史上最高値を更新し続けるインド株式市場。死角はないのか

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米中貿易摩擦、そしてトルコショックなど新興国の経済や株式市場は荒れています。そんな中、堅調に経済成長を続け、株価も史上最高値を更新し続けている国があります。インドです。なぜインド株式市場は好調なのか、景気の過熱感や死角はないのかをみていきます。

 

インド経済の現状と死角

2014年5月に誕生したモディ政権の下でインドは好調な経済を維持しています。

「Make in  India(メイク・イン・インディア)」による国内製造業の強化、国内経済のテコ入れが行われてきました。その政策は「モディノミクス」と呼ばれ、世界中から関心を集めています。「アーダハー」と呼ばれる国民総背番号制(インド版マイナンバー制度)やGTS(物品・サービス税)の導入などの改革をしました。また、中国やトルコと違い、アメリカとの関係も良好です。それは、対米貿易赤字が少ないからです。インドは輸出依存度が低く、国内での消費拡大で経済成長を続けています。アメリカの貿易赤字が大きい中国は貿易戦争を仕掛けられ、上海株式市場は低迷しています。インドはそういった懸念がなく、むしろアメリカにとって戦略的なパートナーとして位置づけられていることから投資の魅力も高いのです。

出典 東証マネ部

 

Make in  India(メイク・イン・インディア)とは

国内外の企業からの投資を促し、インドを魅力的な製造拠点に発展させることで、高い経済成長と雇用創出を目指す政策のことです。

英大手金融機関HSBCは2028年までにインドが日本とドイツを追い抜き、世界3位の経済大国になるとの見解を示しました。

 

2016年度のインドのGDP(国内総生産)は2.3兆ドル。世界5位の規模です。しかし2028年には現在3位の日本(4.9兆ドル )が5兆ドル、4位のドイツ(3.4兆ドル)が6兆ドルに留まるのに対し、インドは7兆ドルに達すると予想されています。

 

また人口においても、インドは2024年に中国を追い抜き世界首位になると国連が6月に発表した報告書「世界人口展望2017年改訂版」で示されています。17年時点の人口はインドが13億3900万人、中国が14億1000万人で世界全体における割合はそれぞれ18%と19%に相当します。生産人口(15~64歳)が増加し、国内消費が旺盛であることが経済の強さになっています。

出典 マネックス証券

 

GSTとは

Goods and Service Taxの略で2017年7月1日より実施された物品・サービス税のことです。

インドには州が20以上あり、州ごとに異なる間接税を採用していました。しかし、GSTという全国で同じ税制が導入され、巨大な単一市場が生まれました。

インド各地から物を運搬する際、より速く運べるようになり、実際にトラック輸送の時間も大きく短縮されました。単一市場の誕生は向こう3~5年の期間で消費を押し上げる効果があるといわれています。「GSTの効果はいつごろから現れるのか?」という質問に対しては、非常に大きな改革なのですぐに効果が現れるものではないという答えになります。昨年は導入したばかりで多少の混乱が生じたものの、長期的に大きな恩恵をもたらす税制であるといえます。事務手続きコスト削減によるビジネスの拡大、国内需要の増加や海外からの投資が見込まれます。自動車や消費財など税率が下がる企業が恩恵を受けます。

 

 

 

インフレ圧力の懸念

モディ政権のもとで着実な経済発展が続くことが期待されています。IMFでも、インドは先進国やBRICSのなかで一番高い経済成長率が見込まれていますといいます。

ただし、エネルギー自給率が低いインドでは、エネルギー価格はOPECの減産合意などから上昇してきており、原油の8割を輸入に依存するなどエネルギー自給率が低いインドではインフレ圧力になります。

貿易赤字・経常赤字で外国資本に頼るインドは、アメリカの金利上昇も悪影響です。物価上昇率はインド中央銀行が目指すインフレターゲットの4%をやや上回る水準にあります。資金流出懸念が意識されやすいインドでは通貨安が進んでいて、通貨防衛を狙って利上げを実施しています。

インドは農業大国で、モンスーン期(6~9月)の降水量が農業生産に大きく影響します。降水量が少ない場合、生産量が伸びずに食料インフレ圧力が強まる可能性があります。

アメリカとの関係や地政学リスク、経済成長見通しは良好なものの、インフレ動向には注意が必要です。

 

インド株式市場の動き

 

 

 

 

インド株式指数(SENSEX指数)は史上最高値を更新し続けています。まずはSENSEX指数について見ていきます。

 

 

SENSEX指数とは

 

SENSEX指数はインド株式市場を代表する株価指数です。ボンベイ(旧ムンバイ)証券取引所に上場する30銘柄の浮動株に基づく時価総額加重平均指数で1978~1979年を基準値100としています。

SENSEX10年

出典 SBI証券

経済発展と共に株価指数も上昇。SENSEX指数は2017年5月に30,000ポイントを超え、約2年ぶりに史上最高値を更新し、その後も上昇トレンドが継続しています。

