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2018年6月15日に民泊新法が施行されました。
子供の人数に合わせて新築した一軒家では、子供が家から巣立っていく度に空き部屋が増え、その空き部屋を有効するために民泊に興味を持ったという方もいらっしゃるでしょう。
また、観光資源は周りにたくさんあるが、宿泊施設がない地域では、地域活性化で観光客を呼び込むために、自宅を改装して民泊を始めようと考えられている方もいらっしゃるかと思います。
民泊事業はホテル事業と同じで、その名の通り事業として行うものですので、所得税の確定申告を行う必要があります。
また、居住用の不動産として購入したものについて、居住として受けてきた税制上のメリットを民泊事業に利用することにより失われる可能性があります。
この記事では民泊参入に必須と考えられる関連する税金の知識をコンパクトにまとめました。
お読みくださった皆様の役に立つものになれば幸いです。
民泊は確定申告時に何所得で申告する?
自分が住居としている住宅を利用して住宅宿泊事業法に規定する住宅宿泊事業を行う(=難しい言い回しになっていますが、民泊事業を行うと解釈頂いて問題ございません。)ことによる所得は、原則として雑所得に区分されます。
個人の所得に係る税金のルールを定めているのは、所得税法という法律です。
所得というのはざっくりと言うと、収入と理解頂いて差支えありません。所得税法上は、その所得を以下の10個の種類の所得のいずれかに分類します。
- 利子所得 ・・・ 公社債及び預貯金の利子並びに合同運用信託、公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託の収益の分配に係る所得
- 配当所得 ・・・ 株主や出資者が法人から受ける剰余金の配当や投資信託及び特定目的信託の収益の分配などの所得
- 不動産所得 ・・・ 不動産、不動産の上に存する権利等の貸付けによる所得
- 事業所得 ・・・ 各種事業から生ずる所得、事業遂行に付随して生ずる所得等
- 給与所得 ・・・ 給与、賃金、賞与等、並びにこれらの性質を有する給与等
- 退職所得 ・・・ 退職手当など、退職により一時に受ける給与等
- 山林所得 ・・・ 山林の伐採又は譲渡による所得等
- 譲渡所得 ・・・ 資産の譲渡による所得
- 一時所得 ・・・ 営利目的の継続的行為以外の一時の所得(労務・譲渡を除く)
- 雑所得 ・・・ 上記9つ以外の所得
民泊は一見、「不動産の貸付けによる所得」ということで不動産所得に区分されるように思えます。
しかし、住宅宿泊事業は、宿泊者の安全等の確保や一定程度の宿泊サービスが義務付けられています。
そのため、民泊利用者から受領する宿泊料には、部屋の使用料のほか、寝具等の賃貸料やクリーニング代、水道光熱費、室内清掃費、日用品費などが含まれていると考えられます。
ですので、不動産所得とは異なるといえます。
民泊を行う事業者は当然儲けようとして、事業をしますので、事業所得ではないかとも考えられます。
しかし、民泊に利用できる家屋は、
- 現に人の生活の本拠として使用されている家屋
- 入居者の募集が行われている家屋
- 随時その所有者等の居住の用に供されている家屋
に限定されており、その宿泊日数も制限されています。
つまり、事業的規模で民泊を行うことは法律上できないので、事業所得にもなりません。
そのため、消去法で民泊事業は原則として雑所得に区分されます。
民泊ではどんな費用を経費にできる?
民泊による所得金額は、民泊による収入金額から必要経費を控除して算出します。
必要経費にできるものは、
- 民泊に係る収入金額を得るために直接に要した費用
- その年における販売費、一般管理費その他住宅宿泊事業による所得を生ずべき業務について生じた費用
になります。具体例は以下の通りです。
- 民泊仲介業者に支払う仲介手数料
- 民泊管理業者等に支払う管理費用や広告宣伝費
- 水道光熱費
- 通信費
- 非常用照明器具の購入及び設置費用
- 宿泊者用の日用品等購入費
- 民泊に利用している家屋の減価償却費
- 固定資産税
- 住宅宿泊事業用資金の借入金利子
民泊事業による所得を得るために支出した費用のうち、民泊仲介業者に支払う仲介手数料や民泊管理業者に支払う管理費用など、民泊事業を行うためにのみ支払うものについては、それぞれその全額を税務上の経費とするすることができます。
また、水道光熱費や固定資産税などは民泊用と皆様の生活の両方に使われていることになるかと思います。このようなものについては民泊事業に係る部分の金額のみ税務上の経費とすることができます。
民泊事業に関する部分の金額については、民泊に使った部分の金額の明細が明確に出て入れれば、その部分を使います。ですが、明確に出ていなければ、合理的な方法により区分して計算します。例えば、民泊に利用している部分の床面積の総床面積に占める割合で総金額を按分するなどの方法が考えられます。
住宅借入金等特別控除を受けている家屋を使って民泊する場合はどんなことに注意する?
