株の情報開示(ディスクロージャー)と投資家保護のルールについて学ぼう!

株取引は自己責任ですが、そのためには正しい情報が公開されていなくてはいけません。今回は、株式の売買を行う際に参考になる決算短信と有価証券報告書の違いや、証券会社が破綻した場合などの投資家保護はどうなっているのか、金融商品取引法で禁じられている不正行為にはどのようなものがあるのかをご説明させていただきます。

情報開示(ディスクロージャー)とは

ディスクロージャー制度は上場会社に義務付けられていて、公平な投資や投資家を保護する目的の制度です。 企業が株主や債権者などに対して、経営内容などの情報を開示します。ディスクロージャー制度には、金融商品取引法と会社法によって規定されている2種類があります。金融商品取引法におけるディスクロージャー制度は、財務諸表や有価証券報告書、アニュアルレポートなどを開示し、 投資家の保護を図ることを目的としています。投資においては、投資家の自己責任原則を求める声が高まっており、企業のディスクロージャーの重要性が高まっています。

金融商品取引法や会社法によって規定されている制度上のディスクロージャー以外に、 IR(Investors Relation) と呼ばれる任意のディスクロージャーもあります。これは、企業が投資家に対して自社をPRするような内容です。例えば、決算発表会やアナリスト説明会、ホームページでの企業紹介、月次データ開示などがあります。投資家に自社のことをよく知ってもらい、株式を購入してもらうという目的があります。

株式投資に重要なディスクロージャー資料は2つ

ディスクロージャー資料には次の2つがあります。

  • 決算短信    証券取引所の自主規制に基づく開示
  • 有価証券報告書 金融商品取引法の法定開示

 

決算短信には、財務諸表である損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書、そして配当金や業績予想に関する内容が記載されています。

決算の詳細情報が記載され、投資を行う際の参考になる有価証券報告書は、決算の3ヶ月以上後にしか発行されません。一方、決算短信は1~2ヶ月後に発表されます。つまり、決算内容を投資家にいち早く知らせるために作成されるのが、決算短信なのです。

有価証券報告書は、金融商品取引法に基づいて上場会社などが事業年度ごとに、会社の概要や営業状況財務内容などについて報告する書類です。3ヶ月以内に提出の義務があり、3月決算の会社であれば概ね6月下旬に提出されます。決算短信は速報性重視でしたが、有価証券報告書では内容の詳しさを重視しています。より詳細な財務諸表分析ができます。

適時開示とは?

適時開示とは、公正な株価形成及び投資家保護を目的とした「重要な会社情報」の開示のことをいいます。証券取引所に上場している企業は、スピーディーな情報の公表が義務付けられているのです。決算短信や業績予想修正、合併配当予想の修正などを、適時開示情報で速やかに公表しなければなりません。

適時開示情報を見るには、 東京証券取引所が開示しているTDnet( 適時開示情報閲覧サービス)が便利です。

決算短信はこの TDnetで確認することができます。有価証券報告書は金融庁の電子開示システムEDINETで確認することができます。

それでは決算短信や有価証券報告書で公表される、決算発表とはどのようなものかを見ていきましょう

決算発表とは1会計年度の決算数字を発表すること

 

決算発表とは、上場企業が一定の期間(通常は1年)を1会計年度と定めて行った企業業績の決算を公表することです。多くの企業は3月決算となっています。その場合は、4月1日から3月31日までの取引を集計して 発表します。

一定期間の最終日が「決算日」です。集計した一会計年度の成果を決算数字とその要因などを決算短信にまとめて公表します。期間一年分が本決算。半年分が中間決済となります。上場企業に対しては、金融商品取引法によって3ヶ月ごとの四半期決算の公表も義務付けられています。

財務や業績の集計表を財務諸表といいます。そのうち特に重要な決算書は、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の3つです。

貸借対照表はバランスシート(B/S)とも呼ばれ、企業の財政状態を、資産・負債・純資産の三つで見ることができるものです。つまり、決算時に会社はどんな資産を持っていて、その財産のもとになるお金(負債・純資産)はどうやって集めてきたのかが分かるようになっています。

損益計算書はP/L( Profit and Loss Statement)とも呼ばれ、 企業の一定期間の経営成績を収益・費用・利益から見ることができます。つまり、一定期間会社はどれだけお金を稼いで(収益)、どれだけお金を使って(費用)いくら残っているか(利益)が分かるようになっているのです。

キャッシュフロー計算書は一定期間の期首にいくらのキャッシュ(現金及び銀行預金)があって、期末にいくらキャッシュが残っているかを示したものです。つまり、キャッシュがどうして増えたのか減ったのかが分かるようになっています。続いて、投資家の資産がどのように守られるかを見ていきましょう。

投資家保護のルール

保有している株の会社が倒産して上場廃止になると、株券は紙くずになってしまいます。しかし、取引を行っている証券会社が破綻した場合は、投資家の資産は守られる決まりになっています。それでは、どのように投資家の資産が守られているのかを見ていきましょう。

分別管理は顧客と証券会社の資産を分けて管理すること

証券会社では「分別管理」が法律で義務付けられています。分別管理とは、証券会社が投資家から預かった金銭や株式・債券などの有価証券と、証券会社自身の財産とを厳格に分離し、管理しなければならないという決まりです。分別管理が守られている限り、証券会社が破綻したとしても投資家の資産に影響はなく、破綻した証券会社に対し、投資家は資産の返還を求めることができます。

投資家保護基金とは?

