年金のプロが教える「国民年金」の制度の賢い活用法

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国民年金は国が実施している公的年金の1つです。公的年金とは、国民年金と厚生年金保険の2つの年金制度の事を言いますが、国民年金は20歳になったら全員強制加入する制度となっており、公的年金の「1階部分」と言われます。厚生年金保険はサラリーマンのように会社等に勤めている人が加入する制度で、公的年金の「2階部分」と言われています。

年金制度は複雑な制度ではありますが、実は、生活していくうえで必要な知識は意外にも少なかったりします。そして、一つ仕組みが分かると、他の仕組みの理解が進み、賢く活用する手助けになります。

今回は皆さんが加入している国民年金にいて、知っているようで意外と知らない制度についてお話していきます。

1.保険料の仕組み

国民年金の保険料は毎月16,320円(平成30年4月~平成31年3月まで)となっています。また、国民年金の保険料には免除制度があります。保険料については、この免除制度をうまく活用することが、賢く国民年金制度を利用する上でも重要な事です。

(1)保険料の決定方法

保険料は、毎年4月~翌年3月までの1年間について同じ保険料となる仕組みです。保険料は「法定保険料水準」(平成29年度以降は16,900円で固定されています。)に「保険料改定率(保険料の金額を調整するために乗じる率のこと)」を乗じて算定されます。なお、国民年金の保険料のように、保険料の水準を固定的に定める方法を「保険料水準固定方式」といいます。

(2)保険料免除の種類と注意点

国民年金の大きな特徴の一つが「保険料免除制度」です。保険料免除制度は、言葉の通り「保険料が免除される制度」ですが、免除の制度には大きく「法定免除」「申請免除」「特別免除」の3種類あります。それぞれの免除制度については、要件などが異なり、また、他の法令との兼ね合いもあるため、要件などをしっかり押さえておくことが大切です。

ただし、この制度が適用されるのは、保険料の納付をすることになる「第1号被保険者」に適用される制度です。当然ですが、第2号被保険者のサラリーマンが仕事を辞めた場合や専業主婦の第3号被保険者が離婚等をした場合などの理由によって第1号被保険者になった場合であっても、要件を満たせば保険料免除の制度を受けることが出来るということです。

①法定免除

法定免除は、法律で定められた要件に該当する者であれば、当然に保険料が免除される制度のことです。保険料が全額免除されているので、年金額の計算では2分の1が年金額として反映される期間となります。満額支給を受けたい場合は、免除されている保険料について追納という形で、後から納付する方法があります。

年金額の計算では2分の1だけ反映されるため、満額を受給するには、追納を行わなければなりません。

法定免除に該当することになった第1号被保険者は該当するに至ったときから14日以内に、必要事項を記載した届書国民年金手帳を添えて日本年金機構(以下「機構」という)に提出しなければなりません。なお、要件に該当しなくなった場合についても、同様に、該当しなくなった時から14日以内に必要事項を記載した届書国民年金手帳を添えて機構にに提出しなければなりません。

法定免除は、要件に該当すれば当然に保険料が免除されますが、必要事項を記載した書類に国民年金手帳を添えて、14日以内に機構に提出しなければなりません。

【法定免除となる要件】:次のいずれかに該当する場合は法定免除の対象となります。

(ア)障害基礎年金又は障害厚生年金などの障害を支給事由とした公的年金の受給権者で、障害等級1級~3級に該当しなくなってから3年を経過していない者

(イ)生活保護法による生活扶助その他の援助であって厚生労働省令で定めるものを受けるとき

(ウ)厚生労働省令で定める施設(国立ハンセン病療養所等)に入所しているとき

②申請免除

申請免除は、保険料の免除について必要な書類を提出した上で、保険料免除の承認が出た人について、保険料が免除される制度です。申請免除の特徴としては、保険料が正式に免除になるまでに審査があることが法定免除とは大きく異なる点です。

申請免除は経済的な理由で保険料を納付することは困難な人のための制度。免除申請には審査がある点が最大の特徴です。
(ア)保険料全額免除

申請が承認されることで、保険料が全額免除される期間です。保険料全額免除の申請をする際の所得要件は「(扶養親族の数+1)×35万円+22万円」となります。この所得要件は、本人・世帯主・配偶者のそれぞれの所得が、この計算式で算定した金額以下の所得でなければ全額免除の申請が通りにくくなります。

(イ)保険料4分の3免除

申請が承認されることで、保険料の4分の3相当額が免除となる期間です。保険料4分の3免除の申請をする際の所得要件は「(扶養親族の数)×38万円+78万円」となります。全額免除申請と同様に、本人以外にも、世帯主・配偶者の所得についても審査の対象となります。

