ユーロ下落は間違えない!?イタリア、スペイン、ギリシャ・・・ユーロ下落危機の不安要素とユーロの為替相場の今後

欧州中央銀行(ECB)が発行・管理し、主に欧州連合(以下、EU)の経済圏で使われる通貨「ユーロ」。ヨーロッパ経済界の大きな期待を受けて誕生した同通貨は、各国が連動した巨大な経済圏を形成し、アメリカドルに次ぐ「第2の基軸通貨」と呼ばれるまでに成長しました。しかし誕生から20年目に突入した今、イタリアやスペイン、ギリシャなど一部加盟国の経済問題から不安要素がくすぶり始めています。

ユーロの現状 120円台後半〜130円台前半で値動き

1999年1月1日に導入されたユーロは現在、ヨーロッパの25ヶ国(うち19ヶ国がEU加盟)で使われています。かつてヨーロッパ各国の間で生じていた為替にまつわるコストが減って貿易などが活発になり、実経済に好影響を与えています。例えばユーロ圏であるドイツからイタリア、フランスに渡っても通貨交換をする必要がありません。つまり両替手数料を払う必要がなく、一般人にとってもメリットを享受できる通貨システムです。

導入から20年目にあたる2018年は、ユーロ円相場で120円台から130円台を上下。1月に最高値の137円台をマークした後、5月には124円台まで下落しました。しかし7月現在は再び勢いを盛り返してユーロ高となり、130円台前半で取引されています。

こうして見ると、値動きはある程度安定しているように感じられるかもしれません。ですがユーロ各国の問題をつぶさに見ていくと、ユーロ暴落につながる不安要素も見え隠れしていることが分かります。

2010年にギリシャ発のソブリン危機でユーロ暴落 ユーロ円相場は100円以下に

現在の不安要素を説明する前に、過去の危機を振り返ってみましょう。

ユーロは過去に、危機を数度味わっています。例えば2010年にはソブリン危機(あるいは欧州危機、ユーロ危機)と呼ばれるのつく暴落を経験しました。

きっかけは、ユーロを用いていたギリシャです。このヨーロッパ南東部の国で2009年、政権交代によって旧政権が粉飾決算(不正な会計処理で収支などを偽った決算報告)を行なっていたことが判明しました。財政赤字は、政権交代前は3~4%台と発表されていましたが、本当は12%以上だったと発覚します。ギリシャは、世界中に「ウチは借金が少ないですよ」とウソをついていたのです。ギリシャの粉飾決算に対してソブリンリスクが(ギリシャ国家などのデフォルトの危険性)が高まり、格付け会社がギリシャの格付けを下げ始め、急激な全面ユーロ安が始まってユーロ円相場では100円を切る事態となりました。

そもそもギリシャは、なぜそんな向こう見ずな粉飾決算を行なったのか。その背景の一つに、ユーロ導入が関わっています。

1990年代、ユーロは正式導入にあたって加盟対象国に物価安定、低い長期金利、為替相場の安定、そして財政赤字がGDP比3%以下(そして政府財務残高が60%以下)という厳しい条件を出していました。ヨーロッパ諸国はユーロに加盟しようと必死でした。

四カ国(編注:ここではギリシャ、ポルトガル、イタリア、スペインを指す)ともユーロ加盟は無理と思われていた。だがいずれの国もユーロ加盟を目指してインフレと財政赤字の切り下げに必死となった。「ユーロに加盟できない国は二級国家」と当時のEU諸国でいわれていたから、「二級国家」の汚名をきせられたくはなかったのである。 田中素香著『ユーロ 危機の中の統一通貨』より

世界から二級国家に認定されたくない。もし二級国家とみなされれば、人々に揶揄されるのみならず、実経済へ影響すら出るかもしれない。そのために各国が経済政策を推し進める中、ギリシャはやってはいけない禁じ手に走りました。粉飾決算です。

ギリシャはユーロ加盟のそもそもからEUをだましていた。ギリシャ政府は2000年の財政赤字をGDP比2.2%と申告して、2001年にユーロに加盟した。しかし04年秋、ギリシャ政府は旧政権が嘘の申告をしており、「実は4.1%だった」と修正した。本当ならユーロに加盟できなかったのである。01年、02年の数値も偽っていた。 田中素香著『ユーロ 危機の中の統一通貨』より

