中小企業成功事例/海外事例

紙のポイントカードをレジへ|ハワイの菓子店14店舗の選択

ハワイで14店舗を運営するHonolulu Cookie Companyが、紙のスタンプ式ロイヤルティをレジに組み込みました。観光地の店が一度きりの客とどうつながるのかを、公式サイトとSquareの導入事例に書かれている範囲で整理します。

リゾート地の商業施設に店を置くと、買ってくれた人が翌週も同じ通りを歩いているとは限りません。「またのお越しを」が実務として成り立ちにくい立地です。だからこそ、同じ人にもう一度買ってもらう経路を、その人が店を離れたあとに残しておく必要があります。

ハワイでクッキーを売るHonolulu Cookie Companyは、ワイキキのホテルやリゾートの商業施設を中心に14店舗を運営しています。2026年9月、Squareがこの会社の導入事例を公開しました。読んで目を引くのは、変わったものの並びです。会計の速さだけではなく、レポートの出し方と、紙のスタンプで回していたロイヤルティ制度が同じ列に並んでいます。

先に結論を書きます。この会社が入れ替えたのはレジですが、手に入れたのはレジから出てくる情報の粒度でした。紙の台紙に押していたスタンプは会計の画面に入り、新しい店を開く判断は「6〜7カ月前から見積もる」作業から「店を1つ足す」という言い方に変わったと説明されています。ただし、売上、客数、ロイヤルティの会員数、切り替えに要した費用と期間は、いずれも公表されていません。この記事で扱うのは、Squareの導入事例とこの会社の公式サイトに記載がある範囲だけです。確認日は2026年11月3日です。

1998年の手作りクッキーが、14店舗になるまで

公式サイトの沿革によると、始まりは1998年です。Keith SungさんとJanet Sungさん夫妻が、プレミアムなショートブレッドのレシピを作ったところから事業が立ち上がったと書かれています。クッキーの形はパイナップルです。パイナップルは国際的なもてなしの象徴であり、このクッキーは贈り物として渡されることを前提に設計されている、という説明が公式サイトにあります。

沿革には、店が増えていく順序も載っています。2001年にカリヒの工場へ併設した最初の小売店、2003年にワイキキのホテル内で初の店舗、そして同じ2003年に「Aloha Card」という顧客ロイヤルティ制度の導入。2007年にワイキキで複数の店とマウイでの出店、2014年にソウルの海外1号店とラスベガスの米本土1号店。2023年の記述が「14の小売店舗、オンラインストア、新しい提携」という形で出てきます。

創業の1998年、Aloha Cardを始めた2003年、海外1号店の2014年、14店舗と記載された2023年の4つを並べた数値カード
公式サイトの沿革から、制度と出店の節目になった年だけを取り出しました。売上と客数は載っていないため、規模はここまでしか追えません。 出典:Honolulu Cookie Company「About Us」(確認日 2026-11-03)

ここで注意したいのは、ロイヤルティ制度が店舗網より先に来ていることです。店がまだ数軒だった2003年の時点で、同じ人にもう一度来てもらうための仕組みを置いています。店を増やしてから顧客の囲い込みを考えた、という順序ではありません。制度の中身が当時どうだったかは公表されていませんが、置いた時期だけは沿革から読み取れます。

一度きりの客と、もう一度つながる経路をどこに置くか

店舗一覧を見ると、立地の傾向がはっきりしています。オアフ島ではアラモアナセンター、ヒルトン・ハワイアン・ビレッジ、ハイアット リージェンシー ワイキキ、インターナショナル マーケットプレイス、ロイヤル・ハワイアン・センターなど、ホテルと大型の商業施設に集まっています。マウイ島、ラスベガス、グアムにも店があります。工場に併設したサンドアイランドの店も一覧に入っています。

リボンで包装された贈り物向けのクッキー。渡すことを前提に設計された商品のイメージ画像
贈り物として渡される前提の商品という主題のイメージ画像です。Honolulu Cookie Companyの商品でも店内でもありません。 写真: Jonathan Borba(Pexels)

この立地で商いをすると、買った人が次にいつ来るのかを店の側から決められません。なお、来店客のうち観光で訪れている人がどれくらいかは公表されていません。ここで書いているのは、店舗一覧から読み取れる立地の傾向であって、客層の実測ではありません。

もうひとつ効いてくるのが、商品の性格です。公式サイトは、このクッキーが贈り物として渡されるよう設計されていると明記しています。贈り物は、買う人と食べる人が同じではないという性質を持ちます。食べて気に入った人は、店の名前を知っていても、その店の顧客としては記録に残っていません。逆に、買った人は商品の中身を自分で味わっていない場合があります。この二重のずれがあるため、再購入の経路は「店に来た人」と「もらった人」の両方を想定しないと細ります。

