Discordが、自社ではじめてのキャンペーン管理画面「Discord Ads Manager」と、報酬型の動画広告「Video Quests」を公表しました。発表は9月29日、サンフランシスコ発です。これまでDiscordに広告を出すには直販の営業関係が必要でしたが、発表には、セルフサービスでの提供がこれまで直販の関係を必要としていた小規模なスタジオやマーケターへも広告を広げ、予算の規模にかかわらずプラットフォームを開くと書かれています。
ただし「今日から自分で出せる」という発表ではありません。Ads Managerは選ばれた広告主への managed accessとして提供が始まった段階で、完全なセルフサーブは2027年前半の予定とされています。いま日本の実務者ができるのは、出稿そのものより、来たときに判断できる状態を作ることです。
この記事では、公式発表と公式ブログに書かれている範囲だけで、何が新しいのか、買い方の前提が何から何へ変わるのか、そして評価のしかたをどう決めておくべきかを整理します。確認日は2026年10月2日です。英語の発表を訳しているため、日本語の管理画面や営業資料では語が違うことがあります。
発表されたのは、入口と形式の2つ
今回のものは、性質の違う2つが同時に出ています。混ぜて理解すると、どちらの話なのか分からなくなります。
1つ目が入口です。Ads Managerは、発表の表現では「Discord初のキャンペーン管理プラットフォーム」で、予測から、目的に沿った入札でキャンペーンを組むところ、そしてレポートで成績を見るところまでを1か所に集めたセルフサーブの仕組みです。
2つ目が形式です。Video Questsは、モバイル中心・成果重視の報酬型動画広告で、素早く繰り返せる接触のために作られたと書かれています。利用者はタップして視聴し、約15秒で Orbs を受け取ります。Orbsは、公式ブログで「Questを完了することで獲得できる新しい仮想通貨」として説明されているもので、プロフィールの装飾やNitroと交換できます。
形式のほうには、もう1つ注意点があります。名前が付け替えられているのです。
同じ名前の2つを混ぜない
発表には、昨年導入された元の Video Quests は Video Quests Reserve へと発展すると書かれています。Reserveは予約型のプレミアムな枠で、高いインパクトを狙うブランドの場面向けとされ、配信と報酬は動画の完全視聴に紐づきます。
一方、今回の新しいVideo Questsは、Ads Manager経由で出すオークション型で、報酬は約15秒で出ます。発表は、この設計の意図も書いています。利用者に関与する時間を与えて検討を促すと同時に、どれだけ長く見ることを選んだかによって、広告主側に意向のより強いシグナルを与えるというものです。完全視聴を前提にしないかわりに、視聴の長さそのものを情報として使う、という考え方です。
実務で困るのはここです。昨年までの提案資料や社内の議事録に「Video Quests」と書かれていても、それはいまのReserveを指しています。同じ名前のまま中身が入れ替わっているので、過去の見積もりや完了率の前提をそのまま持ち込めません。社内に残っている資料には、どちらを指しているのかを書き足しておくほうが安全です。
買い方が「申し込み」から「運用」へ変わる
今回いちばん実務に効くのは、形式よりも課金と運用のしかたです。発表は、Ads Managerが動的なコストモデルを持つオークション型の配信を提供すると書いています。固定CPMではなく、広告がオークションで競い、価格は動的に変動します。広告主は配信と成果の釣り合いを取るために入札をリアルタイムで調整でき、ファネル下部の指標を見ながら進められるとされています。
もう1つ、見落としやすい一文があります。広告主はキャンペーンを最初から最後まで自分で作り、自社と第三者のレポートでリアルタイムに成績を見て、まとめのレポートを待たずに結果に応じて予算を素早く調整できるというものです。これは、報告書が届いてから次を考える進め方と、画面を見ながら手を入れる進め方の違いです。
つまり前提が、枠を押さえる「申し込み」から、数字を見ながら動かす「運用」へ寄ります。予約型の出稿に慣れたチームほど、ここで体制の話が出てきます。誰が毎日見るのか、どの指標で入札を動かすのか、止める条件は何か。この3つを決めずにオークション型の枠へ入ると、配信は回っているのに判断だけが止まります。Web広告側の指標の置き方はWeb広告の効果測定方法|見るべき指標と改善の進め方に整理しています。
なお、Video Questsが発表時点で選べる目的は「impressions と clicks といった成果」で、追加の目的は今後とされています。インストールや購入を目的に選びたい場合は、追加を待つか、後述の計測側で後追いすることになります。
公表されている数字は高いが、読み方に前提がある
規模の数字は、Q2 2026時点で90+ million のデイリーアクティブユーザーです。成績の数字としては、Questsがこれまでに97% という広告完了率の中央値を出しており、ゲームスタジオがこの形式でゲームの発見に意味のある伸びを得ている、と書かれています。
この97%を、他媒体の動画広告の完了率と並べてはいけません。報酬と交換で見てもらう形式では、完了率は高く出るのが当然です。利用者は報酬を受け取るために視聴を終えます。ここで分かるのは「最後まで届いた」ことで、「関心を持った」ことではありません。
2025年の発表には、より具体的な事例の数字があります。AppsFlyerが Second Dinner と組んで Marvel Snap を宣伝した2本のモバイルVideo Questsで、15 million を超える表示回数を得て、Questを開始した利用者のうち99 percent が課題を完了したとされています。さらに2本目は、AppsFlyerとDiscordのプレイヤーベースのモバイルターゲティングとサーバー間のMMPを使い、1本目に対して30% の成績の伸びを出したと書かれています。