しかし、破綻した証券会社が法令違反を行っていた場合、分別管理がなされておらず投資家の資産の返還が円滑に行われない可能性があります。そういった場合に備えて保証する制度があり、その実施主体が投資者保護基金です。上限を1000万として、証券会社から資産が変換されない場合に補償されます。ですから、証券会社に預けている資産は、分別管理と投資者保護基金による補償の二重制度によって保護されているのです。

出典:金融庁

投資者保護基金で保護になる対象

現金と国内や海外の株式・債券・投資信託。信用取引の委託保証金や取引所取引の先物取引・オプションの委託保証金などです。

投資者保護基金で保護にならない対象

有価証券店頭デリバティブ取引(有価証券先物・オプション、 CFD取引)、外国の取引所で取引される先物・オプション、くりっく365取引(通貨)、 FX 取引など。

不正取引とは?

それでは、不正取引を見ていきましょう。

インサイダー取引

相場操縦

について解説していきます。

インサイダー取引とは未公表の重要な情報で株式の売買を行うこと

インサイダー取引とは、会社内部の情報を知る人間が重要事実についての情報を一般に公表される前に株式の売買を行うことをいいます。損益には関係なく、インサイダー取引を行って損失を出した場合でも該当します。

特に重要事実を入手しやすいのは、企業の役員や社員、大株主などですが、これらの関係者から情報を得た部外者も罰則の対象となります。インサイダー取引は、金融商品取引法で規制されている違法行為です。違反すると懲役5年以下、罰金500万円(法人は5億円)以下または両方が科せられます。利益も全て没収されます。インサイダー取引を行っている自覚はなくても、インサイダー取引違反に抵触する売買を行われれば罰せられるので注意が必要です。

重要事実とは?

主な重要事実としては次のようなものがあります。

  1. 上場会社の決定事実 株式の発行・資本の減少・株式交換・株式移転・合併・企業分割など
  2. 上場会社の発生事実 災害や業務上の損害・主要株主の異動・上場の廃止など
  3. 上場会社の決算情報 売上高・経常利益・純利益などの大幅な変更や修正
  4. その他 上記以外で、上場会社の運営・業務又は財産に関する重要な事であって、投資家の判団に著しい影響を及ぼすもの
  5. 子会社に係る重要事実  子会社の情報であってもグループ全体の経営に大きな影響をもたらすもの

 

 

重要事実の公表とは

 

それでは重要事実が公表されたというのは、どのような状態を示すのでしょうか。以下の3つが定義されています。

 

  • 上場企業の代表取締もしくはそれに類するものが、重要事実について、テレビや新聞などの報道機関に公開してから12時間以上が経過すること
  • 上場会社が金融商品取引所等に対して重要事実を通知し、その情報が電磁的情報 (TDnet)などで通知され、会社関係者など当事者以外の人が自由に 閲覧できる状態になること
  • 重要事項に係る事項が記載された「有価証券報告書・半期報告書・臨時報告書」などが、当事者以外の人が自由に閲覧できる状態になっていること

 

次に、相場操縦について見ていきましょう。

相場操縦とは

 

相場操縦とは、相場を意図的に動かし第三者に誤解させることによって、人為的に相場を歪める行為です。相場操縦には主に次の四つがあります。

 

  1. ①見せ玉
  2. ②仮装売買
  3. ③馴れ合い売買
  4. ④風説の流布

 

 

見せ玉とは、ある特定の銘柄の売買が活発だと見せかけるために、大量の注文や取消・訂正を頻繁に繰り返すことです。見せ玉の意思がなくても頻繁に訂正注文を出したり、自身の注文が約定した直後に他の注文を取り消したりすると、見せ玉と判断される可能性もあります。特に日中取引を頻繁に繰り返すデイトレーダーは注意が必要です。注文の取り消し自体が違法行為になるわけではないものの、同一銘柄で頻繁に注文の発注や取り消しを繰り返すのは控えるようにしましょう。

仮装売買(クロス取引)は、株価操作の一種で、同一人物が同じ値段で売りと買いの両方注文をだして約定させます。信用取引の期日到来に伴う乗り換えや、株主優待の権利取りなどのクロス取引以外は、別々の証券会社を利用していたとしても仮装売買と判断されることがあるので要注意です。