公式サイトには、オンラインストアと卸売の提携先がある旨も書かれています。提携先の社名は、今回確認した範囲の記載では特定できませんでした。いずれにしても、売る場所が店頭だけではないという構えは、沿革の中に残っています。

追いつかなくなったのはレジではなく、レジから出る情報だった

導入事例には、以前の仕組みで起きていたことが具体的に書かれています。小売部門のVice Presidentを務めるJulie Plantさんは、旧システムについて「私たちが扱う取引量に対応できなかった」という趣旨の説明をしています。混む時間帯の会計が詰まる、という話です。

ただ、記事を読んでいくと、より重い問題はレポートの側にあったことが分かります。Plantさんは「旧システムでは、一部のレポートがそもそも実行できなかった」とも述べています。加えて、レポートを手でPDFに書き出し、内容を確認して表計算へ写すという作業が残っていました。処理そのものがシステムに負荷をかけ、途中で動かなくなることもあったと書かれています。

取引の量、会計の端末、レポート、集計の作業、ロイヤルティ、新店舗の準備の6項目で、以前の仕組みとSquareへ切り替えた後の記載を並べた比較表
導入事例に書かれている記述を、項目ごとに向かい合わせました。削減額や短縮時間のような数値は、この事例には出てきません。 出典:Square The Bottom Line 導入事例「Honolulu Cookie Company」(確認日 2026-11-03)

切り替え後については、レポートの粒度を選べるようになった、という書き方がされています。見たい情報の単位が複数用意されていて、手で集め直す工程を挟まずに取り出せる、という説明です。Plantさんは、地主との電話中にその場でデータを呼び出せる、という趣旨の発言もしています。会議のために前日から資料を作る前提が外れた、と読めます。

端末の自由度も挙がっています。Business Process Analystを務めるJared Malvinさんは「小型の携帯端末を使いたければ使えるし、据え置きのレジではなくタブレットにすることもできる」という趣旨の説明をしています。混雑の度合いに応じて会計の場所を増やせる、という意味です。以前はそうした選択肢がそもそも無かったとも書かれています。

ここで切り分けておきたいのは、速くなった話と、見えるようになった話は別だという点です。会計が速くなるのは、その日の列が短くなるという効果です。レポートが出るようになるのは、来月どこへ人を置くかという判断の材料が増えるという効果です。前者は現場の負担、後者は経営の判断に効きます。導入事例が挙げているのは両方で、どちらがどれだけ効いたかという内訳は示されていません。

紙のスタンプをレジに載せても、店頭限定という線は残った

導入事例には、長く続けてきたPineapple Pointsのロイヤルティ制度を、紙のスタンプから会計時に組み込んだデジタルの仕組みへ切り替えた、と書かれています。この1行が、この事例でいちばん実務に近い部分です。

制度の条件は、公式サイトのFAQに載っています。

項目 公式FAQの記載
ポイントの付与 5ドルの購入ごとに1ポイント
無料のクッキー 75ドルと150ドルの購入時点
そのほかの特典 限定の案内と今後の割引
使える範囲 店頭での購入のみ
使えない注文 サイト、電話、FAX、メール

出典:Honolulu Cookie Company 公式FAQ(確認日 2026-11-03)

読みどころはここです。紙からデジタルへ移しても、店頭限定という線引きはそのまま残っています。FAQには、このプログラムは店頭での購入のためのものであり、ウェブサイト、電話、FAX、メールの注文には使えないと明記されています。デジタル化という言葉から想像しがちな「どの販路でも同じ会員として扱う」形には、少なくとも公表されている条件の上では、なっていません。

同じ商品をどこで買ったかという問いから、店頭で買う場合とサイト・電話・FAX・メールで買う場合の2つへ分かれる分岐図
公式FAQに書かれている条件で分岐を描きました。右側を対象外にしている理由は、FAQには書かれていません。 出典:Honolulu Cookie Company「FAQ」(確認日 2026-11-03)

この線引きをどう評価するかは、立場によって変わります。店頭に限る設計は、会計の現場で完結するため運用が単純です。ポイントの説明も、目の前で商品を渡すときにできます。一方で、島を離れたあとに通販で買う人は、同じ会社から同じ商品を買っていてもポイントの外に置かれます。再購入の経路としてオンラインを使う人ほど、制度の恩恵から遠くなる形です。

どちらが正しいという話ではありません。重要なのは、この線引きが先に決まっていることです。制度の対象をどの販路までにするかは、道具を入れてから決められる種類の話ではありません。会計の仕組みに組み込む時点で、どの取引に印が付くかが決まります。店頭とオンラインの顧客記録をつなぐと何が判断できるようになるかは、実店舗とECの顧客を1つに|NY最古の菓子店Economy Candyの選択で、別の店の例として扱っています。