インドは企業の設備稼働率はまだ低水準で、業績回復が本格化するのはこれからです。政府が進めている政策としては、労働市場の改革に加え、「全ての人に住宅を(Housing for All)」という低価格住宅の取得促進策等があります。低価格住宅ブームが起これば、住宅取得に伴い耐久消費財の消費が押し上げられるため、これは長期にわたる消費拡大が続くと考えられます。企業利益は今後2年間で30%ほど拡大すると見られ、株式市場の支援材料になるでしょう。

主要企業の4~6月期の決算では、景気回復や通貨安による輸出環境の改善により市場予想を上回る業績を発表する銘柄が多く見られています。買い安心感や更なる業績拡大が期待されます。
ブルームバーグ(7月26日時点)の調査では、インド企業(BSE100指数ベース)の予想EPS(1株当り利益)の前年比は2018年が約25%、2019年が約20%増加する見通しです。

 

出典 ニッセイアセットマネジメント

株式市場と共に8%近いインド10年国債利回りは投資家にとって魅力的です。投資適格国の中で高い利回りがあり、格付けも新興国の中では安定的です。海外投資家によるインド債券投資は増加傾向にあります。

 

出典 ニッセイアセットマネジメント

日本を除くアジア主要株式市場の騰落率を見てみると、インドのみがプラスになっているのがわかります。しかも8.2%と大幅な上昇です。

 

ボンベイ証券取引所

1875年に設立されたアジアで最も古い証券取引所です。所在地はインドの金融の中心地であるムンバイで、以前はムンバイ証券取引所と呼ばれていました。

インド・ナショナル証券取引所(NSE)

1992年に設立された証券取引所です。デリバティブ取引に強みがあり、出来高ではインド最大の取引所。代表的な指標はNifty指数

 

 

最近はボンベイ(ムンバイ)証券取引所の主要30銘柄で構成するSENSEX指数の上昇にも弾みがついています。世界取引所連盟(WFE)によればインドのボンベイ(ムンバイ)証券取引所とナショナル証券取引所の株式時価総額の合計は6月末時点で466兆円。東京証券取引所(670兆円)の7割の規模まで成長しています。

また、ボンベイ証券取引所の2017年の上場企業数は5,616社。時価総額上位のNY証券取引所2,286社、ナスダックの2,949社,東京証券取引所の3,604社を上回り世界一の株式市場です。

 

 

 

インドSENSEX NYダウ 比較2年

出典 SBI証券

NYダウと歩調を合わせるようにインドSENSEX指数も上昇しています。他の新興国株価指数が貿易戦争や米利上げなどによって資金流出から軟調な展開なのに対し、好調を維持しています。

 

 

また、GDP成長率もBRICs諸国と比べて高い水準が続いており、今後も引き続き高い成長率が予測されています。

出典 マネックス証券

IMFではインド経済は2017年の実質GDP(国内総生産)成長率は7.2%となり、中国の6.7%を上回ってBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の中ではトップを維持する見通しで、2018年以降も7%超の成長が続くと予想しています。

BRICsとは

2000年代以降著しい経済発展を遂げたブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)の4ヶ国のことです。米投資銀行ゴールドマンサックスのジム・オニールによって書かれた投資レポート『Building Better Global Economic BRICs』で初めて用いられ、世界中に広まりました。18年たった現在では、好調な経済を維持しているのはインドのみとなっています。

インドの為替に関しては、今年になって原油価格上昇を受けたインド経済への懸念や⽶利上げが続く⾒通しなどで、インド・ルピー は軟調に推移しています。ただ、インドの良好なマクロ経済や外貨準備⾼の積み上がりなどを見ると、外的ショックに対する耐性は強まっています。 一方、米中貿易摩擦懸念のほか、原油価格の上昇は原油輸⼊国であるインドにとってインフレ圧力が高まる可能性があります。経常赤字国で資金流出懸念が意識されやすいインドでは通貨安が続く可能性があります。

 

出典 大和投資信託

インド株式市場に投資するには

 

インド株式市場に投資するには、まず投資信託が挙げられます。インド株で運用する投資信託の人気は高く、過去1年間でおよそ3,300億円の資金が流入しました。経済成長を背景にインドSENSEX指数は約2割上昇し、過去最高値を更新しています。運用資産の規模が大きくなりすぎたため、運用会社の一部では新規受付の一時停止を検討し始めたほどです。

 

新興国株式投信は純資産額が4兆円近くに達していますが、そのうち3割強はインド株式に投資する投資信託です。また、新興国債券でもインドに投資する投資信託の残高は5千億円を超えました。ブラジルが長らくトップであったものの、インドが上回りました。こちらも新興国債券関連投資信託全体の2割強を占めています。

 

