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Macy'sが4週間で出したAsk Macy's。公表された数字と作り方

米Macy'sはGoogle CloudのGemini Enterprise for CXで接客エージェントAsk Macy'sを4週間で公開しました。公表された成果と段階公開の進め方、そこから読み取れない範囲までを一次情報の範囲で整理します。

Macy'sが4週間で出したAsk Macy's。公表された数字と作り方 - 株式会社セイビー

「AIに接客させる」と聞いたときに実務で知りたいのは、たいてい3つです。何を作ったのか。どれくらいの期間で出したのか。そして、公表されている数字はどこまでのことを言っているのか。米国の百貨店Macy’sが2026年3月に公開したAsk Macy’sは、この3つを一次情報で追える珍しい事例です。開発を支援したGoogle Cloudが、進め方と結果を1本の記事として公開しているためです。

先に要点を書きます。Ask Macy’sは、macys.comとMacy’sアプリに置かれた対話型の買い物相談の入口です。文章と画像の両方を受け取り、服を自分の写真に重ねて見る機能を持ちます。土台はGoogle Cloudが2026年1月に発表したGemini Enterprise for Customer Experienceで、両社合同の朝会が始まってから約4週間でベータ公開に至りました。公表されている成果は1つだけで、ベータ期間にAsk Macy’sを使った人のrevenue per visit(1回の訪問あたりの売上)が、使わなかった人の約4.75倍だったというものです。

この記事で書けるのは、Google Cloudが公開している3本の一次情報に載っている範囲だけです。導入にかかった費用、利用者数、比較した期間の定義、日本語や日本での提供予定は、いずれも記載がありません。確認日は2026年9月8日です。

Ask Macy’sは何をする道具か

Google Cloudの記事は、Ask Macy’sを「a new digital shopping concierge(新しいデジタルの買い物コンシェルジュ)」と呼び、multimodal(複数の形式を扱う)でagentic(自律的に動く)AIの前進だと紹介しています。置かれているのはmacys.comのデスクトップとモバイル、そしてiPhone・Android向けのMacy’sアプリです。裏側では、more than 2.5 million SKUと書かれた同社の商品カタログを参照します。

なぜ作ったのかは、記事の冒頭に書かれています。オンラインでは選択肢が多すぎて買い物客が決められなくなること、そして「the average documented shopping cart abandonment rate today is still about 70%(今日でも記録されているカート放棄率は平均で約70%ある)」という状態です。店舗であれば販売員が聞き取って絞り込む部分が、オンラインでは検索窓と絞り込み条件に置き換わっている、という整理になります。

使い方の例として挙がっているのは、条件の羅列ではなく事情の説明です。記事に載っている入力は「I’m a 50-year-old petite woman. High-quality material is very important to me – I love good cottons and natural fabrics. Can you suggest an outfit that works for the office but transitions to an evening dinner?(私は50歳の小柄な女性です。素材の良さをとても重視していて、質のよい綿や天然素材が好みです。オフィスでも着られて、夜の食事にも移れる装いを提案してもらえますか)」というものでした。検索語ではなく、店員に話すような文章がそのまま入力になります

画像を扱う点も特徴です。買い物客が自分の写真を読み込ませると、服を着た状態を表示できます。背景も切り替えられ、記事では「at the office, in a restaurant, or trackside at the Kentucky Derby(オフィス、レストラン、あるいはケンタッキーダービーの観覧席)」という例が挙げられています。テクノロジー製品開発と顧客体験を担当するシニアバイスプレジデントのChad Westfall氏は「We’re bringing the concept of hospitality to online customers at scale.(もてなしという考え方を、オンラインの顧客へ規模を保ったまま持ち込んでいる)」と述べています。

事例カード。Ask Macy'sの対象、使っている製品、扱う商品数、公開時期、入力の種類を並べ、公表された結果を1行で示す
並べた6項目は、いずれもGoogle Cloudの記事に書かれている内容です。SKU数と倍率は原文の数字列のまま記載しています。 出典:Google Cloud「How Macy's Built the Ask Macy's AI Agent in 4 Weeks」(確認日 2026-09-08)