民泊事業に利用できる家屋は、以下に限定されるという話をさきほどしました。
- 現に人の生活の本拠として使用されている家屋
- 入居者の募集が行われている家屋
- 随時その所有者等の居住の用に供されている家屋
住宅借入金等特別控除の適用を受けるためには、床面積の2分の1以上に相当する部分を「現に人の生活の本拠として使用している」必要があります。
住宅借入金等特別控除の適用については、その対象となる住宅を以下の4つの部分に区分して考えます。
- 民泊事業に利用しない生活用部分
- 民泊事業にのみ利用する業務用部分
- 生活用にも業務用にも利用する併用部分のうち、主に生活用として利用する部分
- 生活用にも業務用にも利用する併用部分のうち、主に業務用として利用する部分
に区分した上で、総床面積のうち生活部分(1と3の合計)に占める割合が2分の1を超えるか否かで判断します。
また、住宅借入金等特別控除の適用を受ける場合のその控除額は、住宅借入金等の金額に、総床面積のうち生活用部分(1と3の合計)に占める割合を乗じた金額を基礎として計算します。
なお、住宅借入金等特別控除の対象となる住宅ローン等については、こちらの国税庁のホームページを参照ください。
民泊に使った家屋について、将来売却を考えている場合、どんなことに注意する?
居住用家屋の譲渡に関して、以下の条件を満たせば3,000万円の特別控除を受けることができます。出典:国税庁ホームページ タックスアンサー No.3302 マイホームを売った時の特例
1、自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ること。以前に住んでいた家屋や敷地等の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
→ 使用しなくなってから3年以内に売らなければならないと心にとめて頂けますと幸いです。
※住んでいた家屋又は住まなくなった家屋を取り壊した場合は、更に次の2つの要件に該当しなければ適用できませんので、ご留意ください。
- その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
- 家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。
2、売った年の前年及び前々年にこの特例(「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」によりこの特例の適用を受けている場合を除きます。)又はマイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと。
3、売った年、その前年及び前々年にマイホームの買換えやマイホームの交換の特例の適用を受けていないこと。
4、売った家屋や敷地について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。
5、災害によって滅失した家屋の場合は、その敷地を住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
6、売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。
譲渡した民泊事業に利用している家屋が、1の「自分が住んでいる家屋」である場合には、原則として、居住用財産の3,000万円の特別控除の適用を受けることができます。
ただし、その家屋のうちに、居住の用以外の用に供している部分があるときは、居住用財産の3,000万円の特別控除の適用対象となるのは、居住の用に供している部分に限られます。
居住の用に供しているかどうかは、その家屋の構造や設備の状況及び実際の利用状況などを総合勘案して判断することになります。
また、譲渡した民泊事業に利用している家屋が1の「住まなくなった家屋」である場合には、その譲渡が居住の用に供さなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに行われたときは、原則として、居住用財産の3,000万円の特別控除の適用を受けることができます。
なお、この場合、居住の用に供さなくなった後の家屋の利用のされかたと居住用財産の3,000万円の特別控除の可否は関係ありません。
宿泊者から消費税は受け取るの、受け取らないの?
ホテルや旅館などと同様に民泊事業において宿泊者から受領する宿泊料は消費税の課税対象です。
なお、当課税期間の基準期間(個人事業主では前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が1,000万円以下の場合、当課税期間は原則として免税業者に該当しますので、消費税の申告・納税義務はありません。
なお、以下の点にも留意が必要です。
消費税法上、住宅の貸付は非課税とされています。
しかし、貸付期間が1か月未満の場合や旅館業法上の旅館業に係る施設の貸付けに該当する場合には、消費税の課税対象とされています。
また、インターネットで民泊利用者を探す業者については以下のことについても留意が必要です。
課税事業者に該当する住宅宿泊事業者の方が、ウェブサイト上に住宅宿泊事業に提供する物件を掲載するため、当該ウェブサイトの運営事業者に掲載料を支払っている場合、支払先が国内事業者か国外事業者かにより、取り扱いが以下のように異なります。
国内事業者への支払いは、住宅宿泊事業者における課税仕入れとして、仕入税額控除の対象となります。
国外事業者への支払いについては、以下の2つの取り扱いに分類されます。
一般課税で申告する方で課税売上割合が95%以上の方又は簡易課税を適用している方については、支払った掲載料は、仕入税額控除の対象となりません。
上記以外の方については、支払った掲載料は、仕入税額控除の対象となるとともに、同額をリバースチャージ方式により課税標準額に加算して申告・納税する必要があります。
民泊に使った家屋の固定資産税はどうなるの?
