目次
「店の売上が思わしくないから」「他の人とうまくやってくれていないから」など、様々な理由で会社を辞めるように迫られたことがある人は、きっといるはずです。
法律上、妥当な理由があった場合は仕方がありませんが、そうでない場合も多いことに気を付けましょう。そこで今回は
- 会社が従業員を解雇できる条件
- 会社から解雇を言い渡されたときにやるべき4つのこと
の2点を解説します。
会社が従業員を解雇できる条件
会社が自由に従業員を解雇できてしまうとすると、従業員は「何も悪いことをしていないのにクビになるのか」と不安に思いながら仕事をしなくてはいけません。そんなことが許されるわけはないので、解雇が法的に認められる条件は、かなり厳しくなっています。
解雇の種類
一口に解雇といっても、その原因となった事柄によって、さらに細分化されます。
整理解雇 | 会社の業績が思わしくないため、経費削減を行うために解雇する(リストラのこと) |
---|---|
懲戒解雇 | 会社の秩序を著しく乱した労働者に対して制裁として行われる |
普通解雇 | 整理解雇、懲戒解雇のいずれにも当たらないもの。具体的な原因としては、遅刻欠勤等の勤務態度・勤務成績の不良、職業上の適性・能力の欠如、違反行為が考えられる |
解雇が有効になる条件
会社から従業員を解雇すること自体は可能ですが、従業員を保護する立場から、法的に有効と認められるためには、合理的な理由と相当性が必要です。つまり、かなり厳しい条件を満たさないといけません。先ほど触れた3つの解雇について、条件を見ていきましょう。
整理解雇が有効となる条件
実際に有効な整理解雇と判断されるかは、個々の状況によって異なりますが、合理的な理由や相当性があることに加え
- 人員削減の必要性があること
- 会社が解雇を回避するための努力をしたこと
- 人選が合理的であること(恣意的でないこと)
- 手続が相当であること(労働組合との間で協議・説明義務があるときはそれを実施すること)
の4点に着目して、総合的に判断されることになります。
懲戒解雇が有効になる条件
懲戒解雇とは、従業員としての義務や規律違反といった企業の秩序維持を乱す者に対しての処罰としての性質を有している解雇です。ある会社を懲戒解雇された従業員の場合、転職先に提出する履歴書に「自己都合退社」と記載すると、虚偽記載に該当するとして内定を取り消されるケースもあるので、慎重に対応しましょう。
それほどまでに重い処分であるので、懲戒解雇の理由や原因についても、限定的に取り扱われるべきです。
具体的には
- 業務上横領
- 転勤の拒否など重要な業務命令の拒否
- 無断欠勤
- セクハラ
- パワハラ
- 経歴詐称
など
- 会社の業務に重大な影響を及ぼす事象である
- もしくは、犯罪として逮捕・立件される可能性が高い
ことが理由・限定であることが考えられます。

種類 | 概要 |
---|---|
戒告・けん責 | 従業員への注意・指導。けん責では始末書の提出をさせる |
減給 | 一定の範囲内で給与が減給される |
出勤停止 | 身分はそのままであるが、期間の上限がなく、その間の給料は支払われない |
降格 | 役員の降格があり、事実上の減給 |
諭旨退職(ゆしたいしょく) | 企業が退職(解雇)を勧告し、従業員が従えば自主退職、従わない場合懲戒解雇とする |
諭旨解雇(ゆしかいこ) | 企業が解雇を予告、もしくは解雇予告手当を支払い、さらに退職金を支払った上で従業員を解雇する |
懲戒解雇 | 制裁としての解雇。解雇予告手当が不要で、離職票に懲戒解雇である退職であることが記載される |
なお、いかなる理由があったとしても、あらかじめ就業規則に書かれていなければ、会社は懲戒解雇をすることはできません。