日本の主要15のインド株投信の運用資産額は合計1.2兆円を超しています。最も純資産が大きい(残高5,040億)野村アセットマネジメントの「野村インド株投資」にはHDFC銀行やマルチ・スズキなどが多く組み入れられていて、基準価格(分配金再投資後)は約3万7,000円と、2005年の設定から3.7倍になりました。この投資信託は設定から13年以上がたっています。実は設定から10年以上がたつ投資信託でこの1~2年に残高が急増する投資信託が相次いでいます。これまで新商品に軸足を置きがちだった販売会社(証券会社や銀行など)が、過去の実績を重視するようになってきたためです。投資資金の流入もプラス面と言えるでしょう。

 

インド国内では来年春に総選挙があります。そのためモディ政権が景気拡大のため財政出動に動くと見られています。株高要因とみられ、日本からインドへの資金流入はしばらく続きそうです。 一方で景気への過熱感も強く、インド準備銀行(中銀)は6月に約4年半ぶりに利上げに踏み切りました。米国の利上げ後、投資家は新興国からの資金流出に敏感になっています。好調なインド経済とはいえ経済や株価の動向の慎重な見極めが必要です。

 

 

出典 東証マネ部

 

出典 東証マネ部

インド株ETF

インド株式市場に投資するにはETFもあります。

ETF(Exchange Traded Fundsの略)は「上場投資信託」と呼ばれています。株式だけでなく、債券、通貨、REIT(リート)、コモディティ(商品)などの指数もあります。投資先も日本だけでなく海外に広がり、投資しにくい国と地域に手軽に投資ができるようになりました。

1549 上場インデックスファンドNifty50先物(日興アセットマネジメント)

円換算したNifty50指数先物(Nifty50指数を原資産とする、シンガポール証券取引所におけるNifty50指数先物の直近限月の清算値)の変動率に一致させることをめざす上場投資信託です。

1678 NEXT FUNDS インド株式指数・Nifty50連動型上場投信(野村アセットマネジメント)

インドルピーベースのNifty 50指数を対象株価指数とし、日本円換算した対象株価指数に連動する(基準価額の変動率が対象株価指数の変動率に一致することをいいます。) 投資成果を目指します。 

Nifty 50指数は、インドを代表する株価指数です。インドのナショナル証券取引所に上場する銘柄のうち、時価総額、流動性、 浮動株比率等の基準を用いて選定した50銘柄で構成されています。指数の計算方法は、浮動株調整済時価総額加重平均方式です。1995年11月3日を基準日とし、その日の指数値を1000として、インドルピー建てで算出されています。

 

 

 

インド関連銘柄(日本株)

7269スズキ

 

日本株のインド関連銘柄筆頭はスズキでしょう。同社はインドの乗用車市場でトップシェアのマルチ・スズキを子会社に持ちます。ここ数年上昇トレンドを維持し、今年になってからも上場来高値を更新し続けています。好調なインド経済の恩恵を受けている銘柄といえるでしょう。実際、スズキのインドにおける自動車市場での快走が続いています。他の自動車大手が米国発の貿易摩擦問題に苦しむなか、スズキの2018年4~6月期は連結純利益が過去最高に、また四輪車の世界販売も16%増の86万2,000台で同期として過去最高になりました。

 

出典 SBI証券

6367ダイキン工業

 

ダイキン工業はエアコン世界首位の起業ですが、インドのエアコン市場でもトップのシェアです。2020年までにインドで空調機器を販売する店舗を1万店に倍増させる計画で、ニューデリーなど大都市だけでなく地方都市での開拓も進めています。インドでの売上目標を2020年に1,000億円と現在の2倍にしています。

 

出典 SBI証券

 

8113ユニ・チャーム

 

ユニ・チャームはインドでの紙おむつ販売に注力しています。2018年春に紙おむつの新工場を建設し、稼働を開始しました。インドでの工場は3カ所目で、紙おむつの生産能力を1.5倍に増やす計画です。国連児童基金(ユニセフ)によると、インドの年間出生数は世界最多の2,500万人。経済発展に伴い紙おむつを使う世帯が増えてきており、工場建設など生産拡大で「赤ちゃん超大国」の需要を開拓する予定です。

出典 SBI証券

 

このように米中貿易摩擦やトルコショックなど日本株全体では先行き警戒感が広がる展開ですが、インド関連銘柄として挙げた3銘柄は今年に入って上場来高値を更新するなど好調な株価を維持しています。

 

まとめ

 

他のBRICs諸国や新興国の経済や株価がさえない中、インド経済や株式市場は好調を維持しています。モディ政権が来年の総選挙で景気拡大策を取る見方も強く、インドへの資金流入は続きそうです。また、米国との友好関係もプラス要因でしょう。ただ、トルコや中国など他の新興国株価がさらに下落する展開となれば、新興国からの資金流出に敏感になっている投資家はインドへの投資を減らす可能性があります。また、米国株式市場が変調をきたした場合にも注意が必要でしょう。

 

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