「6〜7カ月前から見積もる」が「店を1つ足す」に変わった

導入事例の最後に、出店の話が出てきます。Plantさんは、以前のシステムでは6〜7カ月前から準備を見積もる必要があったと述べ、いまは「店を1つ足すことにしよう」と言えるようになった、という趣旨の説明をしています。Squareについては「キットのようなもので、組み合わさる」という言い方をしています。

この変化は、来店客からは見えません。ただ、事業を持っている側から見ると大きい違いです。新しい形態を試すときの準備期間が半年を超えると、思いついた案をその場で検証できません。試す案の数そのものが減ります。導入事例には、来店客が自分でクッキーをチョコレートに浸すような体験型の売り場を試す話も出てきますが、こうした実験は準備期間の長さに直接左右されます。

もっとも、準備期間が短くなったことと、出店が成功することは別の話です。導入事例には、新しい店の売上や、試した形態の成果を示す数値は出てきません。短くなったのは意思決定から開店までの助走であって、開店後の結果ではありません。

公表されていないこと

確認できなかった項目を残します。売上、店舗あたりの売上、客数、客単価、オンラインストアの構成比は、いずれも公表されていません。ロイヤルティについても、会員数、紙からデジタルへ移した時期、移行後に会員が増えたかどうか、ポイントを使った人の割合の記載はありません。

切り替えに関する数値も出てきません。導入に要した費用、期間、教育に充てた時間、以前のシステムの名前、レポート作成に要していた時間の短縮幅のいずれも書かれていません。したがって、この事例から「レジを替えるとどれだけ効率が上がるか」を測ることはできません。

卸売の提携先についても、今回確認した範囲では社名を特定できませんでした。店舗の地域内訳は店舗一覧から数えられますが、公式に「どの島に何店」という形で示された数値ではないため、この記事では14という公表値と、ハワイ・ラスベガス・グアムという区分までにとどめています。

分かっているのは、紙のスタンプが会計の画面へ入ったこと、レポートの粒度が選べるようになったこと、出店の準備期間の言い方が変わったこと、そしてそれらを会社の側が効果として挙げているという事実です。

日本の小規模事業者が持ち帰れる3つの決めごと

ハワイの菓子店と同じ道具を選ぶ必要はありません。参考になるのは、切り替える前に決まっていた項目のほうです。

ひとつ目は、ロイヤルティをどの販路で有効にするかを先に決めることです。Honolulu Cookie Companyの条件は店頭のみでした。これは制約ではなく選択です。自分の店に当てはめるなら、店頭、自社サイト、モール、電話注文のどこまでを同じ会員として扱うのかを、紙に書いてから道具を選びます。あとから広げるのは、記録の持ち方そのものを変える作業になります。ポイントや特典の設計をどう組むかは、顧客ロイヤルティを高める方法で基本の考え方を扱っています。

ふたつ目は、レポートを「出せるか」ではなく「どの粒度で出せるか」で見ることです。この事例で詰まっていたのは、レポート機能の有無ではありません。必要な単位で出てこないために、人が手でPDFと表計算を往復していた点です。導入前の比較では機能一覧に目が行きますが、実際に効くのは、店別・時間帯別・商品別のどれを、どれだけ待たずに取り出せるかです。検討のときは、自分がいま手作業で作っている集計表を1枚持っていって、それが出るかを確かめるのが早いはずです。

三つ目は、一度きりの客に何を残してもらうかを決めることです。この会社は2003年の時点でロイヤルティ制度を置きました。店が増えるより前です。立地の性質から、再来店が当たり前ではないと分かっていたからだと読むこともできます。自分の店が同じ性質を持つなら、会計のその瞬間に何を交換するのかを決めておきます。連絡先なのか、会員の識別子なのか、次回の来店理由なのか。決めていなければ、会計は毎回ゼロから始まります。既存の客にもう一度買ってもらう組み立ては、リピーターを増やす方法でも扱っています。

なお、こうした整理をすれば売上が伸びる、という保証はありません。記録が残れば判断の材料は増えますが、その材料で何を決めるかは店ごとに違います。効果は商品と運用によって変わります。

出典と注記

この記事は、Squareが公開した導入事例と、Honolulu Cookie Companyの公式サイト(沿革、店舗一覧、FAQ)を出典としています。いずれも、事業者またはプラットフォームが自ら公開している一次情報です。発言は原文の趣旨を日本語にしたもので、話者の役職は事例ページの記載に沿っています。数値は原文の表記のままで、通貨と単位の換算はしていません。店舗数と制度の条件は改定されるため、検討の際は各ページの現在の記載を確認してください。確認日は2026年11月3日です。ほかの海外の小規模事業者の例は海外ビジネス成功事例に並べています。

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