加えて、就業規則が周知されていることが必要です。つまり、就業規則をいつでも従業員が見ることができる状態にしておかないといけません。
普通解雇が有効となる条件
具体的には、次の条件を満たす必要があります。
労働基準法に定める解雇手続を行うこと | 30日前までに解雇の予告をするか、30日前までに予告しない場合は平均賃金の30日分の解雇予告手当を支払うこと |
---|---|
解雇事由が法令に違反しないこと | 法令に違反する解雇に当てはまらないこと |
労働協約、就業規則、労働契約に根拠となる定めがあること | 就業規則などに定めた解雇事由や手続きに違反しないこと |
解雇が権利の濫用に当たらないこと | 解雇に客観的合理的な理由がなく、社会通念上相当性を欠く場合は権利の濫用に当たる |
解雇が公序良俗に反しないこと | 女性を差別して解雇するなど |
解雇が労働者との信義則に反しないこと | 解雇の手続き面などで労働者との信頼関係を著しく損なう方法をとらないこと |
また、表内の「法令に違反する解雇」の具体例は、以下の通りです。
- 解雇制限期間中の解雇
- 労働者の国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇
- 労働者が労働基準監督機関に申告したことを理由とする解雇
- 労働組合員であること、労働組合に加入・結成しようとしたこと、労働組合が正当な行為をしたこと、労働組合の不当労働行為の申し立てや証拠提出などを理由とする解雇
- 女性であることや女性が結婚、妊娠、出産、産前産後休業を取得したことを理由とする解雇
- 育児休業や介護休業の申し出・取得を理由とする解雇
- 労働基準法や労働安全衛生法などの違反の事実を労働基準監督官に申告したことを理由とする解雇
プライベートのトラブルを理由にした解雇は許される?

既に触れたように、懲戒解雇・整理解雇・普通解雇のいずれにしても、法的に有効と認められるための条件はかなり厳しいです。そのため
- 借金を重ねていた
- 不倫をしていた
など、ごくごく個人的な理由で、会社が解雇を行うのは、かなり難しいでしょう。
借金の場合
例えば、借金をしていた場合は
- 返済ができなくなったので、会社の銀行口座からお金を横領していた
- 会社の同僚にクレジットカードでキャッシングをさせ、お金を工面していた
など、明らかに法的・倫理的に問題がある場合でないと、有効に普通解雇や懲戒解雇は行えないでしょう。
不倫の場合
不倫も同様で、本来はプライベートなことであるため、それだけで有効に解雇が行えるわけではありません。実際に有効に解雇できるかどうかは個々のケースに基づいて、個別具体的に判断されます。
それでも
- 不倫相手の配偶者が会社に乗り込んできて修羅場になった
- 別れ話を切り出したら相手がストーカー化してケガを負わせた
- 会社の業務時間中にデートを繰り返し、仕事に穴をあけていた
など、明らかに法的に問題が生じていたり、職場の秩序を著しく乱したりしていたケースでないと、解雇の理由にするのは難しいでしょう。
勤務先に社内不倫が発覚したとしても、業務に支障を及ぼさない限り、私的な問題を理由として懲戒解雇することは、労働契約法上の「不当解雇」となる可能性があります。
ただし社内の風紀や秩序が著しく乱されれば、解雇などの懲戒処分、もしくは、配置転換や降格などの措置をとられることはあります。— 不倫慰謝料請求相談室 (@hurin_isharyou0) November 15, 2020
また、従業員同士の男女カップルで不倫をしていた場合「男のほうはお咎めなしで、女のほうだけクビにする」というように、扱いに男女差を設けることもあるでしょう。
新型コロナウイルス感染症を理由にした解雇は許される?
2020年初頭から流行していた新型コロナウイルス感染症は、日本国内の様々な会社に大きな影響を及ぼしました。中には、従業員を解雇し、大幅な事業縮小を迫られた会社もあったでしょう。
もちろん、新型コロナウイルス感染症を理由にした解雇であっても、法的に有効な整理解雇として認められるには
- 人員削減の必要性があること
- 会社が解雇を回避するための努力をしたこと
- 人選が合理的であること(恣意的でないこと)
- 手続が相当であること(労働組合との間で協議・説明義務があるときはそれを実施すること)
の4つの条件は満たしていないといけません。少なくとも