馴合売買は同一人物ではなく、共謀して売主と買主がそれぞれ同一の値段で売りと買いを出して約定させる取引です。家族口座間で売買を行った場合でも、馴れ合い売買と判断される可能性があります。また PTS(証券会社が作った私設の取引システム) と東京証券取引所での取引でおいても同様の判断がされるので注意しましょう。

風説の流布とは、合理的な根拠のない噂や事実を不特定多数の人に流すことです。近年ではインターネットを通じて、自分の投資に有利になるような情報を流す行為が見られますが、当然不特定多数の人に伝達されうる状態なので、風説の流布に該当します。

サイトの書き込みで相場の見通しや個別株について語ることは問題ありませんが、悪質な事例では取り締まりが行われています。虚偽の事実を書き込んだかどうかということがポイントになります。

風説の流布は株式市場全体の信頼性や健全性を損なう行為です。そのため、金融商品取引法で禁じられており、金融庁に設置された証券取引等監視委員会によって監視されています。

風説の流布の違反を犯した者は10年以下の懲役又は1000万円(利益目的は3000万円、法人は7億円以下)の罰金又は両方が課されます。またこの犯罪で得た利益は没収されます。

株価の値動きを操作する目的で虚偽情報を流したら金融商品取引法違反になります。一方、相場操縦を目的としない取引でも、企業に対する業務妨害罪違反となる可能性があります。

これまでは株式市場における相場操縦を見てきましたが、企業の決算でも注意点がありますそれは粉飾決算や虚偽記載です。

粉飾決算とは

粉飾決算とは、会社が上場維持や株価水準をキープすることを目的として、売上や利益を過大に見せることです。売上高や利益の水増し、また子会社を利用して利益を実際より多く見せる行為などがあります。偽りの決算を通じて株式を購入した株主や取引先になどに悪影響が及ぶので、商法や金融商品取引法などで禁じられています。

企業は赤字が続くと銀行からお金を借りることが難しくなり、それどころか債務超過が続くと上場廃止や経営破綻してしまう可能性が出てきます。そこで売上や利益を水増しした決算書を作るのです。つまり、粉飾決算は経営破綻を免れるためや銀行融資の通過、株価の維持を目的に行われます。また売上や利益の水増し以外にも関連会社に損失を移し替える「飛ばし」も粉飾決算の手法の一つとなっています。

粉飾決算を行った企業は、それを信じて株式を購入した投資家が損害を被った場合、その投資家に対して賠償責任を負います。

虚偽記載とは

虚偽記載とは、企業が財務諸表の記載内容について、意図的に事実の改ざんや隠蔽(いんぺい)を行うことです。有価証券報告書に重大な虚偽記載があった場合は、金融商品取引法を違反に問われ、懲役5年以下から10年以下、罰金500万円以下から1千万円以下(法人は5億円以下から7億円以下)またはその両方が科されます。

有価証券報告書の虚偽記載の影響は重大で、財務諸表の虚偽記載の発覚後3年経過後も内部管理体制が改善されない場合は、上場廃止基準の対象となります。

また虚偽内容の有価証券報告書を信じて株式を購入した人は発行会社に対し損害賠償を請求することができます。

それでは、株主が粉飾決済や虚偽記載で損失を避けるためにはどうしたらいいのでしょうか。解決策の1つとして、企業がSRIに取り組んでいるかどうかを判断基準にする方法があります。

SRI とは

SRIとはSocially Responsible Investmentの略で社会的責任と呼び、企業の社会に対する責任を投資家が評価することです。SRI意識の高い企業は、企業価値を高める傾向にあります。具体的には粉飾決算や虚偽記載などをしない法令遵守(コンプライアンス)はもちろんのこと、雇用問題や人権問題、消費者への対応、環境への取り組みなどが評価項目となっています。

SRIに積極的に取り組んでいる企業は投資先企業の有力候補となります。さらにSRIを 発展的にした考え方がESG投資です。E(Environment 環境)S(Social 社会)G(Governance 企業統治)を意味します。企業への投資は、長期的な収益向上の観点と共に持続可能となる国際社会づくりに貢献するESGの視点を重視して行われるのが望ましいとされ、欧米の金融機関を中心にESG投資は広まっています。

ESG投資に関してはこちらの記事を参考にしてください。

世界規模2500兆円!ESG投資の日本での課題とは?

まとめ

今回は情報開示と投資家保護 、不正取引についてご説明させていただきました。株式投資は公正な条件で行われる必要があります。一部の人が売買の判断に有利な情報を持って取引することは禁じられているのです。ですから、どのような行為が違反になるのか、そして企業の決算に対してどのような不正行為があるのかということをあらかじめ知っておくことは大切です。そして意図せずに行った取引でも金融商品取引法に違反している可能性もあります。金融商品取引法や不正行為を理解し、正しい取引を行うようにしましょう。

 

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