(ウ)保険料半額免除

申請が承認されることで、保険料の半額相当額が免除となる期間です。保険料半額免除の申請をする際の所得要件は「(扶養親族の数)×38万円+118万円」となります。他の免除申請と同様に、本人以外にも、世帯主・配偶者の所得についても審査の対象となります。

(エ)保険料4分の1免除

申請が承認されることで、保険料の4分の1相当額が免除となる期間です。保険料4分の1免除の申請をする際の所得要件は「(扶養親族の数)×38万円+158万円」となります。他の免除申請と同様に、本人以外にも、世帯主・配偶者の所得についても審査の対象となります。

(オ)申請免除共通要件

障害者や寡婦等の場合についても、上記の申請を行うことが出来ますが、「所得要件が125万円以下であること」など、免除申請の要件が異なります。

申請免除は、それぞれの申請免除によって所得要件が異なります。また、本人以外にも、世帯主や配偶者の所得も審査の対象となります。

③特例免除

特例免除はには「学生納付特例」と「30歳未満保険料納付猶予制度」の2つありますが、いずれも、申請には審査がありますが、承認されると保険料は全額免除となります。ただし、年金額の計算には全く反映されません。そのため、少しでも多くの年金額をもらうようにするためには、追納をすることが必要となります。

特例免除は申請免除と同様に審査はあり、承認されると保険料は全額免除となりますが、年金額の計算には反映されません

学生納付特例の所得要件は保険料半額免除と同じじですが、本人の所得要件のみで判断される点で違います。それに対して、30歳未満保険料納付猶予制度の所得要件は保険料全額免除と同じですが、本人と配偶者の所得要件で判断される点で違います。

(3)追納制度とは

保険料の免除を受けた人が、年金額を1円でも多くもらうために、免除された期間の保険料について、あとから納付することを「追納」といいます。追納をすることで、保険料免除期間とされていた期間が「保険料納付済期間」とされるため、年金額の計算については、免除されていた期間分だけ増額されます。ただし、追納できる期間には期限があり、保険料免除の承認を受けた日の属する月前10年以内の期間が追納できる期間とされています。

追納制度は、申請免除等によって保険料が免除された期間について、免除された部分の保険料を後から収めることが出来る制度です。追納できる期間は保険料免除の承認を受けた日の属する月前10年以内とされています。

2.老齢基礎年金の仕組み

国民年金は「老齢基礎年金」「障害基礎年金」「遺族基礎年金」の3つの年金が主な年金で、その中でも、老齢基礎年金は、他の年金と異なり、65歳になれば、受給することが出来る年金です。老齢基礎年金は老後の生活の主な収入源の一つとなっているので、1円でも多くもらえるようにするにはどうすればよいかは気になるところかと思います。

(1)受給要件

老齢基礎年金の受給権は「20歳から60歳の間に保険料納付済み期間が10年(120月)以上あること」とされています。(平成29年3月までは25年(300月)以上でした。)

平成29年4月より法改正によって老齢基礎年金の受給権が緩和され、受給できる人の範囲が拡大されました。

(2)振替加算とは?

 

振替加算とは、厚生年金保険に加入している被保険者の年金額等に加算されている加給年金額を、その配偶者が受給する老齢基礎年金に振り替えることを言います。つまり、老齢厚生年金の年金額に加給年金額(要件を満たした配偶者がいることで、年金額に加算される年金額のこと)を加算されていたが、その者の配偶者が老齢基礎年金を受給することが出来るようになった時点で、その加給年金額を老齢基礎年金に加算する制度です。

【振替加算の加算要件】:次のいずれにも該当することが必要です。

大正15年4月2日から昭和41年4月1日までの間に生まれた者であること

②65歳に達した日において、③(ア)又は(イ)に該当する、その者(年金受給者)の配偶者によって生計を維持していたこと

③65歳に達した日の前日において、その者の配偶者が受給権を有する(年金をもらうことが出来る権利を持っている)次の(ア)又は(イ)の年金たる給付の加給年金額の計算の基礎となっていたこと

(ア)老齢厚生年金または退職共済年金の受給権者(年金額の基礎となる月数(年金額の計算の基礎となる月数)が240月以上である者に限る)

(イ)障害厚生年金または障害共済年金(いずれも、同じ支給事由による障害基礎年金の受給権を有する者に限る)の受給権者

(3)繰上げ支給と繰下げ支給とは?