というように、ただ解雇を言い渡しただけでは、法的には無効です。
会社から解雇を言い渡されたときにやるべき4つのこと
会社から従業員を解雇すること自体は、条件を満たしていれば違法ではありません。しかし、条件を満たしていないのに解雇を言い渡された場合は、会社と争う余地はもちろんあります。
そこでここでは、会社から解雇を言い渡されたときにやるべき4つのこととして
- 解雇通知書を発行してもらう
- 解雇予告の期間を確認する
- 退職金の扱いについて確認し、請求する
- 納得がいかなければ相談する
の4つを解説します。
解雇通知書を発行してもらう
会社から解雇を言い渡されたら、解雇通知書を発行してもらいましょう。厳密に言うと、次の2つの書類を指しますが、これらを兼ねた通知書を使っているケースもあるので、確認が必要です。
解雇予告通知書
会社から労働者を解雇する場合、会社は、会社は労働者に対して、少なくとも30日前に解雇の予告をしなければなりません(労働基準法20条1項)。解雇予告通知書は、この30日前の解雇予告を通知するための文書と考えましょう。
解雇理由証明書
解雇された労働者は、会社側に解雇した理由を示す証明書を交付するよう求めることができます(労働基準法22条1項、2項)。
解雇予告の期間を確認する
仮に、会社から受けた解雇の申し出が「解雇予告」だった場合は、解雇予告のための期間が十分だったかを確認しましょう。本来、会社が従業員を解雇する場合、基本的に30日以上前に予告しないといけません。
なお、実際は
- 何の前触れもなく「明日から来なくていい」と言われた
- 解雇を言い渡された日から法律上の退職日まで1ヶ月もない
など、本来の扱いとは違った場合にどうなるのかも確認しておきましょう。
まず、1のように予告しなかった場合は、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります(労働基準法20条1項)。さらに、2のように予告日数が30日に満たなかった場合は、不足日数分の平均賃金を払わなくてはいけません。
退職金の扱いについて確認し、請求する
会社には、従業員に対し給与を払う美無はありますが、退職金については会社の裁量にゆだねられています。そのため、すべての会社において賃金と扱われるわけではありません。しかし、自分が勤務していた会社が労働協約、就業規則、労働契約などで退職金を支給することや、支給基準が定められていた場合は、賃金として扱われます。
仮に、退職金が賃金として認められる場合は、労働協約、就業規則、労働契約などで退職金の支給や支給基準が定められているか確認しましょう。なお、懲戒解雇だった場合は、会社側から「退職金は払わない」と言われるのは珍しくありません。就業規則や労働協約に「懲戒解雇の場合には退職金を支給しない」と定められていることもあります。
ただし、このような場合であっても、退職金の全部または一部の不支給が認められるのは、退職金規定などに明記してあることを前提に、労働者のそれまでの勤務の功労を抹消(全額不支給)ないし減殺(一部不支給)してしまうほど著しく信義に反する行為があった場合のみという判例も出ているのです。
納得がいかなければ相談する
会社から従業員を解雇する場合、合理的な理由と相当性があり、しかも法的に求められる要件を満たしていないと、有効にはなりません。つまり、あいまいな理由で解雇された場合、法的には無効であるとして、争う余地は出てきます。そこで最後に「これはちょっとおかしいのでは?」と思った場合に相談すべき先について触れておきましょう。
労働基準監督署
今回の記事で取り上げた解雇の話も含めて、会社で働いているときにおこったトラブルは、まずは労働基準監督署に相談しましょう。労働基準監督署は企業に労働関係の法律を守らせるための期間であるため、法律に違反している疑いがあると判断したら、立ち入り検査や是正勧告、指導を行えます。悪質だった場合逮捕・送検もありうるでしょう。

労働局
各都道府県には労働局が設置されています。身に覚えのない解雇をされた場合は、労働局に行って、相談してみましょう。会社との労働問題を解決するために話し合いをあっせんしてくれるので、そこで話がまとまれば、解決に結びつくことだってありうるのです。
ただし
- 会社があっせん手続きに参加するかは任意である
- あくまで「話し合い」に過ぎないので、決裂する可能性もある
ことに注意しましょう。
労働組合
労働者が団結して権利を守るための団体として、労働組合が挙げられます。大きい会社であれば、独自の労働組合が設けられているのは珍しくありません。また、自分の会社に労働組合がなかったとしても、近年では社外のユニオン(合同労組)が充実しているので、相談してみるといいでしょう。労働組合が会社に「不当解雇」について団体交渉を申し入れ、会社に対する解雇撤回などの対応を求めてくれます。
なお、会社は労働組合からの団体交渉申し入れを不当に拒絶することはできません。そのたえ、労働組合の側から申し入れをすれば、ひとまず会社が団体交渉に応じる可能性は非常に高いです。
弁護士
あっせんや団体交渉などの「話し合い」で決着がつかない場合は、他の手段を考えなくてはいけません。そうなると、弁護士に相談し、解雇や退職金の支給について、会社との交渉を依頼するのが現実的な手段になります。
もちろん、弁護士が会社と交渉をしても、うまくまとまらず決裂することは十分に考えられるはずです。そうなった場合、会社に対して労働審判の申し立てや訴訟を提起をすることになります。