ただし、この事例は昨年の発表のもので、今回のAds Manager経由の結果ではありません。また同じ発表には、Questsに触れた利用者の50%超が、QuestsはDiscordでの体験を良くすると答えたことも挙がっています。報酬型が嫌われていないことの根拠にはなりますが、出稿の成果を保証するものではありません。
報酬型の広告は、何を測るかで評価が変わる
報酬型では、視聴の指標が良く出て、その先が落ちます。だから評価は、媒体側のレポートだけでは決まりません。発表に出ている計測の経路は3つです。
| 経路 | 公式発表・公式ブログの記載 | 向いている対象 |
|---|---|---|
| AppsFlyer | Discordにとって初のモバイル計測プラットフォーム(MMP)。AppsFlyerを使う広告主は、モバイルのVideo Questsのキャンペーンでプライバシーに配慮した計測に使える | モバイルアプリのインストールから先を追いたいとき |
| Gamesight | サーバー間のイベントAPI連携により、インストール・ログイン・購入を端から端まで計測しアトリビューションする | PC・コンソールのゲーム会社 |
| Kantarのブランドリフト調査 | 認知・再生・意向といった成果を、第三者の手法でキャンペーンに紐づけて測れる | ブランド目的で、獲得で測れないとき |
この3つは、測るものが違います。MMPはアプリのインストールから先、Gamesightはゲームの中の行動、ブランドリフトは人の記憶と意向です。どれを使うかは、出稿の目的を決めた時点で決まります。先に枠を押さえてから計測を考えると、終わったあとに「完了率は高かったが、それで何が起きたのか言えない」という報告になります。
ゲーム以外の業種でも使われてはいます。公式ブログには、Netflixが『The Old Guard 2』の宣伝で前例のないVideo Questを実施したことや、Marvel Snap・Tank Blitz・Brawl Starsといったキャンペーンが挙がっています。ただし公開されている事例の多くはゲームと娯楽で、他業種での成果の公表は見つかりませんでした。
日本の実務者が先に決めておくこと
完全なセルフサーブが2027年前半の予定である以上、いま動かせるのは準備のほうです。他の媒体の新しい広告の入口が開いたときと同じで、先に決めておいた側が最初の枠を使えます。SnapとGoogleがAIエージェント向けの入口を公式に用意した件は広告データにAIエージェントの正面入口。SnapとGoogleの公式MCPサーバー、Metaが小規模事業者向けにエージェントを広げた件はMeta Muse for Small Businessとは。業務ツールへつなぐ前に決めることで扱っています。
決めておくことは4つです。
第一に、自社の読者や顧客がDiscordにいるかどうかです。発表の文面は一貫して「players(プレイする人)」で書かれています。ゲーム・アプリ・娯楽の周辺でないなら、規模の数字だけで判断しないでください。
第二に、報酬型をどう評価するかです。完了率で判断しないと決め、インストール・登録・購入のどこで見るかを先に書いておきます。測れないなら、出稿しても判断できません。
第三に、計測の下地です。MMPを使っていないモバイルアプリなら、そこから先に進みません。PC・コンソールのタイトルなら、サーバー間のイベント連携の有無が前提になります。
第四に、日々見る人を決めることです。オークション型で入札を動かせる設計なので、押さえて待つ運用とは必要な人手が違います。他のSNS広告の費用感と運用の負担はTikTok広告の費用はいくら?種類・課金方式・予算を解説が参考になります。
発表に書かれていないこと
推測で埋めないために、探しても見つからなかった項目を残します。
| 確認したかった項目 | 発表・公式ブログの記載 | どうするか |
|---|---|---|
| 日本での提供と日本語への対応 | 記載がありません | 対象国が明らかになるまで、出稿計画の前提にしない |
| 最低予算とCPMの水準 | 記載がありません。オークションで動的に変動するとだけ書かれています | managed accessの窓口で、自社の規模で成立するかを確認する |
| インストールや購入を目的に選べるか | impressionsとclicksといった成果が挙がり、追加の目的は今後とされています | 追加されるまでは、計測側で後追いする前提で設計する |
| Video Questsの審査基準と出稿できる業種 | 記載がありません | 制作に入る前に確認する |
| Orbsの付与量と、広告主側の負担 | 記載がありません | 見積もりの段階で確認する |
| ゲーム・娯楽以外の業種での成果 | 公表された事例が見つかりませんでした | 自社で小さく試し、社内に記録を残す |
Discordの広告は、報酬との交換という独特の仕組みを持っています。その独特さは、他媒体の数字と並べられないという意味でもあります。最初の出稿は、成果を取りにいく出稿ではなく、自社の基準値を作る出稿として設計してください。
まとめ
Discordは、自社初のキャンペーン管理画面Ads Managerと、モバイル中心の報酬型動画Video Questsを公表しました。直販の関係がなくても出せる方向へ進み、予算規模の壁は下がります。ただし現在は選ばれた広告主へのmanaged accessで、完全なセルフサーブは2027年前半の予定です。
実務上の変化は3つです。買い方が固定CPMからオークションへ移り、入札をリアルタイムで動かす運用になること。元のVideo QuestsがVideo Quests Reserveへ名前を変え、報酬の条件が「約15秒」と「完全視聴」に分かれたこと。そして目的が現時点ではimpressionsとclicks中心で、獲得は計測側で追う必要があること。
公表されている97%の完了率は高い数字ですが、報酬型では高く出るのが当然です。評価の基準をインストールや登録より先の地点に置き、MMP・サーバー間連携・ブランドリフトのどれで測るかを、出稿を決める前に選んでおいてください。
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