ギリシャはユーロに加盟するべく、粉飾決算を敢行したのです。ある意味、ユーロ導入が招いた悲劇とも言えるでしょう。このギリシャのウソが仇となってEUは、デフォルト(債務不履行)危機に陥るまで経済事情が悪化したギリシャのために、およそ7500億ユーロ(約90兆円!)の金銭的サポートを実施。ギリシャの危機を一旦回避することに成功しました。

ユーロは多くの国が参加するため巨大な経済圏を築いた、世界的にも強い通貨です。しかしながら総人口1千万人弱、日本の3分の1ほどの国土(13万1957平キロメートル)の地方国であるギリシャの金融危機が世界的な経済危機につながり、ユーロの価値へダイレクトに波及しました。このソブリン危機を通じて、加盟国のうち一国でも経済危機に陥ればユーロの価値落下に即つながりかねないという、ユーロの思わぬデメリットがあぶり出されています。

イタリアとスペイン、ギリシャは“ユーロの爆弾” 3国の失業率は10%超

ユーロを用いる国のうち、「PIIGS」と呼ばれるポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインの5ヶ国は長年にわたって経済不安が叫ばれています。

2010年に経済危機を起こしたギリシャに続いて、近年不安視されているのがイタリアやスペインです。

例えば今年の7月2日に発表されたEUの失業率は8.4%と一桁台の低水準でした。しかしながらイタリアは10.7%、スペインは15.8%、ギリシャは20.1%と依然高い数字をキープしています(ちなみにPIIGSのうちポルトガルは7.9%、アイルランドは6.1%でした。この二国は2012〜2015年頃をピークに、失業率が10%以下に改善されました)。

この三国の不安要素を一つずつ見ていきましょう。

まずイタリアです。イタリアは国土面積が30万1300平方キロメートルあり、経済規模はギリシャよりも遥かに大きいです。そんなイタリアの公的債務は約2兆3000億ユーロ(およそ300兆円)もあり、経済基盤の脆弱性が指摘されています。もしもイタリアが経済危機に陥れば、ユーロはギリシャの時以上の大パニックとなるでしょう。そんな事情から、イタリアは一部専門家に「ユーロ経済の火薬庫」などと称されています(とはいえ、日本の公的債務はそれをさらに上回る1200兆円規模なのですが……)。

ギリシャは、2018年夏にはEUやECBによる金融サポートが終了します。それは言いかえれば、国の維持するために受けた3000億ユーロ(およそ39兆円)をほぼ自力で返済していかなければならないことを意味します。「GDPを黒字にする力はギリシャには残っていないから返済は無理」だと主張する専門家が多く、一時は落ち着きを見せていたギリシャ不安が再燃する可能性があるのです。

スペインは、イタリアやギリシャに比べて堅調です。2012年に経済危機を起こした後、ユーロ安の影響もあって輸出産業が好調。観光業も好調です。ただし北東部カタルーニャ自治州の独立問題は、プチデモン前州首相がスペインからの独立を問う住民投票を強行した一時期に比べて落ち着きは見せているものの、依然として完全解決には至っていません。

7月9日には、首都マドリードで同州のトラ州首相とスペインのサンチェス首相が会談を行ないましたが方向性は不透明のまま。もしも観光都市バルセロナなどを抱えるカタルーニャ州が独立に至れば、スペイン経済は大打撃を受けるでしょう。

Brexitの影響が欧州にも波及……イタリア国内で一時はEU離脱論も

EUは、加盟国の脱退という初の問題に直面しています。その脱退する国とは、加盟を正式発表し、正式離脱に向けた交渉を行なっているイギリスです。「Brexit」(イギリスを意味する“Britain”と出口を意味する“exit”をかけ合わせた造語)と呼ばれる離脱劇を起こしました。

