注文が増えたときに最初に壊れるのは、多くの場合マーケティングではなく出荷です。米国の女性向けゴルフアパレルブランドSierra Madre Golfは、月に数千件の注文を、外部の物流会社に委託せず社内の少人数チームで処理しています。創業者のBonny Riddleさんは、ガレージから手書きのメモを添えて発送するところから始めました。Shopifyの公式ブログに掲載されたインタビューをもとに、この規模の事業がどうやって出荷を回しているのかを整理します。
この事業の姿
公式サイトによると、Sierra Madre Golfが扱うのは女性向けのゴルフアパレルとアクセサリーです。トップス、ボトムス、ワンピース、アウター、帽子、ソックス、ゴルフタオル、キャディバッグまでが並びます。ゴルフ場だけでなく日常でも着られる意匠であることを打ち出しており、Golf Digest、Vanity Fair、Travel + Leisureといった媒体に取り上げられたことも記載されています。
Shopifyのインタビューでは、この事業が500点を超えるSKUを扱い、月に数千件の注文を社内チームで処理していることが説明されています。第三者の物流会社に頼らず、引き締まった体制で運営しているという書き方です。
品目数が多いということは、ピッキングの間違いが起きやすいということでもあります。アパレルはサイズと色の展開があるため、同じ商品名でも中身が違います。この条件で外注せずに回すには、作業そのものを設計しておく必要があります。
なぜ出荷を外に出さないのか
Riddleさんの説明は、出荷を作業ではなく接点として捉えるところから始まります。「商品をどう届けるかは、お客さまがそのブランドと物理的に、手で触れる形で関わる場面そのものです」。
だからこそ出荷を社内に置いていると述べられています。すべての梱包、メモ、贈り物がブランドの基準を反映するようにするためです。速さと、個別の気配りの両方を、自分たちの手の届く範囲に留めるという判断です。
これは感情的なこだわりの話には留まりません。オンラインだけで販売する事業では、顧客が実際に触れるのは商品と、それを包んだ箱と、中に入っている紙だけです。広告や商品ページで作った印象と、届いた荷物の印象がずれれば、そこで評価が決まります。出荷を外に出すという判断は、この最後の接点の設計を他社に委ねることを意味します。
1つの画面にまとめる
社内で回すための前提として挙げられているのが、業務を1か所に集約することです。注文、在庫、配送、追跡、分析が同じ画面の中にあることで、出荷コストを個別の注文まで遡って確認でき、会計上の記録もはっきりすると説明されています。
Riddleさんは「すべてが1つのプラットフォームにあることは、あれば嬉しいという話ではなく、必要なことです」と述べています。
具体的に使われている機能として、次のものが挙げられています。注文の絞り込みと優先順位付けにより、速達の注文を先に出すこと。ラベルの一括印刷により、注文ページからすべての配送ラベルをまとめて印刷し、二重入力と出し忘れをなくすこと。海外向けでは、決済時に関税を回収し、DDP(関税元払い)のラベルを印刷して通関書類を自動化すること。梱包明細とチェックリストにより、商品の重複や入れ忘れを防ぐこと。集荷の予約を1か所で行えること。そして配送コスト・注文・配送先を1つのダッシュボードで追えることです。
集荷については具体的な変化が語られています。「ShopifyでDHLの集荷を予約できるのは本当にありがたいです」。以前は荷物の入った袋を配送業者の店舗まで運んでいたと述べられています。少人数の事業では、この往復にかかる時間がそのまま出荷可能な件数の上限になります。
出荷作業の型
インタビューでは、実務の型として4つが示されています。
1つめは、優先順位を付けてまとめて処理することです。絞り込みで速達や急ぎの注文を特定し、ラベルは一括で印刷します。Riddleさんは以前のやり方をこう振り返っています。「注文ごとにタブを開いて、1枚ずつラベルを印刷していました」。
2つめは、作業場を標準化することです。倉庫の動線を効率のために設計し、チェックリストや梱包明細、ピックリストで正確さと速さを担保します。「社内で出荷しているなら、商品はすべてピッキング台の片側にまとめておくこと」という具体的な助言が紹介されています。同じ動作を70回繰り返す前提で考えれば、わずかな改善が積み上がるという説明です。
3つめは、自動化できるところを自動化することです。配送業者の選択、料金の計算、荷姿の初期値、海外向けの通関書類を仕組みに任せます。注文量が増えても流れが崩れないようにするためです。
4つめは、個別の気配りを失わないことです。手書きのメモ、ちょっとした贈り物、想定より早い到着。規模が大きくなっても、これらを続けることが述べられています。
Riddleさんは全体をこうまとめています。「本来なら非常に複雑で時間のかかることを、Shopifyはとても簡単で、労力のかからないものにしてくれます」。
越境の出荷は書類で決まる
挙げられている機能の中で、規模の制約に直接効いているのが海外向けの部分です。決済の時点で関税を回収し、DDPのラベルを印刷し、通関の書類を自動化する。この3つが揃うと、海外の注文を国内の注文とほぼ同じ手順で処理できます。
逆に言えば、これが揃っていない状態で越境販売を増やすと、注文1件ごとに書類の作業が発生します。件数が増えるほど作業時間が線形に増えるため、少人数の体制ではどこかで頭打ちになります。関税を着払いにすれば自社の手間は減りますが、受け取る側に想定外の請求が届き、受け取り拒否や不満につながります。決済時に回収する形を選んでいるのは、この最後の接点を守るという方針と一貫しています。
集荷の予約を画面の中で完結させている点も、同じ観点で見られます。荷物を業者の店舗へ運ぶ作業は、注文件数と関係なく毎日発生します。この往復をなくすことは、1件あたりの改善ではなく、1日の作業時間そのものの削減です。
日本のEC事業者が持ち帰れること
第一に、出荷を外注するかどうかは、コストだけで決める問題ではないということです。最後の接点をどこまで自社で設計したいかによって、答えは変わります。
第二に、社内で回すなら作業を先に設計することです。優先順位、一括処理、動線、初期値。この4つが決まっていない状態で件数が増えると、人を足しても追いつきません。
第三に、海外向けの出荷は書類の自動化が分かれ目になるということです。関税の扱いと通関書類を手作業で処理している限り、越境の件数は増やせません。
第四に、個別の気配りは規模の敵ではないということです。手書きのメモを続けながら月に数千件を処理できているのは、それ以外の作業を徹底して自動化しているからです。何を機械に任せ、何を手で残すかを分けて決めることが、この両立の条件になります。
出典と注記
この記事はShopifyの公式ブログに掲載されたインタビューと、Sierra Madre Golfの公式サイトのみを出典とし、数値・機能名・引用は原文の表記に従いました。売上高・従業員数・創業年は本文で扱っていません。月間の注文件数は「数千件」という表現のままとしています。当サイトが同社の商品を購入して評価したものではありません。
この分野の実務を相談したい方へ
記事で扱っている内容は、当社が実務として支援している領域です。 自社で進めるか外部に任せるかの判断からご相談いただけます。