません
OpenAIの各施策の開始時期 米国と書かれた商品発見を除き、時期も地域も示されていません

この空欄は、事例が弱いという意味ではありません。制作の基盤は、点数や費用よりも、誰が何を作れて何を作れないかで説明したほうが正確になります。数値が無いことを理由に推測で埋めると、その時点で一次情報から離れます。

日本の実務者が持ち帰れる3点

1つ目は、制約を先に文章にしておくことです。L’Oréalは、生成できることの一覧より先に、生成しないものを公開しています。社内で生成AIを使い始めるときも、使ってよい範囲の説明だけでは足りません。商品の効果に見える表現をAIで作らない、といった線を、担当者が読める言葉で先に置いておくほうが、後から個別に判断する回数が減ります

2つ目は、入口を1つにしてから中身を入れ替える考え方です。CreAItechはモデルの提供元を複数持ち、そこへ新しいモデルが加わりました。道具ごとに担当者が別々に契約していく形と比べて、権利の扱い、素材の置き場所、費用の把握を1か所で見られます。生成AIを実務へ入れる順序は生成AIによるコンテンツ制作でも扱っています。

3つ目は、AIに任せる工程の位置です。この事例でAIが担っているのは、最終の広告物ではなく、構想、絵コンテ、パッケージの試作、市場ごとの見え方の差し替えといった、合意を取るまでの手前の工程です。ここは作り直しが多く、外へ出ない素材が大量に発生します。成果物ではなく往復の回数を減らす場所から入れるほうが、失敗したときの損害が小さく済みます

なお、ここに書いたのはL’Oréalが公表している内容から読み取れる考え方であって、同じ形にすれば成果が出るという意味ではありません。効果は扱う商材と運用の仕方によって変わります。

出典と注記

この記事は、L’Oréalの公式プレスリリース「L’Oréal and OpenAI join forces for Transformation in Beauty with AI」(2026年6月17日)、L’Oréal公式サイトの「L’Oréal’s CreAItech」、およびGoogle Cloudの公式ブログ「How L’Oréal Groupe pioneers responsible AI visuals with Veo and Imagen」(2025年4月10日)を出典としています。確認日は2026年9月7日です。

発言は原文を併記しています。数値は原文の表記のまま扱い、単位や通貨の換算はしていません。CreAItechの紹介ページには掲載日の記載がないため、内容がいつ時点のものかは確定できていません。生成AIの構成は短い周期で変わる領域のため、記載は確認日時点のものとして読んでください。海外企業のAI活用の他の事例は海外AI活用事例にまとめています。

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