イギリスは2016年6月、EU離脱の是非を問う選挙を実施。わずかの差で離脱派が上回り、EUから離脱することを正式決定しました。イギリスは離脱通告を行なった2017年3月から2年間のうちにEU側と交渉を済ませ、離脱する予定です。しかし7月8日にデービスEU離脱担当相が辞任するなど、交渉はスムーズには進んでいません。

イタリアではEU離脱を是とするポピュリスト政党「五つ星運動」が台頭するなど、EU脱退が囁かれた時期もありました(イタリアの場合、EU脱退はEUの経済圏から外れることを指すのみならず、ユーロの使用をやめることを意味します。つまりユーロの通貨としての力が弱まることを意味し、大幅なユーロ安となる見込みです)。

イタリア以外にも、今後EUからの脱退を考える国が増えていけば、それだけでEUの経済基盤が脆弱になることを示唆し、ユーロ安の材料になります。注意しましょう。どの国からEU脱退のニュースが飛び出すか分からないので、ユーロは常にユーロ安の危険をはらんでいると言えるのかもしれません。

ユーロの値動き展望 当面は貿易戦争でユーロ安?

今後ユーロは、一体どのような値動きを見せるのか考えていきたいと思います。

まず目下のネタの一つは、アメリカと中国が中心となる貿易戦争です。アメリカが発端の同戦争は、ヨーロッパも影響を受けており、アメリカから鉄鋼とアルミニウムの追加関税を受けています。カナダで6月8・9日に実施されたG7では、頑として言うことを聞かないドナルド・トランプ大統領と、イギリスのテリーザ・メイ首相らとの対立構図が鮮明になりました。

特に、EU圏で最も経済力のあるドイツはアメリカラからの鉄鋼の輸入量が多く、今回の追加関税はドイツ経済へ少なからず打撃となるでしょう。かといってEUも黙っているわけではなく、アメリカに対して報復関税を課しています。中国と同じくアメリカとケンカする立場を表明しており、今後の行方が注目されます。

値動きとしては、トランプ氏が追加関税を発表した4月15日付近から、ユーロドル相場では1.23あたりから1.15前後へとドル高ユーロ安が進行しました。結果だけ見ると、この貿易戦争はEU側のほうがダメージを被るだろうと市場は予測しています。

この貿易戦争による実経済への影響の度合いは、7月時点の発表ではまだあまり反映されていません。影響が出ている場合は、8月以降により顕著に結果として現れるでしょう。ヨーロッパは本格的なバカンスシーズンに入って薄商い(相場の取引量が少なく、値動きが少ないこと)になる可能性がありますが、油断は禁物です。もしドイツの指標を中心に数字が悪化すれば「貿易戦争の悪影響が出てきた」と判断され、ユーロ安を招くでしょう。もちろんアメリカの指標結果とのバランスを見ての判断となりますが、4月からの流れでいけば、市場に「分が悪い」と判断されているユーロ安になる公算が大きいです。1.15前後からさらにユーロ安が進むでしょう。

ユーロ円で見ても、貿易戦争の影響がユーロ圏よりやや小さい日本のほうが優勢となり、ユーロ安を招きやすいでしょう。ユーロドルが1.15から急落すれば、130円割れは確実です。ここでもドルとの相対性(貿易戦争はユーロ経済とアメリカ経済、どちらにより悪影響を与えているのか)をしっかり見極めてから判断しましょう。ただし全面円高というシナリオも考えられますのでお忘れなく(ドル安&ユーロ安の展開で、円高が急進行するシナリオ)。

中長期的には、ドイツ経済の動きと平行して前述の三国(イタリア、ギリシャ、スペイン)に注意。三国いずれかの経済不安が高まると、明確なユーロ安の材料になります。イタリアは莫大な公的債務による経済不安、ギリシャは経済危機の再燃の可能性、スペインはカタルーニャの独立問題の行方という観点から経済ニュースを追っていくと良いでしょう。

ヨーロッパの多くの国が団結したからこそ強力な通貨になったユーロ。とはいえ、多くの国が関わっているからこそ、問題が生じた時は多くの国へダメージが波及するという二面性を持っています。ユーロの未来はどうなっていくのか。投資者は十分な警戒が必要です。

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