原油価格の高騰が懸念され、増産体制がとりくまれた後、しばらくは原油価格は低下していく動きを見せていました。2018年7月に入ってからというもの、原油価格は需給バランスの期待と不安で上昇と下降を繰り返し、そして現在はやや上昇していく気配にあるようです。
国内の原油取引においては、アメリカの原油先物の価格が指標となり、株式やその他の金融商品同様にアメリカ市場の動きに影響されてしまいます。原油先物取引は、商品取引の中では人気のあるジャンルの1つでもあり、原油価格の激しい価格変動にあやかって原油取引を始める人も少なくないでしょう。
そこで、今回はこれから原油先物取引をはじめるにあたって参考となる、アメリカの原油取引の現状を徹底的に調査してみたいと思います。
現在の原油の価格は
2018年7月23日現在のドバイ原油のスポット価格は1バレル/71.30ドルと、続伸中。前週末のNY原油WTIが上昇した流れを引き継いでいると見ることができます。一旦増産へと向かい価格の軟調化が予想されていましたが、需給の引き締まりが強く意識され価格上昇が期待されています。
この中東のドバイ原油の価格は日経新聞にて朝刊と夕刊にて、価格が発表されています。
では、次に世界で最も影響力が強いといわれる、WTI原油の最近の価格をみておきたいと思います。3月26日→66.05ドル、4月19日→69.53ドル、5月22日→72.88ドル、7月3日75.24ドル・・・と下がりながらも高値を更新し続けています。
そもそも、最近の原油価格の激しい変動は、需給バランスをとるために減産されていた原油の価格が高騰してしまったことから始まりました。史上初の試みともいえるOPECとNon-OPECの減産合意は、原油価格の低迷がいかに深刻だったかを物語るものでもあります。
そして、本年度の3月4月を過ぎたあたりから原油価格の加速にいきおいがつきすぎてしまったと解釈され、価格高騰をさけるための増産調整が進んでいます。だからといって、原油が下がりすぎてしまっても、これがまた原油産出国にとっては痛いところでもあるわけです。
値動き自体は、WTIに比べやや緩慢にはなりますが、ほぼ似たよな動きを見せる国内の原油の動きも確認してみましょう。
国内の原油先物取引の価格
国内で取引される原油の代表的なものは、東京原油という商品になります。
下のチャートは4月から7月にかけての値動きになり、東京原油の8月の価格は5万150円(前日比+710円)となっており、4日前からやや上昇基調になってきているようです。
増産調整が取り組まれてから、一旦、高値圏まで上りつめますが、その激しく価格は下がってしまいます。
そして、ここ数日に渡って見せる動きはWTIの動きを追いかけているとも見れますが、今回は増産調整令(?)がアメリカで発される6月末あたりからのそれぞれの原油産出国の動きを追跡してみたいと思います。
原油産出国の動きは?
6月30日(WTI:高値74.43ドル、安値72.96ドル)
トランプ大統領は原油価格の高騰を避けるため、サウジアラビアに原油の産出量を増やしてくれないか、と頼みます。
すでにカナダ、イラン、リビア、ベネズエラなどこれ以上供給不可能な状態となっており、それが原油価格を上昇せざる得ない状況を作ってしまったとのことでした。6月29日に付けた原油の価格は2014年来の高値記録となっていたのです。
実質のOPECのボスであるサウジアラビアと、Non-OPECのボスであるロシアは「一緒に原油の生産量を増加させよう!」と堅く約束し合ったとのことです。正直なところ、サウジもロシアも原油の価格を上げたかったからこそ、減産を合意したわけであり、できれば原油の価格上昇による利益を満喫したいところではありました。
しかし、このまま高騰し続けてしまうと逆に経済の動きを低迷させてしまい、同時に消費国からの需要の減少を加速させてしまうかもしれない(例えば、電気自動車の方が安いじゃないか!みたいになる)ことを恐れたわけです。
いずれにしても、原油価格の高騰は世界的なインフレーションを巻き起こしかねません。また、緊急用に保管してある各国の原油事情は思ったより深刻になっており、増産意外に道はない、という結論に至ったのでした。
7月13日(WTI高値:71.63ドル、安値:69.87ドル)
以前からアメリカとイランは核兵器開発において対立があり、アメリカは長年に渡ってイランの過剰な核燃料保有にあらゆる制裁を加えてきています。
もともと中東では、政治的、宗教的な思想の相異を理由とした内戦が絶えずどこかで起こっていて、そのことが原油の価格にも影響を与え続けてきました。
アメリカのイランに対する経済制裁に対して、イランはオイルの供給、海上貿易の協力を拒否します。ホルムズ海峡からペルシャ湾にかけてはイランの国領となり、そこでは世界の3分の1の原油の海上貿易が行われています。