住宅用地に係る固定資産税については、一定の要件を満たすことで課税標準額を減額する特例(本特例)を受けることができます。
原則、住宅用地に係る固定資産税の課税標準額を「1/3」に減額します。住宅用地が200m^2以下であれば”小規模用地”として課税標準額が「1/6」に減額されます。
具体的には、以下の土地が本特例の対象となります。
- 専用住宅(専ら人の居住の用に供する家屋)の敷地の用に供されている土地
- 併用住宅等(その一部を人の居住の用に供する家屋)の敷地の用に供されている土地
つまり、本特例の対象となる土地はあくまでも”人の居住の用に供する家屋”の敷地とされています。
一般の賃貸アパートなどでも人が居住する家屋として
本特例の対象にはなります。
しかし、現行の民泊に使われる家屋は「人が宿泊・滞在するものだが、居住の用に供するものではない」という解釈をされる場合もあるようです。
その場合は、本特例の対象となる住宅用地から外れてしまいます。
一方で、例えば自宅の1階で自身が居住し、2階を民泊にといったように、民泊に使う家屋の一部を居住用に使っている場合には、併用住宅等としてその居住部分の割合に応じて本特例の対象となる土地の割合が定められています。
併用住宅等の区分 | 居住部分の割合 | 対象土地の割合 | |
イ | ロ以外の併用住宅等 | 1/4以上1/2未満 | 50% |
イ | 〃 | 1/2以上 | 100% |
ロ | 地上階数5階以上の耐火建築物の併用住宅等 | 1/4以上1/2未満 | 50% |
ロ | 〃 | 1/2以上3/4未満 | 75% |
ロ | 〃 | 3/4以上 | 100% |
なお、その家屋の土地が本特例の対象となる住宅用地か、又は対象外の非住宅用地かは、固定資産税の賦課期日である1月1日の現況によることになります。
民泊を行うに当たり旅館業法等による許可等を受けていても、1月1日時点で実際には借り手の募集をしていないなど営業実態がないことが証明できれば住宅用地と認められることも考えられます。
一方で、旅館業法等の許可等を受けている以上は、その家屋には”非”住宅用の部分があると考えるのが普通でしょう。
その他の留意点
宿泊税
東京都や大阪府でホテルなどを対象に導入されている宿泊税が、2018年10月から大阪府と京都市で民泊の施設に対しても導入されます。
なお、大阪府では、2017年に導入され、1泊あたり100円から300円の宿泊税が徴収されています。
また、京都府では、2018年に導入され、1泊あたり200円から1000円の宿泊税が徴収されています。
届出
民泊を業として行おうとする場合、住宅宿泊事業届出書に必要事項を記入の上、必要な添付書類と合わせて、住宅の所在地を管轄する都道府県知事等に届け出る必要があります。
詳しくは民泊制度ポータルサイトをご覧ください。
規約の確認
最近では都心部に多くの居住用・投資用のマンションが建設されました。
この記事をお読みくださった皆様の中でもマンションをお持ちの方が多いのではないかと思います。
民泊利用者とマンション住民とのトラブルを避けるため、管理組合の規約で民泊を禁止しているマンションもあるかと思います。
マンションにお住まいの方で、民泊を始めようと考えている方は、規約の今一度の確認をお願いいたします。
まとめ
ここまでこの記事をお読みくださいましてありがとうございました。
1章では原則として雑所得として確定申告をする旨説明いたしました。
2章では民泊事業のために要したと考えられる費用は全額費用計上するようにお伝えしました。
3章では住宅借入金等特別控除を受けている家屋を民泊事業に使う場合は、総床面積の2分の1を超えない範囲で使うようにします。
4章では民泊に利用している家屋を将来売却する場合には、一定の条件を満たせば3,000万円の特別控除を受けることができます。
5章では売上1,000万円を超えるか超えないかにより、消費税等の申告が必要かどうかが決まってきます。
6章では固定資産税について、課税標準が減額される特例が民泊事業開始によりできなくなる可能性があることに触れました。
7章のその他の留意点では一部の自治台で導入されている宿泊税の対象が民泊にまで広がったことを記載しました。
また、民泊事業開始に伴い、届出が必要な旨を記載しました。
そして、マンションでは管理組合の規約で民泊を禁止している場合もあるので、その点を確認いただきたい旨を記載しました。
この記事が皆さんの何かの役に立ちますと幸いです。