目次
信用取引はリスクが高い取引といわれます。確かに自分の資金よりも大きな取引ができるので、利益を得られる反面大きな損失を出してしまう可能性もあります。
しかし、買いだけでなく売りからも入ることができるなど、信用取引ならではの魅力もあります。いかにリスクをコントロールしながら信用取引を活用していくのかを解説していきます。
具体的な手法として、株主優待権利取りや株式ロングショートなどの手法も紹介します。
信用取引とは
信用取引には次のような3つの特徴があります。
- 現金や株を担保として証券会社に預ける
- 証券会社から資金を借りて株を買ったり、株券を借りて売ったりする取引
- 担保の評価額の約3.3倍まで株式の取引ができる(レバレッジ効果)
具体例
3,000円の株を1,000株買う場合,現物株式を購入する際には
3,000円 × 1,000株 = 3,000,000円
300万円の資金が必要ですが、信用取引であれば30%の100万円を証券会社に預ければ取引することができます。
制度信用取引と一般信用取引
信用取引には制度信用取引と一般信用取引があります。
制度信用取引とは証券取引所が定めた一定の基準を満たした銘柄です。買建のみが可能な銘柄を信用銘柄、買建、売建の両方が可能な銘柄を貸借銘柄と言います。返済期限は6ヶ月となっています。
一般信用取引は証券会社が選定した銘柄です。無期限・短期・1日信用取引と期限が決まっている制度信用と違い様々な期限があります。
一般信用取引の方が制度信用よりも金利が高くなっています 。
信用取引のルール
委託保証金
委託保証金は信用取引を行う際に必要な資金のことです。委託保証金率は信用取引で新規建玉を建てるために必要な保証金の割合を言います。信用取引を行う際は委託保証金、委託保証金率両方を満たしてないと取引をすることはできません。
- 委託保証金30万円以上
- 委託保証金率30%以上
となっています。
代用有価証券
代用有価証券とは、委託保証金として現金以外にも保有している現物株式を時価評価し、保証金としてさし入れることができる制度です。代用有価証券を信用取引に利用する場合、前日の終値の80%相当額を保証金とみなして計算するのが一般的です。
返済期限
返済期限とは信用取引で建てた建玉の保有期限をいいます。保有できる最終日を期日と言います。最終返済日までに建玉を返済する必要があります。
- 制度信用取引は6ヶ月
- 一般信用取引は無期限、短期(15日前後)や1日信用(当日)
となっています。
決済方法
信用取引の決済には「反対売買」と「実物決済」の二つがあります。
買建
- 売り返済 建玉の反対売買を行う(売却)方法で、売却時の株価によって損益が異なります
- 現引 株式を売却せず買い建て金額を支払うことで現物株を受け取る方法です
売建
- 買い返済 建玉の反対売買を行う(買い戻し)方法で買い戻し時の株価によって損益が異なります
- 現渡 建玉と同じ銘柄の株式(現物株)を持っている場合に、株式を差し出すことで返済する方法です
現引きのメリット
制度信用取引の返済期限は6ヶ月となっていて、期限までに返済する必要があります。現引きで返済すれば、期限が過ぎた後も現物株式として保有することができます。
信用買は証券会社から資金を借りて株式を買っているので、借りているお金には金利がかかります。この金利コストをなくしたい場合にも有効です。
現渡しのメリット
株価の下落を予想して信用取引で売建を行なっていて、値上がりしてしまった場合は反対売買をすると損失になります。しかし同じ銘柄を現物株で保有していれば現渡しでの返済により損失を限定できる可能性があります。
信用取引のメリット・デメリット
メリット
レバレッジ効果がある
信用買いでは資金の約3倍の取引ができます。100万円あれば300万円ぶんの株式を購入することができるのです。資金が少なくて値がさ株(株価3000円以上の株)を購入することができない場合でも、信用取引だったら買い付けすることができます。そして利益も現物株取引よりも約3倍得られることができます。
空売りができる
現物株では安いところで買って高いところで売ることで利益を得ることができます。空売りはその逆で、高い所で売って安いところで買い戻して利益を得ます。相場には上げ相場もあれば下げ相場もあります。買いしかできない場合は下げ相場では利益を得ることは難しくなります。しかし、信用取引の空売りを使えば、下落相場であっても利益を狙うことができます。
例えば1,000円の株を100株売って800円で買戻しすれば
(1,000-800)円 × 100株 = 20,000
2万円の利益になります。
差金決済ルール
現物株を買って決済した場合すぐに資金枠は回復しません。現物株の場合は差金決済のルールが法律で禁止されています。つまり同一銘柄で50万円ぶんの株式を購入してその日に決済した場合、50万円ぶんの資金枠を使えるのは翌日以降となります。新たに同一銘柄を購入するためには新資金を用意しなければなりません。