イランの協力が得られなければ、多大な量の原油が失われてしまうということで7月に入ってからも原油の価格は上昇を続けますが、11日以降はトランプ氏の日中貿易の懸念と過剰供給が再び不安を呼びおこします。
73ドルから74ドルで推移していた原油は13日には71ドル代にまで下がり、17日には67.08ドルの安値をつけます。
7月19日から現在(WTI高値:70.15ドル、安値67.84ドル)
サウジアラビアとロシアによる原油増産計画は滞りなく進んでいましたが、イランとアメリカの関係が悪化するに従いサウジとロシアの原油だけで、世界の原油の需要はまかなっていけるのか、といった不安が強くなっていきます。
そこで19日には5日ぶりに原油は70ドルをいったん突き抜け、現在は68ドル前後を推移している状態なのです。
1970年代のオイルショック以降、各国は常にオイルリザーブ(石油備蓄)を確保しておくことが習慣となりました。
国家や民間企業が石油の急激な価格変動や、戦争などから生じる原油不足に対応することを目的にしたものでありますが、このまま原油の需給バランスが保てなければそのオイルリザーブの原油を使わざる得ない状態にもなりかねないと噂されています。
これから、原油の価格どのように動いていくのでしょうか。今後の展開を考えていくためにも、アメリカのエネルギー情報局の最新調査を参考にしていきたいと思います。
EIA(エネルギー情報局)の見解
EIA→Energy Information Administrationとはアメリカのエネルギー省の管轄内の所属し、原子力、原油、ガス、電気、新エネルギーに関わる統計データを発表している組織になります。
最新リリース(2018年7月10日)
EIAの調査によると、世界の原油の在庫は確かに2017年後半から減少してきていて、おそらく2019年も緩やかに下降していく可能性はあるとのことです。
2018年後半から2019年後半にかけては69ドルあたりで推移していくのではないかといわれています。
というのも、仮に中東の政治的な情勢が不安定であるとしても、EIAの見解ではアメリカ、ブラジル、カナダ、そしてロシアなどNon-OPECの原油の産出量が期待されているからだといいます。
原油の消費量はほとんどの先進国では低下していく傾向にあるが、開発途上国に関しては成長段階にあるために、トータルでは増加していくと見られています。
原油の消費量
とくに中国とインドにおいては、これまでのGDP(国内生産量)のデータからも大規模な成長が予測されています。
おもに車のガソリンと航空機の燃料の消費量が増加が著しく、中国では石油精製関連の産業分野での利用も活発になるだろうとのことです。
さらに、中東での原油の消費量も増えていく可能性があります。中東では電力に使う燃料として2017年に同地域では発電総量の約66%が天然ガスと約31%が原油でした。
今後は電力に使う原油の量を減らしていく方向に向かっていますが、人口増加と経済成長によるガソリン消費量が上回ることが予測されています。
原油の生産量
OPECの原油生産量は全体的には減少していくことが予測されています。まずイランからの供給が途絶えてしまう可能性と、ベネズエラの急激な生産量の低下で大幅な原油量が削減されてしまいます。
ベネズエラの原油生産量
ただ、この2国で減少する供給量が他のOPEC加入国に加算されるため、その他の原油産出国の生産量は増加していきます。
Non-OPECの原油生産量はとくにアメリカとカナダで新たな鉱脈などで新しい成長がみられ、引き続き2019年に向けても安定した生産量が期待されています。
ブラジルでも最近開始された油田開発のプロジェクト等が進んでおり、同様にロシアでも生産量は増加していくと見ることができるでしょう。
反面、エジプト、インドネシア、ノルウェイ、メキシコの原油生産量は低下傾向にあります。
このように、EIAの調査を見た限りでは原油の価格は、将来も需給のバランスがとれた状態で動いていくかのようにも思えます。
アメリカと原油
しかしながら、原油は私達の生活に必要不可欠なものであり、各国、企業、消費者の依存度が高いゆえに、ともすると非常に過激な反応を市場に巻き起こしてしまうのです。
かつてのオイルショックの時には・・・
1973年には2ドル/バレルだった原油が11ドルに高騰。
1979年には12ドル/バレルが34ドルに高騰。
原油価格の高騰による物価の上昇を恐れて、人々はスーパーマーケットへパニック状態で押し寄せ、商品はほとんど買いつくされてしまったのです。
当時、OPECの主要国の国際収支黒字10億ドルでしたが、1974年以降には約700億ドルに急増しました。
原油生産国としてのアメリカ
自動車の普及とともに、主要となるエネルギーが石炭から原油へと革命的に移行したのち、原油はブラックダイアモンドとも呼ばれています。
原油を制するものは世界を制するといわれるほど世界経済へ最も強い影響を与えるものと認識されてきました。