本来であれば、老齢基礎年金は65歳にならなければ受給することが出来ないが、手続きをすることで、65歳よりも早い段階で年金を受給(繰上げ支給)したり、65歳以降から年金を受給(繰下げ支給)をすることが出来ます。

繰上げ支給をすると、1月当たり0.5%(最大30%)減額され、繰下げ支給をすると、1月当たり0.7%(最大42%)加算された年金が支給されます。いずれの場合についても、裁定請求(年金をもらいたいという請求のこと)を行う際に、手続きが必要となります。

繰上げ支給をすると一生、減額された年金額が支給され、繰下げ支給をすると一生、増額された年金額が支給されます。

3.障害基礎年金の仕組み

障害基礎年金は、被保険者等が、疾病や負傷により障害の状態になったことにより失われた所得を、年金という形で填補することを趣旨とした制度です。

(1)受給要件

次の①~③の要件を満たしたときに支給される。

①初診日(傷病等について、初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日のこと)において、被保険者であり、かつ、日本国内に住所を有している60歳以上65歳未満の者であること

②障害認定日(障害の状態であることを認定する日)において、障害等級1級又は2級に該当する程度の障害状態であること

③初診日の前日において保険料納付済期間と保険料免除期間の合算期間が被保険者期間全体の3分の2以上であること

(2)年金額と子の加算額

【年金額】

障害基礎年金の年金額は779,300円(平成30年度)となります。ただし、障害等級1級の者については1.25倍の金額となります。

【子の加算額】

障害基礎年金は、障害基礎年金の受給権者がその者によって生計を維持している者の子(18歳に達した日後最初の3月31日までにある子)がいる場合、その子の数に応じて年金額が加算されます。

加算額(平成30年度)

 

・2人目まで:(1人につき):224,300円

・3人目以降:(1人につき):74,800円

 

4.遺族基礎年金の仕組み

遺族基礎年金は、被保険者が死亡した場合に、残された配偶者又は子に対し、その生活を安定を図るため、一定の所得を保障することを目的として支給される年金です。

(1)支給要件

被保険者の死亡日の前日において、当該死亡日の属する月の前々月までに被保険者期間がある場合は、その被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の3分の2以上であること。

(2)遺族の範囲

遺族基礎年金を受給することが出来る遺族の範囲は子のある配偶者と子(18歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまでにある子)です。

(3)年金額と子の加算額

【年金額】

基本額は障害基礎年金と同じく779,300円となりますが、遺族基礎年金の受給権を有する子の数に応じて加算額が加算されます。(子の加算額は、障害基礎年金の子の加算額と同じ金額となります。)

子が18歳に達した日以後の最初の3月31日に達した場合は、該当するに至ったときの翌月(4月から)より、子の加算額が減額改定されます。

5.その他の年金の種類と受給要件

以下の年金や一時金は、国民年金制度の独自の年金や一時金となります。また、これらの年金や一時金は第1号被保険者の所得補償としての役割が強い独自給付としての役割を持っているため、基本的にぢ1号被保険者が受給することが出来ます。

(1)付加年金

付加年金は、付加保険料を納付している者について、老齢基礎年金に上乗せされる年金となります。年金額は「付加保険料の納付月数×200円」です。

【注意点】

第1号被保険者でなければ納付することが出来ない

保険料免除期間がある者は付加保険料を納付することが出来ない

(2)寡婦年金

寡婦年金は、歳1号被保険者のみの者(つまり、国民年金以外に加入していない人)が死亡した場合において、配偶者が60歳に達した時点から受給することが出来る年金です。年金額は「遺族基礎年金の年金額×4分の3」となります。

【注意点】

・60歳から老齢基礎年金が受給できる65歳までの有期年金である

老齢基礎年金の繰上げ受給をしたら、受給する権利が消滅する

遺族厚生年金を受給している人には支給されません

(3)死亡一時金

死亡一時金は、第1号被保険者として一定期間加入していた者が死亡した当時、その遺族が遺族基礎年金の受給をすることが出来ないときに、保険料の掛け捨てになることを防止するための給付です。

【注意点】

・支給要件は「保険料納付済期間+4分の3免除期間×4分の1+半額免除期間×2分の1+4分の1免除期間×4分の3」の合計期間が36月以上であること

・死亡した者が老齢基礎年金又は障害基礎年金の支給を受けていると受給することが出来ない

・一時金の金額は、支給要件の計算式によって算定した期間の合計に応じて変わる。(120,000円~320,000円の間とされています。)

6.まとめ

国民年金は公的年金の1階部分の年金制度です。20歳以上の者は強制加入する制度であるにもかかわらず、制度を理解している人がほとんどいません。そのため、多くの人が必要以上に保険料を払うことになることや年金額を上乗せすることができるにもかかわらず、その制度を活用しきれていないのが実情です。

国民年金の制度は、2階部分でもある厚生年金保険とも密接にかかわっているところも多いです。そのため、国民年金の年金の受給要件のなかに、厚生年金保険の年金を受給している人であっても、受給することが可能な年金もあります。

仕組みを理解すれば、老後の年金収入を負担を抑えながら増やすことも可能となります。また、もらえる年金をもらいそこなうというリスクも軽減することが出来ます。

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