4週間で何をしたか:2月9日から段階公開まで

この事例で参考になるのは、モデルの話より進め方のほうです。Macy’sは以前から別のサイト向けエージェントの計画を進めており、そこにnearly six months(6か月近く)を費やしていました。Gemini Enterprise for Customer Experienceを知ったあと、Westfall氏は「We realized we needed to pivot immediately. The pace of change and innovation in AI left no room to stand still, so we adapted.(すぐに方針を変える必要があると気づいた。AIの変化と革新の速さは立ち止まる余地を残さなかったので、私たちは合わせた)」と述べています。積み上げた作業量ではなく、出す先を基準に判断しています

新しい目標として置かれたのが、小売の展示会Shoptalkが開かれる3月24日でした。逆算すると6週間もありません。2月9日、両社から数十人が集まって最初の毎日の朝会が開かれ、実装、画面、機能の判断をその場で一緒に決めていく形が取られました。Westfall氏は、この期間に「forwent some of our usual processes in order to go after this with all deliberate haste(意図した速さで進めるために、普段の手順のいくつかを省いた)」とも述べています。

公開の広げ方も段階的です。まずサイト利用者のごく一部と、社内の同僚数千人へベータを出しました。社内の試用者は不具合報告ではなく、応答の温かさと役立ち方への意見を返しています。ベータ公開の翌日にはサイト利用者の50%へ、その1週間後には全員へ広がりました。3月下旬からはmacys.comとMacy’sアプリで通常の機能として提供されています。

日本の実務でそのまま真似できるのは、期日の置き方と広げ方の設計です。作り終えてから公開日を決めるのではなく、外に出す日を先に固定して、そこへ入る範囲を決めています。加えて、いきなり全員へ出さず、社内、一部、半分、全員と段階を踏んでいます。応答の質を評価する人が中に居る状態を先に作ってから外へ広げる順序は、規模を問わず使えます。

時系列図。2月9日の初回の朝会から、3月24日のベータ公開、翌日の50%、1週間後の全員、3月下旬の通常提供までを並べる
日付と拡大の割合は記事に書かれているとおりです。ベータ期間の長さと、社内試用者の正確な人数は示されていません。 出典:Google Cloud「How Macy's Built the Ask Macy's AI Agent in 4 Weeks」(確認日 2026-09-08)

公表された数字は1つだけ。その読み方

結果として公表されているのは、ベータ期間の1点です。原文は「revenue per visit was roughly 4.75 times higher among customers who used Ask Macy’s」で、Ask Macy’sを使った買い物客のrevenue per visitが、使わなかった買い物客のおよそ4.75倍だった、という意味になります。

ここで注意したいのは、これが「導入前と導入後」の比較ではなく、同じ期間の「使った人」と「使わなかった人」の比較だという点です。もともと買う目的がはっきりしている人ほど相談機能を触りやすい、という偏りは打ち消せません。比較した期間の長さ、対象にした訪問の定義、注文単価の内訳は公表されていないため、この数字から施策の効果量を取り出すことはできません。

言い換えると、この数値はMacy’sの環境で起きた差の記録であって、他社が同じ道具を入れれば同じ差が出ることを示すものではありません。効果は商材、カタログの整い方、既存の検索体験の出来によって変わります。自社で判断したいなら、同じ土俵で比べられる計測を先に用意するしかありません。訪問単位の売上をどう見るかはCVR改善でも扱っています。

OK・NGの比較図。公表された4.75倍という数値について、読み取ってよい範囲と読み取れない範囲を左右に並べる
左は記事に書かれている条件、右はその条件から導けない読み方です。仕分けはこの記事の整理で、出典に判断として書かれているものではありません。 出典:Google Cloud「How Macy's Built the Ask Macy's AI Agent in 4 Weeks」(確認日 2026-09-08)

土台になったGemini Enterprise for Customer Experience

Ask Macy’sが載っているのは、Google Cloudが2026年1月11日に発表した製品です。発表は買い物と問い合わせ対応を1つの基盤にまとめるという位置づけで、あらかじめ用意された部品として、複雑な条件を読み解くshopping agent、支援対応の画面を組み立てるCustomer Experience Agent Studio、飲食店の注文を受けるFood Ordering agentが挙げられています。発表文は、こうした部品を数日単位で立ち上げられること、電話・モバイル・ウェブで40を超える言語に対応することを示しています。

同じ時期のGoogle Cloudのブログでは、狙いがもう少し明確に書かれています。「These agents are much more than simple chatbots answering questions: They can independently plan, reason, and act on your behalf, under your supervision.(これらのエージェントは、質問に答えるだけの単純なチャットボットではない。あなたの監督のもとで、独立して計画し、推論し、代わりに行動できる)」という一文です。「監督のもとで」という条件が、発表側の文章に最初から入っている点は見落とさないほうがよい部分です