いかに他国に依存せず、自力で産業・工業の燃料、一般消費者向けのガソリンを確保できるかが、各国の独立した経済を維持できるかに関わってしまいます。
アメリカは最後の戦争にて勝者となり、いわば軍事的にも経済的にも、さらには政治的にも主導権を握っています。でもたった1つ、例外がありそれが原油の生産量になるのです。それが、中東とアメリカの長年に渡る対立、制裁の原因になっているといえます。
中東は政治的にも非常に不安定で、宗教・思想の部分では現代の私達には理解できない独自のスタイルを保っています。しかし、絶えずおこる紛争やテロリズムに対してもアメリカは制裁を加えるのにも限界があります。
中東が原油という最終武器を持っているからです。
アメリカはどうしてもすべてを支配したい、トップの座を守り抜くには世界平和のためにも原油を支配する必要があるわけです。
そんな背景もあり、アメリカが全力を挙げて開発をすすめ成長しているのが、アメリカ国内のシェールオイルになるのです。
2017年の原油生産量は、1位:ロシア、2位:サウジアラビア、3位:アメリカとなっています。これまではシェールオイルがその他の原油よりも高額だったこともありそれがシェールのデメリットとなっていました。
予想以上に技術開発が進み、生産コストも下がり、2018年には首位のロシアを超える勢いで増産されているとのことです。アメリカの原油輸入量は低下傾向にあり、2019年以降のアメリカは原油で首位にあがることが予想されています。
アメリカ原油の存在は、その他すべての原油産出国にとっての脅威ともなり、だからこそWTI原油の価格が世界中の原油の価格に反映されてしまう理由でもあるのです。
ドルと原油の関係
そこで、世界経済の指標ともいえるドルと原油はどのように関わっているのかを考えてみたいと思います。
原油は、その生産国がどこであろうとアメリカドルで計算されます。なぜなら、アメリカドルが世界で最も安全で安定した通貨だと判断されているからです。
同時に世界で最も取引されている通貨でもあり、アメリカドルが使えない国や金融機関は皆無に等しいともいえます。
例えば、日本の企業が原油を中東から購入するとします。その際には日本円を一旦ドルに両替してからの取引がされているのです。
基本的に原油の需要が高まる時は、世界経済が上向きになっている場合が多く、相場が上昇している=原油が高い、原油が多量に取引されているとみることができます。
原油の取引が多いということは、市場ではドルの量が増えるということになり、必然的にドルの価格は上がっていきます。
今後の原油の行方と価格
下の図は、現在の世界の原油在庫の量になります。減産調整が2016年に行われてから、その成果が現われはじめるのが2017年の後半、そして2018年には世界の原油在庫量は平均値の半分以下のところにきています。
7月24日に、トランプ氏はTwitterにてイランに対して宣戦布告のごとき、脅迫まがいの宣言をしており、しばらくはイランを含めたいくつかのOPEC国との対立が深まっていく恐れがあります。
そのことから、おそらく需給バランスに対する不安は高まり、原油は上昇していくことが予想されます。
もし、アメリカ、カナダ、ロシアの原油生産が進み、数字として世界中の人が安心できる原油在庫が確保できたとすれば原油価格はまた、下降していく可能性もあります。
何人かの原油先物投資のアナリストの中には2019年以降に、原油価格は100ドルを超えるのではないかという説もありますが、そこで、EV(電気自動車)の存在が需給バランスを多少緩和していくのではないかと思われます。
まとめ
専門家の意見によると、市場が低迷する前には必ず前兆があり、その1つが原油価格の高騰だといわれています。
そのことからも、原油が高騰してしまうことを恐れる投資家は少なくありません。
ただ、これまでの原油価格の動きからいえば、2016年に20ドル代にまで原油の価格が下がったことは、原油の需要低下を懸念したパニック売りの典型的なものだったともいえます。
そのような視点でみれば、現在の原油価格は正常な動きをしていると判断することもできます。そうだとすれば、今後の中東アメリカの進展次第で原油価格が上がったとしても、インフレを懸念する段階ではないのではないかと思います。
ロシアもカナダも減産令が発されてから、原油を増やしたくて増やしたくてうずうずしていたところだったでしょうから、需給バランスはちょうどいい具合に進展していくのではないでしょうか。
それにEVの存在があり、かつてほどすべての国が100%原油に依存しているわけではありません。
ただ、パニック売りと同様に、価格の高騰を懸念したパニック買いが生じないともいえないところで、一時的に価格が高騰する可能性は高いかもしれません。
今のうちに、原油先物でその時に備えておくのも大きく稼ぐための1つの選択肢だといえるでしょう。