しかし信用取引であれば差金決済ルールが適用されるため同一銘柄を同じ日に売買した場合でも購入枠はすぐに回復します。ですからデイトレードで1日に何回も取引する場合は信用取引口座を使うほう資金効率がよくなります。
手数料
売買手数料は証券会社によって異なりますが、一般的に信用取引の方が安くなっています。ただし金利がかかるので長期投資においては現物株の方が得になります。デイトレードや数日程度のスイングトレードなら信用取引の方が有利です。
デメリット
損失が大きくなる
最も大きな信用取引のデメリットは、リスクが高くなるということです。利益が大きくなるというメリットがありましたが、逆に考えると損失も大きくなります。現物取引であれば損失は資金の範囲内になります。しかし、信用取引の場合は資金以上の取引ができるので損失が資金を超えてしまうこともあります。また信用売りの場合、損失は無限大になってしまいます。株によってはストップ高が続き買い戻しができないこともあり、大きなリスクがあります。リスク管理の徹底が必要です。通常は3.3倍の取引ができる信用取引ですが、最大でも資金の2倍程度までに抑えておくべきです。
金利・貸株料
信用取引の買いでは保証金を証券会社に預けます。そしてお金を借りて取引するため金利が発生します。これを買い方金利といいます。
また信用売りでは保証金を証券会社に預けます。そして株券を借りその株を売ります。借りている株にはレンタル料金が発生します。これを貸株料といいます。信用取引には現物株にはないコスト、つまり金利と貸株料がかかります。短期ではあまり問題がありませんが、長期で保有する場合にはこの金利と貸株料が大きなコストとなるので注意しましょう。
逆日歩
信用売りをしている場合貸株料よりも注意しなくてはいけないのが「逆日歩」というコストです。逆日歩は信用売り残高が信用買い残高を超えると発生します。株券を貸し出している証券金融会社は株がなくなってしまうため機関投資家などの大株主などから株券を調達します。この時の貸出料が逆日歩となります。逆日歩の金額は日々異なりますので費用が大きく膨らむ危険があります。また営業日ではない土・日・祝日などでも逆日歩が発生します。逆日歩が発生している銘柄を信用売りする場合は、コストを考えレバレッジを控えるなど余裕を持った運用をしましょう。
追証
信用取引では担保を差し入れて現金や株式を借りるため、定められた保証金率を維持しなければなりません。信用で買い建てた株が値下がりした場合、又は売り建てた銘柄が値上がりした場合には含み損が発生します。また差し入れていた株券の値下がりによる担保価値の低下により保証金率が最低維持率を下回った場合、定められた期日までに追加で担保保証金を入れる必要があります。これが追証(追加保証金)です。
追証を避けるためには現物株を担保としている場合でも現金をなるべく多く入れておきましょう。また現物株を担保にして同じ銘柄を信用買いすることを信用二階建てといいます。信用二階建てをすると買った銘柄の株価が下がった場合、担保の現物株でも信用買建玉でも評価額が下落し、大きな含み損が発生してしまいます。ほんのわずかな下落で追証が発生する場合があるので注意が必要です。
信用取引おすすめ証券会社
SBI証券
ネット証券最大手で一般信用の新規売りができます。最大のポイントは手数料で、1日定額制なら10万円までの売買手数料がゼロ円になっています。一般信用取引サービスは無期限、短期、日計と3種類あります。うまく使い分けることでトレードの幅を広げることができます。また信用取引口座開設で取引ツール「HYPER SBI」を無料で使うことができます。
楽天証券
楽天証券も一般信用の新規売りができます。手数料「超割コース」は大手ネット証券の中でも SBI 証券と並んで最安となっています。1日定額制コースなら100万円まで手数料は無料。一般信用取引では日計り取引「いちにち信用」の手数料が無料。さらに売買代金100万円以上で金利貸株料が0%になります。代用有価証券として株式に加え2018年9月から投資信託の利用が可能になりました 。
松井証券
松井証券は信用取引と現物取引を合わせた1日の約定代金合計で手数料が決まる「ボックスレート」を採用しています。1日の約定代金の合計が10万円以下であれば売買手数料が無料です。一日信用取引はデイトレード限定で手数料が無料。300万円以上の売買なら金利が無料となっておりデイトレーダーにとって有利なサービスとなっています。一般信用の新規売りができる数少ない証券会社のひとつです。
カブドットコム証券
カブドットコム証券も一般信用の新規売りができる数少ない証券会社の一つです。建玉残高などに応じて手数料が無料になり、金利が優遇されるプランがあります。また逆指値やトレーリングストップなど自動売買にも力を入れているので、リスク管理がしやすくなっています。そしてカブドットコム証券の一般信用取引のポイントは、長い保有期間と銘柄数の多さです。他のネット証券では信用売りができない銘柄でもカブドット証券なら売建できる場合があります。