なお、この1月の発表にMacy’sの名前は出てきません。Ask Macy’sが公になったのは4月の記事で、順序としては製品の発表が先、個別の事例の公開が後です。導入を検討する側から見ると、製品ページで語られる能力と、実際に1社が出せたものとの間には、2か月以上の実装と判断が挟まっているということになります。エージェントを業務へ組み込む考え方はAIエージェントとマーケティング、問い合わせ側の自動化はAIによる問い合わせ対応の自動化で扱っています。

Google Cloud「Google Cloud Brings Shopping and Customer Service Together with Gemini Enterprise for Customer Experience」のファーストビュー
引用キャプチャGoogle Cloudの発表ページ「Google Cloud Brings Shopping and Customer Service Together with Gemini Enterprise for Customer Experience」。記事で扱っている3種類の部品と、数日単位で立ち上げられるという説明がここに掲載されています。 出典:Google Cloud「Google Cloud Brings Shopping and Customer Service Together with Gemini Enterprise for Customer Experience」(2026年1月11日)(確認日 2026-09-08/表示のファーストビュー)

公表されていないこと

確認できなかった項目を残します。この事例から取り出せるのは進め方と1つの比較値までで、投資判断の材料にはなりません。

知りたくなること 一次情報での扱い
開発と運用にかかった費用 3本のいずれにも記載がありません
ベータ期間の長さ、比較した訪問の定義 記載がなく、4.75倍の前提を確認できません
利用者数、対話の件数 具体的な数は示されていません
誤った案内が出たときの扱い 記載がありません
在庫・価格・配送などの連携範囲 既存システムと統合したとあるだけで、対象は不明です
日本語対応、日本での提供 記載がありません

空欄が多いこと自体は、事例の弱さではありません。発表側が測っていない値を推測で埋めた時点で、一次情報から離れます。ここでは「書かれていない」と残しておくほうが、後から確認できる形になります。

日本の実務者が持ち帰れる3点

1つ目は、公開日を先に固定することです。Macy’sは6か月近く進めた計画を捨て、展示会の日程に合わせて作り直しました。判断の基準が「どこまで作れたか」ではなく「いつ外に出すか」に置かれています。社内の合意形成に時間がかかる案件ほど、出す日が決まっていないと機能追加の議論が終わりません。

2つ目は、AIに任せる範囲を入口に絞ることです。Ask Macy’sがやっているのは、事情を聞いて候補を絞り、見え方を試させるところまでです。商品情報そのものは自社のカタログ側にあり、エージェントはその参照役になっています。生成する範囲を広げるより、自社データの整い方が結果を決める構造で、これは規模の小さいECでも同じです。

3つ目は、他社の公表値を自社の見込みに使わないことです。4.75倍という数値は、Macy’sの環境で、使った人と使わなかった人を比べた結果です。自社で導入を判断するなら、同じ比較ができる計測を先に用意し、自社の数値で見るしかありません。ここを飛ばすと、入れたあとに効果を説明できなくなります。海外企業のAI活用の他の事例は海外AI活用事例にまとめています。

なお、ここに書いたのはGoogle Cloudが公表している内容から読み取れる範囲であって、同じ手順を踏めば成果が出るという意味ではありません。結果は扱う商材と運用の仕方によって変わります。

出典と注記

この記事は、Google Cloudの「A New Era for Online Shopping: How Macy’s Built the ‘Ask Macy’s’ AI Agent in 4 Weeks With Gemini Enterprise for Customer Experience」(2026年4月22日)、同じくGoogle Cloudの「Google Cloud Brings Shopping and Customer Service Together with Gemini Enterprise for Customer Experience」(2026年1月11日)、およびGoogle Cloud Blogの「A new era of agentic commerce is here」(2026年1月12日)を出典としています。確認日は2026年9月8日です。

数値は原文の数字列のまま扱い、単位や通貨の換算はしていません。発言と主要な表現は英語の原文を併記しています。Macy’s側から独自の発表は確認できておらず、ここでの記述はすべてGoogle Cloud側の公表内容です。エージェント関連の製品と提供範囲は短い周期で変わるため、記載は確認日時点のものとして読んでください。

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