GMOクリック証券
約定代金が50万円を超えると手数料は一律240円になります 。制度信用・一般信用両方取り扱っています。また2018年8月からは一般信用の新規売りが可能になりました。金利も業界最低水準に設定されています。手数料はネット証券の中でも最安レベルになっています。コストの安さが GMO クリック証券の最大の魅力です。
1約定ごと信用手数料 | 金利・貸株料 | |||||
10万円 | 30万円 | 50万円 | 100万円 | 制度信用 | 一般信用 | |
SBI証券 | 99円 | 198円 | 198円 | 385円 | (買)2.80%(売)1.15% | (買)3.09%(売)2.00% |
楽天証券 | 99円 | 198円 | 198円 | 385円 | (買)2.80%(売)1.10% | (買)3.09%(売)2.00% |
松井証券 | 0円 | 330円 | 550円 | 1100円 | (買)3.1%(売)1.15% | (買)4.1%(売)2.00% |
カブドットコム証券 | 99円 | 198円 | 198円 | 836円 | (買)2.98%(売)1.15% | (買)3.09%(売)1.50% |
GMOクリック証券 | 88円 | 187円 | 187円 | 264円 | (買)2.75%(売)1.10% | (買)3.00%(売)1.45% |
SBI証券とGMOクリック証券は1日定額プランなら10万円以下は無料、楽天証券は1日定額プランなら100万円以下は無料 | ||||||
松井証券は1日定額プラン |
信用取引実践的取引手法
信用取引ならではの取引手法をご紹介していきます。
つなぎ売り
つなぎ売りとは保有している現物株が一時的に下落すると見込まれる時、現物株を売る代わりに保有する銘柄と同じ銘柄を空売りすることをいいます。つなぎ売りをすれば現物買いと空売りで同じ株数を保有しているので、そこで一旦損益が固定されます。つまり株価が上がろうが下がろうが利益には変動がないということです。
なぜ現物株を売却せずにつなぎ売りをするのでしょうか。つなぎ売りと現物株を売却することの最大の違いは、つなぎ売りの場合は安値で買った現物株がそのまま残っているという点です。安値圏で買った現物株を売却するとその売却益に対して税金がかかってきます。また一度売却した現物株を以前の買値よりも高い価格で買い直すというのは心理的に抵抗が強いものです。ですから下落が見込まれる場面でもつなぎ売りをしておけば利益を固定することができ、心理面・精神面から見ても非常に楽になるのです。
つなぎ売りする場合でも現物株と同株数を空売りする必要はありません。例えば1,000株持っていたら半分の500株だけ売って様子を見るという方法もあります。下落に対する考えによって現物株の2分の1、3分の1と株数は変えてもいいのです。
株主優待
信用取引では株主優待を得ることはできませんが、信用売りと現物株の買いを組み合わせて低リスクで株主優待を手に入れることができます。通常、株主優待を手に入れるためには権利付き最終日に現物株を持っていなければなりません。しかし優待の権利をとっても、株を売却する時に株価が下がってしまったら損失を出してしまいます。そこで現物株を買うと同時に信用売りを入れておけば売却損が出る可能性はなくなります。
ただし、制度信用取引の場合は逆日歩のコストがかかる場合があるので注意が必要です。逆日歩とは信用売りが多すぎて証券金融会社の株券が不足したときに、機関投資家などから株を調達してくる時にかかる費用のことです。人気優待銘柄だと株が不足して逆日歩が発生することが多く、株主優待の価値を上回ってしまうこともあります。ですから、株主優待を取るときは一般信用取引がおすすめです。人気のある優待銘柄は一般信用取引でも在庫がなくなる可能性が高いので早めにチェックするようにしましょう。
株式ロングショート取引
株式ロングショート取引はヘッジファンドの代表的な運用手法の一つです。ロングは買い、ショートは売りを意味します。割安と思われる株を買い、割高と判断される株を信用取引で空売りする投資手法です。同一業種の割安株・割高株や異業種でも同じような値動きをしている銘柄で仕掛けます。株式相場の上げ下げに左右されずに利益を上げていくことが可能な手法です。ただし買った銘柄が下がり、売った銘柄が上がると両方で損失が出てしまうので注意が必要です。
まとめ
信用取引は「リスクが高い」といわれます。確かにその通りだと思います。しかし適切にリスクをコントロールして、うまく売買をすれば大きな利益を得ることができます。そして信用取引には通常の取引以外にも様々な手法があります。つなぎ売り、優待取り、株式ロングショートなどの取引を利用することによって投資手法の幅が広がります。これを機会に信用取引の研究を始めてみてはいかがでしょうか。